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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする
83話 いつまでも、ずっと
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気絶する寸前くらいまで激しく繋がり合って、力尽きてくたりとベッドに横たわったまま、快感の余韻に震えていると。
サフィルは汗で張り付いた僕の前髪を優しく梳き、額に柔らかなキスをしてくれた。
まだフラフラして力の入らない僕を抱えてお風呂場まで運び、身を清めるのを手伝ってくれて。
そして、ドロドロになった跡も手早く片付けてくれた。
片付けを手伝わなくてごめんね、と謝る僕に、サフィルは「いいんですよ、気にしないで。」と、柔和に笑ってくれる。
そして、綺麗になったベッドに二人、ゴロリと横たわった。
激しい情欲は落ち着いて、少し疲れた顔をしながらも、その疲れさえも心地良く微笑むと、サフィルは僕の頬に触れながら、穏やかな笑みを返してくれる。
「結局また、無理をさせてしまいましたね。」
「ううん。善かった……とっても。」
さっきまでとは違う、慈愛に満ちた手に触れられて、それはそれで心地良くてうっとりしてしまう。
激しい交合の後の、この穏やかな触れ合いも堪らなく好きだ。
触れて来る彼の手に自身の手を重ね、感慨深く答える僕に、サフィルは「う…っ」と呻き声を上げる。
「…ぅ。そんな可愛い反応をされると、またシたくなっちゃうので、勘弁して下さい。」
「もっとシたい?僕は全然構わないよ?」
「……いいえ。これ以上貴方に負担を掛けたくないので。それに、こうしてゆっくり触れ合うだけなのも充分好きですしね。」
「うん、僕も好き。」
互いに見つめ合って、ふふ、と笑った。
昂った後の体をひんやりとしたシーツの上で落ち着けて。
情欲から情愛へと変わった手で触れ合い、柔らかな睦言を交わし合い。
しばらくして言葉も途切れ、静寂が訪れた時、僕はポツリと言葉を紡いだ。
「……あのさ。僕は……僕らは、さ。ソフィア様やアンドレア叔母様達みたいに、新たな命を宿す事も、そうして次代に繋げていく事も叶わない。僕らのこの行為は、何も生み出す事が出来ない。けれど、だからこそ、嬉しいと思える様になったんだ……今になって。」
「シリル……。」
「サフィルと一緒になれて嬉しかった。色んな人に助けられて、見守られて、幸せだと思ってるのも本当なんだよ。でも、僕らのこの関係は、何も生み出す事が出来ない…から。それが、申し訳なくて、やるせなくなる事もあって。———そんな時にふと思い出すんだ、昔の自分を。本当はするべき事があるのは分かっていたのに、皆の様に振舞う事が出来ず、中途半端に揺蕩う自分が居て。一人殻に篭っていたんだ、ずっと。その僕を無理矢理引っ張り出したのはカイトだったけど、全てを諦めて消えたいと願った僕の内を暴いて…打ち貫いたのが、貴方だったね。でも、剥き出しの想いをぶつけられて、魂が震えたんだ…。」
色んな事があやふやで、どこまでも自信の持てないのが、僕という存在だった。
でも、貴方を知って……気になって、いつしか好きだと自覚して。
目覚めた心はもう、知らなかった自分には戻れずに、貴方を欲して強く求めた。
貴方を求めて、抱きしめて、抱きしめ返されて…受け入れられて、嬉しいって、愛おしいってこういう事なんだって教えてもらった。
「ごめんね、上手く言葉に出来ないけれど。何も生み出せないのに、それでも飽きる事無く、変わらず抱いてくれるのが、どうしようもなく嬉しくて。」
