どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連

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 父親と一緒に卒業式に出たルルーシアは、アリアの晴れ姿に感動していた。
 優秀学生として表彰されたのは5名で、アマデウスとアランも壇上に上がっている。
 もう一人の男子学生も王宮への採用が決まっているらしい。
 そして最後に名前を呼ばれたのはサマンサ・フロレンシアだった。

「サマンサ嬢って本当に優秀な方なのね」

 ルルーシアの声に隣に座っていた女学生が答える。

「あの方は伯爵家の庶子でしょう? ですから家での待遇も酷いと聞いていますわ。そのせいか、マナーも今一つでいらっしゃって、お付き合いがなかなか難しい方でしたの。きっと友人もいないのではないかしら」

「まあ、そうですの?」

「そういう噂ですわ。ですからお勉強以外することが無かったのかもしれませんわ。ほほほ」

 その時壇上からルルーシアを呼ぶ声がした。

「ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢。壇上へ」

「は……はい」

 わけもわからず立ち上がったルルーシアを迎えに来たのはアマデウスだ。
 流れるような動きに、思わずその手を取ったルルーシアが壇上に上がると、学園長がコホンと咳払いをしたのち、大きな声で言う。

「ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢は、こちらにおわすアマデウス・ローレンシア王太子殿下の正妃となる方である。そのために日々研鑽を積まれ、残念ながらあまり学園には登校できなかったが、その成績はここにいる5人に勝るとも劣らないものだ。よってここに、その弛まぬ努力を讃え学園長賞を授与する。メリディアン侯爵令嬢、こちらへ」

 戸惑うルルーシアをエスコートしてアマデウスが学園長の前に進む。

「おめでとう、そしてありがとうね、ルル」

「殿下……」

 表彰状を受け取ったルルーシアの手を握ったまま、アマデウスが浪々と生徒たちに言葉を発した。

「私は皇太子としてこの国の発展に尽力することを、改めてここに誓う。そして我が隣には常にルルーシアが寄り添っていてくれることを願っている。どうか皆も、私と同様に我が妻となるルルーシアを支えてほしい。よろしく頼む」

 数秒間の沈黙の後、講堂内は割れんばかりの拍手が巻き起こった。
 ある者はサマンサとの噂を思い出し皮肉交じりな顔を見せ、ある者は噂はガセだったのだと安堵した表情を浮かべる。

 こうしてお披露目されるなど露ほども考えていなかったルルーシアだったが、今までほとんど表舞台に立ってこなかった自分が、アマデウスの正妃として認識されたのだと思った。

 存在は知っていても、ほとんど目にすることは無い「幻の婚約者」と揶揄されていたことも知っているルルーシアとしては、これで本当に退路は断たれたのだと覚悟を新たにした。

 王太子は政務を理由に式が終わるとすぐに王宮に戻って行く。 

「ルル、先ほどは急で悪かったね。でも皆に君を知って貰えてよかったよ」

「お気遣いありがとうございます、殿下。お仕事頑張ってくださいませね」

「うん、またすぐに会いに行くから」

 王太子が乗った馬車を見送り、体調を理由に謝恩会への出席を断ったルルーシアも、父親と一緒に馬車に乗り込む。

「驚いたな。誰の仕込みだ?」

「私も驚きました。国王陛下でしょうか。それとも王妃殿下?」

「いや、私の知る限りあの二人にそんな知恵はないさ。そうなると……王弟殿下かな」

「ああ、納得ですわ。結局ずっと殿下のスケジュールを送ってくださいましたもの」

「そうだね、王太子のスケジュールは相当厳重に管理されているのに、簡単に入手なさっていたものなぁ」

「王弟殿下は何をお考えなのでしょうか」

「どうかな……彼は現国王より王の資質を持った方だったから、私などには理解できんよ。いずれにしてもルルに悪い感情は持っておられまい。おそらくだが、ルルがあの男に会いたいなら会いやすいように、避けたいなら避けやすいように配慮してくださったのっでは無いかな」

「なるほど、本当にありがたいことでした。登城したときも本当に細やかなお心遣いで感謝しかございませんでしたわ。それに、やはりお血筋でしょうか、アマデウス殿下と良く似ておられて、殿下がお歳を召されたら、きっとこんなお顔立ちなのだろうなぁなんて思ったりしたものです」

「ははは、そうか。そう言われてみるとあの一家はみんな似ているな。頭の作りも似てくれていたら心配も無かったのだが、まあ今更だ。明日からは婚姻式の準備だね。最後の確認だが、本当に良いんだね? まだ少しなら延ばせるよ?」

「いいえ、お父様。いずれにしても結果は変わりませんわ。延ばしても迷いが大きくなるだけだと思います。それにアリアが側近試験に合格してくれたのですもの、私も頑張りますわ。でもお父様、お約束は守ってくださいませね?」

「ああ、お菓子の差し入れだね? 任せておきなさい。私がいけなくても必ず届けるよう手配しよう」

「ありがとうございます。でもたまにはお顔を拝見しとうございますわ」

「それは私も同じだよ。というか、誰のところにも嫁になど出したくないよ」

 そうして月日は流れ、いよいよ婚姻式の日を迎えた。
 日取りは大教会が決めるのがしきたりで、国王と言えど動かすことはできない。
 早朝のまだ暗いうちから支度が始まり、ルルーシアは徐々に緊張している自分を励まし続けていた。

「お嬢様、たまにはお顔を見せてくださいませね」

「キャロも一緒に行けると良かったのに。でもあなたがここに残ってくれるから安心よ。お父様をよろしくね」

「はい、精一杯お仕えいたします」

 正装したメリディアン侯爵がエスコートして、馬車に乗り込むルルーシア。
 振り返ると家中の使用人たちがずらっと並んで頭を下げた。

「みなさん、今まで本当にありがとう。お父様をよろしくお願いします」

 ルルーシアの声に、涙ぐむ使用人たち。
 大聖堂の鐘が鳴り響き、この国の王太子が身を固めることを国民に知らしめている。
 大通りでは王太子の正妃となる娘に幸多かれと祝福の花びらが舞っていた。

 アマデウスと国王夫妻が待つ教会へと到着したルルーシアは、父親の手に我が手を重ねながら、この先何があろうとも、この国の繫栄のために尽くすという決意を改めて心に誓う。
 控室に入り、化粧直しをしているルルーシアを訪ねてきたのはロマニア国からやってきた祖父であるモネ公爵と、領地から来た兄のノーベンだ。

「ルル! ああルル! 会いたかったよ。こんなに美しい女性になって……ますますコリンに似てきたね。聡明さが全身から溢れているようだ。お前が孫娘だということが誇らしいよ」

 ぽろぽろと涙を流す祖父を必死で宥めるメリディアン侯爵とノーベン。
 それを微笑みながら見るルルーシア。
 絵に描いたような幸せな家族のワンシーンだろう。

「お時間です」

 その声に、娘の顔から王族然とした顔に切り替えたルルーシアが静かに頷いた。
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