どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連

文字の大きさ
70 / 77

70

 そしてひと月が経ち、王太子妃の誕生日パーティーの準備で忙しくなった王宮に、ロマニア国からモネ公爵一行が到着した。

「おじい様にお会いするのは婚姻式以来ですわ」

「うん、あの時はご挨拶だけしかできなかったから僕も楽しみだ」

 たくさんのプレゼントを積み込んだ馬車を連ねて、ローレンティア王宮の門くぐって馬車が進んで来る。
 三侯爵と王太子夫妻、それぞれの側近たちが出迎える中、モネ公爵が馬車から降りてきた。

「ルル! ルルちゃ~ん! 会いたかったよぉ」

「おじい様! ご無沙汰しております」

 ルルーシアに一目散に駆け寄り抱きついたモネ公爵。
 その横でニコニコしながら立っているアマデウス。

「モネ公爵閣下、ようこそおいで下さいました」

 ルルーシアを抱きしめた手を少しだけ緩めて顔を向けたモネ公爵がニカッと笑った。

「おお、我が孫娘の夫殿か。お元気そうで何よりですなあ」

「お陰様で。さあ、お部屋を用意しておりますので、ひとまず休憩をなさってください」

 ルルーシアの心が自分から離れたのかもしれないと思ったあの日から、アマデウスは妻に対する態度を改めた。
 相変わらず時間さえあれば会いに行くが、一緒にいたいと懇願したり、星の観測会に無理やり誘うこともない。

 相変わらずキリウスやキースと観劇に向かうルルーシアを淡々と見送りつつも、恋焦がれるような視線を送る夫に、ルルーシアは戸惑いつつも愛おしさを感じていた。
『まるで婚約時代に戻ったみたい』というのがルルーシアの率直な感想だ。

 アリアはアマデウスがルルーシアとキースの関係を誤解したままなのを気にしていたが、それを解くこともできないまま、ひとりやきもきとしている。
 
「さあ、こちらの部屋をお使いください」

 アマデウスは王宮の中でも最上の客間へと義祖父を案内する。
 すぐに国王夫妻がやってきて歓迎の言葉を述べた。

「ようこそ、モネ公爵。長旅で疲れたでしょう?」

「この度はお招きいただきありがとうございます。久しぶり孫たちの顔を見ることができて嬉しい限りですよ」

 当たり障りのない会話の後、国王夫妻と一緒に立ち上がったアマデウスが言う。

「では、ルル。僕らは仕事に戻るから、おじい様とゆっくりしていなさい」

「ええ、ありがとうございます」

 客間を出るとすぐ、アマデウスがふらついた。

「大丈夫ですか? 体調が?」
 
 駆け寄った側近に首を振りながら、のそのそと執務室に入っていく。

「どうしたのですか?」

 出迎えたアランの声に顔を上げたアマデウスは真っ赤な目をしている。

「ルルが僕と別れたいってモネ公爵に相談するかもしれないと思うと……」

「ああ……それは無いと思いますよ? それほど心配なら同席なされば良かったのに」

 何度誤解だと言っても、拗らせすぎてもう本人にも解けなくなっているのだろうと思ったアランは、黙って書類を渡した。
 ため息ばかりを繰り返しつつも、しっかりと書類に目を通すその生真面目さがかえって痛々しい。

「無理は禁物です。少し休んでください」

「いや……でも……」

 執務室の扉がノックされ、アリアが顔を覗かせた。

「妃殿下より、一緒にお茶でも如何ですかとのことです」

「ルルが? うん、わかった。すぐに伺うと伝えてくれ」

 広げていた書類を引き出しに入れてアマデウスが立ち上がった。

「ふたりも一緒に来てくれ」

 三人は急いで執務室を出た。
 丁度ルルーシアの執務室から出てきたキリウスとキース・レイダー。

「やあ、アマディ。私たちの用は終わったからゆっくりお茶でも楽しみなさい。モネ公爵は思ったより随分話が分かる人だったよ」

 どう返事をして良いのか分からないアマデウスを置き去りに、ふたりは去って行った。
 ドアをノックするとアリアがすぐに顔を出した。
 一度だけ強く目を瞑ったアマデウスが、にこやかな表情で部屋に入る。

「お招きありがとう、ルル。モネ公爵、可愛い孫娘さんとのお時間に、お邪魔させていただき申し訳ございません。同席させていただき感謝いたします」

 モネ公爵がにこやかに微笑みソファーを勧めた。
 つい先ほどまでキリウスとキースが座っていたであろうソファーを見たアマデウスが、一瞬だけ複雑そうな顔をする。

「叔父上達が来ていたようですね」

 ルルーシアが答える。

「ええ、とても大切なお話しだったので、先にお通ししたのですわ」

「そう……それで? 上手くいったの?」

「上手く? ええ、そうですわね。おじい様が手伝って下さることになりました……殿下? お顔の色がすぐれませんが……アラン! 殿下は体調がお悪いの?」

 ルルーシアが焦った声でアランを問いただした。
感想 972

あなたにおすすめの小説

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

完結 この手からこぼれ落ちるもの   

ポチ
恋愛
やっと、本当のことが言えるよ。。。 長かった。。 君は、この家の第一夫人として 最高の女性だよ 全て君に任せるよ 僕は、ベリンダの事で忙しいからね? 全て君の思う通りやってくれれば良いからね?頼んだよ 僕が君に触れる事は無いけれど この家の跡継ぎは、心配要らないよ? 君の父上の姪であるベリンダが 産んでくれるから 心配しないでね そう、優しく微笑んだオリバー様 今まで優しかったのは?

【本編完結】独りよがりの初恋でした

須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。  それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。 アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。 #ほろ苦い初恋 #それぞれにハッピーエンド 特にざまぁなどはありません。 小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。