全てを諦めた公爵令息の開き直り

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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする

19話 同好の士

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もう次の日には、早々にフェリチェ修道院へ赴いたジェラルドは、ヴァレンティーノ王太子殿下の案内の元、それに同行したロレンツォ殿下や僕らと共に、ちょっと緊張した面持ちをしていたが。

「……アデル!お勤めご苦労だな。」
「ヴァレン兄さん!ロレンも。最近、会える機会が多くて嬉しいよ~。エウリルスの使者が私をご指名って聞いたけど、どういう事?」
「あぁ、それがな。」
「……。」

修道院内の修業を抜け出して来たアデル殿下は、やや簡素ながらも上位の修道士を思わせる白を基調としたローブを身に纏い、元々王族である事からも、洗練された仕草も相まって、神聖さを感じさせる。
そのお姿を目の当たりにしたジェラルドは、言葉を失って見惚れていた。

「?…使者殿?」
「!」

コテンと首を傾げるアデル殿下にようやく気を取り戻したジェラルドは、後ろから僕の服の裾をグイグイと引っ張って来る。
分かった!分かったよぅ…。

「アデル殿下、ご機嫌麗しゅう。」
「クレイン卿。イネスの誕生日会以来だね。……エウリルスの使者殿と親しそうだけど、もしかして…彼は君の知り合い?」

隣国からの使者として来ている癖に、ヴァレンティーノ殿下の傍ではなく、僕の後ろから様子を伺い見る彼を目にして、敏いアデル殿下はすぐに僕らの関係に目星を付けられた。

「はい。エウリルスの学院時代の同級生なんです。…殿下。僕達が初めて殿下とお会いさせて頂いた時の事を覚えてらっしゃいますか?」
「もちろん!救世の巫子様方をお連れして来てくれたよね。この院内でも看病していた傷病者達を見事救済して頂いて、感動したのを今でも鮮明に覚えているよ。」
「その後、殿下とも色々お話をさせて頂いたでしょう?絵画や古代の文献などに目がないと。」
「あーもう、あの時の事は忘れてって。君はともかく、異世界からこちらに来られたばかりの巫子様達にご存じない事をついペラペラ喋り過ぎちゃって、申し訳なかったなって…」

巫子達の救済回りに同行した際、ヴァレンティーノ王太子殿下を通じて引き合わせて頂いたアデル殿下は、今でもその当時の事をよく覚えていらっしゃった。
好きな話の事に話題が向くと、つい饒舌になってしまわれる所も……よく似ている。

「ですが、その時の殿下はとても楽しそうになされていたので、僕もとても印象に残っていて……。なので、帰国後の学院再開の折に彼と話す機会がありまして、その時に、ふと殿下の事を思い出したんですよ。彼も古代史が好きらしくて、なら殿下ととても話が合いそうだって。それを伝えたら、ぜひお会いしてみたいと言われまして…。」
「エウリルス王国のシャンデル公爵家の長男、ジェラルドと申します。この度は急な来訪で申し訳ありません!お会い下さり、誠にありがとうございます。在学中にクレイン卿からお話を伺って、ずっとお目にかかってみたいと思っておりました!その夢が叶って、嬉しいかぎりです!」

ようやく僕の後ろからずいと出て来たジェラルドは、目をキラキラさせて、目の前のアデル殿下に礼をした。

「そうなんだ。こちらこそ、わざわざこんな所までお越し下さって、嬉しいです。そういう事ならこちらへどうぞ。私室の方へ案内致しましょう。」

ジェラルドの期待に満ちた眼差しに若干気圧されながらも、ニッコリと微笑まれたアデル殿下は、気前よく自室の方へ案内下さり。
初めこそ、少しよそよそしさがあったものの。
ヴァレンティーノ王太子殿下経由でジェラルドの持参したエウリルスの絵画をプレゼントされると、今度はアデル殿下の方が目を輝かせて感激していた。

それからは、アデリートとエウリルスの絵の細かなタッチの違いや、色遣いの差異、その絵の時代背景から、どの古代の時代が好きなのか等々。
話がどんどん専門的になっていき、素人の僕らには付いていけなくなり。

「……良い趣味友が出来て良かったな~アデル。悪いけど、色々仕事が溜まってるから、私は先に失礼するなぁ~。ロレン、後よろしくー。」
「うん、ありがと!兄さん。」
「了解です、兄上。」

弟達に見送られながら、長兄のヴァレンティーノ殿下はその場からそそくさと去って行ったのだった。

王太子殿下、逃げたな。
そう実感したのは、彼の御方が帰られてしばらくしてからだ。

あまりの付いて行けなさに、あくびを噛み殺していると、ロレンツォ殿下が気を利かせて外の散歩を勧めてくれた。
この場は俺が引き受けるから、と。
そして、小一時間程フェリチェ修道院内をサフィルと一緒に散策し、別館の僕らがお世話になった礼拝堂も訪れ、今日は静かなその堂内も再度目にし、以前此処でサフィルと指輪を交換した事を思い返して。
今だけ、胸に下げたあの指輪を身に付け、誰も居ないこの礼拝堂で、ただ互いに抱きしめ合った。

そうして、かなりの時間を潰して戻ったが。
二人の話の熱の入り様は、一向に収まる気配を見せない。
それどころか、更にヒートアップしている気がする。
端には小さな丸テーブルに顔を預けてぐったりしているロレンツォ殿下の姿があった。

日も傾き始めたのもあって、別れを惜しむ二人を半ば引き剥がす様にして、僕らは王宮へと戻ったのだった。

「あ~楽しかった……。アデル殿下最高だよ……。凄いんだ、あの方は。学者もよく知らない文献の内容を簡単に諳んじられるしさぁ……。」
「そ、そうなんだ…。」

ぐったりとしているロレンツォ殿下の傍らで、嬉々として語るジェラルドは、アデル殿下との語らいをいたくお気に召して、彼の御方を思い出しては恍惚とした顔さえしている。
よっぽど楽しかったらしい。
気が合いそうだとは思ったが、ここまでだとは。
いつもは元気過ぎて手を焼いているあのロレンツォ殿下が、ガックリと首を垂れたままピクリとも動かない。
余程お疲れになられたのだろう。

「でもさ、殿下がおっしゃってたんだよなぁ…。古代史の話なら、お姉様のアザレア第1王女様の方が詳しいって。」
「…………アデリート近辺だけじゃなくて、西方域全体なら、アザレア姉上の方が確かに詳しい。姉上なら、東方域の文化研究も好きだから……守備範囲広いしな……。」

項垂れたまま、それでも殿下は口だけ動かして答えられると。

「そうなんですか……!なんて素晴らしいご姉弟なんだ!今度は是非、アザレア様もご一緒にあの修道院でお話したいです……!」
「?!また俺が連れてくんのか?!」
「はい!是非お願いします、ロレンツォ殿下!あぁ、楽しみです!アデリートに来れて本当に良かった……!」
「………………。」

げっそりとする殿下と対照的に更に輝きを増すジェラルドを目の当たりにして、僕らは何も言葉に出来なかった。
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