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王子様との出会い
希には刺激が強すぎたようです
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「ではライネワルト侯爵夫妻。後は子供同士で語り合いますので」
「……。分りました。では後は若い者で語らって頂ければと思います。殿下にはご迷惑を掛けないように強く言ってありますが、なにかあれば側で控えるセバスチャンにお声かけください。では貴方行きましょうか」
「ああ。では失礼します殿下。後は頼んだぞセバスチャン。本当に頼んだぞ!」
「お任せ下さい旦那様、奥様」
しばらくレオンハルトとアルベリヒの歓談が続いていたが、中々席を外さないアルベリヒとマルグレートの2人に、レオンハルトが少し苦笑を浮かべながら退席を促す。本当にうちの子供と殿下だけにして問題ないのか? そんな表情をありありと浮かべているマルグレートだが、小さくため息を吐くとユーファネートとギュンターに「分っていますよね?」との視線を投げ付けた。
母親の威圧がこもった視線に、2人がカクカクと震えながら何度も頷くのを見て、若干安堵したつつ夫であるアルベリヒに目線を向ける。アルベリヒも小さく頷きレオンハルトに挨拶をすると、子供よりもセバスチャンに強く後の事を頼みながら退室する。そして部屋には希とギュンター、レオンハルトにセバスチャンの4人が残った。
「あれ? 他のメイド達は? あと殿下のお付きの方達は?」
希が周囲を見ながら小さく呟いていると、当のレオンハルトが軽く微笑みながら希に近付いて来た。レオンハルトが近付くと素晴らしい香水のような、香りのする洗剤で洗われた服のような、太陽に干した布団のような、巨大な花束を渡されたような、そんなかぐわしき香りが自分の鼻に充満したような気分に希がなる。
「なんて素晴らしい匂いなの。これだけでご飯を3杯は食べられるわ」
そんなユーファネートの呟きに、レオンハルトは軽く首を傾げながら、子供だけになった理由を教えてくれた。
「『私達だけにして欲しい』と、侯爵にお願いしたんだよ。どうしても確認したい事があってね。ギュンターの手紙だけでは信じられなかったから。自分の目と耳と口で確認したかったのさ。ユーファネート嬢。何を企てているのか教えてくれないか?」
それまで浮かべていた柔らかい笑みを一瞬で消し去り、責任感を背負っている王族らしい表情を浮かべる。希はその表情に覚えがあった。「君☆(きみほし)」の断罪イベントで、ヒロインを守りながらユーファネートを弾劾するシーンでのスチル絵であった。
「お、おい! レオン!」
慌てたのはギュンターである。以前から手紙や王宮でレオンハルトに会った際に、妹のユーファネートのわがまま振りを嘆いており、またライネワルト領の行く末を懸念している事を伝えていた。しかし、1ヶ月前よりユーファネートが改心したのか、高熱のお陰でわがままが治ったのか、180度性格が変わり領地の事を真剣に考え、またわがままも贅沢もなりを潜めているので安心していると手紙で伝えていたのである。それなのに、目の前のレオンハルトは、まるで罪人を見るかのような視線を妹に向けており、当のユーファネートも驚いているのか、完全に硬直をしていた。
「ちょっと黙っててくれギュンター。人はそんな簡単には変わらないんだよ。それこそ死に瀕するか、人格が入れ替わりでもしない限りは変わらないんだ。僕はそんな人達を、この目でたくさん見てきた」
レオンハルトの目には悲しみが浮かんでおり、なにかしら過去にあったように見えた。その姿にギュンターは何も言えなく、心配そうにユーファネートを眺める。そんな2人がやりとりしている最中も、硬直していた希は会話が耳に入っておらず脳内で盛大に叫んでいた。
