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「学園にはもう行かなくても良いんじゃないか?」
やっと泣き止んだ愛娘と夕食をとりながら、メリディアン侯爵が優しい声で語り掛けた。
キャロラインに冷やしてもらったが、まだ瞼の腫れが引かないままのルルーシアが答える。
「そうですわね……少し考えてみます。というのも、アリアが王太子妃の側近になると言ってくれたのです。私としてはとてもありがたいですが、彼女には相当な無理をさせることになってしまいますでしょう? 近くで一緒に頑張りたいなっていう気持ちもあって……」
「アリア嬢が側近に? 侍女でなく側近となるとそりゃあ相当な努力が必要となるな。あの試験だけは一切の忖度がなされない。彼女の成績はどうなのだ?」
「実は存じませんの。だってお父様、私はまだ2日しか学園に行っていませんから。それに本人に成績を聞くなどできませんもの」
「ははは! そりゃそうだな。しかし侍女試験なら何の苦労もなく通過するだろうに、わざわざ側近を目指すとは……アリア嬢は本当にお前のことを大切に思ってくれているのだな」
「ええ、彼女は私の親友ですわ。本当に心強いですし、心の拠り所というか、そんな感じです。そう思うと、今まで友達と呼べる存在がいなかった王太子殿下は、さぞお辛かったことでしょうね。そんな存在ができたことが嬉しく、手放せなくなったというお心も少しは理解できますわ」
「そうか……でもね、ルル。無理をしてはいけない。私は男と女の友情は成立しない派でね、どちらかに少しでも恋情が芽生えたら終わると思っているんだ。奴らがどうなるかは神のみぞ知るところだが、お前が嫌だと思えばそこで終わりだ。我慢などする必要は無いからね」
ルルーシアが頷いた時、キャロラインがデザートを運んできた。
「あら、素敵なフルーツゼリーね。宝石箱みたいだわ」
ルルーシアの笑顔を見た侯爵の相好が緩む。
「お前のその笑顔を見るたびに、彼を引き抜いて本当によかったと思うよ」
「まあ! お父様ったら。私が殿下に嫁ぐ時には、彼を連れて行ってもよろしいですか?」
メリディアン侯爵が数秒考えた後、真面目な顔で首を横に振った。
「それは困るな。彼が作ったスイーツを毎日差し入れに行く予定なんだ。お前に手渡すまで帰らないって言い張るつもりさ」
「お父様、もう! 最高ですわ!」
その週は登校せず、帰宅前のアリアから、いろいろな出来事を聞いて過ごしていた。
アマデウスも毎日やってきたが、メリディアン侯爵が門前払いを繰り返している。
持ってくる見舞いの品も受け取らない徹底ぶりだ。
「本当に具合が悪かった時には何の音沙汰も無かったのです。ルルはもう大丈夫ですから、今更受け取る理由はございません。どうぞお持ち帰りください」
「申し訳なかったと思っています。侯爵……まだルルに会わせて貰えませんか」
「週末に王宮へ伺う予定ですので、それまでお待ちください」
「その前に一目だけでも」
その言葉は無視して侯爵がアランに声を掛ける。
「殿下がお帰りだ。しっかり見張っておけ」
アランに促がされながらすごすごと馬車に乗り込む王太子。
その姿を自室のカーテンに隠れて見ていたルルーシアは、アマデウスを可哀そうだと感じていた。
「同情の余地は無いわ。いい気味よ」
窓辺に立つルルーシアに向かってアリアが言い放った。
「でも、本当にお友達という関係だけだったのなら、少し可哀そうじゃない?」
「確かに殿下はそうでしょうね。あのアホはルルに夢中だもの。きっとサマンサが女性だという事さえ失念しているかもしれないわ。でもね、まわりはそうは思わないのよ。その自覚をもたない限りは、あなたの横に立つ資格は無いわ」
「強気ね……アリア」
「当たり前でしょう? 私はあなたの側近候補よ?」
「見込みはありそうなの?」
「あれからすぐに教授に相談したわ。本気なら協力すると言って下さって、父も家庭教師を雇ってくれたの。毎日課題の山でお菓子を食べる暇も無いのよ? だからここにいる時だけは自由に食べさせて」
そう言いながら、アリアが次のプリンに手を伸ばした。
