ほかほか

ねこ侍

文字の大きさ
17 / 53

第14話 ランジェ・ドール

しおりを挟む
「大丈夫ですか」

「あ……ああ」

 あ、しか言えない俺。

「良かった」

 と少年は微笑む。

 少年の柔らかそうな金色の髪は肩で切り揃えられており、風にふわりとなびく。
 その大きな瞳には力が溢れている。

 背は俺より少し低いだろうか。

 一見すると少女にも見える、その華奢な外見とは裏腹に、身の丈と同じほどの大剣を持っている。
 少年は大剣を片手でぶるんと振り、先程ヒュドラの太い首を斬り落とした際に付着した血を払い飛ばした。

 次に少年は工場長のもとに駆け寄ると、何やら手をかざし呪文を唱えている。
 俺も慌てて近寄ると、先程まで青ざめていた工場長の顔色に赤みがさしてきた。

「ヒールはあまり得意じゃないんだけど」

 !!

 きたーーーーーっ!
 ヒールきたーーーーーっ!!

 回復魔法の代名詞、ヒール頂きましたよ。

 何気に初めて見る魔法にちょっと興奮したりして。

「工場長ーー。大丈夫だっぺかー」
「よくぞご無事で」

 みんな集まって工場長の無事を喜んでいる。
 意識はまだ戻っていないが、もう大丈夫そうだ。

「さてと」

 少年はすたすたと俺の前にやってきた。

「僕の名前はランジェ・ドール。ヒュドラを追ってここまで来ました」

 俺はユースケ、とこたえる。聞くと三日前にギルドでヒュドラ討伐を請け負ったらしい。

「お見事な闘いぶりでした。助勢は無用かと思ったんですが」

「いやいや。とんでもない。助かったよ、ありがとう」

 お礼を言って無い事に気づき、慌ててお礼を言う。

「先程、あなたが『ほかほかーーーっ』て叫んでいたのは何ですか? 急にヒュドラが苦しみ出しましたが、かなりの高レベルの魔法かスキルじゃ無ければ、あんなにダメージを与えられないはずです」

 おおぅ。
 顔が急激に熱くなる。
 恥ずいわー。

 俺は【ほかほか】のスキルを説明してあげた。

「へぇー。それはまた珍しいスキルがあるんですね。……もしかしてレアスキル……異世界の方ですか?」

 ランジェは目をキラキラさせている。てっきり笑われるかと思った。

 とフサエが話に割り込んできた。

「ちょっと。工場長を診療所へ運ぶの手伝って」

 見ると工場長はまだぐったりとしている。
 魔法とはいえ完全回復とはいかない様だ。
 それか、ヒールは得意じゃないって言ってたからそのせいかな?

「あと工場もいつ崩れるかわからないから、早く外へ出て」

 はい。

 仰る通りです。
 確かにいつ崩れてもおかしくない。
 時折パラパラと破片が落ちてきている。

 俺は会話を中断して、工場長を背中におぶさると急いで工場を後にした。


――ペクトロ村診療所――
 
 村に一件しかない診療所。

 工場長は今、診察を受けている。
 控室には俺とヨシコ、あとランジェもいる。

 ガチャリ。

「ふう。安静にしていれば大丈夫だって」

 診察結果を聞いてきたフサエがほっとした声でみんなに告げる。

「よかっただ~。ずびっ」

 と、おいおい泣き始めるヨシコ。
 その横のランジェを見ると少し眼が潤んでいる気がする。
 おいおい。ヒュドラを一太刀で倒した男とは思えない。

「ヒールの魔法が効いたみたい。本当にありがとう。ぐすっ」

「当然の事をした迄です。ぐすっ」

 ずびっ

 ぐすっ

 ぐすっ

 泣いていない俺が鬼みたいだ。 

 しかしこの世界での医者の立ち位置が気になる。
 簡単な怪我ならヒールとかで治るだろうし、だとすると病気関係を診てくれるんだろうか?
 
 周りには様々なポスターが貼ってある。

 ・悪霊による呪いは早期発見が重要です。
 ・石化は治る時代!!
 ・人面祖予防にはゲルコサミンが効果的。

 頭が混乱してきた。 
 
「お礼もしたいのですが、工場はあの有様ですので……後で村民館へ来てもらえないでしょうか」

「あとユースケとヨシコにも相談があるの。村民館へ来てくれる?」

 フサエの話に俺もヨシコも頷く。

「お礼は結構ですよ。でも僕もユースケさんに聞きたい事があるので、そういう事なら後で村民館に伺いますね」

 なんだ。俺に聞きたい事って。
 他にどんなスキル持ってるんですか?とかだったら嫌だなー。

「じゃ準備もあるから3時間後に集合にしましょうか」

 とフサエがみんなに告げる。

「僕はちょっとヒュドラの死骸を調べてきますね。良い素材が手に入るかもしれないし」 

「おいおい。工場は危ないんじゃないか?」

「平気ですよ。じゃ後で村民館で会いましょう」

 まぁあの身のこなしなら大丈夫なんだろう。
 ランジェは工場に戻ってしまった。

「私達も解散にしましょうか。私は工場長の入院手続きがあるから――――」

 と、すぐにランジェが戻ってきた。

 気まずそうにもじもじしながらランジェが話す。


「あのー」


「村民館ってどこでしたっけ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...