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44 兄弟の再会
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兄弟の魂は千五百年ぶりに再会したそうだ。
きっと積もる話もあるのだろうということで、アヤナミと僕は美佐子さんにお茶を淹れてもらって少し離れた場所で二人を眺めていた。
クサナギさんは相変わらず飄々とした感じで、美佐子さんに手土産を渡して仲良くなっていた。
「これは何という菓子だ? うまいな」
どうやらアヤナミもクサナギさんのお土産が気に入ったようだ。
「これはね、サブレっていうんだよ。形が鳩みたいで面白いでしょ?」
「お前は背中から喰らうのだな。やはり鳥は腹から喰うのが正しいぞ?」
「いや……これはお菓子だから」
そんな下らない話をしていたら、いきなりバンという音がした。
どうやらクサナギさんがテーブルを叩いて立ち上がった音のようだ。
クサナギさんは肩で息をしながら座っているサーフェスを睨みつけていた。
サーフェスは涼しい顔で薄く笑っている。
「本気で言っているのか」
「まあ落ち着けよ。どの道そうなるよりほか無いだろう?」
「そんなこと! まだ間に合うかもしれないじゃないか」
「無いよ。絶対にない。だからお前は大人しく戻れ」
「主を見限れと?」
「それはお前が決めろ。ただしそこにいるお前の親の顔を見て伝えろよ?」
クサナギさんがゆっくりと振り返って僕を見た。
そして何も言わず、またサーフェスの方に向き直る。
「奥方を犯して殺した。これは紛れもない事実だ」
「でもその手にあったのは兄上じゃないか! 兄上こそ後悔は無いのか?」
「後悔しているからここに居る」
「ぐっ……」
「これが終われば僕は戻って邪気払いをしなくてはいけない。お前はここに残り護国せねばならん。それがあの時の約束だろう? 違うか?」
二人は睨み合っている。
アヤナミはじっと二人の会話を聞いていたが、僕にだけ聞こえるような小さい声で言った。
「トオル、お前も覚悟を決めろ。俺たちにしてやれることは少ない。自分で打ち勝つ以外ないんだ。たとえその相手が奴だとしてもな」
そう言ってクサナギさんの方に顎をしゃくった。
僕としてはクサナギさんに嫌な思いをさせられたことは無いので当然恨みもないが、彼がヤマトタケルの愛刀に戻るというなら話は別だ。
僕には彼と戦う気概があるだろうか。
何度聞かされても、僕の中にミヤズヒメの夫であるアツタノミコがいるとは思えない。
しかも、僕が神刀新オオクニヌシでヤマトタケルと戦うということは、クサナギ剣と戦うということで、それは兄弟で殺し合うということになるのではないか。
そう考えるだけで、できれば回避したいという思いは強くなる。
いや、そもそも今お祖父様が鍛えているクサナギをヤマトタケルに奪われなければ問題ないのではないか?
なぜ奪われることを前提に話しが進むのだろう。
そう言えば、新オオクニヌシにサーフェスの中の魂が戻った時、サーフェスはどうなるのだろう?同じことがクサナギさんにも言えるんじゃないか?
魂が抜けた体ってどうなるんだ?
