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登場人物が動き始める
セバスチャンとギュンター
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ユーファネートこと希の執事として人生を捧げる事を誓ったセバスチャンは、ユーファネートを確実に守る為に剣の修行を始めていた。剣の修行をしたいとユーファネートにお願いし、その願いは当主であるアルベリヒまで届いた。セバスチャンの熱意に感動したアルベリヒは、厳しくも実践的な剣が習える冒険者を手配してくれた。
また、ギュンターが習っている正統派剣術も一緒に習うようにもなり、2人は兄弟弟子として仲良くなっていた。今日は冒険者との訓練日であり、興味を持ったギュンターが自ら希望して訓練に参加していた。
「痛っっっ。それにしても、あんな訓練は必要なのか?」
痣だらけの身体を引きずりながら、2人は仲良く身体を拭く為に井戸までやって来ていた。実践的な訓練に興味があったギュンターだったが、思った以上に過酷であり参加した事を後悔していた。同じく痣だらけのセバスチャンは満足げな表情を浮かべながら、今日の訓練についてギュンターに説明をしていた。
「あの訓練は私がお願いしました! 今日の内容はユーファネート様をお守りする為に、自らの身体を投げ打って盾とする訓練と、背後から襲われた時に身を捨ててお守りする内容です!」
「俺には必要ない訓練だったじゃん! 内容教えてくれたら参加しなかったわ。むしろ俺はユーファと一緒で守られる立場だろ」
ギュンターは朝の訓練内容がおかしいと感じながら参加していた。剣筋に身体を投げ出して後衛への攻撃を逸らす訓練や、バックアタックされた際の迅速な反転の仕方。セバスチャンからは、必要な訓練であると聞かされ、それになんの意味があるのか分からず一緒に受けていたギュンターだったが、あまりにもセバスチャンの気合いが入っていた為に内容については考えずに最後までやり遂げていた。そして、訓練内容を聞いて全力で叫んでいた。
「どうりで教官役の冒険者が『え? 本当にいいのですか? 貴方にも必要ですか?』と聞くわ! その質問にお前は答えたよな? 『当然です! ギュンター様には必要な訓練ですよ』と。そんな訓練なら俺が参加しない日にやれよ!」
「なにを仰るのですか? ユーファネート様が襲われる際にギュンター様が一緒だったらどうするのですか?」
今日の訓練内容について抗議しているギュンターに、呆れた表情を浮かべながら答えるセバスチャン。
「いやいや! そこは俺も一緒に守れよ! おい……。なんでそこで『なに言っているのか分りません』みたいな顔をしているんだよ! 分れよ! そこは分れよ。俺は次期侯爵だぞ! ユーファと一緒で守られる側なんだぞ」
「当然ギュンター様は次期侯爵になられる方であり、ユーファネート様の次に大事だと私も分っておりますよ。ですが、私はユーファネート様の専属執事です。いざとなれば優先するのはユーファネート様です。そこはご容赦ください。それにしてもギュンター様は筋がいいですね。先生も『あれだけ動けるなら冒険者として前衛で食っていける』と褒めておられましたよ」
満面の笑顔でお前は2番手だと言い切られたギュンターだったが、セバスチャンから賞賛されると苦笑しながら、セバスチャンの感じが大きく変わった事を感じていた。雇われた当初からも頑張っているのは感じていたが、ユーファネートからは相手にされておらず、単なる空回りをしているようにしか見えなかった。
それがある日を境に劇的に変わったのである。
「ユーファが高熱で寝込んでからだな」
「なにがですか?」
「いや、セバスチャンが変わったと感じただけだ。最近はユーファとも仲が良さそうだしな」
「ユーファネート様は慈悲深き方ですので、私のような者も大事にして下さりますので。あのお方の為でしたら、この身など安いものです。いつでも捨てられます」
「いやいや。その考えはかなり変だぞ?」
あのユーファネートが高熱で倒れてから、セバスチャンとユーファネートの関係は劇的に変わっていると感じていた。屋敷の者達の認識は、どう見ても主人と従者というよりも、主人と飼い犬のように見えた。その飼い犬は主人の事が大好きであり、まとわりついているセバスチャンの姿は尻尾と耳が生えているように見えていた。
「まあ、お前がユーファの事を好きなのは分った。だが、これからは! 訓練する時は俺も守る内容をしろよ! これから進める領地改革はユーファの力は重要だが、俺の立ち位置も重要なんだからななんだからな!」
「もちろんで御座いますとも。ユーファネート様が行動されるにはギュンター様のお力が必要です」
「お、おう。分っているのならいいんだよ」
かなりフランクな口調になっているギュンターの顔は、満更でもない表情を浮かべていた。そしてメイドが用意してくれたタオルを受け取ると、身体を拭きながらセバスチャンを休憩に誘う。
「ちょっと休憩しよう。たまにはゆっくりしてもいいだろう?」
「いえ、これから紅茶の講義がありますので。ユーファネート様の為に1秒でも無駄には出来ません。ところでギュンター様。ちなみに明日の朝にある剣術訓練ですが……」
軽い感じで誘ったが、軽い感じで断られ、ギュンターは相変わらずのセバスチャンの言葉に苦笑を浮かべる。だが、次の言葉には唖然としてしまう。