ただただ愛おしいから、と。
それだけの理由で…気持ちで、強く強く抱かれて貫かれて。
幾度だって思い知らせてくれる。
貴方の心を、愛情を。
「不安が、無い訳じゃない。今だってまだ。すぐに弱気になって、ネガティブになってしまう事も、無い訳じゃないけど。貴方に求められて、好きだと言う気持ちを貰うと、そんな不安も吹き飛んでしまうんだ。つまらない事で悩んでたな、貴方に尋ねもしないでさ、って。」
「……。」
「ありがとう、僕を求めてくれて……受け入れてくれて。」
「————シリルッ」
はにかみながら、自身の気持ちを吐露した僕を、サフィルはぐいと引き寄せて強く抱きしめた。
「シリル、私こそ……私こそ。何も持たない凡庸な私なんかを飽きずに好いてくれて、私の方こそ、いつも申し訳ない気持ちと、夢の様な幸せな気持ちと、いろんな想いでいっぱいになるんです。まるで地上に舞い降りた天使の様な美しさを持った貴方を前に、思わず傅いてしまいたくなる。」
「そんな、大袈裟だよ……。」
「そんな事ないです。今でも美し過ぎる貴方が私などの腕の中に居るのが、信じられないくらい。」
眩しいものを見る様に少し目を細めて見つめて来るサフィルに、僕は少し頬を朱に染めたが、すぐに顔色を戻して少し目を伏せた。
「シリル?」
「サフィルはね、僕の事……綺麗、美しいって、言ってくれるけど……。そう言ってもらえるのは、嬉しいんだけど………でも、怖いんだ。」
「怖い?どうして?」
しゅんとなって俯く僕に、サフィルは首を傾げたが。
僕は言うべきかどうか迷いに迷ってから、意を決して口を開いた。
「~~~だって。サフィル、言ってたじゃない。僕の事一目惚れだったって。僕の見た目を気に入ってくれたんでしょ?」
「え?…えぇ。」
「母親似のこの顔は、確かに今は良いかもしれない。でも、綺麗って言ってもらえる様な見た目で居られるのって、どうせ今だけだもん。今は良くても、この先どんどん歳をとって、その内すぐに綺麗じゃなくなっちゃうよ。それに、僕なんかよりもっと美人な子なんて、きっと簡単に現れるよ。敵わなくなっちゃったら…っ」
薄っすらと瞳に溜めた涙を、サフィルが指でそっと拭ってくれた。
パッと顔を上げると、眼前には、困った様な顔で微笑むサフィルが目に入って来た。
「そんな事をおっしゃるなんて、心外ですね。」
「え?」
「確かに、貴方の美しさに一瞬で心奪われ、一目惚れしました。でも、遠くで眺めているだけで満足していた筈の私は、貴方と知り合って、貴方の優しさと温かさに触れ、その見た目だけなく中身も知って、もっともっと惹かれていきました。外面だけでなくその繊細で美しい内面に触れて、貴方自身を好きになりました。」
「……僕、自身を……。」
「えぇ。」
穏やかに笑って僕の手を取り、その指先にキスをしてくれるが。
不安に揺れる僕は、その彼の手を掴んで、迫った。
「でもでもっ!それでも、綺麗じゃなくなっちゃったら、嫌になっちゃうかも。」
「そんな事無いですってば。それに、10代では10代の少年の危うい美しさが。20代には20代の爽やかな青年の美しさが。30代には30代の壮年になってゆく貴方の美しさが、きっとあります。」
「でも、もっとおじさんになったら?もぉっと歳を取ったら皺々のお爺さんになっちゃうんだよ、僕だって。」
「その時は、私なんて、もっと皺々になっているんですよ?それに、そんな皺々になってもずっと傍に居てもらえたら、幸せ過ぎて感無量ですね。」
数年先の話などではなく。
十年、二十年、もっともっと先の未来を思う。
その時になれば、どう足掻いても今の輝きは失われる事だろう。
そうなっても、貴方は僕の事を美しいと思ってくれるのだろうか?
いいや、美しいと思わなくてもいいから、それでもいいのだと言ってくれるだろうか。
不安になって尋ねたら、そんな先の未来まで一緒に居てくれるなんて素晴らしい、と彼は言ってくれるから。
「……居たい。ずっと居たい。いつまでだって傍に居たいよ。ずっと。」
「貴方にこんなにも求めてもらえるなんて、私は本当にこの世界の誰よりも幸せ者です。ずっと傍に居ます。むしろ、ずっと傍に居させてください。今回の事で改めて思いました。どんな形でも良いんです。もし、私に飽きてしまったとしても。その時は、従僕でも、玩具でも。私は貴方に永遠の愛を捧げ恋い慕う奴隷ですから。」
貴方という最高に素晴らしい御方に永遠に恋する奴隷なのです。
そう言って、実に嬉しそうに笑うサフィルに。
僕は冗談じゃない!と涙目になって怒った。
「そんなのやだ!」
「え……。」
「傍に居てっていうのは、そういう事じゃないよ。そんな、差のある関係なんて嫌だ。」
「それなら、愛人とか?」
「違うよ!僕の、僕の隣に居て欲しいんだ!ずっと…この先もずっと!」
「シリル……。」
「恋人よりも、もっともっと。……前にサフィルは言ってくれたよね?もっと我儘を言って良いって。だから、言うよ。これから先もずっと一緒に居て欲しい。僕の隣に居て。貴方は僕に指輪をくれたじゃない、あの礼拝堂で、小さくて素敵な挙式をしてくれたじゃない。……共に笑っていたいんだ、いつまでもずっと。貴方と共に歩ませてよ、これからの人生を一緒に。———僕の、伴侶になって欲しい。」
人生を共にする、伴侶に。
恋人よりも、もっと深く長く先を共に歩む、素晴らしいと思える関係。
それを二人の瞳の色の石で作られた、何も成せない…形の無い僕らに、貴方は、指輪という形で愛を示してくれた。
交わした指輪に、改めて誓いたいのだ。
ベッドから体を起こし、揺れる瞳で訴えかける僕に、サフィルは僕をそのアメジストの綺麗な瞳に捕らえたまま、ゆっくりと身を起こした。
「伴侶……。私の様な者が、本当に、良いのですか?本当に?」
「サフィル以外、嫌だ。サフィルがいい。サフィルがいいんだ!」
まだ不安そうに聞き返して来る彼に、僕は、貴方がいいのだ、と強く訴える。
すると、サフィルの瞳にじわりと涙の膜が出来、それを目にした途端、がばりと抱きしめられた。
「シリル!嬉しい…。嬉しいです。こんな、こんな何の取り柄も無い私などにっ」
「貴方の穏やかな優しさが好き。自信の持てない僕を愛してくれて、そっと寄り添って微笑んでくれる。思い遣ってくれる。細やかな思い遣りをもって、僕は助けられたんだ、何度も。」
彼は一見、地味かもしれない。
けれど、ふと見せる笑顔は僕の心を温かくしてくれる。
閨で見せる彼の欲望に滾る笑みは、僕の奥底をゾクリと震わせる。
彼は特別凄い力がある訳ではない。
けれど、上司であるロレンツォ殿下の助力を得ながら、僕を助けてくれた。
僕らが共に居られるように、公爵家を叔父様に譲りたい、と悩んでいた僕の為に、ロレンツォ殿下とユリウス殿下の助力も得て、僕の望みを叶えてくれた。
それに今回も。
記憶を失くして酷い態度をとった筈の僕を見放す事無く、僕に一番良いであろう環境をと、考えてくれた。
……そんな風に、僕の為に一生懸命考えて、行動に移してくれた。
それが有り難く、嬉しいのだ。
何も出来ないなんて事はない。
僕は沢山の素晴らしいものを彼から貰った。
僕も彼に返したい。
この先何年かかっても、一生を賭けてでも。
沢山の、愛でもって。