(きゃー! レオンハルト様の真剣な眼差し素敵すぎるー。もうどうしたらいいの? 課金すればいいの? ボーナスを注ぎ込むわよ! この真剣なまなざしは断罪イベントね。ヒロインを抱き寄せて彼はこう言うの。『君が行ったヒロインへの嫌がらせ……そんなレベルじゃない悪辣な仕打ちは全て分っている。ここに俺は君を断罪し、そして婚約を破棄させてもらう!』。このシーンは痺れたわ! それでその後に怒濤の追撃をユーファネートにするのよ! あのスチルをもう一度見たいわ。――あれ? どうかしたのかな? なにか沈黙が続いてるみたいだけど? 何か喋った方がいいのかしら。それにしてもレオンハルト様の尊さは最高よね。あの気高きお姿。もう素敵すぎて、このあと2年は戦えますわ)
希は脳内で悶えていたが、ふと我に返ると2人が自分を見ている事に気付く。何事かと2人の様子を伺っていた希だったが、沈黙が続いていており、さすがに困惑した表情になる。まさか、自分が問い掛けられるとは思っていない希は、一緒になって沈黙を続けていた。そんな沈黙が支配する中、空気の重さに耐えられなくなったセバスチャンが希に話し掛けた。
「ユーファネート様。お茶のご用意をいたしましょうか?」
「え、ええ。そうねセバスチャンお願い出来るかしら? 殿下、お兄様。まずは休憩いたしましょう。あちらのお席でお菓子も食べたいですわ」
そんな希の提案に、レオンハルト様は小さく笑うと頷いた。
「ふっ。なるほどね。そう簡単にはいかないと。まずは僕自身で君の事を判断して欲しいと言う事か。いいだろう。その提案に乗ろうじゃないか。ギュンターもそう言いたいんだろう?」
「ちょっとどころじゃなくて違うけどレオンがそう言うなら」
レオンハルトの提案にギュンターは頷くとセバスチャンが椅子を引くのを確認して着席する。そしてレオンハルトの正面には希が座った。目の前にレオンハルトが座るので、普通にしていてもその素晴らしい姿が目に入る。希は自分に与えられた幸福に満面の笑みを浮かべながら、セバスチャンが用意する紅茶の仕草を眺めるのだった。
「……。分りました。では後は若い者で語らって頂ければと思います。殿下にはご迷惑を掛けないように強く言ってありますが、なにかあれば側で控えるセバスチャンにお声かけください。では貴方行きましょうか」
「ああ。では失礼します殿下。後は頼んだぞセバスチャン。本当に頼んだぞ!」
「お任せ下さい旦那様、奥様」
しばらくレオンハルトとアルベリヒの歓談が続いていたが、中々席を外さないアルベリヒとマルグレートの2人に、レオンハルトが少し苦笑を浮かべながら退席を促す。本当にうちの子供と殿下だけにして問題ないのか? そんな表情をありありと浮かべているマルグレートだが、小さくため息を吐くとユーファネートとギュンターに「分っていますよね?」との視線を投げ付けた。
母親の威圧がこもった視線に、2人がカクカクと震えながら何度も頷くのを見て、若干安堵したつつ夫であるアルベリヒに目線を向ける。アルベリヒも小さく頷きレオンハルトに挨拶をすると、子供よりもセバスチャンに強く後の事を頼みながら退室する。そして部屋には希とギュンター、レオンハルトにセバスチャンの4人が残った。
「あれ? 他のメイド達は? あと殿下のお付きの方達は?」
希が周囲を見ながら小さく呟いていると、当のレオンハルトが軽く微笑みながら希に近付いて来た。レオンハルトが近付くと素晴らしい香水のような、香りのする洗剤で洗われた服のような、太陽に干した布団のような、巨大な花束を渡されたような、そんなかぐわしき香りが自分の鼻に充満したような気分に希がなる。
「なんて素晴らしい匂いなの。これだけでご飯を3杯は食べられるわ」
そんなユーファネートの呟きに、レオンハルトは軽く首を傾げながら、子供だけになった理由を教えてくれた。