「ギュンター様は筋がいいので捨て身で相手と差し違える練習を――」
「絶対に分ってないだろう! だから俺は次期侯爵なんだよ!」
真顔で明日の練習内容を伝えるセバスチャンにギュンターは思わず怒鳴り返すのだった。
また、ギュンターが習っている正統派剣術も一緒に習うようにもなり、2人は兄弟弟子として仲良くなっていた。今日は冒険者との訓練日であり、興味を持ったギュンターが自ら希望して訓練に参加していた。
「痛っっっ。それにしても、あんな訓練は必要なのか?」
痣だらけの身体を引きずりながら、2人は仲良く身体を拭く為に井戸までやって来ていた。実践的な訓練に興味があったギュンターだったが、思った以上に過酷であり参加した事を後悔していた。同じく痣だらけのセバスチャンは満足げな表情を浮かべながら、今日の訓練についてギュンターに説明をしていた。
「あの訓練は私がお願いしました! 今日の内容はユーファネート様をお守りする為に、自らの身体を投げ打って盾とする訓練と、背後から襲われた時に身を捨ててお守りする内容です!」
「俺には必要ない訓練だったじゃん! 内容教えてくれたら参加しなかったわ。むしろ俺はユーファと一緒で守られる立場だろ」
ギュンターは朝の訓練内容がおかしいと感じながら参加していた。剣筋に身体を投げ出して後衛への攻撃を逸らす訓練や、バックアタックされた際の迅速な反転の仕方。セバスチャンからは、必要な訓練であると聞かされ、それになんの意味があるのか分からず一緒に受けていたギュンターだったが、あまりにもセバスチャンの気合いが入っていた為に内容については考えずに最後までやり遂げていた。そして、訓練内容を聞いて全力で叫んでいた。
「どうりで教官役の冒険者が『え? 本当にいいのですか? 貴方にも必要ですか?』と聞くわ! その質問にお前は答えたよな? 『当然です! ギュンター様には必要な訓練ですよ』と。そんな訓練なら俺が参加しない日にやれよ!」
「なにを仰るのですか? ユーファネート様が襲われる際にギュンター様が一緒だったらどうするのですか?」
今日の訓練内容について抗議しているギュンターに、呆れた表情を浮かべながら答えるセバスチャン。
「いやいや! そこは俺も一緒に守れよ! おい……。なんでそこで『なに言っているのか分りません』みたいな顔をしているんだよ! 分れよ! そこは分れよ。俺は次期侯爵だぞ! ユーファと一緒で守られる側なんだぞ」
「当然ギュンター様は次期侯爵になられる方であり、ユーファネート様の次に大事だと私も分っておりますよ。ですが、私はユーファネート様の専属執事です。いざとなれば優先するのはユーファネート様です。そこはご容赦ください。それにしてもギュンター様は筋がいいですね。先生も『あれだけ動けるなら冒険者として前衛で食っていける』と褒めておられましたよ」
満面の笑顔でお前は2番手だと言い切られたギュンターだったが、セバスチャンから賞賛されると苦笑しながら、セバスチャンの感じが大きく変わった事を感じていた。雇われた当初からも頑張っているのは感じていたが、ユーファネートからは相手にされておらず、単なる空回りをしているようにしか見えなかった。
それがある日を境に劇的に変わったのである。
「ユーファが高熱で寝込んでからだな」
「なにがですか?」
「いや、セバスチャンが変わったと感じただけだ。最近はユーファとも仲が良さそうだしな」
「ユーファネート様は慈悲深き方ですので、私のような者も大事にして下さりますので。あのお方の為でしたら、この身など安いものです。いつでも捨てられます」
「いやいや。その考えはかなり変だぞ?」
あのユーファネートが高熱で倒れてから、セバスチャンとユーファネートの関係は劇的に変わっていると感じていた。屋敷の者達の認識は、どう見ても主人と従者というよりも、主人と飼い犬のように見えた。その飼い犬は主人の事が大好きであり、まとわりついているセバスチャンの姿は尻尾と耳が生えているように見えていた。
「まあ、お前がユーファの事を好きなのは分った。だが、これからは! 訓練する時は俺も守る内容をしろよ! これから進める領地改革はユーファの力は重要だが、俺の立ち位置も重要なんだからななんだからな!」
「もちろんで御座いますとも。ユーファネート様が行動されるにはギュンター様のお力が必要です」
「お、おう。分っているのならいいんだよ」
かなりフランクな口調になっているギュンターの顔は、満更でもない表情を浮かべていた。そしてメイドが用意してくれたタオルを受け取ると、身体を拭きながらセバスチャンを休憩に誘う。
「ちょっと休憩しよう。たまにはゆっくりしてもいいだろう?」
「いえ、これから紅茶の講義がありますので。ユーファネート様の為に1秒でも無駄には出来ません。ところでギュンター様。ちなみに明日の朝にある剣術訓練ですが……」
軽い感じで誘ったが、軽い感じで断られ、ギュンターは相変わらずのセバスチャンの言葉に苦笑を浮かべる。だが、次の言葉には唖然としてしまう。
「ギュンター様は筋がいいので捨て身で相手と差し違える練習を――」
「絶対に分ってないだろう! だから俺は次期侯爵なんだよ!」
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