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第1章 邪神復活
第6話 巫女 vs シスター
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「邪神 ベルゼファール、あなたを断罪します。」
「…二人とも下がるんだ。私が、彼女の相手をする。」
(一人で、あのシスターと戦う気か!?)
立ち上がって加勢しようとするが、手で制止させられる。
「気を失っている私の仲間を頼む。」
そう言うと、ホノカはパンッと柏手を鳴らす。
そして、人差し指と中指を立てた刀印という手の型を作ると、彼女の前に緋色の美しい鞘に納まった刀が出現した。
「あれは…」
仮面のシスターが現れた刀を見て息を呑む。
「…名刀『炎切り』。」
大昔に強大な炎の力を持った魔物をその炎とともに斬り倒したと云われる伝説の刀…、『炎切り』。
伝説上の武器だと思われていたが、実在していたのか。
(だが、相手は重量と長い攻撃範囲がある斧槍を使う。あれに刀で挑む気か?)
ホノカは一方の手で鞘を掴んで刀を腰の横に据えると、もう一方の手でその柄を掴んだ。
「教会のシスター、出来ればあなたとは戦いたくはない。どうか、ここは退いてくれないか?」
「愚問ですね。私は、邪神を殺しに来たのです。戦いたくなければ、貴女がそこを退いて下さい 。」
「すまないが、そうはいかない。…あの人は、殺させない。」
「あれは、人ではありません。邪神です。」
シスターが斧槍をブンッと振って、矛先をホノカに向けて構える。
「そこの邪神を庇うと言うなら、あなたも断罪します。」
「…どうあっても、退いてくれそうにはないか。」
緋色の刀を持つ狐のお面を被った巫女と、鉛色の鋼鉄の斧槍を持った仮面のシスターが相対する 。
「……………」
「……………」
─ じりッ…
二人が足を浮かせずに半歩躙り進む。そして…─
(─…ッ!)
二人が瞬時に重心を落とし、本殿の床を蹴り砕いて前進する。
前進した勢いのまま、シスターが斧槍の槍で素早い突きを出す。
ホノカは鞘を握ったまま親指で鍔を押し上げ、素早く刀を抜いた。
—ボオォッ
鞘から抜かれた刃の周りに炎が灯る。
抜刀した勢いのまま燃え盛る刃を横一文字に振るい、迫り来る槍を横から当てて弾く。
「むっ…!?」
(刀の刃に炎が!?)
柄を握ったまま斧槍を横に弾かれて、シスターが僅かにバランスを崩した。
その機を逃さず、ホノカが燃える刀を袈裟斬りに振るう。
だが、すぐに体勢を立て直したシスターが鉄製の長柄の中央で、ホノカの袈裟斬りを受けて防ぐ。
「…ッ!」
「…やるな。さすが、数人の神ノ社の団員を倒してここまで来るだけはある。」
ギチギチッ…と、刀と斧槍が鍔攻めり合う。
(刀に、火炎魔法を付与しているのか)
――武器への魔法の付与。
武器その物の強化、もしくは魔法の効力を持続的に使用しつつ戦闘を行うために使われる技法であり、武芸に秀でいて、近接戦闘を得意とする者が使う技法だ。
押し合う様に鍔攻めり合う両者だったが、間近に当たる炎の熱に耐えられなかったのか、シスターが離れて後退する。
それを追って、ホノカが前に跳んで間合いを詰める。
「はあっ!!」
「んっ!!」
一気に間合いを近づけたホノカが紅蓮色の炎を纏った刀を素早く連続で振るい、対して斧槍を構え直したシスターが応戦する。
ホノカが火柱の如き炎を纏った刃を振るう度に高温高熱の熱風が吹き、その熱気が本殿に広がる。
熱気により、少し離れた場所で俺と俺の腕の中で気を失っている巫女さんが汗をかく。
身を守るための補助魔法を使っているのか、間近でその熱を浴びているはずのホノカは炎の熱を意に介さず、達人並みの剣技で絶えず刀を振るい続け、シスターを攻める。
シスターは斧槍の長柄ポールを器用に扱い、ホノカの連撃を防ぎつつ、槍による突きと斧による斬撃を振るって反撃していた。
