2 / 77
2
アマデウスとアランは3年A組で、ルルーシアとアリアは3年D組だ。
ここローレンティア王立貴族学園は、男女別のクラスわけになっており、AからCが男子生徒、DからFが女子生徒である。
クラスわけは純然たる成績順で、AとDが最上位クラスで1年に1度クラス替えがされる。
王宮で幼いころから高度な教育を受けているアマデウスにとって、学園は友人を作るために来ているようなもので、テストで首位を譲ることなどあり得ないことだった。
一方12歳で皇太子の婚約者に選ばれたルルーシアは、学園を卒業するまでの6年間で、全ての皇太子妃教育を終了する必要があった。
王族であれば15年かけて取得する内容を、6年間で修めなくてはならないのだ。
並大抵の苦労でできるような内容ではなかった。
そのため本来なら15歳で入学する貴族学園にも、ほとんど登校することができず、孤独に耐えながら勉強だけの日々を送るルルーシアにとって、週に一度開催される皇太子とのお茶会だけが心の拠り所だった。
しかし、最高学年になってすぐの頃から、そのお茶会も学校行事や公務と重なり中止になることが増えていく。
それでも歯を食いしばって耐え抜いたルルーシアは、遂に皇太子妃教育の全過程で及第点をとることに成功し、卒業まで1年を切ってはいるが、ようやく学園に登校できるようになった。
そして初めての登校日に目撃した皇太子の姿……
それはルルーシアの心を砕くには十分すぎるほどの破壊力だった。
久しぶりにルルーシアと食事ができると上機嫌だった皇太子が、彼女の早退を知りショックを受けていた頃、当のルルーシアは父親の執務室で泣き崩れていた。
「お父様、アマデウス皇太子殿下はもう……」
苦虫を嚙み潰した顔で、ルルーシアの父であるメリディアン侯爵は深いため息を吐いた。
「何かの間違いでは無いのかい? 皇太子殿下はどう見てもお前にぞっこんだろう?」
「きっとそう見せておられただけなのですわ。王族としての責務を全うしておられたのだと思います。だって……だってお父様、今夜もお二人は会う約束をなさっていましたわ」
「今夜だと?」
侯爵は驚いてしまい、持っていた書類をとり落とした。
執事長が慌てて書類をかき集める。
「ええ、場所も時間も存じませんが、確かに『今夜、いつもの場所でいつもの時間に待っている』とおっしゃいましたもの」
「まさか……もうそこまでの仲ということか?」
ルルーシアが再び泣き崩れた。
「お父様、どうか、どうかお願いです。殿下との婚約を無かったことにして下さいまし。そして愛し合うお二人が結婚できるように、私をどこか遠い街の修道院に送ってくださいまし」
「ルルーシア……ああ、可哀そうなルルーシア。でもね、お前もわかっているだろう? なぜお前が婚約者に選ばれたのか、そしてそれが覆すことができないほど重要なことなのか」
「お父様……」
メリディアン侯爵は泣きじゃくる愛娘の肩を抱くしかなかった。
翌朝、無理して登校しなくて良いという父親に首を振ってみせたルルーシアは、メリディアン侯爵家の家紋がついた馬車に乗り込んだ。
「では行って参ります」
「何かあったらすぐに帰ってきなさい」
馬車が走り出した途端に暗い表情になったルルーシアに、専属侍女のキャロラインが心配そうに話しかけた。
「お嬢様、ご無理はなさらない方がよろしいかと……」
「ええ、心配かけてごめんなさいね。でも私ってずっと一人でお勉強していたでしょう? 学園に行くのが夢だったのよ。だから頑張りたいの」
「本当に良く頑張られましたもの。講師の方もとても感心しておられましたわ。1年近くも余裕を残すなんてすばらしいと仰っていましたもの」
「まあ、ありがたいお言葉だけれど、きっと気を遣ってくださったのだと思うわ。だって王妃様は1年半も学園に通われたそうよ」
「あの方は特別でございましょう。生まれた時から皇太子妃となるべく育てられたと聞き及んでおりますわ」
「生まれた時から……きっと国王陛下と王妃殿下って何の問題もなくご成婚なさったのでしょうね……互いを信じて互いだけを愛して……羨ましいわ」
「お嬢様……」
ルルーシアが悲しそうな笑顔を浮かべた。
ここローレンティア王立貴族学園は、男女別のクラスわけになっており、AからCが男子生徒、DからFが女子生徒である。
クラスわけは純然たる成績順で、AとDが最上位クラスで1年に1度クラス替えがされる。
王宮で幼いころから高度な教育を受けているアマデウスにとって、学園は友人を作るために来ているようなもので、テストで首位を譲ることなどあり得ないことだった。
