私、どのゲームの悪役令嬢なの？

気付けば時間が経過していました

セバスチャンの成長とレオンハルトの心配事

「じゃあ、セバスチャン。先ほど一緒に練習した成果をご主人に見てもらおうか」

「ん？　ユルクが紅茶を淹れてくれるんじゃないのかい？」

「ええ。先ほどまで紅茶を淹れる講義をしていましたが、セバスチャンの筋はいいですよ。基礎は習熟していますし理解も早い。まだまだ甘いところはありますが、先ほど叩き込みましたからね。……。おい、セバスチャン。話を聞けって」

　レオンハルトとユルクが会話をしている中、ユーファネートは目を見開いてレオンハルトの姿を記憶に留めようと凝視しており、セバスチャンはユーファネートの姿が見える事が嬉しいと言わんばかりに眺めていた。話しかけたのに無視された格好になっているユルクは、苦笑しながらセバスチャンの頭に鋭いチョップを落とす。

「痛ぃ！」

「ほら、主人を見ているだけでは執事失格だぞ。主人に対してどこまでの対応が出来るかが、執事として大事だと教えたばかりだろう」

「そうでした！　ユーファネート様に美味しい紅茶を淹れなければ！　あまりにもユーファネート様がレオンハルト様を見ている姿が凛々しくて、思わず見惚れてしまいました。……。執事失格ですね。せっかく、お忙しい時間を割いてしごいて下さったユルクさんに、実地での成果をお見せしないと。それにユーファネート様にも成長を見て頂いて褒めてもらわないとですね！　頑張りますよ！」

「ちなみに紅茶を淹れてくれと頼んだのは僕だからね？　セバスチャン。……。ねえ、僕の話を聞いているかい？」

　拳を握りしめ、鼻息荒く決意新たにしているセバスチャンに、レオンハルトが軽くツッコミを入れるが、全く耳に入っていないようであった。そしてレオンハルトの声を無視すように紅茶の準備を始めるセバスチャン。そんな様子に苦笑するユルク。ユーファネートはレオンハルトの姿を焼き付けるのに満足したのか、レオンハルトからセバスチャンに視線を向けた。

　セバスチャンが紅茶を淹れる所作は、朝の時点よりも洗練されており、ユルクの教育がいかに素晴らしい内容であったかが分かる。先ほどユーファネートを憧憬の眼差しで見ていた表情から一転し、真剣な表情でお湯の温度や茶葉の量を確認しており、湯を注ぐ仕草にも色気が感じられる程にまでなっていた。

　そんな子供にしては洗練された動きに、一同が感心している中、セバスチャンはユーファネート、ユルク、レオンハルトの順番に紅茶を置いていく。いやいや、順番がおかしいだろう。そうツッコみをいれようとしたユルクだったが、その前にユーファネートが紅茶を一口飲んで感想を口にした。

「うん。物凄く美味しくなっているわ！　さすがは私のセバスチャン！」

「ありがとうございます。ユーファネート様のために、最高の紅茶を淹れられるようになります。まだまだ若輩の身ですが、これからも傍に置いてください」

　紅茶を一口含んでユーファネートが興奮した様子でセバスチャンを褒める。ユルクから教育を受けた短時間で劇的に技術は向上しており、レオンハルトも感嘆の表情を浮かべていた。そして先生役をしたユルクも、弟子の成長に頬を緩めていた。

「この腕前なら王宮でも通じるね」

「ええ。実に教え甲斐がありましたよ。後はユーファネート様至上主義から脱却させれば完璧ですね。さすがに殿下が最後は駄目でしょう」

　そんな会話をしているレオンハルトとユルクは、目の前でやり取りをしている2人の内容を聞いて微妙な顔になる。ユーファネートがセバスチャンを褒める。それを受けてセバスチャンがユーファネートの素晴らしさを称える。それを受けてユーファネートが嬉しそうにし、その姿をセバスチャンが頬を染める。

　なにをしているんだこいつら？　婚約者である王子と、その従者の視線に気付く事なくユーファネートとセバスチャンの会話は続いていた。しばらくは放っておいても問題ないと感じたレオンハルトが、小さな声でユルクに確認する。

「ところで彼は大丈夫だったのかい？」

「単なるユーファネート様信者でしょうね。ちょっと度が過ぎるのが気になりますが、ユーファネート様の為なら命を投げ出す覚悟はあるようです。まあ、殿下が気にするような事はあるませんよ。ふふっ、良かったなレオン」

「うるさいよ。ユーファへの恋愛感情がないなら問題なよ。これで排除しなくて済む。ユーファを悲しませたくはないからね」

　目の前でコントかと思うほど、ユーファネートとセバスチャンのやり取りは続いており、それを眺めながらレオンハルトは嬉しそうにしながら紅茶をユックリと味わうのだった。