神剣少女は魔石を産み出す少年を愛でる

うっちー(羽智 遊紀)

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36話 話は盛り上がる

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「じゃあ、ディモの母親について知っている情報を聞かせてもらおうかね?」
「そうですね。まずは彼の持っているレシピ本表紙に書かれている紋章から話をしましょう。あの紋章は王都で有名な料理店の一族にのみ、特別使用が許可されております。勝手に使った場合は処罰対象になるほどですが、ディモ君はそれを分かって利用しているでしょうか?」

 老執事から注がれた紅茶で口元を湿らせつつヘレーナが話をするように促すうながすと、マテウスも同じように紅茶を飲んで一呼吸しユックリと話した口調で話し始めた。しばらくはマテウスの説明を聞いていたヘレーナだったが、紋章を思い出しつつマテウスの疑問に答える。

「ディモからは詳しく話を聞いていないから分からないね。でも、処罰を受ける可能性があるなら、使わないように伝えないと。もしくは証明できる物を提示できるようにするべきだね」
「さようですね。私としてはディモ君に証明出来る物を身に着け続けて欲しいですね。あのレシピ本には商売繁盛のネタがちりばめられていると確信しておりますので」
「……。ん? 商売繁盛に繋がるかは興味ないけど、レシピ本を見ながら一所懸命に料理をするディモの姿を愛でめでたいね。これからも問題なく料理が作れるように後でディモに確認しておくよ。お姉ちゃんの為に料理を作っているディモ……。いい。素晴らしいね……」

 ヘレーナが眉をしかめつつ答える。マテウスは店の利益に直結するレシピ本に対して心を奪われたような発言をしており、ヘレーナも料理をするディモの姿を思い出しながらうっとりとしていた。しばらく沈黙が支配する応接室だったが、老執事が軽く咳払いをする事で二人を現実世界に引き戻す。

「んん。お館様」
「お、おう。すまん。失礼しました。ヘレーナ様。他に質問はありますか?」
「ん? ああ。そう言えばさっき話をした料理店の話しについて、今後の参考になりそうな内容はあるかい?」
「昔話になりますが一つ。十五年ほど前に王都で一番の腕と呼ばれていた料理人の女性が行方不明になっております。彼女は料理店の一族で、次期店主との噂が出ているほどの腕前でした。王家の覚えもめでたく、頻繁ひんぱんに王族が通っていたそうです。そして、当時の王太子が一番足繁くあししげく通っておりました。当時、料理人の彼女は一八才、王太子は一五才と聞いております。そんな中、彼女が突然失踪しました。当時は新聞や噂で賑わっていました」
「なんだい? その料理人の彼女と王太子の間に生まれたのがディモだって言いたいのかい?」

 当時を懐かしむように話をしているマテウスに、ヘレーナが鼻で笑うように返事をする。そんな態度をとっているヘレーナを見ながら、マテウスは前のめりになりながら小さな声で話し出した。

「可能性は高いと思っています。彼女が残したレシピとディモ君。素敵な組み合わせだと思いませんか? 実は高貴な血を継いでおり、神に愛された料理人の地を受け継ぐ悲運の少年。だが、彼の眼はいつも輝いており未来を見据えていた。そこで運命の姉と呼べる人物と出会う……」

 マテウスの話を聞いたヘレーナは、目をつぶりながら内容を反芻しつつ脳内で映像化していた。静かに目を開けたヘレーナは頬を若干染めながら目を潤ませ、物語を提供してきたマテウスの肩をバシバシと叩く。

「……。いい。それすごくいい。王子様姿の凛々しいディモ。料理人のコックさん姿の可愛いディモ。そして私と出会うことで運命が動き始める。素晴らしい! あんた領主になるよりも戯曲家になったらどうだい!」
「はっはっは。お褒めにあずかり光栄ですね。少し物語風に話しましたが信憑性はあると思いませんか?」

 少し真剣な表情になったマテウスに、ヘレーナは軽く頷きながら答える。

「まあ。その辺りだろうね。ひょっとしたら王家の証も持ってるかもね。まあ、向こうが接触してこない内は気にしない事にするよ。レシピ本の勲章については対応を考えないとね」
「そうですな。簡単にブックカバーでいいと思いますが、それもダメな時は考えておかれた方がいいでしょうな。こちらでサポートが出来る事があれば言ってください。出来る限りの援助をしますので」
「だったら、領主として私達の身分証明書を発行してもらおうかね。ディモはともかく、私は身分証明書を持ってないからな」
「……。いいでしょう。領主の名においてヘレーナ様の身分を証明しましょう。ですが、今後のも定期的に料理を作ったら、手紙でお知らせください。その為の費用も先ほどお渡しした報酬に入っていると思って頂ければ……」

 マテウスのディモ対策と、今後の援助について聞かされたヘレーナは、にやりと笑いながら自分の身分証明書を要求した。マテウスは今までの商人としての経験と、ヘレーナの為人をみて信頼したように頷くと老執事から紙を受け取ると身分証明書を書いて自らの印章を押すのだった。
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