ガァンッと鉄と鉄が衝突する音と刃が空を裂く風音、炎の熱風が吹きすさび、二人の息もつかせぬ攻防が繰り広げられる。
─ガァンッ ガァンッ
「…神ノ社の方。貴女から殺気が感じられませんが、私に勝つつもりはあるのですか?」
「…教会のシスターよ、私はあなたを殺すつもりは無い。この場であなたを戦闘不能にすればそれでいい…。まずは、その斧槍を焼き斬る!」
素早い猛攻の後、ホノカはさらに燃え上がって火勢を増した炎切りを真っ向から大きく振り落とす。
だが、それをまたしてもシスターは斧槍の長柄で受け止める。
「く、硬いな」
「なるほど。私の命ではなく、私の武器の破壊が狙いでしたか。しかし、いくらその高温高熱の刃を振るおうが、この神聖な斧槍…『悪魔殺し』は破壊できませんよ。」
「そのようだ…ならば」
シスターから離れて距離を取ったホノカが、自分の懐から十数枚の人形の紙を取り出す。
それらをバラ撒くと、人形の紙が十数人のお面を付けたホノカの姿へと変わった。
(ホノカが増えた!?まさかあの魔法は…)
「これは…!?」
「神ノ社秘伝、『分身魔法』だ。」
突然現れた十数人のホノカに驚いて動きを止めたシスターの周りを、武器を持ったホノカの分身達が取り囲む。
—ジャラ…
分身達が手に持った武器…鎖鎌の鎖を伸ばして振り回すと、一斉にそれをシスター目掛けて放った。
(鎖でシスターを捕らえて動きを止める気か)
先に分銅を付けた鎖達が四方八方から放たれ、シスターの体に蛇の如く巻き付こうとする。
「ふぅ…」
息を吐いて肩の力を抜くシスター。
避けられないと観念したのかと思ったが…、
次の瞬間には分身達が放った鎖がバラバラに弾け飛ぶ。
「なに…っ!?」
「今、何が起きたんだ!?」
一瞬の出来事で何が起きたのかわからず、俺とホノカが目を見開く。
シスターが両手で斧槍をゆっくり回す。
「私を相手に殺さずして戦闘不能にしようなどと、あまいですよ。…もうこれ以上貴女に構ってられません。早く邪神を殺さないといけないので…」
斧槍の回転が速くなる。
華奢な腕で、バトンを回す様に軽々と重い斧槍を速く回転させるシスター。
「ここからは本気で行きます。神ノ社の方、そこを退かないのでしたら手足の一つ…二つとも斬られる覚悟はして下さい。」
「静かだが、すごい気迫だ。…これは、私も本気でいかないといけないのかもしれないな。」
「まだ戦うのでしたら、是非そうして下さい。そうすれば、命くらいは助かるかもしれません。」
ホノカが炎の刀を正眼に構える。
分身達も各々が魔法で刀を出現させると、抜刀してその刃に紅蓮の炎を灯火させる。
先程激しい攻防を繰り広げた時よりもさらに本気になった二人が対峙し、呼吸を忘れて息苦しくなる程の緊張感が漂う。
十数本の炎の刃に囲まれた中で、鋼鉄の斧槍が回転している一触即発の危険地帯と化した本殿… 。
両者が一つ息をついた後、その危険地帯が一気に動き出した。
分身達が駆け出し、十数本の炎の刃がシスターへと襲いかかる。
「「「はあーっ!!」」」
一切の逃げ場の無い中、シスターは斧槍を回しながら足で床に大きく円を描いて体を回転させ、
「…ふんっ!!」
自身を中心に公転する様な軌道で斧槍の刃を振るい、近づくホノカの分身達を斬り倒した。
(一瞬で複数の分身を斬った…!さっきはあの動きで鎖を…)
斬られた分身達が、元の人形の紙に戻る。
それに構わず、残った分身達が追撃を仕掛ける。
シスターはさらに歩を進めてつま先で大きく円を描き、移動をしながら自身を中心にして斧槍を高速で回す。
シスターの足取りは、軽快なステップで一人円舞曲を踊るかの様に本殿の床を滑り、緩やかに流れる川の様に静かであった。
しかし、彼女を中心に回転する斧槍はまるで暴風の如く激しい。
斧槍の長柄がシスターの手や腕、体を支点にしてあらゆる角度で回転し続け、風を起こしながら分身達を斬っていく。
次々と分身達が斬られ、巻き上がる埃とともに人形の紙が空中を舞う。
(なんて動きだ…これじゃまるで台風じゃないか!)
