僕の魂は君と出会うためだけに存在していたんだ

志波 連

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3 不思議な人

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 僕の顔をニコニコしながら見ている草薙さんに少し関心が湧いた。

「そうですか…ではよろしくお願いします」

「君は素直だねぇ。まあよろしくね。それに君は…まあ、いいや。おいおい話すよ。仲よくやろうじゃないか」

「…はい」

 一人掛けのソファーから草薙さんの隣に移動した母が僕に言った。

「受験生っていってもまだ一年先でしょう?授業は週に二日程度でいいかしら。守君には私にも付き合ってほしいのよ。お茶会とか買い物とか?たまには国内旅行も良いじゃない?」

 母の言葉に片眉を上げながら草薙さんは苦笑いを浮かべた。

「二日で良いの?ではトオル君は何曜日が良いかな?」

「別に希望はありませんよ。ご都合に合わせます」

 母が草薙さんの代わりに言った。

「そう?では月曜と火曜にしましょう?授業時間とかそういうのは二人で決めてね。ああ、トオルはもういいわ。私は守君と少しお話しがあるから」

 僕は小さく頷いて見せて部屋を出た。
 両親に対しては夢も希望も愛情も持ってはいないけれど、できれば僕のわからないところで遊んでくれたら良いのにとは思っている。
 むしゃくしゃした気分で部屋に戻ると、山下さんがコーヒーを持ってきてくれた。

「トオルさん。大丈夫かい?」

「山下さんともあろう人が、母とその愛人を家に上げるなんてどうしたんですか?」

「ははは!私の雇い主は君のお祖父様だけれど、この家の女主人は君の母上だからねぇ。できるだけ波風は立てない方が良いと思ったんだ。それにあの草薙っていう男…君は何か感じなかったかい?」

 山下さんは僕と二人だけの時は砕けた感じで話してくれるので、とても心が休まるのだけれど、今日は無性に心が波立っていてイライラした口調になってしまった。

「何か感じたって…特に何も感じませんでしたよ?山下さんは何か感じたんですか?」

「うん…どういえばいいのかな…難しいな…それにしてもトオルさんがすんなりと受け入れるとは思わなかったよ」

「ええ、自分でも驚いています。なぜか断ってはいけないような?まあ、早くあの部屋から出たかったから、どうでも良いって思ったのかもしれません」

「なるほどね。まあ心配しなくても、そう長いこと奥様がここで大人しくしているとは思えない。またすぐに三人だけの日常に戻るだろう」

「そうですね。気にするほどでも無いですね」

 僕はそう言って冷めたコーヒーを一気に飲んだ。
 山下さんがカップを下げて部屋を出た後、何もする気になれずベッドに寝転がっていた。
 何も考えず波の音を聞いていたら、小さくノックの音がして草薙さんの声がした。

「トオル君?少しいいかい?」

「あっ、はい、どうぞ」

「ああ、休んでたのに悪いね。今後のことを少し決めておこうと思ってね」

「どうぞお座りください」

 僕はベッドに腰かけて、二人掛けのカウチを指さした。

「さっき週に二日の授業って言ってたけど、それでいいの?それも続けて二日なんて」

「十分ですよ。僕としては授業より母が関わってこないように彼女の相手をしてくれる方がありがたいです」

「私は授業の方が良いんだけどなぁ。まあせいぜい頑張るさ。科目は何にする?」

「僕は日本史を…できれば大学に残って研究したいと思っているのです。それにはまず希望の大学に受かる必要があるので」

「そうかぁ。その大学はどこ?」

「はい、山上教授のいる奈良県のヤマト大学を狙っています」

「ふぅん。なかなか難関大学だ。でも無理じゃないよ。頑張ろうね」

「はい…」

「とりあえず私はそこに受かるための授業をすれば良いね?そのための準備もあるし、授業は来週からにしようか」

「わかりました」

 草薙さんは立ち上がって僕の肩をポンと叩いて部屋を出て行った。
 彼の部屋は僕の部屋の隣らしい。
 できれば母との逢瀬は別館にある母の部屋にしてほしいものだ。
 そんなことを考えながら僕はまたベッドに転がった。

 翌日の朝食の席に母は来なかったが草薙さんは座っていた。

「おはようございます」

「ああ、おはよう。君は毎日こんなに旨い朝食を食べてるの?贅沢な奴だなぁ」

「ええ、明美さんのごはんはおいしいですよ」

「うん、本当に旨い!明美さん、お代わりしていいですか?」

 明美さんは頷いて草薙さんの茶碗を受け取った。

「この茶碗ってどこの焼きものですか?」

 明美さんは困った顔で返事をした。

「どこというほどのものではないですよ。昨日百均で買ってきました」

「百均?百均って何かな?」

 草薙さんは僕の顔を見た。

「ほとんどの商品が百円で買える店ですよ。ああ、草薙さんは外国暮らしが長いから馴染みがないのでしょうね」

「百円って缶コーヒーより安いの?凄いな…」

 そう言いながら明美さんから受け取った茶碗を見ている草薙さんは、なんと言うか不思議な人という感じがした。

「ごちそうさまでした!おいしかったです。明美さんありがとう」

 手を合わせて心からのお礼を言うその姿に、僕はオオクニ君の姿を重ねた。

「さあ、遅れるぞ?早く食べちゃえよ」

「ああ…はい。わかりました」

 急いでごはんをかき込む僕の横で、草薙さんは優雅にコーヒーを飲んでいた。
 チラッと柱時計を見て僕は立ち上がった。

「行ってきます」

 なんだかあの人がいるだけで調子が狂うなと考えながら、僕はいつもの通学路を急いだ。
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