83 / 100
83
しおりを挟む
「おい、マジでどうなってんの?」
アレンがトーマスの袖を引いて聞く。
「多分アレだ。ほら見ろ、カンペ係がいる」
「カンペ?」
アレンが振り向くと、ラングレー夫人が大きな紙を筒状に丸めている最中だった。
「母上……じゃあ今のって誰の意見?」
「間違いなくマリアだと思う。あの子はずっと教育の大切さを口にしていたからな。内容的には幼児化する前に僕が聞いていたものと同じだった。ただ、今のあの子の口調では説得力に欠けるだろ? どれほど良い意見を言ったとしても。だって考えてみろよ。マリア語で言うと、お前たちは『アシュとカチスとアエン』だぜ? どう考えても政治向き言語ではない」
「マリア語……その通りだな。僕はもしかすると元のマリア嬢が戻ってきたのかと思ったよ」
トーマスがフッとアレンを見た。
「案外そうかもしれん。面白がって四歳児の真似をしてるだけかもしれないぜ?」
「だとしたら、相当性格悪いよな」
「でも急に戻るのも寂しくないか?」
二人は黙ってマリアちゃんがマリア嬢に戻った時のことを想像した。
「寂しい……うん、耐えられんかもしれん。いや、絶対耐えられんな。マリアロス……恐怖しかない」
「うん。とんでもない喪失感に襲われそうだよ。アラバスなんて寝込むかも……」
二人が顔を上げると、マリアが無邪気にぶんぶんと手を振っている。
「……マリアちゃん。やっぱり天使だ」
アレンがうっすらと涙を浮かべながら呟いた。
「俺の妹を不埒な目で見るな。あれでも妊娠中の人妻だぞ」
「単語だけで聞くととんでもないが、なぜかマリアちゃんだと罪悪感がないんだよなぁ」
「……」
三人の国王たちが話している場所からジトっとアラバスが睨んでいる。
「あっ! 拙い。おい、仕事しようぜ」
「ああ、仕事仕事」
二人は会話の輪に入り、具体的な侵攻作戦を詰めていった。
少し離れた場所で、目の下に隈を作ったカーチスがマリアの頭をしきりに撫でている。
「凄いね、マリアちゃん。全部覚えたの?」
「違うよ? あれはちゃんとマリアが考えたことなの。でもね、マリアが話してもわかってもらえないからってママが言ってね、おばちゃまが紙を出すからそれを読みなさいって」
「へぇ、マリアちゃんの考えたことなんだ。ホントに凄いよ。全くその通りだと思うもん」
「えへへ、カチスも頑張ったってパパが褒めてたよ。ママも嬉しそうだったよ」
「マジで? えへへ、やっぱり国王陛下と王妃陛下に褒められるとめちゃ嬉しいな」
「マリアも褒めてあげようか?」
「うん! 褒めて褒めてぇ」
マリアが背伸びをしてカーチスの頭を撫でようと手を伸ばす。
ニコニコしながら少し屈んだカーチスがいきなり後ろに倒れた。
「カチス! 大丈夫?」
床に転がったカーチスが目を開けると、冷徹な視線で真上から見下ろすアラバスと目が合った。
「あ……兄上。ごめんなさい、調子に乗りました。反省しています」
アラバスが、表情を変えずに言い放つ。
「今回の働き、よくやった。お前のお陰で全てが最速で動きだしたのだからな。しかし、俺のマリアに甘えるのは話が別だ」
「いや……えっと……ご褒美?」
「褒美なら俺がやろう。何がいい?」
床に寝転がったままの姿勢でいるカーチスが、マリアにヘルプの視線を向けた。
マリアの口が不自然に大きくパクパクと動いている。
何かを伝えているようだ。
「ん? ま……か……ろ……に?」
アラバスがニヤッと笑う。
「なんだ、お前。これほど頑張った褒美がマカロニか? 謙虚な奴だな」
マリアが頬を膨らませて怒っている。
「違う! カチス! マカロン!」
カーチスが慌てて起き上がった。
「あ……兄上、間違えました。マカロニではなくマカロンです」
アラバスがシレッとした顔で言う。
「すでに判決は下ったのだ」
バツの悪そうな顔でマリアを見たカーチス。
「このバカちん!」
マリアの頬がパンパンに膨れている。
「ごめん、マリア。許してよぉ」
「ばーかばーか! カチスなんてもう遊んであげないもんねぇ~だ」
マリアが王妃陛下の元へと去って行った。
それを見送りながらカーチスがぽつんと呟く。
「ボクって最弱……」
「おい、カーチス!」
しょげるカーチスを呼んだのはトーマスだった。
「帰る途中で何があったのかを話してくれ」
先ほどまでの和やかな雰囲気が一瞬で霧散した。
アレンがトーマスの袖を引いて聞く。
「多分アレだ。ほら見ろ、カンペ係がいる」
「カンペ?」
アレンが振り向くと、ラングレー夫人が大きな紙を筒状に丸めている最中だった。
「母上……じゃあ今のって誰の意見?」
「間違いなくマリアだと思う。あの子はずっと教育の大切さを口にしていたからな。内容的には幼児化する前に僕が聞いていたものと同じだった。ただ、今のあの子の口調では説得力に欠けるだろ? どれほど良い意見を言ったとしても。だって考えてみろよ。マリア語で言うと、お前たちは『アシュとカチスとアエン』だぜ? どう考えても政治向き言語ではない」
「マリア語……その通りだな。僕はもしかすると元のマリア嬢が戻ってきたのかと思ったよ」
トーマスがフッとアレンを見た。
「案外そうかもしれん。面白がって四歳児の真似をしてるだけかもしれないぜ?」
「だとしたら、相当性格悪いよな」
「でも急に戻るのも寂しくないか?」
二人は黙ってマリアちゃんがマリア嬢に戻った時のことを想像した。
「寂しい……うん、耐えられんかもしれん。いや、絶対耐えられんな。マリアロス……恐怖しかない」
「うん。とんでもない喪失感に襲われそうだよ。アラバスなんて寝込むかも……」
二人が顔を上げると、マリアが無邪気にぶんぶんと手を振っている。
「……マリアちゃん。やっぱり天使だ」
アレンがうっすらと涙を浮かべながら呟いた。