やっと泣き止んだ愛娘と夕食をとりながら、メリディアン侯爵が優しい声で語り掛けた。
キャロラインに冷やしてもらったが、まだ瞼の腫れが引かないままのルルーシアが答える。
「そうですわね……少し考えてみます。というのも、アリアが王太子妃の側近になると言ってくれたのです。私としてはとてもありがたいですが、彼女には相当な無理をさせることになってしまいますでしょう? 近くで一緒に頑張りたいなっていう気持ちもあって……」
「アリア嬢が側近に? 侍女でなく側近となるとそりゃあ相当な努力が必要となるな。あの試験だけは一切の忖度がなされない。彼女の成績はどうなのだ?」
「実は存じませんの。だってお父様、私はまだ2日しか学園に行っていませんから。それに本人に成績を聞くなどできませんもの」
「ははは! そりゃそうだな。しかし侍女試験なら何の苦労もなく通過するだろうに、わざわざ側近を目指すとは……アリア嬢は本当にお前のことを大切に思ってくれているのだな」
「ええ、彼女は私の親友ですわ。本当に心強いですし、心の拠り所というか、そんな感じです。そう思うと、今まで友達と呼べる存在がいなかった王太子殿下は、さぞお辛かったことでしょうね。そんな存在ができたことが嬉しく、手放せなくなったというお心も少しは理解できますわ」
「そうか……でもね、ルル。無理をしてはいけない。私は男と女の友情は成立しない派でね、どちらかに少しでも恋情が芽生えたら終わると思っているんだ。奴らがどうなるかは神のみぞ知るところだが、お前が嫌だと思えばそこで終わりだ。我慢などする必要は無いからね」
ルルーシアが頷いた時、キャロラインがデザートを運んできた。
「あら、素敵なフルーツゼリーね。宝石箱みたいだわ」
ルルーシアの笑顔を見た侯爵の相好が緩む。
「お前のその笑顔を見るたびに、彼を引き抜いて本当によかったと思うよ」
「まあ! お父様ったら。私が殿下に嫁ぐ時には、彼を連れて行ってもよろしいですか?」
メリディアン侯爵が数秒考えた後、真面目な顔で首を横に振った。
「それは困るな。彼が作ったスイーツを毎日差し入れに行く予定なんだ。お前に手渡すまで帰らないって言い張るつもりさ」
「お父様、もう! 最高ですわ!」
その週は登校せず、帰宅前のアリアから、いろいろな出来事を聞いて過ごしていた。
アマデウスも毎日やってきたが、メリディアン侯爵が門前払いを繰り返している。
持ってくる見舞いの品も受け取らない徹底ぶりだ。
「本当に具合が悪かった時には何の音沙汰も無かったのです。ルルはもう大丈夫ですから、今更受け取る理由はございません。どうぞお持ち帰りください」
「申し訳なかったと思っています。侯爵……まだルルに会わせて貰えませんか」
「週末に王宮へ伺う予定ですので、それまでお待ちください」
「その前に一目だけでも」
その言葉は無視して侯爵がアランに声を掛ける。
「殿下がお帰りだ。しっかり見張っておけ」
アランに促がされながらすごすごと馬車に乗り込む王太子。
その姿を自室のカーテンに隠れて見ていたルルーシアは、アマデウスを可哀そうだと感じていた。
「同情の余地は無いわ。いい気味よ」
窓辺に立つルルーシアに向かってアリアが言い放った。
「でも、本当にお友達という関係だけだったのなら、少し可哀そうじゃない?」
「確かに殿下はそうでしょうね。あのアホはルルに夢中だもの。きっとサマンサが女性だという事さえ失念しているかもしれないわ。でもね、まわりはそうは思わないのよ。その自覚をもたない限りは、あなたの横に立つ資格は無いわ」
「強気ね……アリア」
「当たり前でしょう? 私はあなたの側近候補よ?」
「見込みはありそうなの?」
「あれからすぐに教授に相談したわ。本気なら協力すると言って下さって、父も家庭教師を雇ってくれたの。毎日課題の山でお菓子を食べる暇も無いのよ? だからここにいる時だけは自由に食べさせて」
そう言いながら、アリアが次のプリンに手を伸ばした。
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