「『私達だけにして欲しい』と、侯爵にお願いしたんだよ。どうしても確認したい事があってね。ギュンターの手紙だけでは信じられなかったから。自分の目と耳と口で確認したかったのさ。ユーファネート嬢。何を企てているのか教えてくれないか?」
それまで浮かべていた柔らかい笑みを一瞬で消し去り、責任感を背負っている王族らしい表情を浮かべる。希はその表情に覚えがあった。「君☆(きみほし)」の断罪イベントで、ヒロインを守りながらユーファネートを弾劾するシーンでのスチル絵であった。
「お、おい! レオン!」
慌てたのはギュンターである。以前から手紙や王宮でレオンハルトに会った際に、妹のユーファネートのわがまま振りを嘆いており、またライネワルト領の行く末を懸念している事を伝えていた。しかし、1ヶ月前よりユーファネートが改心したのか、高熱のお陰でわがままが治ったのか、180度性格が変わり領地の事を真剣に考え、またわがままも贅沢もなりを潜めているので安心していると手紙で伝えていたのである。それなのに、目の前のレオンハルトは、まるで罪人を見るかのような視線を妹に向けており、当のユーファネートも驚いているのか、完全に硬直をしていた。
「ちょっと黙っててくれギュンター。人はそんな簡単には変わらないんだよ。それこそ死に瀕するか、人格が入れ替わりでもしない限りは変わらないんだ。僕はそんな人達を、この目でたくさん見てきた」
レオンハルトの目には悲しみが浮かんでおり、なにかしら過去にあったように見えた。その姿にギュンターは何も言えなく、心配そうにユーファネートを眺める。そんな2人がやりとりしている最中も、硬直していた希は会話が耳に入っておらず脳内で盛大に叫んでいた。
(きゃー! レオンハルト様の真剣な眼差し素敵すぎるー。もうどうしたらいいの? 課金すればいいの? ボーナスを注ぎ込むわよ! この真剣なまなざしは断罪イベントね。ヒロインを抱き寄せて彼はこう言うの。『君が行ったヒロインへの嫌がらせ……そんなレベルじゃない悪辣な仕打ちは全て分っている。ここに俺は君を断罪し、そして婚約を破棄させてもらう!』。このシーンは痺れたわ! それでその後に怒濤の追撃をユーファネートにするのよ! あのスチルをもう一度見たいわ。――あれ? どうかしたのかな? なにか沈黙が続いてるみたいだけど? 何か喋った方がいいのかしら。それにしてもレオンハルト様の尊さは最高よね。あの気高きお姿。もう素敵すぎて、このあと2年は戦えますわ)
希は脳内で悶えていたが、ふと我に返ると2人が自分を見ている事に気付く。何事かと2人の様子を伺っていた希だったが、沈黙が続いていており、さすがに困惑した表情になる。まさか、自分が問い掛けられるとは思っていない希は、一緒になって沈黙を続けていた。そんな沈黙が支配する中、空気の重さに耐えられなくなったセバスチャンが希に話し掛けた。
「ユーファネート様。お茶のご用意をいたしましょうか?」
「え、ええ。そうねセバスチャンお願い出来るかしら? 殿下、お兄様。まずは休憩いたしましょう。あちらのお席でお菓子も食べたいですわ」
そんな希の提案に、レオンハルト様は小さく笑うと頷いた。
「ふっ。なるほどね。そう簡単にはいかないと。まずは僕自身で君の事を判断して欲しいと言う事か。いいだろう。その提案に乗ろうじゃないか。ギュンターもそう言いたいんだろう?」
「ちょっとどころじゃなくて違うけどレオンがそう言うなら」
レオンハルトの提案にギュンターは頷くとセバスチャンが椅子を引くのを確認して着席する。そしてレオンハルトの正面には希が座った。目の前にレオンハルトが座るので、普通にしていてもその素晴らしい姿が目に入る。希は自分に与えられた幸福に満面の笑みを浮かべながら、セバスチャンが用意する紅茶の仕草を眺めるのだった。
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