「サフィル、愛してる。そして、これからも愛したい。この先もずっと、ずっと。」
「シリル……私もです。愛しています。いつまでも、ずっと。」
サフィルは汗で張り付いた僕の前髪を優しく梳き、額に柔らかなキスをしてくれた。
まだフラフラして力の入らない僕を抱えてお風呂場まで運び、身を清めるのを手伝ってくれて。
そして、ドロドロになった跡も手早く片付けてくれた。
片付けを手伝わなくてごめんね、と謝る僕に、サフィルは「いいんですよ、気にしないで。」と、柔和に笑ってくれる。
そして、綺麗になったベッドに二人、ゴロリと横たわった。
激しい情欲は落ち着いて、少し疲れた顔をしながらも、その疲れさえも心地良く微笑むと、サフィルは僕の頬に触れながら、穏やかな笑みを返してくれる。
「結局また、無理をさせてしまいましたね。」
「ううん。善かった……とっても。」
さっきまでとは違う、慈愛に満ちた手に触れられて、それはそれで心地良くてうっとりしてしまう。
激しい交合の後の、この穏やかな触れ合いも堪らなく好きだ。
触れて来る彼の手に自身の手を重ね、感慨深く答える僕に、サフィルは「う…っ」と呻き声を上げる。
「…ぅ。そんな可愛い反応をされると、またシたくなっちゃうので、勘弁して下さい。」
「もっとシたい?僕は全然構わないよ?」
「……いいえ。これ以上貴方に負担を掛けたくないので。それに、こうしてゆっくり触れ合うだけなのも充分好きですしね。」
「うん、僕も好き。」
互いに見つめ合って、ふふ、と笑った。
昂った後の体をひんやりとしたシーツの上で落ち着けて。
情欲から情愛へと変わった手で触れ合い、柔らかな睦言を交わし合い。
しばらくして言葉も途切れ、静寂が訪れた時、僕はポツリと言葉を紡いだ。
「……あのさ。僕は……僕らは、さ。ソフィア様やアンドレア叔母様達みたいに、新たな命を宿す事も、そうして次代に繋げていく事も叶わない。僕らのこの行為は、何も生み出す事が出来ない。けれど、だからこそ、嬉しいと思える様になったんだ……今になって。」
「シリル……。」
「サフィルと一緒になれて嬉しかった。色んな人に助けられて、見守られて、幸せだと思ってるのも本当なんだよ。でも、僕らのこの関係は、何も生み出す事が出来ない…から。それが、申し訳なくて、やるせなくなる事もあって。———そんな時にふと思い出すんだ、昔の自分を。本当はするべき事があるのは分かっていたのに、皆の様に振舞う事が出来ず、中途半端に揺蕩う自分が居て。一人殻に篭っていたんだ、ずっと。その僕を無理矢理引っ張り出したのはカイトだったけど、全てを諦めて消えたいと願った僕の内を暴いて…打ち貫いたのが、貴方だったね。でも、剥き出しの想いをぶつけられて、魂が震えたんだ…。」
色んな事があやふやで、どこまでも自信の持てないのが、僕という存在だった。
でも、貴方を知って……気になって、いつしか好きだと自覚して。
目覚めた心はもう、知らなかった自分には戻れずに、貴方を欲して強く求めた。
貴方を求めて、抱きしめて、抱きしめ返されて…受け入れられて、嬉しいって、愛おしいってこういう事なんだって教えてもらった。
「ごめんね、上手く言葉に出来ないけれど。何も生み出せないのに、それでも飽きる事無く、変わらず抱いてくれるのが、どうしようもなく嬉しくて。」
ただただ愛おしいから、と。
それだけの理由で…気持ちで、強く強く抱かれて貫かれて。
幾度だって思い知らせてくれる。
貴方の心を、愛情を。