「俺の妹を不埒な目で見るな。あれでも妊娠中の人妻だぞ」
「単語だけで聞くととんでもないが、なぜかマリアちゃんだと罪悪感がないんだよなぁ」
「……」
三人の国王たちが話している場所からジトっとアラバスが睨んでいる。
「あっ! 拙い。おい、仕事しようぜ」
「ああ、仕事仕事」
二人は会話の輪に入り、具体的な侵攻作戦を詰めていった。
少し離れた場所で、目の下に隈を作ったカーチスがマリアの頭をしきりに撫でている。
「凄いね、マリアちゃん。全部覚えたの?」
「違うよ? あれはちゃんとマリアが考えたことなの。でもね、マリアが話してもわかってもらえないからってママが言ってね、おばちゃまが紙を出すからそれを読みなさいって」
「へぇ、マリアちゃんの考えたことなんだ。ホントに凄いよ。全くその通りだと思うもん」
「えへへ、カチスも頑張ったってパパが褒めてたよ。ママも嬉しそうだったよ」
「マジで? えへへ、やっぱり国王陛下と王妃陛下に褒められるとめちゃ嬉しいな」
「マリアも褒めてあげようか?」
「うん! 褒めて褒めてぇ」
マリアが背伸びをしてカーチスの頭を撫でようと手を伸ばす。
ニコニコしながら少し屈んだカーチスがいきなり後ろに倒れた。
「カチス! 大丈夫?」
床に転がったカーチスが目を開けると、冷徹な視線で真上から見下ろすアラバスと目が合った。
「あ……兄上。ごめんなさい、調子に乗りました。反省しています」
アラバスが、表情を変えずに言い放つ。
「今回の働き、よくやった。お前のお陰で全てが最速で動きだしたのだからな。しかし、俺のマリアに甘えるのは話が別だ」
「いや……えっと……ご褒美?」
「褒美なら俺がやろう。何がいい?」
床に寝転がったままの姿勢でいるカーチスが、マリアにヘルプの視線を向けた。
マリアの口が不自然に大きくパクパクと動いている。
何かを伝えているようだ。
「ん? ま……か……ろ……に?」
アラバスがニヤッと笑う。
「なんだ、お前。これほど頑張った褒美がマカロニか? 謙虚な奴だな」
マリアが頬を膨らませて怒っている。
「違う! カチス! マカロン!」
カーチスが慌てて起き上がった。
「あ……兄上、間違えました。マカロニではなくマカロンです」
アラバスがシレッとした顔で言う。
「すでに判決は下ったのだ」
バツの悪そうな顔でマリアを見たカーチス。
「このバカちん!」
マリアの頬がパンパンに膨れている。
「ごめん、マリア。許してよぉ」
「ばーかばーか! カチスなんてもう遊んであげないもんねぇ~だ」
マリアが王妃陛下の元へと去って行った。
それを見送りながらカーチスがぽつんと呟く。
「ボクって最弱……」
「おい、カーチス!」
しょげるカーチスを呼んだのはトーマスだった。
「帰る途中で何があったのかを話してくれ」
先ほどまでの和やかな雰囲気が一瞬で霧散した。
841
あなたにおすすめの小説
邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです
ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
ジェリー・ベケットは愛を信じられない
砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。
母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。
それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。
しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。
だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。
学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。
そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。
※世界観はゆるゆる
※ざまぁはちょっぴり
※他サイトにも掲載
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
次は絶対に幸せになって見せます!
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢マリアは、熾烈な王妃争いを勝ち抜き、大好きな王太子、ヒューゴと結婚したものの、結婚後6年間、一度も会いに来てはくれなかった。孤独に胸が張り裂けそうになるマリア。
“もしもう一度人生をやり直すことが出来たら、今度は私だけを愛してくれる人と結ばれたい…”
そう願いながら眠りについたのだった。
翌日、目が覚めると懐かしい侯爵家の自分の部屋が目に飛び込んできた。どうやら14歳のデビュータントの日に戻った様だ。
もう二度とあんな孤独で寂しい思いをしない様に、絶対にヒューゴ様には近づかない。そして、素敵な殿方を見つけて、今度こそ幸せになる!
そう決意したマリアだったが、なぜかヒューゴに気に入られてしまい…
恋愛に不器用な男女のすれ違い?ラブストーリーです。
2度目の人生は好きにやらせていただきます
みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。
そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。
今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる