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第5話 バナナはおやつに入りますか?
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「ユースケ! 起きろウホッ!」
ん~。まだ寝ていたい。あと5分。Zzzz。
「起きないな。一発いくか」
「はいっ! 今起きますっ!」
条件反射の様に飛び起きる。
「おはよう。良く眠れたウホ?」
頭は思いの外すっきりとしている。
身体的な疲れもあってかぐっすり眠れた様だ。
窓からは暖かな日射しが差し込み、小鳥だろうか、さえずりが聞こえてくる。
「俺の準備は終わったウホ」
ダズは既に支度を終えている様だ。
昨日は黒い腰布を着けていたが、今日は黄色い腰布を着けている。手に持っているのは、皮で出来た頑丈そうな袋だ。
その袋の口からは黄色く長い房状の物体が飛び出している。
…………バナナはおやつに入りますか?
「俺は特に準備するものも無いから、いつでも行けますよ」
そうなのだ。
カバンは元の世界に置いてきてあるし、財布も携帯もそのカバンの中に入っていた。まあ、例え持ってきていたとしても、この世界では何の役にも立ちそうにないが。
俺はネクタイと背広を装備し、ダズに声を掛ける。
戦闘準備完了だ。
「じゃギルドに行きましょうか。」
◆
「行ってらっしゃい」
後ろでナージャの声とバタンと扉を閉める音が聞こえた。
ナージャは酒場の開店準備に追われ、朝から忙しそうにしていた。
ギルドまでは歩いて20分位かかるらしい。
せっかくだから町を観察する事にしよう。
まず驚いたのが酒場を出てすぐの広場だ。
昨日は人の姿等全く無かったが、今日は噴水前に露店が軒を連ね、色々な商品を並べている。
買い物客も集まり、ちょっとした市場の様だ。
「おっ。ダズさん! おはよう!」
と声を掛けてきたのは、猫の様な顔をした魚売りだ。
きっと猫の獣人なんだろう。
「活きのいいログーマが入ってるよ。一匹いかが?」
その視線の先には2メートル近い巨大な魚がぶら下がっている。
「悪い。仕入れはナージャに任せてあるウホ」
間髪入れず断るダズ。
慣れていると言うか実際その通りなのだろう。
しかし、まわりの店主達もダズに気づいたのか、次々に声を掛け始めてきた。
「ダズさん! 今朝採れた野菜はいかが?」
「ダズさーん。40年物のカエル酒入荷したよっ」
「ダズ。今日も男前だねぇ。占っていかない?」
次から次へと声が掛かるが、それをピシャリと断り、すたすたと歩くダズ。
さすがだ。
出来るゴリラだ。
「あ!ダズ兄さん。天国バナナ入りましたよー」
ピタッとダズの歩みが止まる。
「ウ。ウホポゥ……?」
と、今まで聞いた事が無い声が聞こえている。
「ダズ?」
身体もプルプルと小刻みに震えている。
俺の言葉は耳に入っていない。内に潜む何かと必死に闘っているようだ。
前言撤回。
俺は大きな声でダズを呼んだ。
「ナージャさんに怒られますよっ!!」
「ウホッ!」
こうかはばつぐんだ。
言うや否や、ダズは背中に1本の棒が入ったかの様に、背筋をピンッとまっすぐにし、すたすたと歩き始めた。
