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何度かの深い呼吸の後、サリーは目を閉じた。
「ウサキチ~ 元に戻れ~ まはりくまはりたやんばらやんやんや~ん!」
ポンという音と共に、見事に甦ったウサキチが立ち上がった。
「直った~! けど……立ってる?」
三人は数歩後退った。
「おいおい、逃げるなよ。やっと気づいてくれたか。遅すぎるんだよ。それにさっきは体中を踏みつけやがってさぁ~。僕は神の使いだよ? 尊い存在なんだよ?」
「へっ? 神の使い?」
「そうさ。この国にとってとても重要な役割を担っているシューンのために、神が遣わされたんだ。でも邪教の神が僕の魂を違う時空に飛ばしたんだよ」
「それが瞬のウサキチ?」
「そうさ。あの事故で君がここに転生する時、僕も一緒に転生したんだよ」
「じゃああの時……私と瞬とウサキチの三人で?」
「いや? 君と僕だけだ。瞬はこの世界には来ていない」
「えっ……どういう……こと?」
愕然とするサリーをロバートが優しく座らせてくれた。
サリーが落ち着くのを待って、ウサキチが続ける。
「君はあの時、瞬を強く抱いて暴走車にはねられた。瞬を強く抱いたということは、僕も強く抱かれていたということだ。君は数メートル飛んで、頭からアスファルトに落ちた」
サリーは両手で自分の体を抱いてブルっと震えた。
「君は瞬を守り切ったんだ。瞬は死ななかったよ」
「えっ!」
「君が瞬の頭を胸に抱え込んでいたからね。頭蓋骨を陥没骨折したけれど、子供は柔軟だからね。脳に損傷はなかったので後遺症も無いよ。腕と足は折れたけど大丈夫さ」
「あの子は……生きているの? 生きているのね?」
「ああ、もう退院もしているよ」
「でも……私が死んじゃったから……孤児に?」
「いや、君のご両親が引き取って慈しんでおられるよ」
「両親?」
「ああ、君の忘れ形見だと大事に育てている」
「そう……そうなんだ……良かった……良かったわ……瞬……」
サリーの目からボロボロと涙が溢れてくる。
トーマス医師が、そんなサリーの肩を抱きしめた。
「君は母として子の命を守り切ったんだ。立派だよ」
「トーマス先生……」
トーマス医師に抱かれているサリーの髪を、ロバートが撫で続けている。
しばらく泣き続けたサリーは、二人に礼を言ってウサキチに向き合った。
「なぜ今までぬいぐるみの振りをしていたの?」
「僕は君より早く転生したんだ。湖に落ちて、シューンが僕を追って飛び込んだ時さ。綿がどんどん水を含んで沈んでいったよ。シューンは飛び込んですぐに気を失った。まあ、そのお陰で、ほとんど水を飲まなかったから良かったけどね。焦った僕は持っていた神力を全て放出したんだ。そうでもしなくちゃ重たくなっていく体と、シューンの体の両方を助けることはできなかったから」
「神力が無くなったってこと?」
「うん、でも神力は毎日少しずつ補充されるから、僕はぬいぐるみとして過ごした。でも、シューンの命を狙う奴らがいろいろ仕掛けてくるから、それを排除しなくちゃいけなかっただろ? せっかく溜まってもすぐに使っているから、ずっとぬいぐるみのままだったんだ。そしてあの夜、忍び込んできたメイドらしき女が、シューンの飲み水に毒を入れた」
「えっ!」
「僕は神力を使って毒を分解したんだけど、もう余力が無くてね。ベッドから落ちて……」
「なるほど……それで、ゴミと化したのですね」
「ゴミって言うな。そもそも君が早く気づいて力を分け与えてくれていたら、何の問題も無かったんだ」
「そんな無茶な」
「まあ本当は、あんな危機的状況に転生するはずでは無かったからね。さすがに焼かれそうになったときは神を恨んだよ」
「それ言っちゃダメなやつだから」
トーマスとロバートは、ずっと黙って話を聞いていた。
実際に魔法をかけられたことがある二人だからこそ、信じることができたのだろう。
そして今後の行動を話し合った。
「僕はぬいぐるみとしてシューンに寄り添い続ける。いずれ心が成長すれば僕を手放す日が来るだろうから、その時がきたら本来の姿に戻る」
「本来の姿?」
「まあ、いずれ解るよ。ねえサリー、僕の腹の部分を切り取って、小さなお守りのようなものを作ってくれ。それを持っていれば、僕と意思の疎通ができる。他に人がいるときにこうやって話すのは拙いだろう?」
「うん、わかった。お腹は別の布に変えるのね? 何色がいい?」
「腹は白と相場が決まっている。なあ? ロバート」
ウサキチがニヤッと笑った。
ロバートの頬がポッと赤く染まる。
「では安全性を重視してタオル地にしようかな」
「ああ、早速頼むよ。シューンがお待ちかねだ」
治療台に寝かされたウサキチに、サリーが声を掛ける。
「麻酔はいらないの?」
「……いいから早く切れ」
サリーはウサキチの胸から足の付け根近くまでを、円形に切り取った。
それを四分割にして袋状に縫い、ウサキチに詰まっていた綿で膨らみをもたせる。
「なかなか上手いじゃないか」
「さすがにこの程度ならね」
次に開いた穴に真新しいタオルを当て、綿を押さえながら縫い付けていった。
「おお、気持ちがいいぞ。このタオルはなかなか上等だな」
