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伊藤が冷静な声で聞く。
「その執着男は小夜子さんにも目をつけた?」
「いえ、それは無かったです。私も徹底的に会わせなかったですし。私……小夜子ちゃんの父親はその人じゃないかって思っているんです。上の子は信也の子だと思います。とても似ていましたからね。ああ、上の子というのは親戚に養子に行った一也さんです。養子に行ってすぐに亡くなっちゃったんですけどね。小夜子さんは小百合にそっくりでした。信也のしの字もなかったですね。私の方が信也に似ていますよ。嫌ですけどね」
そう言うと千代はスッと顎を引いた。
「そうですか、まあ異母兄妹ですものね。似ていて当たり前かもしれません。上の子というのは市場家に養子に行かれたのでしたね?」
「まあ、そこまで調べておられるのですか? やっぱり警察って怖いですねぇ」
「いやいや、我々は悪い奴らにだけ怖いのですよ。ご安心ください」
伊藤は笑いながら訂正した。
「なるほど。そうですよね、すみません。変なこと言っちゃった」
暫し和やかな空気が流れた。
お茶を淹れると言って席を立った千代を見送りながら、藤田が伊藤に囁く。
「執着男っていうのを調べてみましょうか」
「いや、もうすぐ話しに出てくるさ。俺の予想が正しかったらな。たぶんお前も驚くよ」
「誰ですか? 俺も会ってます?」
「まあ待ってろって」
店で使う茶器だろう、すし屋で出てくるような大ぶりな湯吞を置きながら、千代が申し訳なさそうに言った。
「すみませんね、こんな茶碗しか無くて」
「とんでもないです。私たちもこの方が有難いです。斉藤家で出していただいたカップは、一目で高級だとわかるようなものばかりで、緊張していましたよ」
「ははは! そりゃそうですよね。一客で何万もするようなものばかりでしたものね。洗うのも神経を使いましたよ」
伊藤が小さくいただきますと言って湯吞を持った。
「さっきの続きですが、小夜子さんが東京に行ってから、小百合の男遊びに拍車が掛かっちゃいましてね。相手を選ばないから病気を畏れたのでしょう。執着男が身請けすると言いだしましてね。小百合はあっけらかんとしてるし、私ももう良いかなって思って、ここを離れることにしたのです。小夜子さんが寂しがると姉ちゃんが言うので、店を閉めて上京しました」
「それで斉藤家に行かれた?」
「ええ、田丸家はお手伝いなんて必要ない家でしたから、どこかで働きながらたまに小夜子さんの顔が見れたら良いかなって思ったのですが、それを知った斉藤さんが雇ってくださって。斉藤さんのお屋敷から車で10分くらいのところが田丸の家だったのです」
「ええ、確か駒場でしたね」
「そうです。流石ですねぇ。田丸の家には斉藤さんもよく行っていましたよ」
「それで見染めた?」
「まあ! 意外と刑事さんもロマンチックなことを仰るんですねぇ。あの二人は籍は入れていますが、本当の夫婦ではありませんよ。斉藤さんは自分の妻という肩書を与えることで小夜子さんを守っていたのです」
「守る? 何から守るのですか?」
「小夜子さんの父親かもしれない執着男と……呪いからです」
藤田が息をのんだ。
「呪いは置いておくとして、執着男は小夜子さんには興味が無かったのでは?」
「ええ、あの頃はそうでした。斉藤さんの友人ですから田丸の家にも一緒に行っていましたが、小百合が死んで急に執着するようになったのです。それで斉藤さんが……」
「なるほど。それは小百合の後釜というより、忘れ形見という感情かな?」
「そうです。だからさっき言ったように父親だと思ったのです」
「斉藤さんは渡す気は無かったわけですね」
「斉藤さんは純粋に小夜子さんを守りたかったのだと思いますよ。娘というより孫のように可愛がっていましたからね。彼女の母親のようにはしたくなかったのでしょう。あの男は小夜子さんを自分の養子として籍に入れたがっていました」
「あの男? 執着男ですか? それは私も面識のある……」
「ええ……刑事さんのご想像の通り、山本充医師です」
藤田が伊藤の横で仰け反った。
