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第6話 ほかほか
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「…………」
「…………」
「…………」
俺とダズと受付のお姉さんは1つのテーブルを囲んだまま皆うつむいている。
さっきから誰も一言も発しようとしない。
場には重い重い雰囲気。
テーブルの隣を通る人達も、場の重力を感じとり足早に通り過ぎていく。
どうしてこうなった?
話はさかのぼる事30分前。
◆
「いらっしゃいませ~。」
ギルドに入ると、明るい女性の声が聞こえてきた。
受付とおぼしきカウンターにはウサギ耳の可愛らしい女性が立っている。どうやら声の主はこの人みたいだ。
「あら~。ダズさん。今日はどういったご用件ですか~」
ダズとは顔見知りの様だ。
小首をかしげながら尋ねてくる様子がまた可愛らしい。
「ウホッ。今日は用事があるのは俺じゃなくて、こっちウホッ」
と、隣にいる俺を指差す。
「あ、えっと、スキルの鑑定をしてもらいたいんだけど・・」
「かしこまり~。こちらへどうぞ~」
そう言うと、ぴょんぴょん跳ねながら奥のテーブルに案内をしてくれる。カウンターで見えなかったが、上半身は人間がベースで、耳と下半身はウサギがベースの様だ。思ったよりもジャンプ力が・・・無い。
「受付、代わりにお願いね~」
この子が鑑定してくれるのだろうか。
側を歩いていたエルフの様な見た目の男性に声を掛けている。
「ここどうぞ~」
案内されたのは何の変鉄も無い木のテーブルだ。
スッと椅子に腰かける俺。
テーブルの上には水晶玉のような丸い物体が置いてある。
「ダズさんはこれに~」
と、俺が座っている椅子より2回りは大きい、頑丈そうな椅子を持ってきてくれた。ギルドだけあって、様々な種族に対応できる様に準備してあるのだろう。
「こいつはヨースケ。昨日転移してきたばっかりの異世界人だウホッ」
「ども」
軽く会釈する。
「お~。転移したばかりの人なんて珍しいです~。あたしはミミです。よろしくです~」
眼をぱちくりさせて自己紹介してくれた。
「ウホッ。ミミはスキル鑑定のスキルを持っているウホよ」
「えへへ~」
椅子に腰掛けながら、ミミと呼ばれた女性は照れたように笑う。
それもそのはず、スキルの鑑定とは想像以上に凄いのだ。
スキルを鑑定する方法はただ1つ。
スキル鑑定のスキルを持った者にお願いするしかないと言う。
それ故、スキル鑑定が出来る人材は重宝され、ギルドや教会、王国のお抱えなど、公務員的な職業に就くものが多いらしい。
また高報酬でパーティに雇われたりする者も中にはいるみたいだ。
つまりはエリートスキルなのだ。
「じゃ~。さっそく鑑定、はじめますね・・まずはいくつスキルがあるか……」
スッと真剣な表情になり俺の事を見つめるミミ。先程までの、にこにこした表情では無い。かなり集中している様だ。
ダズはと言うと、ウホウホ言いながらバナナを食べている。
いつの間に・・他人事だな~。
俺は鑑定結果が気になって、さっきからドキドキが止まらないってのに。
例えるなら、極レアが出るのがほぼ決定しているガチャを引く感じだろうか。
能力を奪うスキルとか不老不死とかやばいな~。
安定性を選ぶなら鑑定スキルもいいな~。
いやいや、時を操るってのも捨てがたい。
あれこれ考えてる内に、鑑定が終わったようだ。
ミミが興奮したように説明を始める。
「びっくり~。5つもスキルがありますよ~」
「すごいウホッ。普通最初は1つか2つウホッ」
俺は耳を疑った。
チートスキルが5つもっ!?
それは時を操れる上に不老不死も夢では無いって事か?
やったー!俺は人間をやめるぞーっ!!
にこにこしながらミミが続ける。
「じゃ詳細を見てみましょうか~」
目の前の水晶玉の様な物体から、鑑定結果が印字された紙が出てきている。不思議だ。紙が出てくる穴など全く見えないのに、紙が出てきている。これも異世界の技術だろうか。
「じゃ~ん。1つ目発表~」
ミミが詳細を説明してくれた。
【ふむふむ】lv1
効果 異なる言語を理解、使用出来る。
おおおおっ!これのおかげかっ!
言葉が通じるのはっ!
