4 / 36
プロローグ
ユーファネートの両親から話を聞く希
しおりを挟む
「お父様お母様。ご心配をお掛けしました」
呆然とした表情で2人を眺めていた希だったが、そのままではダメだと気付き、慌てて立ち上がって一礼をする。そんな娘の姿に両親である2人は軽く驚いたような表情を浮かべていたが、優しく微笑むとユーファネートに近付いてユックリと抱きしめた。
「いいのだよ。急に高熱を出して倒れたから心配したけどね。まだ熱が引いていないのかな? 少し疲れてるように見えるね」
ここ最近はわがままが酷くなっており、癇癪も起こしているとの報告を父親であるアルベリヒは受けていた。自分達の前ではそこまで感じる事はなかったが、報告には詳細が書かれており思わず眉をひそめる内容もあった。だが、目の前のユーファネートは傍若無人な素振りを見せず、セバスチャン相手に優しく語りかけてすらいた。あの報告書は誰か別の人間の情報を自分達に伝える為の物だったのではと勘違いするほどに。
この数ヶ月ほど王都に出向いていた為に娘の様子を報告書でしか知らされておらず、その内容に心配していたが、目の前の娘を見て問題ないと安堵したアルベリヒは、ユーファネートの頭を撫でながら優しく語りかける。
「まだ熱の影響があるかもしれないね。もう少し寝た方がいい」
「そうですね。ユーファネート、もう少し休みなさい。セバス。ユーファネートが食べれそうな軽食を用意してきなさい」
「はい! かしこまりました奥様。料理長にスープを用意してもらってまいります」
セバスチャンが慌てて頷くと小走りに部屋から出て行く。その様子をしばらく眺めていたユーファネートの母親であるマルグレートだったが、立ち上がったまま動かないままでいる愛娘に近付くと優しく抱きしめる。
「良かったわ。急に熱を出して寝込むから心配するじゃない。来週には婚約者であるレオンハルト殿下が来られるのよ。早く体調を整えてね」
希からすれば知らない女性に抱きしめられているはずなのだが、なぜか安心感が身体を包み込む。そして急激に睡魔が襲ってきた。娘の身体から力が抜けていくのを感じたマルグレートは、そのまま優しく抱き上げるとベッドまで運ぶ。アルベリヒが布団を整え寝かしつけられたユーファネートの頭を再び優しく撫でる。
「セバスチャンが食事を用意するまでしばらく時間がかかる。それまでもう少し休みなさい」
「そうよ。高熱が出てまる1日寝ていたのよ。それに紅茶を飲んで少し身体も落ち着いたでしょう?」
眠気に勝てない希はウツラウツラしながら頷いていると羽毛布団を身体に掛けられた。そして睡魔に引きずられるように眠りについていった。
◇□◇□◇□
「……眠ったようだね」
「ええそうね。それにしても報告書に書かれていた内容はなんだったのかしら? あちこちの誘いを断ってまで急いで帰って来たのに。全然落ち着いた感じじゃないの。今の状態のユーファネートなら安心して殿下と会わせられるわ」
「熱の影響だったりしてね。すぐに戻るかもしれないよ。まあ報告者に確認は必要だね」
「それだと困りますわ。報告書の通りにわがままを続けられたら……今度のお茶会は本当に重要なのよ。ユーファネートがそれを理解してくれるのかしら?」
「まあ、報告書の内容を読んだ限りだと、まだなんとか許容出来るものだけどね」
年相応の寝顔をしているユーファネートを見ながらアルベリヒとマルグレートは話し合っていた。10才の誕生日を迎えてからユーファネートのわがままが増え始めていた。セバスチャンを雇う時もそうであった。たまたま訪れた孤児院に没落した下級貴族の子供達が居たのである。それがセバスチャン達であった。
「まさかセバスチャンを誕生日プレゼントに欲しいと言い出すなんてね」
「ええ。確かに顔はいいですが、没落した下級貴族ですからね。作法も分かっておらず、紅茶一つも淹れられない。それに手続きが大変でしたね」
希は「ユーファネートが怒る練習をする担当」と思っていたようだが、実のところはユーファネートがセバスチャンの顔を見て気に入っただけのようであった。セバスチャンの父親は没落した騎士であったらしく、借財を重ねており、それを返却する為に父親は無理な出陣を繰り返し、去年の帝国との戦役で戦死している。
また母親も借金を返す為に無理に働き詰め、そして半年前には病死していた。子供だけ残されたコールウェル家の長男であるセバスチャンはまだ10才であり、借金を返せる能力もなく借金取りによって家財や家も奪われ追い出されてしまう。なんとか妹2人を連れてたどり着いた孤児院で暮らしている状態だった。
「借財の額はしれていた。しょせんは貧乏騎士が作った借金だからね。だが、下級貴族とはいえ貴族は貴族だ。借金の際に借用書も作っていなかったようだからね。どこから『うちも貴族様に金を貸していた。返さないとは言わないですよね。貴族様ともあろう者が』などと言ってくる奴が出てくるだろう」
「そうね。結局は我が侯爵家がコールウェル家の後見人になるとの事で、そういった輩は出てこなくなりましたが、どこからグールのような者があらわれるか分かりませんからね。注意が必要ですわ」
セバスチャンがユーファネートの為にスープを用意する間、アルベリヒとマルグレートは今後の事も含めて話し合っていた。まさか途中で希が目を覚まし、2人の話を一部始終余す事なく聞いていたとは思いもよらなかった。