それをアヤナミに聞こうとしたとき、アヤナミが素早く口の前に人差し指を持っていき、喋るなと命じた。
サーフェスとアヤナミも気づいたのか、言い合いを止めている。
一瞬で静まり返った庭先に蝉の声だけが聞こえた。
そう言えば、今日から作業に入っているお祖父様と山上教授はどうしているのだろう。
ふと作業場の方を見た。
暑さのせいかゆらゆらと熱気の陽炎が作業小屋の前を揺らしている。
この暑さの上に鉄を溶かす作業をしているのだ。
お祖父様は大丈夫だろうか。
アヤナミに小さな声で言った。
「お祖父様が心配だ」
アヤナミは返事をせず、そっと作業場の方に視線を投げた。
じっと見つめている。
アヤナミの目が金色に変わった。
「大丈夫だ」
僕の方に向き直ったアヤナミの目は、普段と同じ深い青色に変わっていた。
「お前は自分の心配をしろ」
僕は小さく頷いたが、ものすごく小者扱いされた気分で少し落ち込んだ。
きっと積もる話もあるのだろうということで、アヤナミと僕は美佐子さんにお茶を淹れてもらって少し離れた場所で二人を眺めていた。
クサナギさんは相変わらず飄々とした感じで、美佐子さんに手土産を渡して仲良くなっていた。
「これは何という菓子だ? うまいな」
どうやらアヤナミもクサナギさんのお土産が気に入ったようだ。
「これはね、サブレっていうんだよ。形が鳩みたいで面白いでしょ?」
「お前は背中から喰らうのだな。やはり鳥は腹から喰うのが正しいぞ?」
「いや……これはお菓子だから」
そんな下らない話をしていたら、いきなりバンという音がした。
どうやらクサナギさんがテーブルを叩いて立ち上がった音のようだ。
クサナギさんは肩で息をしながら座っているサーフェスを睨みつけていた。
サーフェスは涼しい顔で薄く笑っている。
「本気で言っているのか」
「まあ落ち着けよ。どの道そうなるよりほか無いだろう?」
「そんなこと! まだ間に合うかもしれないじゃないか」
「無いよ。絶対にない。だからお前は大人しく戻れ」
「主を見限れと?」
「それはお前が決めろ。ただしそこにいるお前の親の顔を見て伝えろよ?」
クサナギさんがゆっくりと振り返って僕を見た。
そして何も言わず、またサーフェスの方に向き直る。
「奥方を犯して殺した。これは紛れもない事実だ」
「でもその手にあったのは兄上じゃないか! 兄上こそ後悔は無いのか?」
「後悔しているからここに居る」
「ぐっ……」
「これが終われば僕は戻って邪気払いをしなくてはいけない。お前はここに残り護国せねばならん。それがあの時の約束だろう? 違うか?」
二人は睨み合っている。
アヤナミはじっと二人の会話を聞いていたが、僕にだけ聞こえるような小さい声で言った。
「トオル、お前も覚悟を決めろ。俺たちにしてやれることは少ない。自分で打ち勝つ以外ないんだ。たとえその相手が奴だとしてもな」
そう言ってクサナギさんの方に顎をしゃくった。
僕としてはクサナギさんに嫌な思いをさせられたことは無いので当然恨みもないが、彼がヤマトタケルの愛刀に戻るというなら話は別だ。
僕には彼と戦う気概があるだろうか。
何度聞かされても、僕の中にミヤズヒメの夫であるアツタノミコがいるとは思えない。
しかも、僕が神刀新オオクニヌシでヤマトタケルと戦うということは、クサナギ剣と戦うということで、それは兄弟で殺し合うということになるのではないか。
そう考えるだけで、できれば回避したいという思いは強くなる。
いや、そもそも今お祖父様が鍛えているクサナギをヤマトタケルに奪われなければ問題ないのではないか?
なぜ奪われることを前提に話しが進むのだろう。
そう言えば、新オオクニヌシにサーフェスの中の魂が戻った時、サーフェスはどうなるのだろう?同じことがクサナギさんにも言えるんじゃないか?
魂が抜けた体ってどうなるんだ?
それをアヤナミに聞こうとしたとき、アヤナミが素早く口の前に人差し指を持っていき、喋るなと命じた。
サーフェスとアヤナミも気づいたのか、言い合いを止めている。
一瞬で静まり返った庭先に蝉の声だけが聞こえた。
そう言えば、今日から作業に入っているお祖父様と山上教授はどうしているのだろう。
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「お祖父様が心配だ」
アヤナミは返事をせず、そっと作業場の方に視線を投げた。
じっと見つめている。
アヤナミの目が金色に変わった。
「大丈夫だ」
僕の方に向き直ったアヤナミの目は、普段と同じ深い青色に変わっていた。
「お前は自分の心配をしろ」
僕は小さく頷いたが、ものすごく小者扱いされた気分で少し落ち込んだ。
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