実は、邪神でした。

夕陽 八雲

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第1章 邪神復活 

第3話 暁の福音

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「そこにいる男は、我が団体の祭神。さあ、その男を返してもらうよ!」

(何だこの展開は!?)

 実家に帰ったら、親から実は邪神でしたって打ち明けられ、その上、怪しい宗教団体の人間が押しかけてきた。

「断る!トウヤは私の息子だ。終末思想を掲げ、人間や動物を怪しげな儀式の生け贄にするような団体の輩に渡しはしない!」

 毅然とした態度で、父が言い放つ。

「教祖の娘よ、トウヤを連れてどうするつもりだ?」

「愚問ね。その男は邪神…邪神の力を目覚めさせ、その力で世界を滅ぼすのよ!」

「な…っ!?」

 世界を滅ぼす…?
 本気で言ってるのか、あの不審者は。

 教祖の娘だという女は、体が隠れるくらい長いローブを身に纏い、顔はホクロがついた口元しか見えないくらいまでフードを深く被っている。

 ただでさえ格好が怪しいのに、頭も正常なのかも怪しい。

「私の邪魔をするなら…」

 教祖の娘が含みを持たせた様にそう言うと、何かが爆発して居間の襖と壁が弾け飛んだ。

「くっ…何だ!?」

 爆発で砕け散った襖の残骸を踏み付け、女と同様の格好をしたローブ姿の人が数人現れる。

(怪しい人が増えた!こいつらも、邪神を祭る宗教団体の連中か!?)

「あなたを殺して、奪い返すわよ?」

 教祖の娘と他のローブ姿の連中が居間に入って俺に近づこうとする。
 それに割って入る様に父が前に出た。

「トウヤに世界を滅ぼさせるだと?悪いが、息子をそんな不良にはさせんな。どうしても連れて行きたくば、私を倒してからにしろ!」

「ならば、殺す!!」

 ローブ姿の連中が一斉に手を、こちらに向ける。その掌から燃え盛る火球が出現する。

(火炎魔法!)

 まさに攻撃のための魔法という様な炎を固めた火の塊。一塊だけでも当たれば大火傷だが、それが複数あれば、人なんてあっと言う間に消し炭になるだろう。
 連中が掌から火の塊を放とうとする。

 しかしそれは叶わず、突然連中の手首から血が噴き出し、火の塊が消えるとともに悲痛な悲鳴を上げる。

「ぎゃあああー!」

「腕がっ!?」

 手首から噴き出す血を抑え、ローブ姿の連中がうずくまる。

「…さすが、元聖騎士ね」

 辛うじて斬られずにいた教祖の娘が、いつの間にか父の手に握られていた短刀を見て言う。
 よく見れば、動いた様子の無い父の立ち位置が僅か前にズレていた。

(身体を強化する魔法を使って、高速で移動してフードの奴らが攻撃する前に切ったんだ!)

 自身の筋力を強化させ、常人離れした身体能力を得る『身体強化魔法』。魔物や魔法使いと戦う事が多い聖騎士が得意とする魔法だと聞く。父はそれを使い、目にも止まらぬ速さで動いたのだろう。

「『暁の福音』の生き残りと言ったな。お前達は15年前の団員と比べれば弱すぎる。次の一太刀でまとめてお前達のそっ首を刎ねるぞ。死にたくなければ、トウヤの事は諦めて退散しろ!」

 短刀の切っ先を女に向ける。
 複数人斬ったのに刃には血一つ付いていない事から、かなりの速さの剣速とその技量の凄さを窺える。

 教祖の娘の頬に一粒の汗が垂れる。

(すごい、これが聖騎士の実力か)