ウサキチはご満悦のようだ。
「ウサキチ~ 元に戻れ~ まはりくまはりたやんばらやんやんや~ん!」
ポンという音と共に、見事に甦ったウサキチが立ち上がった。
「直った~! けど……立ってる?」
三人は数歩後退った。
「おいおい、逃げるなよ。やっと気づいてくれたか。遅すぎるんだよ。それにさっきは体中を踏みつけやがってさぁ~。僕は神の使いだよ? 尊い存在なんだよ?」
「へっ? 神の使い?」
「そうさ。この国にとってとても重要な役割を担っているシューンのために、神が遣わされたんだ。でも邪教の神が僕の魂を違う時空に飛ばしたんだよ」
「それが瞬のウサキチ?」
「そうさ。あの事故で君がここに転生する時、僕も一緒に転生したんだよ」
「じゃああの時……私と瞬とウサキチの三人で?」
「いや? 君と僕だけだ。瞬はこの世界には来ていない」
「えっ……どういう……こと?」
愕然とするサリーをロバートが優しく座らせてくれた。
サリーが落ち着くのを待って、ウサキチが続ける。
「君はあの時、瞬を強く抱いて暴走車にはねられた。瞬を強く抱いたということは、僕も強く抱かれていたということだ。君は数メートル飛んで、頭からアスファルトに落ちた」
サリーは両手で自分の体を抱いてブルっと震えた。
「君は瞬を守り切ったんだ。瞬は死ななかったよ」
「えっ!」
「君が瞬の頭を胸に抱え込んでいたからね。頭蓋骨を陥没骨折したけれど、子供は柔軟だからね。脳に損傷はなかったので後遺症も無いよ。腕と足は折れたけど大丈夫さ」
「あの子は……生きているの? 生きているのね?」
「ああ、もう退院もしているよ」
「でも……私が死んじゃったから……孤児に?」
「いや、君のご両親が引き取って慈しんでおられるよ」
「両親?」
「ああ、君の忘れ形見だと大事に育てている」
「そう……そうなんだ……良かった……良かったわ……瞬……」
サリーの目からボロボロと涙が溢れてくる。
トーマス医師が、そんなサリーの肩を抱きしめた。
「君は母として子の命を守り切ったんだ。立派だよ」
「トーマス先生……」
トーマス医師に抱かれているサリーの髪を、ロバートが撫で続けている。
しばらく泣き続けたサリーは、二人に礼を言ってウサキチに向き合った。
「なぜ今までぬいぐるみの振りをしていたの?」
「僕は君より早く転生したんだ。湖に落ちて、シューンが僕を追って飛び込んだ時さ。綿がどんどん水を含んで沈んでいったよ。シューンは飛び込んですぐに気を失った。まあ、そのお陰で、ほとんど水を飲まなかったから良かったけどね。焦った僕は持っていた神力を全て放出したんだ。そうでもしなくちゃ重たくなっていく体と、シューンの体の両方を助けることはできなかったから」
「神力が無くなったってこと?」
「うん、でも神力は毎日少しずつ補充されるから、僕はぬいぐるみとして過ごした。でも、シューンの命を狙う奴らがいろいろ仕掛けてくるから、それを排除しなくちゃいけなかっただろ? せっかく溜まってもすぐに使っているから、ずっとぬいぐるみのままだったんだ。そしてあの夜、忍び込んできたメイドらしき女が、シューンの飲み水に毒を入れた」
「えっ!」
「僕は神力を使って毒を分解したんだけど、もう余力が無くてね。ベッドから落ちて……」
「なるほど……それで、ゴミと化したのですね」
「ゴミって言うな。そもそも君が早く気づいて力を分け与えてくれていたら、何の問題も無かったんだ」
「そんな無茶な」
「まあ本当は、あんな危機的状況に転生するはずでは無かったからね。さすがに焼かれそうになったときは神を恨んだよ」
「それ言っちゃダメなやつだから」
トーマスとロバートは、ずっと黙って話を聞いていた。
実際に魔法をかけられたことがある二人だからこそ、信じることができたのだろう。
そして今後の行動を話し合った。
「僕はぬいぐるみとしてシューンに寄り添い続ける。いずれ心が成長すれば僕を手放す日が来るだろうから、その時がきたら本来の姿に戻る」
「本来の姿?」
「まあ、いずれ解るよ。ねえサリー、僕の腹の部分を切り取って、小さなお守りのようなものを作ってくれ。それを持っていれば、僕と意思の疎通ができる。他に人がいるときにこうやって話すのは拙いだろう?」
「うん、わかった。お腹は別の布に変えるのね? 何色がいい?」
「腹は白と相場が決まっている。なあ? ロバート」
ウサキチがニヤッと笑った。
ロバートの頬がポッと赤く染まる。
「では安全性を重視してタオル地にしようかな」
「ああ、早速頼むよ。シューンがお待ちかねだ」
治療台に寝かされたウサキチに、サリーが声を掛ける。
「麻酔はいらないの?」
「……いいから早く切れ」
サリーはウサキチの胸から足の付け根近くまでを、円形に切り取った。
それを四分割にして袋状に縫い、ウサキチに詰まっていた綿で膨らみをもたせる。
「なかなか上手いじゃないか」
「さすがにこの程度ならね」
次に開いた穴に真新しいタオルを当て、綿を押さえながら縫い付けていった。
「おお、気持ちがいいぞ。このタオルはなかなか上等だな」
ウサキチはご満悦のようだ。
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