どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連

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 アマデウス王太子から訪問の先触れが届いたのは、侯爵が国王に謁見した翌日だった。
 訪問の趣旨を知っているメリディアン侯爵は、すぐに医師を手配し、パティシエにルルーシアの好きなお菓子を山ほど用意するよう命じる。
 ロックス侯爵家に使いを出し、アリア嬢にすぐに来てほしいと依頼した。

 連絡を受けたアリアが医者が待機している客間に入った数分後、玄関から王太子の到着の声が聞こえる。
 訪れたのは王太子と側近のアラン、そして国王専属文官2人だ。
 一方迎えに出たのはメリディアン侯爵一人で、ルルーシアは準備を整え自室で待っていた。

「ようこそ王太子殿下。我が屋敷においでになるのは久しぶりですな」

 侯爵の言葉にアマデウスは頷いた。

「ご無沙汰しております。父から昨日の話は聞いています。どうやら僕は手順を間違えていたようで、侯爵にはとても心配をかけてしまいました。申し訳ありません」

「詳しい話は聞かせていただけるのでしょうか?」

「もちろんです。ルルーシアにもきちんと話をしますが、誤解をしないでいただきたいのは、サマンサ嬢と僕はそういう仲ではないということです。これには深い事情があって……」

「それは娘と一緒にお伺いしましょう。ここで立ち話をするほど軽い話ではないでしょう」

 侯爵が先に立って客間に案内する。
 アマデウスはいつになく緊張した面持ちでそれに続いた。

「お待たせいたしました。アマデウス王太子殿下」

 落ち着いた青のドレスに身を包み、王太子の髪と同じ銀色の宝石を控えめにあしらったルルーシアが客間に入った。

「ああルル! 会いたかったよ。ずっと休んでいるから心配で仕方が無かったけれど、どうしても時間が取れなくて申し訳なかったね」

「いいえ殿下。お忙しいのは承知しております。むしろお手伝いもできないわが身が情なかったですわ」

 アマデウスが立ち上がり、扉の前でカーテシーをしたルルーシアを迎えに行った。

「相変わらずルルは美しいな。青のドレスも、その銀のブローチもとても似合っている」

「恐れ入ります。殿下こそいつにも増して凛々しいお姿ですわ」

「ははは! 久しぶりにルルに会えると思ったら張り切ってしまったよ。さあ、ルル。僕の隣に」

 侯爵がコホンと咳払いをした。

「ルル、殿下は大切なお話しがあるとのことだ。お前は私の隣に座りなさい。フェリシア卿、君が殿下の隣に。文官の君たちはこちらの席に座るとよい」

 ただならぬ緊張感にルルーシアの喉がゴクリと鳴った。
 全員が指定された場所に座ると、文官たちは書類をテーブルの上に並べ始める。
 それを複雑な表情で見ていたアマデウスが、意を決したようにルルーシアの顔を見た。

「ルル、今日はとても大切な話があって来たんだ。どうか最後まで冷静に聞いてほしい」

「はい、殿下」

「実は……ルルとの結婚と同時に……側妃を迎えたいと考えている」

 ルルーシアがギュッとドレスを握った。
 その手の上に手を重ねる侯爵の顔は悲痛なほど歪んでる。

「お相手は……サマンサ・フロレンシア様でしょうか」

「う……うん、彼女だよ……実は彼女の身に大変なことが起こってしまって、彼女を救い出すにはこれしか方法が……」

「畏まりました。どうぞお心のままになさってくださいませ」

「いや、まず理由を聞いてくれ! 君は誤解しているよ、彼女とはそんな仲では……」

 言い終わる前にルルーシアが声を出した。

「理由など必要ございません。私は従うまででございます」

 アマデウスは見たこともないほど力強いルルーシアの声に圧倒されてしまった。

「ルル……話を聞いてくれよ」

 アマデウスの言葉には反応せず、ルルーシアが文官たちの方に顔を向ける。

「その書類は側妃を迎える承諾書ですか? それとも婚約解消の書類かしら。どちらにしてもすぐにサインいたしましょう。キャロ、ペンを持ってきてちょうだい」

 慌てて立ち上がるアマデウス。
 それを無視して文官に手を伸ばすルルーシア。
 侯爵はじっとアマデウスを睨みつけていた。

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