一人芝居

志波 連

文字の大きさ
2 / 20

しおりを挟む
 時は流れて2024年、愛知県蒲郡市立秋葉中学校でのこと。

 もうすぐ夏休みという木曜の昼休み。
 校庭の隅の大きなヒマラヤスギの影に座っている3年生の高岡小春に、演劇部キャプテンの石川英子が声を掛けました。

「コハル、どうしたの? もうすぐ発表会だよ? 昨日も稽古に来なかったじゃない。体調が悪いのなら言ってよ。コハルは主役なんだから、みんな困ってるよ」

 英子の問いかけに小春は答えません。

「ほんと、ホントどうしちゃったの? 私たちが相手役だと不足とでも言いたいの?」

 小春がやっと重い口を開きました。

「そういうんじゃない。ちょっと時間を置きたいだけ。プライベートな問題だから」

「そう……でも、練習に出て来れないんなら代役も考えないと。発表会まで時間がないから」

 英子は責任感から小春にきつい口調で言いました。

「わかった。じゃあそうしてよ。私を降ろせばいい」

 小春は英子の言い方に少し苛立ったのか、つっけんどんに返します。
 英子は少し迷いましたが、

「もう少しだけ待つね。でも、間に合わないと判断したら主役は変わってもらうから」

 それには答えず、小春は立ち去ってしまいます。
 去っていく小春の背に容赦なく照り付ける日差しは、彼女の小さな体をまるで光の槍で突き刺しているようでした。

 小学校の時に父親を亡くした小春は母親と二人暮らしです。
 母の奈津子は看護師をしていて、夜勤も多く大変な仕事でしたが、いつも明るく小春に接してくれるような人です。

 しかし、小春はそんな奈津子に心の中では感謝しながらも、年相応な反抗的なふるまいをしてしまうのです。
 そんな自分の態度に奈津子が悲しい思いをしていると分かっていても、母の優しい言葉に心にもない返事をしてしまう小春は自分の事が嫌いになっていました。

「なんで私はあんなひどい言い方しかできないのだろう……」

 小春はひとりで悩んでいました。

 そんな時、勤務先の病院で夜勤の最中に『くも膜下出血』で奈津子は倒れてしまったのです。
 知らせを受けて駆け付けた小春は、眠る母のベッドの横で深い後悔に心を痛めていました。

 何度も奈津子に声をかけ、自分のとってきた態度を謝りますが、返事は返ってきません。
 泣いても泣いても、母は目を開けてくれないのです。
 ますます自分を嫌いになっていく小春は、仲の良い英子に当たり散らしてしまいました。
 事情を知らない英子にとっては、とてもきつい言葉だったことでしょう。

「こんな時に反抗期とか、ダサすぎるよ。あの日、お母さんが夜勤に出かける時も、ひどい態度を取っちゃったよね。母さん、ゴメン。目を覚ましたら真っ先に謝らせてね。それに英子にも絶対に謝らないといけないもん」

 そんな事があった日の学校からの帰り道、小春はそう心に決めました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アリアさんの幽閉教室

柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。 「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」 招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。 招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。 『恋の以心伝心ゲーム』 私たちならこんなの楽勝! 夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。 アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。 心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……?? 『呪いの人形』 この人形、何度捨てても戻ってくる 体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。 人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。 陽菜にずっと付き纏う理由とは――。 『恐怖の鬼ごっこ』 アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。 突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。 仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――? 『招かれざる人』 新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。 アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。 強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。 しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。 ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。 最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?

待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。 けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た! ……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね? 何もかも、私の勘違いだよね? 信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?! 【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

処理中です...