ほかほか

ねこ侍

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幕間 レーズン・バターロール

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「お前さんは何故笑っておる」

 レーズンは問う。

「…………」

 答えぬか。だがそれでもいい。
 少しでも時間を稼がねば。

 レーズンの秘技<千枚通し>
 大岩をも砕くその秘技を発動するには、闘気を充分に練る時間が必要だ。

 相手は大岩を背にしている。だがレーズンが追い詰めた訳ではない。
 自ら大岩を背にし、退路を絶ったのだ。

 まだ笑っておる……

 もしや、わしの準備が終わるのを待っているのか。

 槍の先端、その一点に全ての闘気を集める。
 長年実践からは遠ざかってはいたが、極限まで研ぎ澄まされた集中力は全盛期の、いや全盛期を遥かに凌駕する力を引き出していた。

 槍の先端が蒼に染まる。

「はぁっ!!」

 鋭い呼気を吐き出すと同時に、レーズンが踏み込む。
 蒼い炎を纏ったかの様なその槍は、対象へとまっすぐに伸びてゆく。

 更に加速するレーズン。

 見ると相手は身じろぎ一つしていない。

 もらったぞ!

 しかし相手は、槍の先端がその身に当たる瞬間、恐ろしいスピードで身をよじると、そのまま槍の回りを蛇が絡みつく様な動きで躱しながら、レーズンとの距離を詰めてきた。
もしこの戦いを見ている者がいれば、残像は繋がり、正にが槍に絡みつく様に見えたであろう。

 信じられん……

 この技を受ける事は不可能だ。
 とすれば、右か左か、それとも上か、いずれかに避けるのであれば次に打つ手は考えていた。
 しかし躱しながら前にくるとは。

 慌てて後方へ飛びのくレーズン。
 
 相手が背にしていた大岩には、割るでも砕くでもなく、ぽっかりと綺麗な穴が空いていた。
 その穴の周りには亀裂一つ入っていない。
 それはレーズンが長年追い求めていて、半ば諦めていたものだった。

 こんな所で槍の境地にたどり着けるとはな……
 だが……すまんの、みんな。会いには行けそうに無い。

 レーズンの脳裏に浮かんだのは、息子夫婦と今年で成人を迎える孫娘の笑顔。

 それがレーズンの最後の記憶となった。
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