「その執着男は小夜子さんにも目をつけた?」
「いえ、それは無かったです。私も徹底的に会わせなかったですし。私……小夜子ちゃんの父親はその人じゃないかって思っているんです。上の子は信也の子だと思います。とても似ていましたからね。ああ、上の子というのは親戚に養子に行った一也さんです。養子に行ってすぐに亡くなっちゃったんですけどね。小夜子さんは小百合にそっくりでした。信也のしの字もなかったですね。私の方が信也に似ていますよ。嫌ですけどね」
そう言うと千代はスッと顎を引いた。
「そうですか、まあ異母兄妹ですものね。似ていて当たり前かもしれません。上の子というのは市場家に養子に行かれたのでしたね?」
「まあ、そこまで調べておられるのですか? やっぱり警察って怖いですねぇ」
「いやいや、我々は悪い奴らにだけ怖いのですよ。ご安心ください」
伊藤は笑いながら訂正した。
「なるほど。そうですよね、すみません。変なこと言っちゃった」
暫し和やかな空気が流れた。
お茶を淹れると言って席を立った千代を見送りながら、藤田が伊藤に囁く。
「執着男っていうのを調べてみましょうか」
「いや、もうすぐ話しに出てくるさ。俺の予想が正しかったらな。たぶんお前も驚くよ」
「誰ですか? 俺も会ってます?」
「まあ待ってろって」
店で使う茶器だろう、すし屋で出てくるような大ぶりな湯吞を置きながら、千代が申し訳なさそうに言った。
「すみませんね、こんな茶碗しか無くて」
「とんでもないです。私たちもこの方が有難いです。斉藤家で出していただいたカップは、一目で高級だとわかるようなものばかりで、緊張していましたよ」
「ははは! そりゃそうですよね。一客で何万もするようなものばかりでしたものね。洗うのも神経を使いましたよ」
伊藤が小さくいただきますと言って湯吞を持った。
「さっきの続きですが、小夜子さんが東京に行ってから、小百合の男遊びに拍車が掛かっちゃいましてね。相手を選ばないから病気を畏れたのでしょう。執着男が身請けすると言いだしましてね。小百合はあっけらかんとしてるし、私ももう良いかなって思って、ここを離れることにしたのです。小夜子さんが寂しがると姉ちゃんが言うので、店を閉めて上京しました」
「それで斉藤家に行かれた?」
「ええ、田丸家はお手伝いなんて必要ない家でしたから、どこかで働きながらたまに小夜子さんの顔が見れたら良いかなって思ったのですが、それを知った斉藤さんが雇ってくださって。斉藤さんのお屋敷から車で10分くらいのところが田丸の家だったのです」
「ええ、確か駒場でしたね」
「そうです。流石ですねぇ。田丸の家には斉藤さんもよく行っていましたよ」
「それで見染めた?」
「まあ! 意外と刑事さんもロマンチックなことを仰るんですねぇ。あの二人は籍は入れていますが、本当の夫婦ではありませんよ。斉藤さんは自分の妻という肩書を与えることで小夜子さんを守っていたのです」
「守る? 何から守るのですか?」
「小夜子さんの父親かもしれない執着男と……呪いからです」
藤田が息をのんだ。
「呪いは置いておくとして、執着男は小夜子さんには興味が無かったのでは?」
「ええ、あの頃はそうでした。斉藤さんの友人ですから田丸の家にも一緒に行っていましたが、小百合が死んで急に執着するようになったのです。それで斉藤さんが……」
「なるほど。それは小百合の後釜というより、忘れ形見という感情かな?」
「そうです。だからさっき言ったように父親だと思ったのです」
「斉藤さんは渡す気は無かったわけですね」
「斉藤さんは純粋に小夜子さんを守りたかったのだと思いますよ。娘というより孫のように可愛がっていましたからね。彼女の母親のようにはしたくなかったのでしょう。あの男は小夜子さんを自分の養子として籍に入れたがっていました」
「あの男? 執着男ですか? それは私も面識のある……」
「ええ……刑事さんのご想像の通り、山本充医師です」
藤田が伊藤の横で仰け反った。
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