一方12歳で皇太子の婚約者に選ばれたルルーシアは、学園を卒業するまでの6年間で、全ての皇太子妃教育を終了する必要があった。
王族であれば15年かけて取得する内容を、6年間で修めなくてはならないのだ。
並大抵の苦労でできるような内容ではなかった。
そのため本来なら15歳で入学する貴族学園にも、ほとんど登校することができず、孤独に耐えながら勉強だけの日々を送るルルーシアにとって、週に一度開催される皇太子とのお茶会だけが心の拠り所だった。
しかし、最高学年になってすぐの頃から、そのお茶会も学校行事や公務と重なり中止になることが増えていく。
それでも歯を食いしばって耐え抜いたルルーシアは、遂に皇太子妃教育の全過程で及第点をとることに成功し、卒業まで1年を切ってはいるが、ようやく学園に登校できるようになった。
そして初めての登校日に目撃した皇太子の姿……
それはルルーシアの心を砕くには十分すぎるほどの破壊力だった。
久しぶりにルルーシアと食事ができると上機嫌だった皇太子が、彼女の早退を知りショックを受けていた頃、当のルルーシアは父親の執務室で泣き崩れていた。
「お父様、アマデウス皇太子殿下はもう……」
苦虫を嚙み潰した顔で、ルルーシアの父であるメリディアン侯爵は深いため息を吐いた。
「何かの間違いでは無いのかい? 皇太子殿下はどう見てもお前にぞっこんだろう?」
「きっとそう見せておられただけなのですわ。王族としての責務を全うしておられたのだと思います。だって……だってお父様、今夜もお二人は会う約束をなさっていましたわ」
「今夜だと?」
侯爵は驚いてしまい、持っていた書類をとり落とした。
執事長が慌てて書類をかき集める。
「ええ、場所も時間も存じませんが、確かに『今夜、いつもの場所でいつもの時間に待っている』とおっしゃいましたもの」
「まさか……もうそこまでの仲ということか?」
ルルーシアが再び泣き崩れた。
「お父様、どうか、どうかお願いです。殿下との婚約を無かったことにして下さいまし。そして愛し合うお二人が結婚できるように、私をどこか遠い街の修道院に送ってくださいまし」
「ルルーシア……ああ、可哀そうなルルーシア。でもね、お前もわかっているだろう? なぜお前が婚約者に選ばれたのか、そしてそれが覆すことができないほど重要なことなのか」
「お父様……」
メリディアン侯爵は泣きじゃくる愛娘の肩を抱くしかなかった。
翌朝、無理して登校しなくて良いという父親に首を振ってみせたルルーシアは、メリディアン侯爵家の家紋がついた馬車に乗り込んだ。
「では行って参ります」
「何かあったらすぐに帰ってきなさい」
馬車が走り出した途端に暗い表情になったルルーシアに、専属侍女のキャロラインが心配そうに話しかけた。
「お嬢様、ご無理はなさらない方がよろしいかと……」
「ええ、心配かけてごめんなさいね。でも私ってずっと一人でお勉強していたでしょう? 学園に行くのが夢だったのよ。だから頑張りたいの」
「本当に良く頑張られましたもの。講師の方もとても感心しておられましたわ。1年近くも余裕を残すなんてすばらしいと仰っていましたもの」
「まあ、ありがたいお言葉だけれど、きっと気を遣ってくださったのだと思うわ。だって王妃様は1年半も学園に通われたそうよ」
「あの方は特別でございましょう。生まれた時から皇太子妃となるべく育てられたと聞き及んでおりますわ」
「生まれた時から……きっと国王陛下と王妃殿下って何の問題もなくご成婚なさったのでしょうね……互いを信じて互いだけを愛して……羨ましいわ」
「お嬢様……」
ルルーシアが悲しそうな笑顔を浮かべた。
あなたにおすすめの小説
彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
【本編完結】独りよがりの初恋でした
須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。
それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。
アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。
#ほろ苦い初恋
#それぞれにハッピーエンド
特にざまぁなどはありません。
小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?