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一章「1人目の奴隷」

ギルドで絡まれました

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「ご主人様を呪ったらそれはそれで面白そうかなって思ったのですがダメですか」
「ダメに決まっている。それそんなことしたらルナの奴隷紋が主人である俺を殺そうとしたという判定が出て大変なことになるかもしれないからな」
「それは困りますね……。合法的に呪う方法はないのでしょうか」

 何怖いこと言っているのだろうこの子は。俺のことを本当に呪い殺そうとでもしているのか。そうだったら恐ろし過ぎるんだが。

「そ、それじゃあ次はギルドに行こうか」
「ギルドですか。私は奴隷なのであくまでもご主人様のモノですから登録できないのではないですか?」

 確かに奴隷身分であるルナをギルドに登録することは出来ない。つまりルナ含めた奴隷は身分証というものを発行することは基本的には出来ない。しかしそれだけがギルドに対しての用事ということではない。

「ルナの魔力量を測っておこうと思ってな」
「魔力量、ですか?」
「ああ、武器屋でどちらが得意か結局わからないということを言っていたと思うんだが、あれかた確か、ギルドには魔力量をざっくりとではあるが測ることのできる機械があったことを思い出してな。それが分かれば少なくとも、身体的にどちらが向いているかは分かりやすくなるんじゃないかなと思ったんだ」

 ルナはそういうことですかと納得したようだった。ルナには言っていないが、冒険者ギルドに行くのはもう一つ理由がある。それは受け付けやよくわからん奴らにルナは俺の奴隷と周知しておくことだ。そうすることによって、一人でお使いを頼んだ時にも変な冒険者に絡まれるリスクが減る。それはルナを守ることにもつながるので絶対にやっておきたいことの一つなのだ。ルナの安全を確保するという意味合いでは、魔力量の計測よりも重要な用かもしれない。

「お前の希望に沿える結果になるといいな」
「そうですね。もし私に魔法の才がなくても私を捨てませんか?」

 どうしてそういう結論に至ったのだろうか。

「捨てるわけないだろう。そもそもルナはご主人様である俺に反抗しているんじゃないのか?」
「今のところは反抗する理由もありませんから。それに私が逆らおうとしていたのはあの奴隷商です」

 何ともよくわからんやつだな。その割にはさっきから俺のこと合法的に呪う方法を探したりと俺から逃げ出そうとでもしているのかもしれないと疑わせるには十分なことを言っているし本当に意味不明だ。それ含めてルナと言われればそれまでかもしれないな。

「ご主人様、その魔力量を測るのはすぐに出来るものなのですか?」
「ルナは測ったことはないのか?」
「私は測ったことはありません」

 この世界ではかなりの割合の人が測ると聞いたことがあるからルナが一度も測ったことがないのは驚いた。でも街の出身でなければ測ることもないのかもしれない。変に思う必要もないだろう。ここは地方と都市部の格差が飛んでもない世界でもあるし。

「そうか。初めてならいい機会だな。測ること自体はすぐにできる。具体的な数値を知りたいのなら少し金を積む必要があるし時間も何時間かかかるけど、大まかな値を知りたいのなら安くできるし時間もかからない」

 病院での簡単な診察と精密検査みたいな感じだと俺は思っている。今日は適正を見たいだけなので簡易的なものでも足りるというわけだ。

「実際に歩いてみると分かりましたが、この街の道は歩きやすいですね」
「まあ、石畳とはいえ舗装されているからな。土よりは歩きやすいだろうさ」

 アスファルトで舗装された道に慣れ切っている俺としてはこれでもあまり道の事情はよくないと思っているが、これはこの世界で生まれ育った人間との齟齬みたいなものだろう。それは俺にはわからない感覚でもあるの新鮮で聞いていると面白いことだ。

「やっぱり都市はすごいですね。私が以前、住んでいた場所とは随分と違います。建物も、人も、その恰好も、表情も、食べているものさえも違います。私もこのような街で育っていればもう少し違った道を歩んでいたのかもしれません」

