どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連

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 昼休みに落ち合ったアマデウスとサマンサは、いつものように並んでベンチに座った。

「昨日は絶好の天気だったのに残念だったよ。でも叔父上も元気そうで安心した」

「そう、それは良かったわ。星は無くなるわけじゃないしね。でも……」

「でも? どうしたの?」

「もうあなたとは天体観測ができないかもしれないわ。今朝ね、お父様に呼ばれたの。私の嫁ぎ先を決めたって言われたわ」

「え? そうなの? じゃあ君も卒業と同時に結婚ってこと? 王宮の文官になりたいって言ってたからてっきり試験を受けるのだと思っていたよ」

「私だってそのつもりだったわ。でもお父様は私を売ることに決めたみたい。お相手はワートル男爵だって……ルビー鉱山を持っているお金持ちらしいけれど良い噂は聞かない人よ」

「ん? ワートル男爵って君の父親より年上じゃなかった?」

「ええ、今年で50歳ですって。4人目の奥様が亡くなられたのが先月なのに、もう再婚なんて酷い話よね。1人目が失踪、2人目は病死、3人目は精神疾患で自殺。4人目の奥さんは崖から転落したらしいわ」

「え……崖から……」

 アマデウスは昨夜のキリウスとの会話を思い出した。

「きっと私も長くはもたないでしょうね。だから天体観測はもう……」

「ちょっと待てよ。なぜサマンサがそんなところに嫁がなくてはならないんだ」

「お金よ。私を今まで育てたのは売るためだもの。かなりの額の結納金が入るんだって言ってたわ。だからもう……」

「断れないの?」

「無理よ。恩を返せって言われたわ。お義母様もお義兄様もニヤニヤ笑うだけだし。家で唯一私を庇ってくれていたお義姉様はお嫁に行っちゃったし。結局女って男の所有物でしょ? 結婚するまでは父親の、結婚すれば夫の言いなりになるしかないのだわ。悔しいけれどそれが現実ってことよ」

「所有物……君がその結婚から逃れる方法は無いのかい?」

「家出して行方をくらまして逃げ切るか、自殺するか。現実的ではないけれど、男爵が払うと言ったお金より高額の結納金を払って私と結婚すると言ってくれる人を探すか……」

「高額の結納金を払って結婚……その結納金っていくらなの?」

「お父様の話では5億ルぺ(5億円)らしいわ。若い女をおもちゃにして死ぬまで甚振るための経費にしては高い方なんじゃない?」

「5億ルぺ……確かに高額だが、どうしようもない額ではないね。ねえサマンサ、その返事はいつまでにするの?」

「返事も何も無いわよ。お父様の決定を私が覆せるわけ無いでしょう? だからアマデウス様、今まで本当にありがとうございました。庶子だということで友達もいなかった私にとって、あなたという存在は生きる希望だったわ。あなたと一緒に眺めた夜空は死ぬまで絶対忘れない」

「サマンサ……」

 悲しそうに泣き笑うサマンサを、アマデウスは思わず抱きしめた。
 アランの方がぴくっと跳ね、まわりの目を気にするように視線を動かす。

「殿下……お止めください」

「え? ああ……でもサマンサが」

「殿下! アリア嬢が見ています」

「アリアが?」

 アマデウスは慌ててサマンサから体を引いたが、その時にはすでにアリアの姿は無かった。
 まだ泣き止まないサマンサの肩に手をかけたアマデウスは、意を決したように口を開く。

「ねえサマンサ、少しだけ時間をくれ。友人として僕にできることを探してみるから。絶対に諦めないでほしい」

「あなたにできること?」

「うん、こう見えても僕はこの国の皇太子だからね。他の人よりできることが多いんだ。でも少し時間が必要だから、希望を捨てずに待ってほしい」

「わかったわ。ありがとう、アマデウス様」

 昼休憩が終わる予鈴がなり、アマデウスとアランは立ち去り、サマンサは呆然とその場に佇み、じっと空を見上げていた。

 アランは5時限目の前に急いでアリアを探しに走った。
 先ほどの情景がそのままルルーシアに伝わると絶対に拙いと考えたからだ。
 女子教室の前にいた生徒にアリアを呼ぶように頼んだが、すでにアリアは早退したと言う。

「くそっ……間に合わなかったか……」

 アランは慌てて踵を返し、アマデウスのもとに走った。

「殿下、すぐにルルーシア嬢のところに向かいましょう」

 アマデウスが驚いた顔をする。

「早退するってこと?」

 しかし、じっと考え込んだアマデウスが出した答えは、アランの望むものではなかった。

「そうだね、早退しよう。ただし行く先は王宮だ。こちらの方が緊急だから」

「しかし殿下、ルルーシア嬢に先にご相談なさった方がよろしいのではないですか? このままですとルルーシア嬢が誤解をされてしまいます」

「ルルとは信頼関係ができているから大丈夫さ。それにルルの足元には大きな岩もある。落ちたって死なないよ。でもサマンサは……」

「殿下!」

 アランは声を荒げたが、アマデウスの言葉を覆すには至らなかった。
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