なんで今まで言葉が通じることを不思議に思わなかったのか。
ふむふむ様~。ありがたや~。
「これは【語解】と似てますね~」
「ウホッ。確かに」
興奮する俺を横目にボソボソと二人が話している。
【語解】
効果 異なる言語を理解出来る。
「【使用できる】とあるから【語解】の上位互換ですかね~。でもいつ使うんでしょうか~」
「あれ?これってチートスキルじゃないの」
キョトンとする俺。
「はい~。この世界の者なら【語解】を誰でも持っていますし~、【ふむふむ】には使用できる効果が付与されている様ですが、あまり使い道がないような~」
つまり、【語解】は相手の言語を話したり、文字を書いたりは出来ないが、【ふむふむ】はそれを可能にすると言うことだ。
ただ、そもそも相手には【語解】があるから、わざわざ相手の使用している言語にする必要がない訳だ。
あれ?チートっちゃあチートだけど。
なんか微妙じゃね?
みんな持ってる【語解】とあまり変わらない。
仮面○イダー1号が仮面○イダー2号に。
ウ○トラマンが帰って来た様に。
変わったけどそんなに変わらないよ的な。
まぁ~あと4つもあるんだ。
気を取り直していこう!
と、鑑定結果の続きを見ていたお姉さんが「うわぁ~」と呟く。
うん。そういうのは声に出しちゃいけないと思う。
「じゃ、一気にいきますね~」
意を決したかのように、お姉さんは残りの鑑定結果を説明し始めた。
【ぽたぽた】lv1
効果 液体(15g以内)を操る力
「大さじが不要になりますね~」
【ころころ】lv1
効果 球体(直径5cm以内)を操る力
「ダンゴムシには有効ですね~」
【ぱくぱく】lv1
効果 上限を越えて少しだけ食べる事が出来る。
「私はたくさん食べる人好きですよ~」
もういいよ。もう疲れたよ。
なんだかとても眠いんだ。おいで、パ○ラッシュ・・
あー裸の天使達に拉致られるー。ヘルプミー。ヘルプミー。
「あっ。最後のは使えそうですよ~」
えっ。なになに!
願わくば、能力を奪う力や不老不死とかっ。
いやなんでもいいっ。
チートスキルよ!!
頼む・・来いっ!!
【ほかほか】lv1
効果 芋(全般)に早く熱が通る。
「良かったですね~」
もはや何のフォローにもなってないよ。
俺は一体何の為にこの世界に転移したのだ。
俺は無の表情でミミを見つめる。
サッと下をうつむくミミ。
ダズを見ると既に下を向いて、俺と顔を合わさないようにしている。
そうして俺も下を向き、三人共ただただ黙るのであった。
「…………」
「…………」
俺とダズと受付のお姉さんは1つのテーブルを囲んだまま皆うつむいている。
さっきから誰も一言も発しようとしない。
場には重い重い雰囲気。
テーブルの隣を通る人達も、場の重力を感じとり足早に通り過ぎていく。
どうしてこうなった?
話はさかのぼる事30分前。
◆
「いらっしゃいませ~。」
ギルドに入ると、明るい女性の声が聞こえてきた。
受付とおぼしきカウンターにはウサギ耳の可愛らしい女性が立っている。どうやら声の主はこの人みたいだ。
「あら~。ダズさん。今日はどういったご用件ですか~」
ダズとは顔見知りの様だ。
小首をかしげながら尋ねてくる様子がまた可愛らしい。
「ウホッ。今日は用事があるのは俺じゃなくて、こっちウホッ」
と、隣にいる俺を指差す。
「あ、えっと、スキルの鑑定をしてもらいたいんだけど・・」
「かしこまり~。こちらへどうぞ~」
そう言うと、ぴょんぴょん跳ねながら奥のテーブルに案内をしてくれる。カウンターで見えなかったが、上半身は人間がベースで、耳と下半身はウサギがベースの様だ。思ったよりもジャンプ力が・・・無い。
「受付、代わりにお願いね~」
この子が鑑定してくれるのだろうか。
側を歩いていたエルフの様な見た目の男性に声を掛けている。
「ここどうぞ~」
案内されたのは何の変鉄も無い木のテーブルだ。
スッと椅子に腰かける俺。
テーブルの上には水晶玉のような丸い物体が置いてある。
「ダズさんはこれに~」
と、俺が座っている椅子より2回りは大きい、頑丈そうな椅子を持ってきてくれた。ギルドだけあって、様々な種族に対応できる様に準備してあるのだろう。
「こいつはヨースケ。昨日転移してきたばっかりの異世界人だウホッ」
「ども」
軽く会釈する。
「お~。転移したばかりの人なんて珍しいです~。あたしはミミです。よろしくです~」
眼をぱちくりさせて自己紹介してくれた。
「ウホッ。ミミはスキル鑑定のスキルを持っているウホよ」
「えへへ~」
椅子に腰掛けながら、ミミと呼ばれた女性は照れたように笑う。
それもそのはず、スキルの鑑定とは想像以上に凄いのだ。
スキルを鑑定する方法はただ1つ。
スキル鑑定のスキルを持った者にお願いするしかないと言う。
それ故、スキル鑑定が出来る人材は重宝され、ギルドや教会、王国のお抱えなど、公務員的な職業に就くものが多いらしい。
また高報酬でパーティに雇われたりする者も中にはいるみたいだ。
つまりはエリートスキルなのだ。
「じゃ~。さっそく鑑定、はじめますね・・まずはいくつスキルがあるか……」
スッと真剣な表情になり俺の事を見つめるミミ。先程までの、にこにこした表情では無い。かなり集中している様だ。
ダズはと言うと、ウホウホ言いながらバナナを食べている。
いつの間に・・他人事だな~。
俺は鑑定結果が気になって、さっきからドキドキが止まらないってのに。
例えるなら、極レアが出るのがほぼ決定しているガチャを引く感じだろうか。
能力を奪うスキルとか不老不死とかやばいな~。
安定性を選ぶなら鑑定スキルもいいな~。
いやいや、時を操るってのも捨てがたい。
あれこれ考えてる内に、鑑定が終わったようだ。
ミミが興奮したように説明を始める。
「びっくり~。5つもスキルがありますよ~」
「すごいウホッ。普通最初は1つか2つウホッ」
俺は耳を疑った。
チートスキルが5つもっ!?
それは時を操れる上に不老不死も夢では無いって事か?
やったー!俺は人間をやめるぞーっ!!
にこにこしながらミミが続ける。
「じゃ詳細を見てみましょうか~」
目の前の水晶玉の様な物体から、鑑定結果が印字された紙が出てきている。不思議だ。紙が出てくる穴など全く見えないのに、紙が出てきている。これも異世界の技術だろうか。
「じゃ~ん。1つ目発表~」
ミミが詳細を説明してくれた。
【ふむふむ】lv1
効果 異なる言語を理解、使用出来る。
おおおおっ!これのおかげかっ!
言葉が通じるのはっ!
なんで今まで言葉が通じることを不思議に思わなかったのか。
ふむふむ様~。ありがたや~。
「これは【語解】と似てますね~」
「ウホッ。確かに」
興奮する俺を横目にボソボソと二人が話している。
【語解】
効果 異なる言語を理解出来る。
「【使用できる】とあるから【語解】の上位互換ですかね~。でもいつ使うんでしょうか~」
「あれ?これってチートスキルじゃないの」
キョトンとする俺。
「はい~。この世界の者なら【語解】を誰でも持っていますし~、【ふむふむ】には使用できる効果が付与されている様ですが、あまり使い道がないような~」
つまり、【語解】は相手の言語を話したり、文字を書いたりは出来ないが、【ふむふむ】はそれを可能にすると言うことだ。
ただ、そもそも相手には【語解】があるから、わざわざ相手の使用している言語にする必要がない訳だ。
あれ?チートっちゃあチートだけど。
なんか微妙じゃね?
みんな持ってる【語解】とあまり変わらない。
仮面○イダー1号が仮面○イダー2号に。
ウ○トラマンが帰って来た様に。
変わったけどそんなに変わらないよ的な。
まぁ~あと4つもあるんだ。
気を取り直していこう!
と、鑑定結果の続きを見ていたお姉さんが「うわぁ~」と呟く。
うん。そういうのは声に出しちゃいけないと思う。
「じゃ、一気にいきますね~」
意を決したかのように、お姉さんは残りの鑑定結果を説明し始めた。
【ぽたぽた】lv1
効果 液体(15g以内)を操る力
「大さじが不要になりますね~」
【ころころ】lv1
効果 球体(直径5cm以内)を操る力
「ダンゴムシには有効ですね~」
【ぱくぱく】lv1
効果 上限を越えて少しだけ食べる事が出来る。
「私はたくさん食べる人好きですよ~」
もういいよ。もう疲れたよ。
なんだかとても眠いんだ。おいで、パ○ラッシュ・・
あー裸の天使達に拉致られるー。ヘルプミー。ヘルプミー。
「あっ。最後のは使えそうですよ~」
えっ。なになに!
願わくば、能力を奪う力や不老不死とかっ。
いやなんでもいいっ。
チートスキルよ!!
頼む・・来いっ!!
【ほかほか】lv1
効果 芋(全般)に早く熱が通る。
「良かったですね~」
もはや何のフォローにもなってないよ。
俺は一体何の為にこの世界に転移したのだ。
俺は無の表情でミミを見つめる。
サッと下をうつむくミミ。
ダズを見ると既に下を向いて、俺と顔を合わさないようにしている。
そうして俺も下を向き、三人共ただただ黙るのであった。
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