 ルナは儚げに空へ手を伸ばした。つかめない太陽を掴もうとしていた姿は悲哀を感じさせ、俺でさえも軽々しく言葉をかけることは憚られる。しかしそれでもルナはきっと何か言って欲しいのだと思う。何を言うのは最も良いのだろうか。きっと今、ルナは今までのことに思うところがあって悩んでいる、というかやりようのない感情になっているのだろう。今はまだわからない。俺はルナのことを知らなさすぎる。そんな状態の人間が何か言っても、きっと響かない。

「大丈夫か」
「……はい。大丈夫だと思います」

 これが正解でないことくらいルナの表情を見れば分かる。でも今は本当にわからない。いつか答えが分かるときに、ルナは俺の横にいてくれるのだろうか。

「そっか。もうすぐギルドだ。俺から離れるなよ。連中にとって、ルナくらいの年齢の女の子は珍しいからな。しかも奴隷なら絡まれるかもしれないし」
「気を付けることにします」

 ギルドの建物は立派だ。俺たち冒険者と依頼人の仲介をしている組織でもあるわけだが、随分とマージンを取っているのだろう。俺自身は問題なく報酬を得られているわけだから別に不満はないが、この立派な石造りでひときわ大きく、4階建てと周囲と比較するとそこまで高さがあるわけではないのぬ重厚感があり、目立つ建物を見ていると少しくらいは思うところはある。

 ギルドの戸を開けると、そこは受付や依頼がはってあるボードに軽食も提供されるための椅子やテーブルがあり、そこで話し合いが出来るようになっている。それで一階のワンフロアがほとんど占められていることを考えれば、かなりの数のテーブルと椅子が置いてあるのだろう。

「おう、今日は一人じゃないんだな」

 早速ルナを珍しがって絡んでくる奴がいた。スキンヘッドで明らかにルナ目当てな顔つきをしている。

「可愛い女を連れているな。奴隷なら俺にも使わせてくれよ」

 ホラやっぱりそうだ。ルナを見ていると、かなり嫌そうな顔をしている。男の俺でも気持ち悪いと思うんだから、当事者たるルナはもっと、気持ち悪いと感じるのは当たり前だ。

「断る」
「連れねえな。奴隷なんだから壊れてもまた買えばいいじゃねえあ」
「奴隷だって高いんだからそんな風に扱われるのはごめんだよ。それに一緒に飯を食ったこともないような奴にどうしてこいつを任せられると思うんだ」
「いいじゃねえか、同じ冒険者なんだしよ」

 このバカはこうやって絡むことであまりいい印象を持たれてはいないのだが、ベテランであることには違いなく、依頼自体もそれなりにはこなしてくるうえに、こういったトラブルも自分に災いは降りかかりそうになると手を引いてしまうのでギルドとしても対処に困ってるということらしい。

「だから嫌だって言ってんだろう。そんなにやることやりたいなら歓楽街にいくか、奴隷でも買えよ。ああ、それとも出禁とかになっていてそれが出来ないのか。そうかそれは残念だな。俺らみたいなののおこぼれにあずからないと女が手に入らないって言うんだからな」

 こいつは一度くらい痛い目に合って欲しいし、ルナをそういう用途だけと断じたに等しく、俺も頭にきたから思い切り煽ってみた。

「ご主人様、それは少し言い過ぎではないですか……。いくら小汚くて、一夜を共にする女性がいたとすればかなり哀れにも感じるような方ではありますが」
「お前ら……黙って聞いていれば」

 プルプル震えている。俺も煽ったが、ルナの奴も煽りすぎだ。俺もあまり表情には出さないように気を付けたのに、ルナの奴思い切り嘲笑らって言いやがった。こうなってはちょっと面倒なことになりそうだ。少なくとも、単にルナの魔力量を測るだけではすまなさそうだ。
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