こうして俺達は広場を抜けることに成功したのだった。
◆
「昨日は休息日だったウホよ」
ダズが説明してくれた。
なんでも、聖女「なんとか」の生誕した日らしい。
数百年前に魔王「なんとか」が、この町「レーベル」に侵攻してきた時に、その身を挺してこの町を護った偉大な方なのだそうだ。
ちなみに「なんとか」とはダズの言葉そのままである。
偉大な方の名前を忘れるなよ・・
そして感謝の意を込めて、その日は一切の労働、家事をしないのだそうだ。
何故感謝する事が労働しない事に変換されるのかはわからないが、昨日人がいなかった理由はわかった。
ちなみに昨日ダズはゴミ出しを命ぜられ、その帰りに俺を発見したらしい。
休息日とは一体……
軽く同情を覚えつつ、昨晩ナージャがサンドイッチを作ってくれた事を思いだし、改めて二人に感謝をした。
広場を抜けるとそこは大通りだ。
ギルドはここをひたすらに真っ直ぐ行くと着くらしい。
まだ距離があるのか道の先を見てもよくわからない。
町の雰囲気を一言で表すなら中世ヨーロッパと言った所だろうか。うむ。テンプレ通りだな。
ただ道に沿って丸い物体が宙に浮かんでいるのがに気になった。
聞くと、これは街灯の様なもので、夜になると自動で灯りが灯るらしい。
異世界からの技術に依るもので、「原理はわからないウホッ」と言っていた。
他にも自動ドアや信号機なんかを見かけたが、俺の知っているものとは少し違っていて、異世界にいる事をしみじみ実感するのだった。
ここ「レーベル」は町としては中規模だそうだ。
しかし中規模と言っても、ギルドもあるし、雑貨屋や食糧を扱う店も多く、武器屋に防具屋まで一通り揃っている。
生活に不便することは無いそうだ。
小さい町や村なんかにはギルドは無い事が多い為に、転移した場所がこの町だったのは幸運と言えるんじゃないだろうか。
北には大都市「イングラム」があり、そこを目的地とする冒険者や商人達も多く、中継地点的な意味合いも強いようだ。
なるほど。どうりでいろんな種族を見かけると思った。
人間をはじめ、様々な獣人、エルフ、ドワーフ、リザードマンにオーク等々。さらにはナージャの様に各種族のハーフやクォーターまで含めると正に種族のるつぼと言える。
一つ気になった事をを聞いてみた。
「リザードマンやオークはトカゲや豚の獣人って事?」
「違うウホッ」
即答された。
えー何が違うんだろう。
なんか納得できない。
そんな話をしている内に目の前に大きな建物が見えてきた。
「ヨースケッ! ギルドに着いたぞっ。」
ん~。まだ寝ていたい。あと5分。Zzzz。
「起きないな。一発いくか」
「はいっ! 今起きますっ!」
条件反射の様に飛び起きる。
「おはよう。良く眠れたウホ?」
頭は思いの外すっきりとしている。
身体的な疲れもあってかぐっすり眠れた様だ。
窓からは暖かな日射しが差し込み、小鳥だろうか、さえずりが聞こえてくる。
「俺の準備は終わったウホ」
ダズは既に支度を終えている様だ。
昨日は黒い腰布を着けていたが、今日は黄色い腰布を着けている。手に持っているのは、皮で出来た頑丈そうな袋だ。
その袋の口からは黄色く長い房状の物体が飛び出している。
…………バナナはおやつに入りますか?
