どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連

文字の大きさ
34 / 77

34

しおりを挟む
 到着するまでの側近たちの馬車での会話は、アマデウスもルルーシア予想できないような方向に進んでいた。
 口火を切ったのはアリアで、王都を出る少し前のことだ。

「ねえ、サマンサもアランもマリオも聞いて? 私たちは身分とかそういう枠を外して、側近という同等の立場でしょう? 丁寧な言葉遣いやマナーは公式の場だけということにして、腹を割って話せるようになりたいと思うのよ」

 アランが続く。

「ああ、それが良いだろう。一応筆頭という立場は俺とアリアになってはいるが、それは最終的な責任を負うというだけで、仕事に忖度は必要ないよ」

 マリオが驚いた顔で言う。

「そうですか? じゃあ俺っていっても良いですか? 私って言うたびに舌を嚙んじゃって痛いんですよ。サマンサ嬢もそれでいい? ああ、でも君は側妃という立場になるんだっけ? だとすると側近よりぜんぜん上だよね。やっぱり敬語かぁ……」

 サマンサが慌てて言う。

「その件だけれど、真相は違うのよ。私が変態男爵に嫁がれそうになったのを助けるために殿下がそうしてくださっただけで、そこに愛は無いの」

 サマンサが語り始めた。

「サマンサ、私は本当のことを知りたいの。私が側近なんて柄でもないことを目指したのは、全て親友であるルルーシアを守るためよ。まあ、なったからには全力で王太子殿下のサポートはするけれど、はっきり言って二の次だわ」

 マリオが目を丸くする。

「こう言っちゃなんだが、そういう思いだけで側近になれるなんて、きっとアリア嬢は地頭が良いのだろうね。俺なんて何度鼻血を出しながら勉強したことか……情ない」

 アランが続ける。

「俺だって似たようなものさ。こいつは幼いころから頭も良いし行動力もあるし、愛嬌もある素敵な子だった。無いのはやる気だけさ。それがやる気を出したんだ。大魔女が最強の鉄扇を持ったようなもんだ」

 アリアが吹き出した。

「あげたり下げたり忙しいこと。ねえマリオ、私のこともサマンサのことも呼び捨てで構わないわ。最初は難しいかもしれないけれど頑張って。話を戻すわね。ねえサマンサ、私たちはあなたをどうこうしようとは思ってないの。でも対処すべきはするつもりよ」

 サマンサの肩がびくりと揺れた。

「私は別に……対処って殺すってことですか?」

「超えた度によるけれど、今のところはそれほどのことは考えていないわ。今のところはね。それにあなたも言葉遣いは頑張って直して」

 サマンサがほうっと息を吐いてから頷いた。

「私はマナーも言葉遣いも全然自信が無いから、そう言ってもらえると助かるわ。私が星ばかり眺めていたというのは本当よ。勉強と星を眺める以外できることが無かったもの。学園は大好きだったわ、私の環境を知っている人たちは、仲良くなっても損だとばかりに近寄ってくることも無かったけれど、私は図書室に籠っていたかったから丁度良かったの」

 三人は黙ってサマンサの話に耳を傾けた。

「図書館で殿下にお会いしたのは本当に偶然。それから殿下は私を見つけると話しかけて下さるようになって、昼休みや放課後にもお話ししたわね。でもいつも話題は一緒よ。星の話かルルーシア様の話だけだし、一緒といえばアランも常に一緒だったわよね?」

「ああ、常に一緒だったと思う」

「あなたに隠れて会うような仲じゃないし、そもそも殿下はルルーシア様しか目に入ってないじゃない?」

 アリアが溜息を吐いた。

「じゃあなぜあんな大金をはたいてまであなたを側妃に?」

「それは……私が殿下に借金をお願いしたから」

「借金だって? 王太子にそんな話を持ち込む君の度胸は凄いな……」

 マリオが心から驚いていた。

「イチかバチかよ。命が懸かってたんだもん。私の話を聞いた殿下は、友人として貸すと言って下さったの。だから絶対に返さなくちゃって思って、それまで以上に必死で勉強したわ。この国の女性で一番高給なのは王族の側近でしょ? だからそれを目指したの。借金をお願いしてからは星の観察どころの話じゃなかったわ。もうそれこそマリオと同じよ。何度鼻血を出したかわからない」

 アリアは何も言わずじっとサマンサの目を見て話を聞いていた。

「父にお金は補填するって言ったお陰で、ワートル男爵との結婚は無くなった。でも父が『5億も入った上にまたどこかに売れるなんてお前は良い娘だ』って……自分の甘さに嫌気がさしたわよ。伯爵家から抜けない限り私の命は無いんだって思った」

 アランが呟く。

「金と側妃の件はセットじゃなかったのか」

 サマンサが頷いた。
しおりを挟む
感想 972

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。
恋愛
前世の記憶を取り戻した伯爵令嬢のリンシア。 自分の婚約者は、最近現れた聖女様につききっきりである。 そんなある日、彼女は見てしまう。 婚約者に詰め寄る聖女の姿を。 「いつになったら婚約破棄するの!?」 「もうすぐだよ。リンシアの有責で婚約は破棄される」 なんと、リンシアは聖女への嫌がらせ(やってない)で婚約破棄されるらしい。 それを目撃したリンシアは、決意する。 「婚約破棄される前に、こちらから破棄してしてさしあげるわ」 もう泣いていた過去の自分はいない。 前世の記憶を取り戻したリンシアは強い。吹っ切れた彼女は、魔法道具を作ったり、文官を目指したりと、勝手に幸せになることにした。 ☆ご心配なく、婚約者様。の修正版です。詳しくは近況ボードをご確認くださいm(_ _)m ☆10万文字前後完結予定です

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

処理中です...