神剣少女は魔石を産み出す少年を愛でる

37話 森の安らぎ亭の庭での一コマ

「遅かったね。お姉ちゃん。マテウスさんとなんの話をしていたの？　疲れてない？　お茶でも飲む」
「ああ。ありがとう。せっかくだから飲もうかね」

　森の安らぎ亭に戻ったヘレーナにディモが話し掛けてきた。お茶を用意しながら純粋に遅くなった理由を聞きながら小さく首を傾げつつ問い掛けてくるディモを、ヘレーナは優しく抱きしめながらユックリと話し始める。

「ちょっとだけ、ディモの話を聞いてきたんだよ」
「えっ？　僕の話を？」
「ああ、そうだよ」

　自分の話題で帰りが遅くなった事にディモがビックリした表情をすると、ヘレーナは苦笑しながらマテウスに聞いた話を要約して伝える。

「つまりはディモは王子様の可能性があるんだよ！　いいね！　王子様のディモも！」
「えっ？　お姉ちゃん？　突然過ぎてなんの話か分からないよ！　最初から話してよ……」

　要約しすぎて結論だけを伝えてきたヘレーナに、困惑したディモが目をぱちぱちとさせる。その姿が思った以上に可愛く、ヘレーナはディモを思いっ切り抱きしめつつ頬ずりしながら叫ぶ。

「可愛い！　ディモはやっぱり可愛いねぇ！　お姉ちゃんはもうディモを愛めでる事しか考えられないよ……」
「ちょっ！　お姉ちゃん！　くすぐったいよ！　ちょっと！　止めて！　くすぐったい！」

　突然、抱きしめられた事に驚きながらも笑顔で答えるディモに、ヘレーナはさらに笑みを深めてキツく抱きしめた。

「大丈夫。何があってもお姉ちゃんがディモを守るからね」
「僕もお姉ちゃんを守るよ！　そのために頑張って剣の練習をしないとね！」

　ディモの言葉にヘレーナは頬を緩めながら嬉しそうに何度もうなずくのだった。

　◇□◇□◇□

　翌朝、日課になっている素振りをしているディモにアメーリエが弟のハンスを連れてやってきた。しばらく素振りをしている様子を眺めていた二人だったが、ハンスが近くに転がっていた枝を手に取ると一緒に素振りを始めた。

「えい！　えい！　俺も強くなって姉ちゃんを守るんだ！」
「偉い！　ハンス！　姉ちゃんは嬉しいよ！」
「頑張って！　僕もお姉ちゃんを守れるように強くなるからね！　ハンスも一緒に練習しようよ！」

　三十分ほどディモとハンスの二人は素振りを続け、汗だくになった状態で地面に寝転がっていた。アメーリエが用意したタオルで汗を拭き、手渡された水筒から水を飲みながらハンスはディモに話しかける。

「ディモのお姉ちゃんはなんであんなに強いの？」
「お姉ちゃんは剣神ヘレーナだからね。魔族と戦っても一瞬で倒していたよ」
「えっ？　魔族？　それって、魔王が従えている一族の事だよね？　伝承にあるように魔王が復活したって言うの？」
「それはまだだね」
「お姉ちゃん！」

　アメーリエの問い掛けに軽く答えたディモ。その内容に驚愕の表情になるアメーリエとハンス。二人が口をパクパクとさせていると、軽い感じで話しながらヘレーナが会話に参加してきた。

「魔王はまだ復活していない。今は復活に向けての体力を温存している感じだろうね。ただ、魔族は魔王の復活に向けて着々と準備を整えているだろうから、人間側も備える必要はあるだろうね。それについてはマテウスにも伝えてあるよ。ハンスも姉ちゃんを守りたいのだったら、今からでもいいから剣の腕を磨いておきな。大事な人を守れるようにね」
「うん！　僕が強くなって姉ちゃんも父ちゃんも母ちゃんも守るよ！」

　説明を聞いて一同が色々と考えている中、ヘレーナから叱咤激励を受けたハンスは枝を握りしめながら大きく頷いていた。そんな様子を見て微笑ましそうにしていたヘレーナだったが、収納していた剣を取り出すとハンスに手渡す。

「よし！　お前の心意気に応じて、この剣をやるよ。それと剣神ヘレーナが特別に手ほどきをしてやろう。ディモと一緒にこれから練習をするから参加するといい」
「えっ？　この剣をくれるの？　ありがとうございます！　ディモ！　一緒頑張ろう！」
「そうだね！　僕も強敵とものスライムを倒せるように頑張るよ」
「え？　いまスライムを強敵って言わなかった？」

　ハンスの力強い答えに、ヘレーナは満面の笑みを浮かべながら稽古を付ける事を約束する。剣神と呼ばれる人物から剣を習えると聞いたハンスは大喜びしながら、ディモの手を取って一緒に頑張ろうと言葉をかける。その言葉にディモが大きく頷きながら強敵の話をすると、アメーリエが首を傾げながら確認すると遮さえぎるようにヘレーナがかばう。

「いいんだよ！　ディモは！　お姉ちゃんが全力で守るから！　でも、剣は扱えた方がいいから一緒に頑張ろうね」
「うん！　お姉ちゃんが教えてくれたら強くなれるもんね」
「可愛い！　ディモはやっぱり可愛いね！　もう！　お姉ちゃんが全力で鍛えてあげるよ！　まずは素振り一〇〇本から始めようか！」
「えっ？　素振りはさっき、ディモと一緒に……」
「分かった！　ハンス！　頑張るよ！　素振り二〇〇本だよ！」
「お、おい。倍に増えているぞ……」
「さっさと始める！」

　元気よく素振りを始めるディモに青い顔をしたハンスだったが、ヘレーナから声を掛けられると慌てたように素振りを開始するのだった。