「俺は特に準備するものも無いから、いつでも行けますよ」
そうなのだ。
カバンは元の世界に置いてきてあるし、財布も携帯もそのカバンの中に入っていた。まあ、例え持ってきていたとしても、この世界では何の役にも立ちそうにないが。
俺はネクタイと背広を装備し、ダズに声を掛ける。
戦闘準備完了だ。
「じゃギルドに行きましょうか。」
◆
「行ってらっしゃい」
後ろでナージャの声とバタンと扉を閉める音が聞こえた。
ナージャは酒場の開店準備に追われ、朝から忙しそうにしていた。
ギルドまでは歩いて20分位かかるらしい。
せっかくだから町を観察する事にしよう。
まず驚いたのが酒場を出てすぐの広場だ。
昨日は人の姿等全く無かったが、今日は噴水前に露店が軒を連ね、色々な商品を並べている。
買い物客も集まり、ちょっとした市場の様だ。
「おっ。ダズさん! おはよう!」
と声を掛けてきたのは、猫の様な顔をした魚売りだ。
きっと猫の獣人なんだろう。
「活きのいいログーマが入ってるよ。一匹いかが?」
その視線の先には2メートル近い巨大な魚がぶら下がっている。
「悪い。仕入れはナージャに任せてあるウホ」
間髪入れず断るダズ。
慣れていると言うか実際その通りなのだろう。
しかし、まわりの店主達もダズに気づいたのか、次々に声を掛け始めてきた。
「ダズさん! 今朝採れた野菜はいかが?」
「ダズさーん。40年物のカエル酒入荷したよっ」
「ダズ。今日も男前だねぇ。占っていかない?」
次から次へと声が掛かるが、それをピシャリと断り、すたすたと歩くダズ。
さすがだ。
出来るゴリラだ。
「あ!ダズ兄さん。天国バナナ入りましたよー」
ピタッとダズの歩みが止まる。
「ウ。ウホポゥ……?」
と、今まで聞いた事が無い声が聞こえている。
「ダズ?」
身体もプルプルと小刻みに震えている。
俺の言葉は耳に入っていない。内に潜む何かと必死に闘っているようだ。
前言撤回。
俺は大きな声でダズを呼んだ。
「ナージャさんに怒られますよっ!!」
「ウホッ!」
こうかはばつぐんだ。
言うや否や、ダズは背中に1本の棒が入ったかの様に、背筋をピンッとまっすぐにし、すたすたと歩き始めた。
こうして俺達は広場を抜けることに成功したのだった。
◆
「昨日は休息日だったウホよ」
ダズが説明してくれた。
なんでも、聖女「なんとか」の生誕した日らしい。
数百年前に魔王「なんとか」が、この町「レーベル」に侵攻してきた時に、その身を挺してこの町を護った偉大な方なのだそうだ。
ちなみに「なんとか」とはダズの言葉そのままである。
偉大な方の名前を忘れるなよ・・
そして感謝の意を込めて、その日は一切の労働、家事をしないのだそうだ。
何故感謝する事が労働しない事に変換されるのかはわからないが、昨日人がいなかった理由はわかった。
ちなみに昨日ダズはゴミ出しを命ぜられ、その帰りに俺を発見したらしい。
休息日とは一体……
軽く同情を覚えつつ、昨晩ナージャがサンドイッチを作ってくれた事を思いだし、改めて二人に感謝をした。
広場を抜けるとそこは大通りだ。
ギルドはここをひたすらに真っ直ぐ行くと着くらしい。
まだ距離があるのか道の先を見てもよくわからない。
町の雰囲気を一言で表すなら中世ヨーロッパと言った所だろうか。うむ。テンプレ通りだな。
ただ道に沿って丸い物体が宙に浮かんでいるのがに気になった。
聞くと、これは街灯の様なもので、夜になると自動で灯りが灯るらしい。
異世界からの技術に依るもので、「原理はわからないウホッ」と言っていた。
他にも自動ドアや信号機なんかを見かけたが、俺の知っているものとは少し違っていて、異世界にいる事をしみじみ実感するのだった。
ここ「レーベル」は町としては中規模だそうだ。
しかし中規模と言っても、ギルドもあるし、雑貨屋や食糧を扱う店も多く、武器屋に防具屋まで一通り揃っている。
生活に不便することは無いそうだ。
小さい町や村なんかにはギルドは無い事が多い為に、転移した場所がこの町だったのは幸運と言えるんじゃないだろうか。
北には大都市「イングラム」があり、そこを目的地とする冒険者や商人達も多く、中継地点的な意味合いも強いようだ。
なるほど。どうりでいろんな種族を見かけると思った。
人間をはじめ、様々な獣人、エルフ、ドワーフ、リザードマンにオーク等々。さらにはナージャの様に各種族のハーフやクォーターまで含めると正に種族のるつぼと言える。
一つ気になった事をを聞いてみた。
「リザードマンやオークはトカゲや豚の獣人って事?」
「違うウホッ」
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「ヨースケッ! ギルドに着いたぞっ。」
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