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「それでは今まで通りということで問題ないか?」
四人の侯爵が頷く。
サミュエルが続けた。
「各々この場で確認しておきたいことなどあれば共有したいがどうか?」
サミュエルの声にブラッド侯爵が手を上げた。
「宰相閣下より国王陛下主催の夜会を開催したいという打診がございました。これは皇太子殿下の誕生祝いとご成婚一周年を記念してのものです。昨年も開催しましたので通常通りということですが、開催日はまだ決定しておりません。警備の都合でプランを出すようにとのことですが、皆さんのご都合をお伺いしたい」
警備を担当する両家は王家の都合に合わせるという回答をした。
これも例年通り。
しかし今年はミスティ家が異を唱えた。
「招待客は決まっているのでしょうか?」
ブラッド侯爵が答える。
「例年通り近隣諸国への声掛けはする予定ですが?」
「そ……そうですよね。この件は持ちかえらせていただいて後日改めて……」
サミュエルの眉がピクッと動く。
「なぜだね? 開催日は誕生日前後と決まっている。そのどの日にするかは警備の都合であって、外務には関係ないと思うが?」
「はい、仰る通りです。しかし少々グリーナ国の動きが気になりまして……この件に関しましては義父が情報を握っておりますので」
「グリーナ国? ああ、ミスティ侯爵令嬢が嫁がれた国か? 婚姻の解消は円満に解決したと聞いているのだが違うのか?」
「いえ……そちらの方は問題なく……」
「はっきりしたまえ!」
サミュエルの一喝にミスティ小侯爵の肩が揺れた。
すかさずブラッド侯爵が助け舟を出す。
「まあまあ、ミスティ侯爵令息のお立場も考慮しないといけません。少しくらいなら待てますので、次回ということでいかがですか?」
「そうだな。ロナード殿、声を荒げて悪かったな。では次回……といってもあまり時間は無いのだ。来週でどうだ? それまでには回答を貰いたい」
ロナードがポケットからハンカチを出して汗を拭いた。
「畏まりました」
チラッとブラッド侯爵がサミュエルを見る。
二人にしかわからない程度の合図を交わし、その日は散会となった。
王宮から足早に出たロナード小侯爵は、待たせていた馬車に乗り込むと同時に舌打ちをした。
「義父上が領地にいただと? カマをかけやがって。そんなモノに引っかかる俺じゃなねぇぞ。奴らはどこまで気付いている? まずいな……少し急ぐ必要がありそうだ」
走り出した馬車の中で爪を嚙みながらロナードは考えを巡らせた。
そもそもの始まりは側妃との出会いだった。
あれは皇太子争いが苛烈になってすぐの頃だ。
流れゆく王都の景色を見るともなく眺めながらロナードは回想を始めた。
それは屋敷の執務室でいつものように侍女に奉仕をさせていた時、義父がいきなり部屋に入ってきた時から始まった。
「何をやっている! いい加減にしろと言ったはずだ!」
膝までずらしていたトラウザーズを引き上げながら、股座に顔を埋めていた女の頭を蹴り飛ばした。
無様に床に転がった女の顔が恐怖に慄いているのを見て、また少し欲情したが、今はそれどころではない。
「ち……義父上……ノックも無しとは些か……」
「黙れ! おい! 窓を開けよ!」
ミスティ侯爵が連れていた侍従に声を荒げる。
開け放たれた窓から森を思わせる新しい空気がなだれ込み、せっかく部屋に充満させていた香の甘い匂いが霧散した。
「側妃がお前を呼んでいる。いつの間にあの女と親しくなったのだ? まったく油断も隙も無い奴だ。弟の頼みとはいえお前など迎えるのではなかったな」
「はいはい。それはご愁傷さまでございました。それで? 側妃様が私をお呼びなのですね? ではすぐに行ってまいりましょう」
苦虫を百匹くらい口に放り込んだような顔をした義父の顔を思い出し、ロナードはフッと口角を上げた。
「バカな義父上だ」
ロバートの独り言が車窓の景色と共に消えていく。
少しだけ窓を開けて、己を現実に引き戻した。
それにしても……今日の会合での出来事を思い返していたロナードが目を見開いた。
飛ぶように流れる街路樹の側に、そこにいるはずのない顔を見つけたのだ。
「止めろ!」
まだ止まり切っていない馬車から飛び降りて駆け出すロナード。
慌てて馭者台から侍従が追いかける。
「……見間違いか?」
やっと追いついてきた侍従に言う。
「見間違いのようだ。屋敷に戻る」
まだ肩で息をしている侍従がペコっとお辞儀をして、ロナードの後ろに従った。
「なぜだ?」