「ええいっ!」
ホノカは分身達と一緒に、斧槍の刃が体の周りで公転するシスターに斬りかかるが、斧槍の刃によってその攻撃が弾かれてしまう。
留まらず軽快なステップで助走をつけたシスターは、足を大きく前へと踏み出して斧槍を横薙ぎに振るう。
「ふっっん!」
全力で振り抜いた斧槍が、残った分身達を全て斬り倒した。
ホノカは刀の刃を立てて直撃を防いだが、ぶつけられた斧槍の重量と衝撃によって後方へとふっ飛ばされ、本殿を支える中央の大柱に背をぶつける。
「かは…っ」
(ホノカっ! まずい、何とかあのシスターを止めなくては! )
自分の手を見て、グッと握りしめる。
邪神の神気をその手に感じ取り、願う。
(あのシスターを止めてくれ!)
握りしめた手を開くと、暁の福音と対峙した時と同様に掌から丸い塊が出現する。
それが二つに分裂する。それぞれが骨となり、血がその周りを流れ、臓器と肉が付き、身体の各部位が整う。
そして、三メートル近くはありそうな巨躯と成り、筋肉に覆われた頑強な肉体が動き、顔の半分を占める大きな一つ目を開いた人型の大きな魔物…『キュクロプス』が出来上がった。
「キュクロプス!?魔物の召喚…?いいえ、この神気は…魔物を作り出した? 」
シスターが、ホノカから俺の方へと警戒を切り替える。
「邪神の力…っ、だめだ、トウヤ君」
ホノカが、ふらつきながら立ち上がる。
何か言ったようでよく聞き取れなかったが…
(とにかく、今はあのシスターを止める!)
「行けえ!」
─オオォォー!!
─オオォォー!!
刃を通さない程の高密度の筋肉を持つと言われるキュクロプス。
その屈強な体を持つ二体のキュクロプスが、同時にシスターに掴みかかる。
しかし、再び高速回転させたシスターの斧槍によって二体のキュクロプスの両腕は切断されて、宙を舞う。
─オアッ…
─ガァッ…
その後、素早く切り返した斧の刃で二体の胴が別れ、キュクロプス達は灰となって消えた。
「くそっ、あの屈強な魔物を二体同時に斬るなんて…!」
…強すぎるっ。
おそらくあのシスターは、身体能力を向上させる『身体強化魔法』を使ってあの重い斧槍を振り回しているのだろう。
だが、刃も通さないと言われるほどの頑丈な筋肉を持つキュクロプスを斬ったのは単純なパワーだけではない。彼女の持つ技と斧槍を扱う常人離れした技量によるものだ。
(なんて、太刀筋だよ)
改めてその技量に驚愕し、戦慄する。
そして、父オウルが教会の総本山がある王都から俺を遠ざけたかった理由を改めて理解した。
(教会には…、こんな怪物がいるのか。)
「邪神、…あなたを断罪します。」
「くっ、もう一度魔物をっ!」
(今度こそ、あいつを止める!)
しかし、あのシスターを止めるにはいったいどんな魔物を作り出せば…
【ベルゼファール様…】
頭の中から不気味な声が聞こえる。
(この声…、邪神の力が覚醒した時に聞こえた声だ)
【もっと強く願うのです…。強く願えば、その願いに応える強い魔物が生まれる…】
(強く、願う…)
床を蹴って、シスターが真っすぐこちらへと駆けだす。
すぐさまホノカが俺を庇う様に前へと躍り出る。
「私の後ろに!」
「神ノ社の巫女。そこを退かなければ今度こそ邪神共々、あなたを斬り倒しますよ!」
シスターが斧槍を回転させる。
再び小さな暴風と化して高速で回転する斧槍の周りで雷が発生し、白く閃く。
ホノカが、自分の顔の前に人差し指と中指をだけを立てた刀印の手型を作る。
「悪鬼穢れを焼き祓い給え、守り給え、急急如律令!」
そう唱えると、俺達を囲む様に紅蓮の炎が出現し、ドーム状に俺達を覆う灼熱の結界に変わる。
(炎の防御魔法…!)
白雷を帯びた斧槍を持ってこちらへと走るシスターが、さらにその足を加速させる。
「罪有りし者に神の怒りを。鉄槌となりて振るい落とし給え…」
床を強く踏みしめて高く跳躍し、斧槍を思いっ切り振り上げる。
—… 遥か昔。神に近づこうと天上まで届く高い塔を築いた人間達に怒った神は、雷を落として人間達が築いた塔を破壊したという………─。
「―…そうあれかし。『ミョルニル』!!」
神の怒りの鉄槌を模りし白き雷光を纏った斧槍が、振り落とされる。
「…ッ!!」
(ぐっ…!!)
