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 葛城が登校してきたのは金曜日だった。
 4日分のノートを渡すと、引き攣ったような顔をしながら礼を言ってくれる。

「毎日の勉強をやりながら、これをこなすって大変だぁ。やっぱ一番は健康だってことだね」

「そうかもね。なんならこの土日で集中講座やる?」

「わぁぁ! 助かる! ぜひお願いしたいですぅぅぅ。洋子先生」

「ふふふ、任せなさい」

 そう言いながら、私は土日のスケジュールを頭の中で展開した。
 早起きして家事をこなせば、午後からは出られそうだ。

「ねえ、洋子ちゃん。うちに来ない? 深雪ちゃんも紹介したいし」

「え……深雪ちゃんとは和解したの?」

「和解っていうか、静香さんが言い聞かせてくれて謝りに来たよ。また泣いちゃって大変だったけど」

「そうか。で? クソおやじは?」

「食事の時にぽつっと誤解だったようだって言ったけど、未だにギクシャクはしてる。間にはいった静香さんが可哀そうだから、それで良いことにしたんだよ」

「つまらん男だな。ちゃんと謝れんとはケツの穴が小さいに違いない」

 葛城が吹き出した。
 つられるように桜の枝がガサガサと揺れ、頬に当たる風の冷たさを改めて感じた。

「いいよ、葛城の家に行くよ。そうだなぁ……2時くらいかな」

「わかった。お菓子買っておくね。ジュースはオレンジが良い? それとも炭酸系?」

「できれば天然水がいいな。どうやら我が兄妹の舌は安くできているみたいなんだ」

 葛城は不思議そうな顔をしたが、ニコッと笑って頷いた。
 そして土曜日。
 早起きして掃除と洗濯を済ませた私は、夕飯の下ごしらえまでやってから家を出た。
 我が家から葛城家までは電車とバスを乗り継ぐ必要があるので40分はどうしてもかかる。
 往復の時間を考えると、勉強に使える時間は3時間というところか。

「効率的に進めねば」

 バスに揺られながら、私の教えたがり魂に火がついた。

「お邪魔します」

 迎え入れたのは葛城沙也で、他に人はいなさそうだった。

「1人なの?」

「ううん、深雪ちゃんがいるよ。2人は仕事なの」

 二階に上がると白い扉がゆっくりと開いた。

「いらっしゃいませ」

 おお、これが深雪ちゃんか!

「おじゃまします。深雪ちゃんだっけ、何してたの?」

 頬を真っ赤に染めながら深雪ちゃんが言った。

「テレビ見てたの」

 葛城が深雪ちゃんに言う。

「1人でいられる? あとでおやつの時に呼ぶね」

 コクンと頷いてドアが閉まる。
 なんと言うか……シャイなのか?
 私も兄の友達が来た時はあんな感じだったのだろうか。
 部屋に入ると、葛城が昨日渡していたノートを広げた。
 驚いたことにいくつか付箋が貼られている。

「1人で進めてたの?」

「うん、一応目は通したけど、やっぱりわからないことが多くて。洋子ちゃんはそういう時どうするの? 誰かに聞くの?」

「そうねぇ、兄に聞くことはあるけど、基本的には参考書に頼るかな」

「やっぱ参考書って必要だよね?」

「そうだね、あった方が楽だね」

 うん、まずは五教科の参考書を揃えることから始めようね?
 サラっと読んだだけと言いながらも、葛城の疑問点は的確だった。
 サクサクと進み、16時になる。

「休憩しようか。お菓子持ってくるね」

 葛城が部屋を出て行った。

「深雪ちゃんは?」

「呼んでやって」

 私は立ち上がり、白いドアをノックした。

「深雪ちゃん、おやつにしよう」

「はぁ~い」

 なんだ、素直ないい子じゃないか。
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