「不安が、無い訳じゃない。今だってまだ。すぐに弱気になって、ネガティブになってしまう事も、無い訳じゃないけど。貴方に求められて、好きだと言う気持ちを貰うと、そんな不安も吹き飛んでしまうんだ。つまらない事で悩んでたな、貴方に尋ねもしないでさ、って。」
「……。」
「ありがとう、僕を求めてくれて……受け入れてくれて。」
「————シリルッ」
はにかみながら、自身の気持ちを吐露した僕を、サフィルはぐいと引き寄せて強く抱きしめた。
「シリル、私こそ……私こそ。何も持たない凡庸な私なんかを飽きずに好いてくれて、私の方こそ、いつも申し訳ない気持ちと、夢の様な幸せな気持ちと、いろんな想いでいっぱいになるんです。まるで地上に舞い降りた天使の様な美しさを持った貴方を前に、思わず傅いてしまいたくなる。」
「そんな、大袈裟だよ……。」
「そんな事ないです。今でも美し過ぎる貴方が私などの腕の中に居るのが、信じられないくらい。」
眩しいものを見る様に少し目を細めて見つめて来るサフィルに、僕は少し頬を朱に染めたが、すぐに顔色を戻して少し目を伏せた。
「シリル?」
「サフィルはね、僕の事……綺麗、美しいって、言ってくれるけど……。そう言ってもらえるのは、嬉しいんだけど………でも、怖いんだ。」
「怖い?どうして?」
しゅんとなって俯く僕に、サフィルは首を傾げたが。
僕は言うべきかどうか迷いに迷ってから、意を決して口を開いた。
「~~~だって。サフィル、言ってたじゃない。僕の事一目惚れだったって。僕の見た目を気に入ってくれたんでしょ?」
「え?…えぇ。」
「母親似のこの顔は、確かに今は良いかもしれない。でも、綺麗って言ってもらえる様な見た目で居られるのって、どうせ今だけだもん。今は良くても、この先どんどん歳をとって、その内すぐに綺麗じゃなくなっちゃうよ。それに、僕なんかよりもっと美人な子なんて、きっと簡単に現れるよ。敵わなくなっちゃったら…っ」
薄っすらと瞳に溜めた涙を、サフィルが指でそっと拭ってくれた。
パッと顔を上げると、眼前には、困った様な顔で微笑むサフィルが目に入って来た。
「そんな事をおっしゃるなんて、心外ですね。」
「え?」
「確かに、貴方の美しさに一瞬で心奪われ、一目惚れしました。でも、遠くで眺めているだけで満足していた筈の私は、貴方と知り合って、貴方の優しさと温かさに触れ、その見た目だけなく中身も知って、もっともっと惹かれていきました。外面だけでなくその繊細で美しい内面に触れて、貴方自身を好きになりました。」
「……僕、自身を……。」
「えぇ。」
穏やかに笑って僕の手を取り、その指先にキスをしてくれるが。
不安に揺れる僕は、その彼の手を掴んで、迫った。
「でもでもっ!それでも、綺麗じゃなくなっちゃったら、嫌になっちゃうかも。」
「そんな事無いですってば。それに、10代では10代の少年の危うい美しさが。20代には20代の爽やかな青年の美しさが。30代には30代の壮年になってゆく貴方の美しさが、きっとあります。」
「でも、もっとおじさんになったら?もぉっと歳を取ったら皺々のお爺さんになっちゃうんだよ、僕だって。」
「その時は、私なんて、もっと皺々になっているんですよ?それに、そんな皺々になってもずっと傍に居てもらえたら、幸せ過ぎて感無量ですね。」
数年先の話などではなく。
十年、二十年、もっともっと先の未来を思う。
その時になれば、どう足掻いても今の輝きは失われる事だろう。
そうなっても、貴方は僕の事を美しいと思ってくれるのだろうか?