ロナードの呟きは誰の耳にも届かなかった。
四人の侯爵が頷く。
サミュエルが続けた。
「各々この場で確認しておきたいことなどあれば共有したいがどうか?」
サミュエルの声にブラッド侯爵が手を上げた。
「宰相閣下より国王陛下主催の夜会を開催したいという打診がございました。これは皇太子殿下の誕生祝いとご成婚一周年を記念してのものです。昨年も開催しましたので通常通りということですが、開催日はまだ決定しておりません。警備の都合でプランを出すようにとのことですが、皆さんのご都合をお伺いしたい」
警備を担当する両家は王家の都合に合わせるという回答をした。
これも例年通り。
しかし今年はミスティ家が異を唱えた。
「招待客は決まっているのでしょうか?」
ブラッド侯爵が答える。
「例年通り近隣諸国への声掛けはする予定ですが?」
「そ……そうですよね。この件は持ちかえらせていただいて後日改めて……」
サミュエルの眉がピクッと動く。
「なぜだね? 開催日は誕生日前後と決まっている。そのどの日にするかは警備の都合であって、外務には関係ないと思うが?」
「はい、仰る通りです。しかし少々グリーナ国の動きが気になりまして……この件に関しましては義父が情報を握っておりますので」
「グリーナ国? ああ、ミスティ侯爵令嬢が嫁がれた国か? 婚姻の解消は円満に解決したと聞いているのだが違うのか?」
「いえ……そちらの方は問題なく……」
「はっきりしたまえ!」
サミュエルの一喝にミスティ小侯爵の肩が揺れた。
すかさずブラッド侯爵が助け舟を出す。
「まあまあ、ミスティ侯爵令息のお立場も考慮しないといけません。少しくらいなら待てますので、次回ということでいかがですか?」
「そうだな。ロナード殿、声を荒げて悪かったな。では次回……といってもあまり時間は無いのだ。来週でどうだ? それまでには回答を貰いたい」
ロナードがポケットからハンカチを出して汗を拭いた。
「畏まりました」
チラッとブラッド侯爵がサミュエルを見る。
二人にしかわからない程度の合図を交わし、その日は散会となった。
王宮から足早に出たロナード小侯爵は、待たせていた馬車に乗り込むと同時に舌打ちをした。
「義父上が領地にいただと? カマをかけやがって。そんなモノに引っかかる俺じゃなねぇぞ。奴らはどこまで気付いている? まずいな……少し急ぐ必要がありそうだ」
走り出した馬車の中で爪を嚙みながらロナードは考えを巡らせた。
そもそもの始まりは側妃との出会いだった。
あれは皇太子争いが苛烈になってすぐの頃だ。
流れゆく王都の景色を見るともなく眺めながらロナードは回想を始めた。
それは屋敷の執務室でいつものように侍女に奉仕をさせていた時、義父がいきなり部屋に入ってきた時から始まった。
「何をやっている! いい加減にしろと言ったはずだ!」
膝までずらしていたトラウザーズを引き上げながら、股座に顔を埋めていた女の頭を蹴り飛ばした。
無様に床に転がった女の顔が恐怖に慄いているのを見て、また少し欲情したが、今はそれどころではない。
「ち……義父上……ノックも無しとは些か……」
「黙れ! おい! 窓を開けよ!」
ミスティ侯爵が連れていた侍従に声を荒げる。
開け放たれた窓から森を思わせる新しい空気がなだれ込み、せっかく部屋に充満させていた香の甘い匂いが霧散した。
「側妃がお前を呼んでいる。いつの間にあの女と親しくなったのだ? まったく油断も隙も無い奴だ。弟の頼みとはいえお前など迎えるのではなかったな」
「はいはい。それはご愁傷さまでございました。それで? 側妃様が私をお呼びなのですね? ではすぐに行ってまいりましょう」
苦虫を百匹くらい口に放り込んだような顔をした義父の顔を思い出し、ロナードはフッと口角を上げた。
「バカな義父上だ」
ロバートの独り言が車窓の景色と共に消えていく。
少しだけ窓を開けて、己を現実に引き戻した。
それにしても……今日の会合での出来事を思い返していたロナードが目を見開いた。
飛ぶように流れる街路樹の側に、そこにいるはずのない顔を見つけたのだ。
「止めろ!」
まだ止まり切っていない馬車から飛び降りて駆け出すロナード。
慌てて馭者台から侍従が追いかける。
「……見間違いか?」
やっと追いついてきた侍従に言う。
「見間違いのようだ。屋敷に戻る」
まだ肩で息をしている侍従がペコっとお辞儀をして、ロナードの後ろに従った。
「なぜだ?」
ロナードの呟きは誰の耳にも届かなかった。
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