 戦闘に特化し、その実力は通常の魔法使いを凌ぐとされる聖騎士。
 明らかに複数の敵を圧倒していた。
 父の言う通り、おそらく次の一太刀で決着してしまうだろう。

「そうね。このままでは、私達みんなやられてしまうわね。…このまま、ならね」

 教祖の娘が後ろに視線を向ける。
 すると、後ろに隠れていたもう一人の女の仲間が姿を見せながら、ある人物を引っ張り出す。

「な!?」

 その引っ張り出された人物を見て、驚く俺と父。
 その人物とは…

「母さん!」

 俺の母『トウカ・ヘルフィールド』であった。
 両手を縛られ、口周りを布で巻かれて気を失っている。

「貴様っ!」

「動くな!!」

 教祖の娘が声を上げ、父の動きが止まる。

 …と同時に、

「っ!?…ぐあっ」

 父の腹部を何かが突き刺した。

「父さん!」

「くふふ…」

 教祖の娘の手から魔法で出現させた氷柱が伸び、父の不意をついて刺したのだ。
 氷柱が瞬時に溶けて水になり、その水と共に父の腹部から血が流れ出す。

 父がその場で膝をつく。

「この…っ」

 不審者から危険人物になった女を取り抑えようとするが、教祖の娘が掌をこちらに向けた。

「…っ!?」

 何かで固定された様に脚が動かなくなる。
 パキパキッという割れる様な音とともに何かに脚が覆われ、その辺りが冷える。
 動かなくなった脚を見ると、足下から腿までが氷に覆われて固められていた。

 父を刺した氷柱といい、俺の脚を固定した氷といい、これは…─

「氷結魔法…!」

 空気中の水分を急激に冷やして物体を凍らせ、氷を創り出す魔法。
 氷結魔法の冷気せいか、狭い居間が一気に冷える。

「…暫し大人しくしていて下さい、ベルゼファール様。家族などとあなたを惑わして人間として縛り付けている、この自称親子だというオウル・ヘルフィールドとトウカ・ヘルフィールドの息の根を止めますわ。」

「ま、待て!やめろ!…くそ、動けない」

 刺された箇所を抑えて膝をついている父と縛られて気を失っている母に、教祖の娘の手が向けられる。
 冷気が掌に集まり、パキパキ…というガラスが割れる音とともに、先が尖った氷が現れる。

「ぐっ…」

「私の父…『暁の福音』の教祖の仇、オウル!死ね!」

 教祖の娘の両掌から出現した氷が鋭利な氷柱となって伸びて、その矛先が二人を刺す。

「ぐあああっ!」

「うっ…ああっ!?」

 痛みで起きた母は再び気を失い、床に倒れる。

「くそ、お前ええ!!」

 教祖の娘に飛びかりたいが、足場もろとも脚を凍らされて動けない。それどころか、氷は這い上がるかの様にさらに脚から上半身を凍り付かせ、俺の体は肩から下が凍って動けなくなってしまっていた。

 父と母を刺す氷柱が溶け、赤い血が流れ出る。
 溢れ出す血の量は多く、二人の呼吸も荒い。出血と室内の温度を急激に下げている冷気のせいか顔色もだんだんと白くなっていく。

(早く、二人を治療しなければ!)

 だが、体が凍って動けない。

「ベルゼファール様、もう少し大人しくお待ちください。両親の他にも、あなたを縛り付ける全てのものを消し去ってあげますので。」

「…どういうことだ?」

 俺がそう問いかけると同時に、大きな爆発音が鳴り響く。

(…っ!?)

 家が震えるくらいの爆発音。窓の外に視線を向けると、町のどこからか大きな黒煙が立ち込めていた。

「今このヨミノ町には、50人近く『暁の福音』団員達が来ています。今から総攻撃を開始してこの小さな田舎町を壊滅させますわ。」

「なんだと…っ」

 この居間にいるやつらの他にも、まだそんなにいるとは。
 しかも、この町を壊滅させようとしてるだと?
 邪神の復活を企むからして危険な団体だとはわかっていたが、ここまでするのか。

「ぐっ…、逃げろトウヤ!そいつらと一緒に行ってはならん!」

 傷口を抑えてうつ伏せに倒れる父が、絞り出すように声を上げる。
 逃げろと言われても体は動けないし、何よりも父と母を置いてはいけない。

(くそ…どうすれば)

 父と母は瀕死の状態。例えここから動いて教祖の娘を倒したとしても、父と母を連れ出そうにも町の外には暁の福音の多くの団員がいる。
 何とか突破口を考えようにも、もはや俺一人で何とか出来るような状況ではない。

 そうしてるうちにも、俺の体を拘束していた氷はさらに這い上がってくるように凍て付く。

「う…ああああ…っ」

 成す術も無く、首元まで凍らされていく。

「ベルゼファール様、ご無礼をお許しください。一度あなた様を氷漬けにして仮死状態にし、特別な方法であなた様から『トウヤ・ヘルフィールド』の人格を消し去ります。」

「人格を消すだと…?」

「この15年間で上書きされた人間の人格を消す事で、本来の邪神様を目覚めさせるのですわ。…そのためにも、あなたにはここで死んでもらいます。」

(上書きされた人間の人格を消すって…わけがわからない。正気か?)