呆然とした表情で2人を眺めていた希だったが、そのままではダメだと気付き、慌てて立ち上がって一礼をする。そんな娘の姿に両親である2人は軽く驚いたような表情を浮かべていたが、優しく微笑むとユーファネートに近付いてユックリと抱きしめた。
「いいのだよ。急に高熱を出して倒れたから心配したけどね。まだ熱が引いていないのかな? 少し疲れてるように見えるね」
ここ最近はわがままが酷くなっており、癇癪も起こしているとの報告を父親であるアルベリヒは受けていた。自分達の前ではそこまで感じる事はなかったが、報告には詳細が書かれており思わず眉をひそめる内容もあった。だが、目の前のユーファネートは傍若無人な素振りを見せず、セバスチャン相手に優しく語りかけてすらいた。あの報告書は誰か別の人間の情報を自分達に伝える為の物だったのではと勘違いするほどに。
この数ヶ月ほど王都に出向いていた為に娘の様子を報告書でしか知らされておらず、その内容に心配していたが、目の前の娘を見て問題ないと安堵したアルベリヒは、ユーファネートの頭を撫でながら優しく語りかける。
「まだ熱の影響があるかもしれないね。もう少し寝た方がいい」
「そうですね。ユーファネート、もう少し休みなさい。セバス。ユーファネートが食べれそうな軽食を用意してきなさい」
「はい! かしこまりました奥様。料理長にスープを用意してもらってまいります」
セバスチャンが慌てて頷くと小走りに部屋から出て行く。その様子をしばらく眺めていたユーファネートの母親であるマルグレートだったが、立ち上がったまま動かないままでいる愛娘に近付くと優しく抱きしめる。
「良かったわ。急に熱を出して寝込むから心配するじゃない。来週には婚約者であるレオンハルト殿下が来られるのよ。早く体調を整えてね」
希からすれば知らない女性に抱きしめられているはずなのだが、なぜか安心感が身体を包み込む。そして急激に睡魔が襲ってきた。娘の身体から力が抜けていくのを感じたマルグレートは、そのまま優しく抱き上げるとベッドまで運ぶ。アルベリヒが布団を整え寝かしつけられたユーファネートの頭を再び優しく撫でる。
「セバスチャンが食事を用意するまでしばらく時間がかかる。それまでもう少し休みなさい」
「そうよ。高熱が出てまる1日寝ていたのよ。それに紅茶を飲んで少し身体も落ち着いたでしょう?」
眠気に勝てない希はウツラウツラしながら頷いていると羽毛布団を身体に掛けられた。そして睡魔に引きずられるように眠りについていった。
◇□◇□◇□
「……眠ったようだね」
「ええそうね。それにしても報告書に書かれていた内容はなんだったのかしら? あちこちの誘いを断ってまで急いで帰って来たのに。全然落ち着いた感じじゃないの。今の状態のユーファネートなら安心して殿下と会わせられるわ」
「熱の影響だったりしてね。すぐに戻るかもしれないよ。まあ報告者に確認は必要だね」
「それだと困りますわ。報告書の通りにわがままを続けられたら……今度のお茶会は本当に重要なのよ。ユーファネートがそれを理解してくれるのかしら?」
「まあ、報告書の内容を読んだ限りだと、まだなんとか許容出来るものだけどね」
年相応の寝顔をしているユーファネートを見ながらアルベリヒとマルグレートは話し合っていた。10才の誕生日を迎えてからユーファネートのわがままが増え始めていた。セバスチャンを雇う時もそうであった。たまたま訪れた孤児院に没落した下級貴族の子供達が居たのである。それがセバスチャン達であった。
「まさかセバスチャンを誕生日プレゼントに欲しいと言い出すなんてね」
「ええ。確かに顔はいいですが、没落した下級貴族ですからね。作法も分かっておらず、紅茶一つも淹れられない。それに手続きが大変でしたね」
希は「ユーファネートが怒る練習をする担当」と思っていたようだが、実のところはユーファネートがセバスチャンの顔を見て気に入っただけのようであった。セバスチャンの父親は没落した騎士であったらしく、借財を重ねており、それを返却する為に父親は無理な出陣を繰り返し、去年の帝国との戦役で戦死している。
また母親も借金を返す為に無理に働き詰め、そして半年前には病死していた。子供だけ残されたコールウェル家の長男であるセバスチャンはまだ10才であり、借金を返せる能力もなく借金取りによって家財や家も奪われ追い出されてしまう。なんとか妹2人を連れてたどり着いた孤児院で暮らしている状態だった。
「借財の額はしれていた。しょせんは貧乏騎士が作った借金だからね。だが、下級貴族とはいえ貴族は貴族だ。借金の際に借用書も作っていなかったようだからね。どこから『うちも貴族様に金を貸していた。返さないとは言わないですよね。貴族様ともあろう者が』などと言ってくる奴が出てくるだろう」
「そうね。結局は我が侯爵家がコールウェル家の後見人になるとの事で、そういった輩は出てこなくなりましたが、どこからグールのような者があらわれるか分かりませんからね。注意が必要ですわ」
セバスチャンがユーファネートの為にスープを用意する間、アルベリヒとマルグレートは今後の事も含めて話し合っていた。まさか途中で希が目を覚まし、2人の話を一部始終余す事なく聞いていたとは思いもよらなかった。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる