ほかほか

ねこ侍

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第9話 あんれまぁ。ようこそペクトロ村へ。

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 ガタッ! ガタガタッ!!

 俺はペクトロ村へと向かう乗合馬車の中にいる。
 芋を煮る工場の依頼を受ける事にしたのだ。

 依頼先はペクトロ村にあるペク芋の加工販売工場。

「詳細は依頼主に直接聞いて下さい~」

 ミミはそう言っていた。
 村には芋工場は1つしか無いからすぐわかるそうだ。

「ウホッ。頑張ってこいよ。ウホウホッ」

 レーベルを出発する時には、ダズは胸を叩きながらエールを送ってくれた。

「ありがとう。ナージャさんにもよろしく! ウホッ」

 俺はダズの真似をして胸を叩いて見せた。

 あの時のダズの冷めた眼が忘れられない。



 そんな感じで馬車に乗り込んだのだが・・


 ガタッ! ガタタタタタタッ!

 ガァタタタタタタタタタタタタタタタタタタァッ!!


 まるで世紀末の救世主の様に雄叫びをあげ、激しく上下に揺れる馬車。

 お尻に百烈拳を叩き込まれているかの様だ。


 お尻はもう死んでいる……


 ガタタタッ!

 窓から外を眺めるとかなりのスピードが出ている。

 乗合馬車といっても乗客は今のところ俺1人だ。
 この馬車はレーベルとペクトロ村を繋ぐ王国運営の公共の乗り物であり、運賃はなんと無料である。

 これは本当に助かった。

 ペクトロ村までは歩いていけない距離では無いが、町の外には魔物や盗賊等、危険も多い。
 もちろん馬車なら安全かというと、そうでもないのだが多少は安心できる。

 しかし乗り心地は最悪だ。

 とにかく揺れが凄まじい。
 道は舗装などされていないし、馬車が石に乗り上げる度に身体が宙に浮く。
 何かにつかまっていないと椅子から放り出されそうだ。

 もう30分は乗っているだろう。酔ってないのが奇跡だ。
 尻の感覚はとっくに無い。

 途中いくつかの停留所を通過したようだが、乗る人はいないらしく馬車はノンストップで走り続けている。

 まぁ。これじゃ誰も利用しないだろうなー。

 レーベルには有料の乗合馬車もいくつかあったのだが、そちらには何人かが列を作っていたのを思い出す。

「抜群の乗り心地!」

「馬車、物質安定化魔法詠唱済」

「身体強化魔法承ります(別料金)」

 たくさんののぼりを掲げている。

 観光地の人力車っぽいなーと横目で見つつ、俺は声を掛けられないようにこそこそしていた。だって1文無しだからね。

 ダズに頼めばお金を貸してくれただろうが、これ以上迷惑を掛けたくはなかった。

「お客さん! そろそろ着きますよーっ!」

 御者が声を掛けてきた。

 と、同時に急ブレーキする馬車。

「ヌハッ!」

 前の座席に頭を打ち付ける。
 とほほ。なんでこんな目に。

「はい。着きましたっと」

 御者が馬車の扉を開けてくれた。

「ありがとう」

 涙目でお礼を言って、俺はよろよろしながら馬車を降りた。

 帰りは絶対に有料馬車にしよう……






「ペクトロ村」

 レーベルの西に位置している小さな村だ。
 主な特産物は「ペク芋」。村の名前の由来にもなっているペク芋は、村の西に広がるペクの森にしか自生しておらず知る人ぞ知る高級食材だ。小さな村の大切な収入源だ。


 村に入ると村人Aが話しかけてきた。


「あんれまぁ。ようこそペクトロ村へ」

 NPCのお手本の様なセリフだ。


「ペク芋工場ってどこでしょうか」

「あんれまぁ。ようこそペクトロ村へ」



 …………。

 おやおやぁ。

 嫌な予感がする。


「今日はいい天気ですね」

「あんれまぁ。ようこそペクトロ村へ」


 ! ! !

 うぉぉぉぉっ!

 これではっきりした。

 俺はゲームの世界にいるのだ。

 何者かに俺はこの世界に招待(召喚?)された。
 そしてこの電脳世界での死は現実世界での死を意味するのだろう。俺の冒険は今始まったのだ!


「あんちゃん、それ人形だっぺよ」

 通りかかった村人Bが呟く。


 …………始まらなかった。


 紛らわしいわっ!

 そして超恥ずかしいっ。
 穴があったら入って、上から土をかぶせて欲しいっ。

 村人Aは良く見たら確かに人形だった。
 人の声や気配に反応して自動で音声が流れる仕組みの様だ。

「あぁ。芋工場ならあの青い屋根の建物だっぺよ」

 親切な村人Bが教えてくれた。

「ありがとうございます」

「あんれまぁ。ようこそペクトロ村へ」

 村人Aが反応しやがった。

 俺はいたたまれない気持ちになり、逃げるようにその場を立ち去り、教えられた工場へ向かうのだった。

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