 だが、そのよくわからない理由で俺は殺されそうになっていることは確かだ。

(まずいぞ…、このままでは頭まで凍らされる! )

 氷漬けにして仮死状態にするって言っていたが、冗談じゃない。本当に死んでしまう。
 氷は俺の首を凍らせ、とうとう口にまで辿りついていた。

「ぐっ…、トウヤ!」

「…っ、ト…トウヤ」

「ふふ…アハハ。さようなら、偽りの人格よ!」

(くそう、もうだめか…っ)

 傷口を抑えて立ち上がろうとする父と目を覚ました母、俺を嘲笑う教祖の娘の声を聞きながら、顔にまで這い上がって迫り来る氷に死を覚悟した―――

 …―その時だった。


【力を…ベルゼファール様の力を…】

(っ、なんだ…!?)

【力をお使い下さい…ベルゼファール様の力…】

(なんなんだ、この聞くだけで寒気がする声は…?誰だ!?)

【ベルゼファール様の力を…大いなる御業を…『魔物を創り出す』、神の力を…ッ】

 …————ッ!!


 俺の体を拘束する氷が弾けて割れ、中から大量のが飛び出す。

「何ッ…、これは!?」

 大量の蠅達が氷を食い破って、俺を解放する。完全に体の自由を取り戻すと、俺は何もない空間に手を向けた。
 すると、何もなかった空間に奇妙な塊が出現する。
 奇妙な塊は、初めは手に収まる様なサイズだったが、徐々に肥大化し、姿を変えて何かを形作ろうとしていた。

 その何かは骨となり、その骨を肉が覆い、皮が全身を包んで体毛を生やす。そして、それは異形な体と成り、生きている事を示すようにその鼻と口から吐息を吐く 。

「なんだ…あれは」

「これは、まさか!?」

 困惑する父と、驚愕する教祖の娘。

 何もなかった場所に出現した塊が異形な形へと変わり果て、それは歪で禍々しく、全身から殺気を放っていた。
 それは鋭い爪を剥き出しにした四つ足の獣の体に 、獅子と山羊の二つの頭を持ち、蛇の頭をした長い尾を床に叩きつけ、この場にいる者を威嚇する。

(これが…邪神の力)

 魔物を創りし神、ベルゼファールの御業。
 ならば、俺の手により生み出されたそれは…―

「魔物…」

 魔物がグルルゥ…と唸り、教祖の娘を睨み付ける。

「…くっ」

 教祖の娘が後ずさる。
 魔物は獅子の頭と山羊の頭ともに鋭い牙を見せ、今にも飛びかからんとしていた。

「っなんだ、この魔物は!」

 母を人質に取っていた教祖の娘の仲間が、俺の作り出した魔物に掌を向けて魔法で攻撃しようとする。
 しかし、魔物の蛇の頭をした長い尾が素早くしなったかと思うと、蛇の尾は自分に向けられた手を手首ごと噛み千切った。

「ぎゃああああ!?」

 手を噛み千切られた暁の福音の団員は、断末魔を上げながらその場に倒れて意識を失う。
 蛇が噛み千切った手を丸のみにしている間にも、獅子の頭と山羊の頭は教祖の娘をジッと睨み付けたままで、教祖の娘はその魔物から目を離すことが出来ずにいた。

 父に斬られた他の団員達も、負傷した事を忘れて魔物から目が離せないでいた。
 隙をみて攻撃を仕掛けようとする者とに逃げようとする者がいたが、魔物はそれよりも速く動いた。

 魔物は室内を跳ねる様に移動し、前脚の鋭い爪と口に生え揃った鋭い牙で団員達を切り裂いていった。

「うわあああっ!?」

「ぐあああああっ!」

 噴き出す血飛沫で居間を赤く染めながら、団員達が倒れていく。
 魔物が教祖の娘に飛びかかる。

「この…っ!」

 両手を前に向け、氷結魔法で魔物との間を阻む氷の壁を作り出す。
 魔物はその氷の壁の前に立ち止まると、獅子の頭と山羊の頭が大きく口を開いて、勢いよく炎を放射した 。

