私、どのゲームの悪役令嬢なの?

うっちー(羽智 遊紀)

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プロローグ

ユーファネートの両親から話を聞く希

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「お父様お母様。ご心配をお掛けしました」

 呆然とした表情で2人を眺めていた希だったが、そのままではダメだと気付き、慌てて立ち上がって一礼をする。そんな娘の姿に両親である2人は軽く驚いたような表情を浮かべていたが、優しく微笑むとユーファネートに近付いてユックリと抱きしめた。

「いいのだよ。急に高熱を出して倒れたから心配したけどね。まだ熱が引いていないのかな? 少し疲れてるように見えるね」

 ここ最近はわがままが酷くなっており、癇癪も起こしているとの報告を父親であるアルベリヒは受けていた。自分達の前ではそこまで感じる事はなかったが、報告には詳細が書かれており思わず眉をひそめる内容もあった。だが、目の前のユーファネートは傍若無人な素振りを見せず、セバスチャン相手に優しく語りかけてすらいた。あの報告書は誰か別の人間の情報を自分達に伝える為の物だったのではと勘違いするほどに。

 この数ヶ月ほど王都に出向いていた為に娘の様子を報告書でしか知らされておらず、その内容に心配していたが、目の前の娘を見て問題ないと安堵したアルベリヒは、ユーファネートの頭を撫でながら優しく語りかける。

「まだ熱の影響があるかもしれないね。もう少し寝た方がいい」

「そうですね。ユーファネート、もう少し休みなさい。セバス。ユーファネートが食べれそうな軽食を用意してきなさい」

「はい! かしこまりました奥様。料理長にスープを用意してもらってまいります」

 セバスチャンが慌てて頷くと小走りに部屋から出て行く。その様子をしばらく眺めていたユーファネートの母親であるマルグレートだったが、立ち上がったまま動かないままでいる愛娘に近付くと優しく抱きしめる。

「良かったわ。急に熱を出して寝込むから心配するじゃない。来週には婚約者であるレオンハルト殿下が来られるのよ。早く体調を整えてね」

 希からすれば知らない女性に抱きしめられているはずなのだが、なぜか安心感が身体を包み込む。そして急激に睡魔が襲ってきた。娘の身体から力が抜けていくのを感じたマルグレートは、そのまま優しく抱き上げるとベッドまで運ぶ。アルベリヒが布団を整え寝かしつけられたユーファネートの頭を再び優しく撫でる。

「セバスチャンが食事を用意するまでしばらく時間がかかる。それまでもう少し休みなさい」

「そうよ。高熱が出てまる1日寝ていたのよ。それに紅茶を飲んで少し身体も落ち着いたでしょう?」

 眠気に勝てない希はウツラウツラしながら頷いていると羽毛布団を身体に掛けられた。そして睡魔に引きずられるように眠りについていった。

◇□◇□◇□

「……眠ったようだね」

「ええそうね。それにしても報告書に書かれていた内容はなんだったのかしら? あちこちの誘いを断ってまで急いで帰って来たのに。全然落ち着いた感じじゃないの。今の状態のユーファネートなら安心して殿下と会わせられるわ」

「熱の影響だったりしてね。すぐに戻るかもしれないよ。まあ報告者に確認は必要だね」

「それだと困りますわ。報告書の通りにわがままを続けられたら……今度のお茶会は本当に重要なのよ。ユーファネートがそれを理解してくれるのかしら?」

「まあ、報告書の内容を読んだ限りだと、まだなんとか許容出来るものだけどね」

 年相応の寝顔をしているユーファネートを見ながらアルベリヒとマルグレートは話し合っていた。10才の誕生日を迎えてからユーファネートのわがままが増え始めていた。セバスチャンを雇う時もそうであった。たまたま訪れた孤児院に没落した下級貴族の子供達が居たのである。それがセバスチャン達であった。

「まさかセバスチャンを誕生日プレゼントに欲しいと言い出すなんてね」

「ええ。確かに顔はいいですが、没落した下級貴族ですからね。作法も分かっておらず、紅茶一つも淹れられない。それに手続きが大変でしたね」

 希は「ユーファネートが怒る練習をする担当」と思っていたようだが、実のところはユーファネートがセバスチャンの顔を見て気に入っただけのようであった。セバスチャンの父親は没落した騎士であったらしく、借財を重ねており、それを返却する為に父親は無理な出陣を繰り返し、去年の帝国との戦役で戦死している。

 また母親も借金を返す為に無理に働き詰め、そして半年前には病死していた。子供だけ残されたコールウェル家の長男であるセバスチャンはまだ10才であり、借金を返せる能力もなく借金取りによって家財や家も奪われ追い出されてしまう。なんとか妹2人を連れてたどり着いた孤児院で暮らしている状態だった。

「借財の額はしれていた。しょせんは貧乏騎士が作った借金だからね。だが、下級貴族とはいえ貴族は貴族だ。借金の際に借用書も作っていなかったようだからね。どこから『うちも貴族様に金を貸していた。返さないとは言わないですよね。貴族様ともあろう者が』などと言ってくる奴が出てくるだろう」

「そうね。結局は我が侯爵家がコールウェル家の後見人になるとの事で、そういった輩は出てこなくなりましたが、どこからグールのような者があらわれるか分かりませんからね。注意が必要ですわ」

 セバスチャンがユーファネートの為にスープを用意する間、アルベリヒとマルグレートは今後の事も含めて話し合っていた。まさか途中で希が目を覚まし、2人の話を一部始終余す事なく聞いていたとは思いもよらなかった。
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