全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第1章

20話 友人

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その何とも言えない微妙な空気をぶち壊したのが、僕の後ろで控えていたテオだった。

「そうなんですよ!お館様、ロバート様!なんとあの救世の巫子様がおいでになるそうなんです!俺はシリル様に御二人の護衛をしっかり行う様にと命を受けました。宜しいですよね?!」

この上なく嬉しそうに弾んだ声で、テオ一人だけがはしゃいでいた。
その声で、ようやく止まっていた時が動き出したように、叔父とロバートが顔を見合わせた。

「え……あの救世の巫子様が、本当に?」
「どうしてまた急に?」
「明日は予定が無いから、だそうです。」
「いいじゃないですか!シリル様、どうせまた家に篭っておられるだけでしょう?だったら。」

驚く叔父とロバートに対し、テオは本当に能天気に口を挟んでくる。

おい、一応お前、僕の従者だよな?
主人の僕に対しての言い草が酷過ぎるぞ。

「お館様、ロバート様。シリル様は巫子様と親しくしていらっしゃるそうですよ。それにしても、シリル様がご友人をこのお屋敷に呼ばれるなんて、初めての事ではないでしょうか?!」

~~~~テオドールッ!!
今この瞬間に、無礼で愚か者の称号をカイトからお前にしてやろうか?!

喜んでいるテオを背に、僕は怒りで戦慄いていたのだが。

「た、確かに。」
「あぁ、シリルにも遂に友達が出来たんだね?!それもまさか、あの救世の巫子だとは!!」
「お館様、流石はシリル様ですね!ご友人も並みの人物ではございません。」

~~~~いやいや、ロバート?!
ってか叔父様まで!
どういう反応?!
今度は僕の方が『意味がわからない!!』と心の中で叫んでいた。

「とにかく、そうと決まっては大変だ!巫子様をもてなす準備をしないと!」
「中庭のバラ園を飾り付けて、お茶会を開きましょうか?…急なご来訪の為、他の貴族方をご招待するのは無理でしょうが、奥様にお願いしてお身内だけでも盛大に出来る様に盛り上げられれば…」

急に嬉々として計画を立て始める叔父とロバートに、僕は右手を突き出して待ったをかけた。

「落ち着いて下さい、叔父様もロバートも。今日の帰り際に、急に泊りがけで遊びに来る事を告げて来た奴です。そんな盛大な歓迎は必要ありません!」

苛立ち紛れにそう言う僕に、叔父とロバートは不満たらたらな顔で何故だと問うてくるが。

「いくら救世の巫子だからって、あんな常識外れの奴…歓迎してはいけません。それこそ、こんな勝手を許せば、今後更に図に乗るに決まってます!馬小屋にでも放り込んでおけばいいんです、あんな奴!」
「シリル、そんな事……王家にバレたら一大事だぞ。」
「う…、ま、まぁそれはそうですが。…あ、そうだ!そう言えばカイトが言っていたんです。元々平民だったと言うのもあって、王宮での暮らしは『堅苦しいから嫌になる』って。ですから、いかにも貴族らしいもてなしの仕方よりも……それこそ、リックやロティー達と庭で駆け回って遊ぶ方が喜ぶんじゃないでしょうか?」

カイトは、時間さえあれば孤児院に通っては子供達と遊んでやる程、子供が好きなようだし。
そう伝えると、叔父は難しい顔をした。

「しかし、仮にもこのクレイン公爵家を預かる者として、その程度のもので良いのだろうか……」

なぁ?と尋ねる叔父に、ロバートもどうしたものかと考え込むが。

「いえ、その方が良いです。あの子達には僕の所為で迷惑をかけてしまう事になりますが。」
「いや、それは寧ろその方が二人も喜ぶだろうが、巫子様にご無礼にならないだろうか?」

叔父様、心配し過ぎです。
寧ろ、僕の方がいつも無礼に晒されていますから。

「いえ、先日もユリウス王太子殿下のご婚約者のオースティン侯爵令嬢の事をクラスメイトだからって、クリスちゃんなんて風に呼んでいましたから。それはいくら何でも失礼だぞ、と教えておいたくらいです。礼儀においてはあの子達の方が遥かに上かと。」

贔屓目に見ている事を差し引いても、そう思う。
僕は、盛大な歓迎より、家庭的な温かな雰囲気の方が巫子様に喜んで頂ける筈だ。と強く主張し、渋々といった様子で叔父とロバートは了解してくれた。
それでも、やっぱりもっと盛大にやりたい!とうずうずしている様だったが、それは本当に逆効果になりかねないです。と伝えて、ようやく諦めてくれたのだった。

……いや、本当に。
周囲の目を気にしなくて良いのなら、本当に馬小屋に放り込んでやりたい。
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