劈く様な音を轟かせ、全てを破壊せし落雷が紅蓮の炎の結界を斬り壊した。
「…二人とも下がるんだ。私が、彼女の相手をする。」
(一人で、あのシスターと戦う気か!?)
立ち上がって加勢しようとするが、手で制止させられる。
「気を失っている私の仲間を頼む。」
そう言うと、ホノカはパンッと柏手を鳴らす。
そして、人差し指と中指を立てた刀印という手の型を作ると、彼女の前に緋色の美しい鞘に納まった刀が出現した。
「あれは…」
仮面のシスターが現れた刀を見て息を呑む。
「…名刀『炎切り』。」
大昔に強大な炎の力を持った魔物をその炎とともに斬り倒したと云われる伝説の刀…、『炎切り』。
伝説上の武器だと思われていたが、実在していたのか。
(だが、相手は重量と長い攻撃範囲がある斧槍を使う。あれに刀で挑む気か?)
ホノカは一方の手で鞘を掴んで刀を腰の横に据えると、もう一方の手でその柄を掴んだ。
「教会のシスター、出来ればあなたとは戦いたくはない。どうか、ここは退いてくれないか?」
「愚問ですね。私は、邪神を殺しに来たのです。戦いたくなければ、貴女がそこを退いて下さい 。」
「すまないが、そうはいかない。…あの人は、殺させない。」
「あれは、人ではありません。邪神です。」
シスターが斧槍をブンッと振って、矛先をホノカに向けて構える。
「そこの邪神を庇うと言うなら、あなたも断罪します。」
「…どうあっても、退いてくれそうにはないか。」
緋色の刀を持つ狐のお面を被った巫女と、鉛色の鋼鉄の斧槍を持った仮面のシスターが相対する 。
「……………」
「……………」
─ じりッ…
二人が足を浮かせずに半歩躙り進む。そして…─
(─…ッ!)
二人が瞬時に重心を落とし、本殿の床を蹴り砕いて前進する。
前進した勢いのまま、シスターが斧槍の槍で素早い突きを出す。
ホノカは鞘を握ったまま親指で鍔を押し上げ、素早く刀を抜いた。
—ボオォッ
鞘から抜かれた刃の周りに炎が灯る。
抜刀した勢いのまま燃え盛る刃を横一文字に振るい、迫り来る槍を横から当てて弾く。
「むっ…!?」
(刀の刃に炎が!?)
柄を握ったまま斧槍を横に弾かれて、シスターが僅かにバランスを崩した。
その機を逃さず、ホノカが燃える刀を袈裟斬りに振るう。
だが、すぐに体勢を立て直したシスターが鉄製の長柄の中央で、ホノカの袈裟斬りを受けて防ぐ。
「…ッ!」
「…やるな。さすが、数人の神ノ社の団員を倒してここまで来るだけはある。」
ギチギチッ…と、刀と斧槍が鍔攻めり合う。
(刀に、火炎魔法を付与しているのか)
――武器への魔法の付与。
武器その物の強化、もしくは魔法の効力を持続的に使用しつつ戦闘を行うために使われる技法であり、武芸に秀でいて、近接戦闘を得意とする者が使う技法だ。
押し合う様に鍔攻めり合う両者だったが、間近に当たる炎の熱に耐えられなかったのか、シスターが離れて後退する。
それを追って、ホノカが前に跳んで間合いを詰める。
「はあっ!!」
「んっ!!」
一気に間合いを近づけたホノカが紅蓮色の炎を纏った刀を素早く連続で振るい、対して斧槍を構え直したシスターが応戦する。
ホノカが火柱の如き炎を纏った刃を振るう度に高温高熱の熱風が吹き、その熱気が本殿に広がる。
熱気により、少し離れた場所で俺と俺の腕の中で気を失っている巫女さんが汗をかく。
身を守るための補助魔法を使っているのか、間近でその熱を浴びているはずのホノカは炎の熱を意に介さず、達人並みの剣技で絶えず刀を振るい続け、シスターを攻める。
シスターは斧槍の長柄ポールを器用に扱い、ホノカの連撃を防ぎつつ、槍による突きと斧による斬撃を振るって反撃していた。
ガァンッと鉄と鉄が衝突する音と刃が空を裂く風音、炎の熱風が吹きすさび、二人の息もつかせぬ攻防が繰り広げられる。
─ガァンッ ガァンッ