いいや、美しいと思わなくてもいいから、それでもいいのだと言ってくれるだろうか。
不安になって尋ねたら、そんな先の未来まで一緒に居てくれるなんて素晴らしい、と彼は言ってくれるから。
「……居たい。ずっと居たい。いつまでだって傍に居たいよ。ずっと。」
「貴方にこんなにも求めてもらえるなんて、私は本当にこの世界の誰よりも幸せ者です。ずっと傍に居ます。むしろ、ずっと傍に居させてください。今回の事で改めて思いました。どんな形でも良いんです。もし、私に飽きてしまったとしても。その時は、従僕でも、玩具でも。私は貴方に永遠の愛を捧げ恋い慕う奴隷ですから。」
貴方という最高に素晴らしい御方に永遠に恋する奴隷なのです。
そう言って、実に嬉しそうに笑うサフィルに。
僕は冗談じゃない!と涙目になって怒った。
「そんなのやだ!」
「え……。」
「傍に居てっていうのは、そういう事じゃないよ。そんな、差のある関係なんて嫌だ。」
「それなら、愛人とか?」
「違うよ!僕の、僕の隣に居て欲しいんだ!ずっと…この先もずっと!」
「シリル……。」
「恋人よりも、もっともっと。……前にサフィルは言ってくれたよね?もっと我儘を言って良いって。だから、言うよ。これから先もずっと一緒に居て欲しい。僕の隣に居て。貴方は僕に指輪をくれたじゃない、あの礼拝堂で、小さくて素敵な挙式をしてくれたじゃない。……共に笑っていたいんだ、いつまでもずっと。貴方と共に歩ませてよ、これからの人生を一緒に。———僕の、伴侶になって欲しい。」
人生を共にする、伴侶に。
恋人よりも、もっと深く長く先を共に歩む、素晴らしいと思える関係。
それを二人の瞳の色の石で作られた、何も成せない…形の無い僕らに、貴方は、指輪という形で愛を示してくれた。
交わした指輪に、改めて誓いたいのだ。
ベッドから体を起こし、揺れる瞳で訴えかける僕に、サフィルは僕をそのアメジストの綺麗な瞳に捕らえたまま、ゆっくりと身を起こした。
「伴侶……。私の様な者が、本当に、良いのですか?本当に?」
「サフィル以外、嫌だ。サフィルがいい。サフィルがいいんだ!」
まだ不安そうに聞き返して来る彼に、僕は、貴方がいいのだ、と強く訴える。
すると、サフィルの瞳にじわりと涙の膜が出来、それを目にした途端、がばりと抱きしめられた。
「シリル!嬉しい…。嬉しいです。こんな、こんな何の取り柄も無い私などにっ」
「貴方の穏やかな優しさが好き。自信の持てない僕を愛してくれて、そっと寄り添って微笑んでくれる。思い遣ってくれる。細やかな思い遣りをもって、僕は助けられたんだ、何度も。」
彼は一見、地味かもしれない。
けれど、ふと見せる笑顔は僕の心を温かくしてくれる。
閨で見せる彼の欲望に滾る笑みは、僕の奥底をゾクリと震わせる。
彼は特別凄い力がある訳ではない。
けれど、上司であるロレンツォ殿下の助力を得ながら、僕を助けてくれた。
僕らが共に居られるように、公爵家を叔父様に譲りたい、と悩んでいた僕の為に、ロレンツォ殿下とユリウス殿下の助力も得て、僕の望みを叶えてくれた。
それに今回も。
記憶を失くして酷い態度をとった筈の僕を見放す事無く、僕に一番良いであろう環境をと、考えてくれた。
……そんな風に、僕の為に一生懸命考えて、行動に移してくれた。
それが有り難く、嬉しいのだ。
何も出来ないなんて事はない。
僕は沢山の素晴らしいものを彼から貰った。
僕も彼に返したい。
この先何年かかっても、一生を賭けてでも。
沢山の、愛でもって。
「サフィル、愛してる。そして、これからも愛したい。この先もずっと、ずっと。」
「シリル……私もです。愛しています。いつまでも、ずっと。」
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~お知らせ~
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※第5話を少し修正しました。
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