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11 過去の傷
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* * * *
仕事の話は鈴香と課長が中心となって進めていたので、杏奈は時々補足をする程度で済んだ。
先日の合コンが上手くいかなかったらしい鈴香は、翌日から今日に向けての準備をしっかりと進めてきた。その甲斐あって、鈴香は質問にも落ち着いて対応が出来ていた。
『私が先輩を守りますから!』
あの言葉が嘘ではなかったと実感して嬉しくなる。
佐久間はというと、時々杏奈のことをチラチラと見ている視線を感じていたが、必要以上の接触を避けたかったこともあり、気付かないふりをした。
そして打ち合わせも終わりに近づいた頃、課長が佐久間に対しいろいろな質問を始めたのである。
「そういえば佐久間さん、お子さんがいらっしゃるんですよね? おいくつなんですか?」
すると佐久間は杏奈に視線を送ってから、口籠もったのだ。
「えっと……六歳と四歳の二人です」
「へぇ、性別は?」
「男の子です。やんちゃな盛りでして……」
「あぁ、うちも同じだからわかりますよ」
子どもか--家族がいると言っていたし、想定内だった。ただその時に妙な違和感を覚えた。私と別れたのが六年前。でも一番上の子の出産も六年前。これでは時系列がおかしなことになる。
その時にハッとした。これってもしかして……私と別れた時に、既に奥さんは妊娠していたということではないだろうか。
それはつまり私は二股をかけられていて、だから別れるために、連絡をとらなくなった--杏奈の中に生まれた疑惑が、一つの仮説として現実味を帯びていく。
「先輩?」
鈴香に声をかけられ、はっと我に帰る。打ち合わせが終わったことに気付かず、考えに耽ってしまっていた。
「大丈夫ですか?」
鈴香の大丈夫には、きっと佐久間のことが含まれているに違いない。あの仮説が現実のものであれば、納得はいく。ただもし自分が騙されていたのであれば、心のダメージは大きい気がした。
「大丈夫。じゃあ私は先に戻るね」
佐久間も帰る支度をしていたので、杏奈は彼より先に部屋を出ようとしたが、一歩遅かった。
「碓氷さん! あの、少し話があるんですが、いいですか?」
しかしそこへすかさず鈴香が飛び込んで来る。
「仕事のお話ですか? でしたらリーダーの私を通してからでお願いします!」
「仕事……ではないので……」
「申し訳ありませんが、でしたらメールでお願いします。私も打ち合わせが詰まっていますから」
「……わかりました」
佐久間は気まずそうに頭を下げると、会議室から出ていった。
「鈴香ちゃん、助かったよ」
「やっぱり『久しぶり~』ってわけにはいきませんでしたね。でもいいんですか? 佐久間さん、何か話したそうでしたけど」
杏奈は首を横に振った。
「もう関係ないしね。今更って感じかな」
彼が何を話そうとしているかはわからないが、ただの言い訳を聞くほどの余裕は持ち合わせていなかった。
仕事の話は鈴香と課長が中心となって進めていたので、杏奈は時々補足をする程度で済んだ。
先日の合コンが上手くいかなかったらしい鈴香は、翌日から今日に向けての準備をしっかりと進めてきた。その甲斐あって、鈴香は質問にも落ち着いて対応が出来ていた。
『私が先輩を守りますから!』
あの言葉が嘘ではなかったと実感して嬉しくなる。
佐久間はというと、時々杏奈のことをチラチラと見ている視線を感じていたが、必要以上の接触を避けたかったこともあり、気付かないふりをした。
そして打ち合わせも終わりに近づいた頃、課長が佐久間に対しいろいろな質問を始めたのである。
「そういえば佐久間さん、お子さんがいらっしゃるんですよね? おいくつなんですか?」
すると佐久間は杏奈に視線を送ってから、口籠もったのだ。
「えっと……六歳と四歳の二人です」
「へぇ、性別は?」
「男の子です。やんちゃな盛りでして……」
「あぁ、うちも同じだからわかりますよ」
子どもか--家族がいると言っていたし、想定内だった。ただその時に妙な違和感を覚えた。私と別れたのが六年前。でも一番上の子の出産も六年前。これでは時系列がおかしなことになる。
その時にハッとした。これってもしかして……私と別れた時に、既に奥さんは妊娠していたということではないだろうか。
それはつまり私は二股をかけられていて、だから別れるために、連絡をとらなくなった--杏奈の中に生まれた疑惑が、一つの仮説として現実味を帯びていく。
「先輩?」
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「大丈夫ですか?」
鈴香の大丈夫には、きっと佐久間のことが含まれているに違いない。あの仮説が現実のものであれば、納得はいく。ただもし自分が騙されていたのであれば、心のダメージは大きい気がした。
「大丈夫。じゃあ私は先に戻るね」
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「……わかりました」
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「鈴香ちゃん、助かったよ」
「やっぱり『久しぶり~』ってわけにはいきませんでしたね。でもいいんですか? 佐久間さん、何か話したそうでしたけど」
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「もう関係ないしね。今更って感じかな」
彼が何を話そうとしているかはわからないが、ただの言い訳を聞くほどの余裕は持ち合わせていなかった。
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