「炎を、吐いた…!?」

 強い火勢と高熱を帯びた炎が氷の壁を溶かし、その向こうにいる教祖の娘の姿を露わにする。

(すごい…)

 炎の熱気により室内が熱くなる。手の甲で汗を拭いながら、自らの手で作り出した魔物の強さに驚いていた。

 死を目前にして聞こえた謎の声。その声を聞いて邪神の力の覚醒をその身に実感した時、暁の団員を倒すことを願い、強い魔物を想像して作り出した。
 魔物は願った通り団員達を倒し、教祖の娘を追い詰めている。

 氷が解けた水たまりを踏みつけ、じりじりと魔物が教祖の娘に近づく。
 焦った教祖の娘は思い出したかのようにハッとし 、後方に手を向ける。

「その魔物を止めなさい!さもないと、あなたの母親を刺すわよ!」

 再び母を人質にしようとする教祖の娘であったが 、

「…いや、その必要はない。」

「父さん!?」

「なんですって?…あっ」

 手を向けていた所に母がいない事に気づく。
 教祖の娘達が魔物に気を取られている間、いつの間にか父が身体強化の魔法で高速で移動し、母を教祖の娘から離れた所に運びだしていた。

 グルルゥ…と唸り声を上げる魔物。

「く…っ」

 戦うしかないと思ったのか、両手を魔物に向ける教祖の娘。
 魔物の二つの頭と蛇の頭のそれぞれの口から炎の息が漏れる。

(…行けえ!)

 魔物に心の中で強く命ずる。
 教祖の娘が氷結魔法で作りだしたいくつもの氷柱が、魔物へと矛先を向けて伸びる。
 魔物は三つの大きな口を開き、大量の炎を吐き出した。

 炎は氷柱を食らう様に包み込んで溶かしていき、そのまま教祖の女へと走る。

「あ…ああああああーっ!!」

 苦しそうな声を上げる教祖の娘の姿が、炎に覆われる。
 炎は居間を越え、その奥の部屋までも焼き尽くす。

「やったのか…?」

 居間の出入り口は黒く焦げ、その先の向こう側が焦土と化していた。
 ほとんどが灰になった所を見る。

(…っ!?教祖の娘がいない!)

 そこに大量の炎に包まれたはずの教祖の娘はいなかった。
 あまりの炎の量に体が灰になったのかと思ったが、それらしき形跡の物が無い。

(まさか、逃げたのか?)

 そう考えていると、父の声で思考を中断する。

「ごほっ…、トウヤ」

「父さん!」

 父と母の元に駆け寄り、二人の怪我の具合を確認する。

(二人とも怪我がひどい。血が止まらないぞ!)

 二人とも出血がひどく、父が自分と母の傷口を抑えているが、血はその手から漏れ出して流れていた。
 無理して母を助けに行ったのだろうか、父の呼吸が荒く、目が虚ろだ。
 二人の顔は白くなっていき、容体が良くないことを表していた。

(まずい、早く病院に連れて行って治療を…っ)

 だが、今は町のあちこちで暁の福音の団員が暴れ回っている。
 外から悲鳴と爆発音が聞こえ、町中が混乱状態なのだとわかる。
 病院まで連れて行こうにも、簡単には行けそうにない。

(くそ、このままじゃあ二人が死んでしまう!)

 徐々に呼吸が弱っていく両親を見て焦る俺のもとに、先程作り出した魔物が近づく。
 魔物は俺を落ち着かさせようとしてるのか、頭を摺り寄せてきた。

「あ…、そうだ。邪神の力で何とかならないか」

 自分の手を見る。

(ベルゼファールの力は『魔物を創り出す』こと。治癒の役に立ちそうにないが…。)

 ―ブブブブ…

 俺が氷漬けになった時、その氷を食い破った大量の蠅達が俺と両親の周りに集まる。
 邪神の力以外に頼るものが無い俺は、藁にもすがる思いで蠅達に願う。

「頼む…父さんと母さんを、助けてくれ」

 すると、蠅達は俺に応える様にブブブブ…と飛び回った後、二手に分かれて父と母の傷口へと入っていく。

「ぐ…おおっ」

「ああ…っ」

 苦しそうに呻く二人。
 傷口に群がる蠅達が体内へと入って体の組織の一部、皮膚に変わって傷口を塞ぐ。みるみるうちに二人の顔色が良くなっていく。
 全ての蠅達が入り終わると怪我は無くなり、二人の顔にも赤みがかかって呼吸も安定していた。

「よ、よかった~…」

 正直、魔物が両親の体の中に入って本当に大丈夫なのかと思うが、とりあえず二人の命は助かったことに安堵していた。

「ありがとう、蠅達。」

 一安心すると、獅子と山羊の頭の魔物がまたも頭をスリスリと擦り付けてきた。

「お前も、ありがとうな。本当に、助かったよ。」

 礼を言って二つの頭と尾の蛇頭を撫でると、グルゥ…と小さく唸ってその体が灰となって崩れた。

(なんで!?)

