どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連

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 アランは素早くメモを書き、アリアへ渡すようにマリオに託した。

「殿下の耳に入れるかどうかはアリアの判断だ」

「わかった」

 ルルーシアがキャロラインを呼んで出掛けることを告げる。

「まあ! オペラでございますか。楽しみですねぇ、華やかな装いになさいますか?」

「あまり目立たない方が良いから、地味な感じでお願い」

「残念ですが承知しました」

「アランもマリオも着替えてね」

「はい」

 ルルーシアが護衛のエディを連れて執務室を出ると、アリアにメモを渡しに行っていたマリオが入れ違いに戻ってきた。

「仕事に支障が出ると拙いから言わないって。でもアリア、完全に面白がってるね」

「そうだろうな。悪い顔して笑っているのが目に浮かぶよ。あいつはルルーシア様以外には塩対応だからな」

「じゃあ俺たちも着替えてきますか」

「そうしよう。妃殿下もすでに支度に行かれた」

 マリオがアランに顔を寄せる。

「それにしてもキリウスの旦那、ノリノリだなぁ」

 それには返事をせず、アランが二度目の溜息を吐いた。

 その日ルルーシアたちが王宮に戻ったのは夜の10時を過ぎていたが、アマデウスとアリアはまだ会議から戻っていなかった。
 ルルーシアを部屋に送った後、アランとマリオは側近の制服に着替えて王太子の執務室へ向かう。
 待つこと数分で戻ってきたアマデウスとアリアは疲れ切っていたが、2人の顔を見て安心したような表情を浮かべた。

「助かった! 今からこれを全部整理するのかと思ったら眩暈を起こしそうだったのよ」

 アランがアリアから書類を受け取りながら言う。

「手伝うよ。指示を頼む」

 マリオが言う。

「後は私たちでやりますから殿下はお休みになってください」

「いや、そうはいかない。それに実は夕食もまだなんだ。君たちは済ませただろうけれど、少し付き合わないか?」

 頷いたマリオが専属のメイドに軽食の準備を命じた。

「ルルは? もう休んだかな?」

「……はい、妃殿下はすでにお休みになっています」

「そうか。ルルはずっと頑張ってきたんだもの。ここは僕が頑張らないとね。それにしてもやたらと夜遅くなる会議が多くない? ルルを起こすこともできないし……」

 ブツブツと文句を言うアマデウスをまるっと無視してアリアが書類を分けながらテーブルに並べていく。

「さあ、早く寝たかったらさっさと片づけましょう。アランはこれをお願い。マリオはこっちね。殿下と私は備忘録を作ります」

 軽食が来るまでの間も惜しんで4人が仕事を始めたころ、ルルーシアはたっぷりの湯に体を鎮めていた。

「妃殿下、どうでしたか?」

 ルルーシアの髪を洗いながらキャロラインが聞く。

「素晴らしかったわ。もっと他の舞台も観たいって思ったもの。なぜ今まで一度も行かなかったのかしら。勿体ないことをしたわ」

「これからお楽しみになればよろしいではありませんか」

「ええ、キリウス殿下もまた誘ってくださると仰っていたし、私ももっと深く知りたいって思ったわ」

「明日は図書室へ行かれますか? 王宮の図書室でしたら演劇の本も揃っているかもしれませんし」

「そうね、明日は午前中は何もなかったはずだからそうしようかしら」

 興奮冷めやらぬルルーシアは、いつになく良く喋る。
 相槌を打ちながら、キャロラインは幸せそうなルルーシアに満足していた。

 いつものようにアマデウスと一緒に朝食をとったルルーシアは、まっすぐ図書室に向かった。
 従うのはアランと護衛のエディだ。
 雑務が残っていると言って執務室に向かったマリオをキリウスが呼び止めた。

「王太子妃のご機嫌は如何かな?」

「おはようございます、殿下。それはもう上々ですよ。相当楽しまれたご様子です」

「それは良かった。彼女は執務室かな?」

「いえ、妃殿下は午後からの執務ですので、午前中は図書室へ向かわれました」

「図書室か……なるほど」

 フッと笑ったキリウスが、マリオの肩をポンと叩いた。

「側近試験は来週だっけ?」

「はい、週明けの午前10時からです」

「あの狸娘は大丈夫かねぇ。もし落ちたらとても面倒なことになる」

「……どうでしょうか。自信はあるような事を言っていたと聞いていますが」

「まあ2回目だもんね。他の受験者より有利だ」

「そうですね。健闘を祈るばかりです」

 キリウスがニヤッと笑った。

「君はとても素直でいい子だ。じゃあまたね」

 マリオは何を示唆されたのか分からないまま、小首を傾げながら執務室へと入っていった。
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