83 / 88
11 過去の傷
3-3
しおりを挟む
「だからこうして謝って……」
「今更ですか? 何故六年前のあの時にそれを伝えなかったんですか?」
「そ、それは……!」
「それに根本からおかしなことがありますよね。何故あなたは長年付き合った碓氷さんではなく、浮気相手である女性を選んだんですか?」
「それは……子供が出来たから……」
「ではもし二人の女性が同時に妊娠したらどうしたんですか? どちらかの女性には結婚しようと言って、もう一人には堕してくれと言うんですか? 残酷な人だ。それに今の言葉を奥様が聞いたらどう思うでしょうね」
妻のことを引き合いにだされたからだろうか。佐久間は顔を歪ませ、怒りを露わにする。
「じゃあどうすれば良かったんですか! 教えてくださいよ!」
「まず貴方が怒ること自体がおかしいです。傷付いたのは碓氷さんであって、あなたではないんですから」
杏奈は高臣の胸に顔を埋める。すると高臣の腕が力強く杏奈を抱きしめ、安堵のあまりほうっと息を吐いた。
どうしてこの人は私の気持ちがわかるのだろう……言いたいことを言えない私のことを、彼はこんなにも理解してくれている。
「どうすれば良かったかなんて、ご自身で考えるほかありません。ですが一番に言えることは、どんなに辛くても、あの時に浮気をしなければこんなことにはなっていないということです。まぁ私としては、あなたのおかげで杏奈とこうして付き合えるようになったのだから、感謝しかありませんよ。別れてくれてありがとうございました」
高臣の言葉で、杏奈の心が救われていくような気持ちになる。この人がそばにいてくれて良かった--心の底からそう思えた。
「杏奈、彼からの謝罪が欲しいかい?」
高臣の指に頬を撫でられ、杏奈は首を横に振った。それから佐久間の方に向き直ると、彼を真っ直ぐに見つめた。
「連絡を取らなくなってから別れのメールまで、あなたは私と会おうとしなかった。だから私がどんなふうに傷付いていたかなんて知らないでしょ。きちんと向き合ってその話をしてくれたら……こんなふうに後からは知りたくなかった」
「本当にごめん……」
「もう謝らなくていいです。とりあえず仕事に私情は挟みたくないので、今日のことはなかったことにします。良いものを作っていきましょう」
「わかった……」
佐久間は頭を上げて立ち上がったたものの、項垂れたままだった。
最後までちゃんと顔を見ないのね--杏奈は高臣の手を引っ張り、彼に向かって『もう行こう』と目で訴えた。それを受け取った高臣は頷くと、杏奈の手を引いて歩き出した。
彼の手の力強さに胸が熱くなり、杏奈は後ろを振り返ることは一度もなかった。
「今更ですか? 何故六年前のあの時にそれを伝えなかったんですか?」
「そ、それは……!」
「それに根本からおかしなことがありますよね。何故あなたは長年付き合った碓氷さんではなく、浮気相手である女性を選んだんですか?」
「それは……子供が出来たから……」
「ではもし二人の女性が同時に妊娠したらどうしたんですか? どちらかの女性には結婚しようと言って、もう一人には堕してくれと言うんですか? 残酷な人だ。それに今の言葉を奥様が聞いたらどう思うでしょうね」
妻のことを引き合いにだされたからだろうか。佐久間は顔を歪ませ、怒りを露わにする。
「じゃあどうすれば良かったんですか! 教えてくださいよ!」
「まず貴方が怒ること自体がおかしいです。傷付いたのは碓氷さんであって、あなたではないんですから」
杏奈は高臣の胸に顔を埋める。すると高臣の腕が力強く杏奈を抱きしめ、安堵のあまりほうっと息を吐いた。
どうしてこの人は私の気持ちがわかるのだろう……言いたいことを言えない私のことを、彼はこんなにも理解してくれている。
「どうすれば良かったかなんて、ご自身で考えるほかありません。ですが一番に言えることは、どんなに辛くても、あの時に浮気をしなければこんなことにはなっていないということです。まぁ私としては、あなたのおかげで杏奈とこうして付き合えるようになったのだから、感謝しかありませんよ。別れてくれてありがとうございました」
高臣の言葉で、杏奈の心が救われていくような気持ちになる。この人がそばにいてくれて良かった--心の底からそう思えた。
「杏奈、彼からの謝罪が欲しいかい?」
高臣の指に頬を撫でられ、杏奈は首を横に振った。それから佐久間の方に向き直ると、彼を真っ直ぐに見つめた。
「連絡を取らなくなってから別れのメールまで、あなたは私と会おうとしなかった。だから私がどんなふうに傷付いていたかなんて知らないでしょ。きちんと向き合ってその話をしてくれたら……こんなふうに後からは知りたくなかった」
「本当にごめん……」
「もう謝らなくていいです。とりあえず仕事に私情は挟みたくないので、今日のことはなかったことにします。良いものを作っていきましょう」
「わかった……」
佐久間は頭を上げて立ち上がったたものの、項垂れたままだった。
最後までちゃんと顔を見ないのね--杏奈は高臣の手を引っ張り、彼に向かって『もう行こう』と目で訴えた。それを受け取った高臣は頷くと、杏奈の手を引いて歩き出した。
彼の手の力強さに胸が熱くなり、杏奈は後ろを振り返ることは一度もなかった。
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる