どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連

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「ああ……やっぱり本当のことだったのね」

 校舎の陰から裏庭を覗いていたルルーシア・メリディアン侯爵令嬢が溜息を洩らした。

「どうする? 乗り込む?」

 幼馴染であり親友でもあるアリア・ロックス侯爵令嬢が、項垂れるルルーシアの肩を抱き寄せながら言った。

「行かないわ……行ったって仕方がないもの」

「でもこのままじゃダメだと思うよ? だって卒業したら結婚式でしょ?」

 ルルーシアが目に涙をいっぱいに溜めて、少し背の高いアリアの顔を見上げた。

「殿下とは上手くいっているって思ってたのに……何度も愛してるって言ってくださったのよ。でもきっと婚約者への義務として頑張っておられたのね」

「酷い裏切りね……可哀そうなルルーシア」

「きっと素敵な出会いがおありだったのよ。いつからなの?」

「うん……私が初めて聞いたのは半年前かな」

「半年? 丁度私が皇太子妃教育で王宮に泊まり込んでいた頃ね……あの頃は本当に大変で、同じお城にいるのに殿下と顔を合わせる時間も無くて。お茶会も全部キャンセルさせられて寂しかった頃だわ」

「そうやってあなたが頑張っている間に殿下は……」

「そうね、殿下のために頑張っていたつもりだったけれど、お寂しかったのかしらね」

 ルルーシアの目からポロっと大粒の涙が零れ落ちた。
 アリアは慌ててハンカチでそれを抑える。

「やっぱり乗り込もう。はっきりさせるべきよ」

 弱々しく首を振ったルルーシアが声を出した。

「もう今日は帰りたい。早く帰ってお父様に相談したいわ」

「何を?」

「婚約を無かったことにしないと……このままでは殿下は愛する方と結ばれないでしょう?」

「ダメよ! ルルーシア! 奪い返すくらいの気迫を持たなきゃ!」

 その時、気まぐれな風がベンチでの会話を運んできた。

「うん、楽しみだ。じゃあ今夜も、いつものところで、いつもの時間に待っているよ」

 皇太子の言葉に頷いて立ち上がったサマンサ・フロレンシア伯爵令嬢は、分厚い本を胸に抱えてその場を離れていった。

「もう無理よ。だって私は愛されていなかったのだもの。今の会話聞こえたでしょ? お二人はきっともうそういう仲なのよ」

「ルルーシア……」

「もう無理よ。ありがとうアリア、心配かけてごめんね」

 アリアに支えられながらルルーシアは裏庭を後にした。
 そんなことが起こっているとは知らないアマデウス・ローレンティア皇太子は、足早に去って行くサマンサの背中を目で追っていた。

「今夜は晴れるかな……何年ぶりだろう、ほうき星なんて」

 そう呟いた皇太子に側近候補であるアラン・フェリアシア侯爵令息が近づいてきた。

「殿下、もう少しお考えになった方が良いのではないですか? 先ほど婚約者であるルルーシア嬢がこちらを見ておいででしたよ」

「え? ルルが登校してたの? なんだぁ、知らなかったよ。せっかくだからランチにでも誘おうかな」

「ぎりぎりの時間に登校なさいましたので、ご挨拶にこられる時間も無かったのでしょう。ランチにお誘いなら席を確保しておきますか?」

「うん、そうだね。ルルはあまり学校に来れてないから食堂はハードルが高いかもしれない。上位貴族用のテラスを予約しておいてくれ」

「畏まりました。ルルーシア嬢にはどのように?」

「そうだな……驚かせたいから昼休みになったら僕が直接誘いに行こうかな」

 頷いたアランは従者を呼び、席の予約を命じてからアマデウスと一緒に教室に向かった。
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