「…神ノ社の方。貴女から殺気が感じられませんが、私に勝つつもりはあるのですか?」
「…教会のシスターよ、私はあなたを殺すつもりは無い。この場であなたを戦闘不能にすればそれでいい…。まずは、その斧槍を焼き斬る!」
素早い猛攻の後、ホノカはさらに燃え上がって火勢を増した炎切りを真っ向から大きく振り落とす。
だが、それをまたしてもシスターは斧槍の長柄で受け止める。
「く、硬いな」
「なるほど。私の命ではなく、私の武器の破壊が狙いでしたか。しかし、いくらその高温高熱の刃を振るおうが、この神聖な斧槍…『悪魔殺し』は破壊できませんよ。」
「そのようだ…ならば」
シスターから離れて距離を取ったホノカが、自分の懐から十数枚の人形の紙を取り出す。
それらをバラ撒くと、人形の紙が十数人のお面を付けたホノカの姿へと変わった。
(ホノカが増えた!?まさかあの魔法は…)
「これは…!?」
「神ノ社秘伝、『分身魔法』だ。」
突然現れた十数人のホノカに驚いて動きを止めたシスターの周りを、武器を持ったホノカの分身達が取り囲む。
—ジャラ…
分身達が手に持った武器…鎖鎌の鎖を伸ばして振り回すと、一斉にそれをシスター目掛けて放った。
(鎖でシスターを捕らえて動きを止める気か)
先に分銅を付けた鎖達が四方八方から放たれ、シスターの体に蛇の如く巻き付こうとする。
「ふぅ…」
息を吐いて肩の力を抜くシスター。
避けられないと観念したのかと思ったが…、
次の瞬間には分身達が放った鎖がバラバラに弾け飛ぶ。
「なに…っ!?」
「今、何が起きたんだ!?」
一瞬の出来事で何が起きたのかわからず、俺とホノカが目を見開く。
シスターが両手で斧槍をゆっくり回す。
「私を相手に殺さずして戦闘不能にしようなどと、あまいですよ。…もうこれ以上貴女に構ってられません。早く邪神を殺さないといけないので…」
斧槍の回転が速くなる。
華奢な腕で、バトンを回す様に軽々と重い斧槍を速く回転させるシスター。
「ここからは本気で行きます。神ノ社の方、そこを退かないのでしたら手足の一つ…二つとも斬られる覚悟はして下さい。」
「静かだが、すごい気迫だ。…これは、私も本気でいかないといけないのかもしれないな。」
「まだ戦うのでしたら、是非そうして下さい。そうすれば、命くらいは助かるかもしれません。」
ホノカが炎の刀を正眼に構える。
分身達も各々が魔法で刀を出現させると、抜刀してその刃に紅蓮の炎を灯火させる。
先程激しい攻防を繰り広げた時よりもさらに本気になった二人が対峙し、呼吸を忘れて息苦しくなる程の緊張感が漂う。
十数本の炎の刃に囲まれた中で、鋼鉄の斧槍が回転している一触即発の危険地帯と化した本殿… 。
両者が一つ息をついた後、その危険地帯が一気に動き出した。
分身達が駆け出し、十数本の炎の刃がシスターへと襲いかかる。
「「「はあーっ!!」」」
一切の逃げ場の無い中、シスターは斧槍を回しながら足で床に大きく円を描いて体を回転させ、
「…ふんっ!!」
自身を中心に公転する様な軌道で斧槍の刃を振るい、近づくホノカの分身達を斬り倒した。
(一瞬で複数の分身を斬った…!さっきはあの動きで鎖を…)
斬られた分身達が、元の人形の紙に戻る。
それに構わず、残った分身達が追撃を仕掛ける。
シスターはさらに歩を進めてつま先で大きく円を描き、移動をしながら自身を中心にして斧槍を高速で回す。
シスターの足取りは、軽快なステップで一人円舞曲を踊るかの様に本殿の床を滑り、緩やかに流れる川の様に静かであった。
しかし、彼女を中心に回転する斧槍はまるで暴風の如く激しい。
斧槍の長柄がシスターの手や腕、体を支点にしてあらゆる角度で回転し続け、風を起こしながら分身達を斬っていく。
次々と分身達が斬られ、巻き上がる埃とともに人形の紙が空中を舞う。
(なんて動きだ…これじゃまるで台風じゃないか!)
