全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第2章

105話 思いの丈

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「な…っ!」

僕はそれしか言葉に出来なかった。

一体、目の前で……何が起こったのだ?
頭が瞳に映された情報を理解しきれずに、パンクしている。

だが、ずっと固まったままでは、居られない。
拳を握り締め直したカイトが、再度卿に殴りかかろうとしたからだ。

「ちょ、やめろっカイト!!テオも!!」

僕の声に、テオはビクッと肩を震わせ、カイトは不満げに僕の方を振り返った。

「何で止めるの。」
「止めるに決まってるだろう!何やってるんだ!……テオも離せ!これは命令だっ!!」

本当は、あまりテオに命令という形で行動を縛りたくはない。
けれど、これは到底容認出来ない。
僕は何時になく強い口調でテオに命じると、テオは物凄く不満そうだったが、パッとその拘束を解いた。

急に解放された卿は、バランスを崩して床に膝を付ける。
急いで駆け寄ろうとした僕に、カイトは卿の胸倉を乱暴に掴んで。

「ちょ、カイトッ!!」

また殴ろうとするカイトの腕を、僕は掴んで止めに入る。
すると、カイトは一瞬目を潤ませて泣きそうな顔をみせたが。
僕が殴りつけるのを望んでいないと悟ると、彼は力なく卿の胸倉から手を離した。

卿は訳が分からないまま、軽く数回むせている。
その様子を見下ろしたカイトは、またギュッと拳を握ったが。
僕が卿の方へ寄り添ったので、もう手は出さなかった。
代わりに、思いの丈を口にする。

「俺の大事な友達を傷付けやがって、前世の事とはいえ許さねぇ!」

…と。

「カイト、その話はっ」

前世の記憶が無い卿に、そんな事を言ったって。
こんなのは一方的な暴力だ。

僕はカイトに非難の視線を向けると。
カイトはまだ不満そうな表情を返す。
僕とカイトが睨み合っていると、それまで一番離れた位置で事の顛末を見守っていたカレンが、間に割って入って来た。

「アルベリーニ卿。今世の貴方には関係ないから、今のはうちの弟が悪いでしょうけど、でも、もしまた私達の友達を傷付ける様な事したら、その時は私だってどうなるか分からないわよ。」

カレンは二人と違って、卿に直接手を出す真似はしなかったが。
貴方の主人にも、くれぐれも気を付ける様に伝えておきなさい。と、普段の彼女からは想像も出来ない冷ややかな声で、膝を付いている卿へ言い放っていた。

僕を想ってとはいえ。
……居た堪れない事、この上ない。

僕は、ふぅ。と息を吐くと。
気持ちを切り替えた。

「我が友人ながら、貴殿には随分非礼な真似を。失礼した。…救世の巫子達は前世も知っているから、それで思わず手が出てしまっただけなんだ。今の貴殿は何も悪く無いから、どうか私に免じて許して欲しい。」

僕はそう言って、卿に頭を下げた。
僕のその行動に、テオが不満の声を上げる。

「シリル様が頭を下げる必要なんてっ」
「テオドール!これは子供の喧嘩じゃないんだ。招かれた身で、招待側の者に暴行するなんて。外交問題だぞっ」

分かっているのか?!
僕が努めて厳しい口調で諫めると、テオはぐっと押し黙った。
カイトもまた不満な様子をありありと感じたが、いざとなればカレンがなんとかしてくれるだろう。
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