転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連

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 窓もない小さな小屋に入った使用人は、薄汚れて灰色になっているぬいぐるみを抱えて出てきた。

「これですか?」

「ウサキチ!」

 シューンが騎士の腕から飛び降りるようにして駆け寄った。

「ウサキチ! ウサキチ! 無事でよかった」

 ウサキチの腹に顔を埋めるようにして抱きしめるシューン。
 やっと追いついたサリーがウサキチごとシューンを抱きしめた。

「良かったですね。殿下」

「ああ、まだ燃やされてなかった……良かった」

「そんな時はなんと言うのでしたか?」

 シューンがウサキチから離れて焼却担当の使用人に向き合った。

「探していたものはこれだ。焼かれていなくて助かった。ウサキチを助けてくれてありがとうございました」

「うへっ……王子さまに頭を下げられちまうと、どうすれば良いのかわかりません。それに、そのぬいぐるみは孫にやろうと思って焼かずに置いていたもので。盗もうとしたわけではありませんが、どうぞお許しください」

「そうか、盗もうなどと思ってもいない。捨てられていたのであれば、不要だと思って当たり前だ。でも本当に良かった……」

 サリーがおどおどしている使用人に聞いた。

「お孫さんがおられるのですか?」

「はい、来週が誕生日なのですが、何も買ってやれず……不憫に思っていた時このぬいぐるみが運ばれてきたのです。随分古いので、まさか王子殿下のものとは思わず……。きれいに洗って渡してやろうと思いました」

「そうですか。お孫さんはおいくつになられるの?」

「三歳になります。戦争で父親を亡くしておりまして。母親は隣町で女給をしておりますもので、私たち老夫婦が預かっているのです」

「そうでしたか。偶然とはいえ殿下のぬいぐるみが生き残ったのはあなたのお陰です。後ほど改めてお礼を致します。本当にありがとうございました」

 サリーはシューンの頭を押さえながら、もう一度二人で深く頭を下げた。
 近衛騎士が小さく拍手をしている。
 ライラはなぜかエプロンで涙を拭いていた。

「さあ、殿下。ウサキチはお風呂に入らなくてはなりませんから私が預かります。殿下はライラと一緒にお食事に戻ってください」

「わかった」

 シューンはライラに手を引かれ数歩歩いてから振り返った。

「おじいさん、本当にありがとうね」

 まだ小さな手を目いっぱい広げて、焼却担当の使用人に手を振るシューン。
 その姿を離れて見ていた第一王子は、何度も深く頷いていた。
 
「シューン、一緒に朝食をやり直そう」

「はい、兄上」

 サリーはウサキチを抱えて洗濯場に向かった。

「これはゴミだと思われても仕方ないかも」

 ざぶざぶとウサキチを洗うサリーは呟いた。
 シミや黴は洗えば落ちるし、破れは縫えば何とかなる。
 しかし布の劣化は如何ともしがたく、洗った端から綿が顔を出すような状態だった。
 
「でもこれってブランケット症候群よね……」

 ブランケット症候群とは、子供の成長期に見られる行動だ。
 母親という守ってくれる存在と、外の世界の狭間で揺れ動く気持ち。
 瞬にとってのウサキチは、さおりと離れている間も、その存在を感じることのできるよすがだったのだろう。
 しかし、シューンは生まれてすぐに母を失っている。
 彼がウサキチに求めている役割は何だろう。

「あ……」

 考え事をしながら手を動かしている間に、ウサキチのお腹から綿が溢れだしてしまった。
 生地自体が薄くなりいつ解れてもおかしくない状態だ。

「どうしよう……」

 暫し考えたサリーは、ウサキチを板干しにして縫い直すことにした。
 力任せに絞るとますます破れる恐れがあるので、近くにいた年配の洗濯メイドに相談すると、シーツに包んで押さえるという方法を教えてくれた。

「これを使いな。汚れていないけど収める前にもう一度洗おうと思ってたシーツさ」

「ありがとうおばさん」

「ああ、幼子を育てるのは大変さ。頑張りなよ」

 シーツを受け取りながら礼を言うサリーに、後ろから話しかける者がいた。

「あのさぁ、マリカのことなんだけど。やっぱり首になるのかい? それとも何か罰を受けるのかねぇ。あの子は悪い子じゃないんだよ」

「ああ、マリカちゃんね? きっと大丈夫よ。あんなことで罰を受けてたら命がいくつあっても足りないわ。ちゃんと正直に言ったのだし、メイド長も悪いようにはしないと思うけど……私からも確認しておくわ」

「ああ、頼むよ。あの子はまだ十歳になったばかりなのに朝から晩まで働いてるいい子なんだ」

「ここの仕事の後も働いているの?」

「ああ、父親がやっている乾物屋の店番をしてるよ。弟と妹の面倒をみながらね」

「そう。頑張ってるんだね」

「私たちはみんなあの子が不憫で仕方がないんだよ。だから心配でね」

「うん、わかったわ」

 サリーはウサキチとシーツを抱えて物干し場に出た。
 広げたシーツでウサキチを包み、力いっぱい押して水分をシーツに吸わせていく。

「なかなか難しいわ」

 非力なサリーが体重をかけても、思うほど絞れない。
 腕組みをするサリーの後ろから、優し気な声がした。
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