「ええいっ!」
ホノカは分身達と一緒に、斧槍の刃が体の周りで公転するシスターに斬りかかるが、斧槍の刃によってその攻撃が弾かれてしまう。
留まらず軽快なステップで助走をつけたシスターは、足を大きく前へと踏み出して斧槍を横薙ぎに振るう。
「ふっっん!」
全力で振り抜いた斧槍が、残った分身達を全て斬り倒した。
ホノカは刀の刃を立てて直撃を防いだが、ぶつけられた斧槍の重量と衝撃によって後方へとふっ飛ばされ、本殿を支える中央の大柱に背をぶつける。
「かは…っ」
(ホノカっ! まずい、何とかあのシスターを止めなくては! )
自分の手を見て、グッと握りしめる。
邪神の神気をその手に感じ取り、願う。
(あのシスターを止めてくれ!)
握りしめた手を開くと、暁の福音と対峙した時と同様に掌から丸い塊が出現する。
それが二つに分裂する。それぞれが骨となり、血がその周りを流れ、臓器と肉が付き、身体の各部位が整う。
そして、三メートル近くはありそうな巨躯と成り、筋肉に覆われた頑強な肉体が動き、顔の半分を占める大きな一つ目を開いた人型の大きな魔物…『キュクロプス』が出来上がった。
「キュクロプス!?魔物の召喚…?いいえ、この神気は…魔物を作り出した? 」
シスターが、ホノカから俺の方へと警戒を切り替える。
「邪神の力…っ、だめだ、トウヤ君」
ホノカが、ふらつきながら立ち上がる。
何か言ったようでよく聞き取れなかったが…
(とにかく、今はあのシスターを止める!)
「行けえ!」
─オオォォー!!
─オオォォー!!
刃を通さない程の高密度の筋肉を持つと言われるキュクロプス。
その屈強な体を持つ二体のキュクロプスが、同時にシスターに掴みかかる。
しかし、再び高速回転させたシスターの斧槍によって二体のキュクロプスの両腕は切断されて、宙を舞う。
─オアッ…
─ガァッ…
その後、素早く切り返した斧の刃で二体の胴が別れ、キュクロプス達は灰となって消えた。
「くそっ、あの屈強な魔物を二体同時に斬るなんて…!」
…強すぎるっ。
おそらくあのシスターは、身体能力を向上させる『身体強化魔法』を使ってあの重い斧槍を振り回しているのだろう。
だが、刃も通さないと言われるほどの頑丈な筋肉を持つキュクロプスを斬ったのは単純なパワーだけではない。彼女の持つ技と斧槍を扱う常人離れした技量によるものだ。
(なんて、太刀筋だよ)
改めてその技量に驚愕し、戦慄する。
そして、父オウルが教会の総本山がある王都から俺を遠ざけたかった理由を改めて理解した。
(教会には…、こんな怪物がいるのか。)
「邪神、…あなたを断罪します。」
「くっ、もう一度魔物をっ!」
(今度こそ、あいつを止める!)
しかし、あのシスターを止めるにはいったいどんな魔物を作り出せば…
【ベルゼファール様…】
頭の中から不気味な声が聞こえる。
(この声…、邪神の力が覚醒した時に聞こえた声だ)
【もっと強く願うのです…。強く願えば、その願いに応える強い魔物が生まれる…】
(強く、願う…)
床を蹴って、シスターが真っすぐこちらへと駆けだす。
すぐさまホノカが俺を庇う様に前へと躍り出る。
「私の後ろに!」
「神ノ社の巫女。そこを退かなければ今度こそ邪神共々、あなたを斬り倒しますよ!」
シスターが斧槍を回転させる。
再び小さな暴風と化して高速で回転する斧槍の周りで雷が発生し、白く閃く。
ホノカが、自分の顔の前に人差し指と中指をだけを立てた刀印の手型を作る。
「悪鬼穢れを焼き祓い給え、守り給え、急急如律令!」
そう唱えると、俺達を囲む様に紅蓮の炎が出現し、ドーム状に俺達を覆う灼熱の結界に変わる。
(炎の防御魔法…!)
白雷を帯びた斧槍を持ってこちらへと走るシスターが、さらにその足を加速させる。
「罪有りし者に神の怒りを。鉄槌となりて振るい落とし給え…」
床を強く踏みしめて高く跳躍し、斧槍を思いっ切り振り上げる。
—… 遥か昔。神に近づこうと天上まで届く高い塔を築いた人間達に怒った神は、雷を落として人間達が築いた塔を破壊したという………─。
「―…そうあれかし。『ミョルニル』!!」
神の怒りの鉄槌を模りし白き雷光を纏った斧槍が、振り落とされる。
「…ッ!!」
(ぐっ…!!)
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連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
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