 役目を終えたからか、それとも邪神の力が不安定なのか。どちらにしても、魔物が灰に変わったという事実にただ驚き、茫然と魔物だった灰を見る。

(うっ…)

 突如疲労感が襲い、体が鉛の様に重く感じる。心なしか一瞬だけ視界がぼやけた気がした。

「はあっ…はあっ…邪神の力を使ったからか…」

「トウヤ…」

 呼吸が安定して意識を取り戻した父が起き上がる。

「父さん、横になってた方が…」

「いや、何故か調子がいい。さっきまで死にそうになっていたとは思えないくらいだ。」

 蠅達のおかげだろうか。父は完全に回復していた。
 同じく回復した母も起き上がる。起き上がるや否や、俺に駆け寄って来た。

「トウヤ、大丈夫なの?」

「うん、俺は大丈夫。二人ほど、怪我するようなことはなかったからね」

「汗が凄い…それに、すごく疲れた顔してるけど本当に大丈夫なの?」

「本当…大丈夫だから」

「そう…よかった」

 安心した後、母の表情が曇る。

(…どうしたんだろ?)

「トウヤ、母さん。暁の福音の団員がまだ町にいる。またこの家に来るかもしれん。ひとまず、町を出るぞ!」

(そうだ、何も終わってない)

 教祖の娘を撃退することは出来たが、町にはまだ団員の残りがいる。その残りの団員が、また俺を狙って来るだろう。
 邪神の力を使って再び魔物を作り出せばいいかもしれないが、今は突然体を襲った疲労感でさっきの様に成功できるか不安だ。

 急いで、三人で家を出る。

 すると…

「お待ちください。ヘルフィールド一家ですね? 」

 玄関を出ると、外には上衣が白い着物に赤い袴姿の人達が家を囲んでいた。
 全員が刀と弓を携え、俺達が出て来るのを待ち構えていたようであった。

(なっ!?暁の福音の団員か?)

 …いや、違う。
 あの白衣はくえ緋袴ひばかま。あのは、まさか…。
 そのうちの一人、俺達を呼び止めた人物と目が合う。
 黒く長い綺麗な髪を後頭部にまとめたその人物が、驚いて目を丸くする。

「あっ…」

「君は…」

 その人物は驚いた様子を見せるが、すぐに目を鋭くして険しい顔になる。
 袴姿で髪を後ろにまとめてたため一瞬わからなかったが、見覚えのあるその人物は…王立中央高等魔法学校の放課後の図書館で会ったあの女子生徒であった。

「真面目で好感が持てる男子だと思ったのだが…そうか、君は邪神だったのか。」

 女子生徒は一日ぶりの俺との再会の挨拶もそこそこに、俺達家族三人を見る。

「オウル・ヘルフィールド、トウカ・ヘルフィールド…そして、トウヤ・ヘルフィールド。『暁の福音』の団員は私達が拘束しました。なので、町から出る必要はありません。ご安心ください。」

「あなた方は、まさか…」

「…トウヤ・ヘルフィールド」

 女子生徒が俺を見据え、名を呼ぶ。

「…なんだ?」

「邪神…ベルゼファールの生まれ変わりだという君は、私達と一緒に来てもらおう。」

「え!?」

 こいつらも邪神の力を狙っているのか。それとも、俺の命を…

「安心しろ。私は…私達は君の味方だ。」

「俺の…味方?」

「そうだ。」

 身構える俺を安心させるためか、女子生徒の険しい表情が柔らかくなる。

 女子生徒が俺に近づく。

 王国の東側の地方から発祥し、王国最大の宗教団体『教会』に次ぐ大きな宗教団体の一員である彼女が手を差し出す。

「さあ、一緒に来てくれ…私達、『かみやしろ』のところに。」
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