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第1章 邪神復活
第7話 大宮司
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境内に高く聳え立つ柱に支えられた本殿が震える。
雷とともに斧槍が振るい落とされた衝撃で、本殿内には塵埃が舞い上がる。
炎の結界を破り、そのまま俺の命へと振り落とされるはずの落雷の如き断罪の刃であったが…、
その刃が俺に届く事はなかった。
「なっ…!?」
渾身の一撃を阻むものを見て、シスターの仮面の奥の目が見開かれる。
「ゴルオォォ…」
シスターの斧槍を阻む者…壁の如く大きな盾を構え、鎧を身に着けた一体の魔物が、俺とホノカを守る様に立ち塞がり、その大きな盾で振るい落とされた斧槍を防いでいた。
「魔物!?いつの間に?」
(あ、危ないところだった…)
掌を前に向けたまま、一息つく。
直感的に嫌な予感がして、念のために魔物を作り出したのが幸を成したようだ。
「ゴルオオォ…」
濃い煙の様な吐息を吐き、鎧を身に着けたキュクロプスが盾の向こう側から鋭い一つ目でギロリとシスターを睨む。
「…っ」
斧槍を引き、シスターが俺達から距離を取る。
「あの一撃を防ぐとは…さっき私が斬り倒した二体のキュクロプスとは明らかに異質。それに、大きな盾を持ったキュクロプスなんて聞いた事がありません。いったい、この魔物は…」
「…創造したんだ。あんたの攻撃を防ぐ事が出来る魔物を 。」
…あの不気味な声が言っていた。
【強く願えば、願いに応える強い魔物が生まれる。 】…と。
あの声の通り、強く願った事で、先に作り出したただのキュクロプスよりも遥かに防御力が高い、魔物が生まれた。
直撃すれば間違い無く命を奪われたであろうシスターの強力な一撃。
迫り来る攻撃により窮地に陥いる中、『自分達を守る』ことを強く願って魔物を作り出し、さらに防御のために必要な装備をイメージすることで、魔物が持つ防具が具現化した。
そうして俺達を守るために創り上げて生まれた魔物が、『大楯を持った鎧のキュクロプス』である。
邪神の『魔物を創造する力』は、ただ魔物を作る事だけでなく、必要に応じた能力を持った魔物を新しく創り出す事が出来るようだ。
「魔物を創造する邪神の力…厄介ですね」
宙を舞う埃を払う様に斧槍を振った後、矛先をこちらに向けて構えるシスター。
構えたその斧槍から、バチッバチッと白雷が発生する。
「しかし、問題ありません。次こそはその魔物共々、斬り倒すまでです。」
「くそ、まだやる気か。やはり、あのシスターを倒す魔物を創り出すしか…」
「よせ!あまり邪神の力を使うな。神の力を迂闊に使えば、君自身にも何が起こるかわからないぞ!」
手を握りしめて再び魔物を創り出そうとする俺を、ホノカが止める。
「しかし、あのシスターはどうするんだ!?」
「あの人は、私が倒す!不承不承だが、あれほどの強者が相手では私も命を奪うつもりで行くしかない。」
「来なさい、神ノ社の巫女!そんなに邪神と死にたいのでしたら、望み通り一緒に断罪して差し上げます!」
ホノカの持つ刀が燃え上がり、シスターの斧槍から雷が閃く。
(やはり、ホノカ一人を戦わせるわけにはいかない!創造するんだ、シスターを倒す魔物を…ッ!)
【強く願うのです…ベルゼファール様…】
再び頭の中で流れる不気味な声。
(強く願う…、あのシスターを…)
グッと手を握り締める。
【そうです。我が神…。…あのシスターを…】
(あのシスターを、倒─)
【人間を…殺せッ!!】
(…ッッ!?)
不気味な声が途端に強くなり、意識が揺れて闇の底に落ちる様な感覚に陥る。
「人間を…コロ…ス…」
突如俺の体から黒い煙が現れ、それが本殿内に広がる。
「これは…この気配は!?」
「邪神の神気!?」
煙幕の様に突然現れて広がり、実体を持つ邪神の神気に二人が驚愕し、神気を感知することが出来る能力を持つ故に、その異状な事態を感じ取って体が強張る。
仄暗く怪しく揺らめき、熱を帯びた黒い炎の様な神気が本殿の天井や壁、床を覆い尽くす。
さらに神気は大楯を持った鎧のキュクロプスを飲み込んで灰に変えると、ホノカとシスターの体を這うかの様にゆっくりと纏わり付いて、万力の如き強さで二人を縛り付けた。
「かはぁっ…!」
巨大な手で全身を握り締められたかの様に指先も動かすことが出来ず、心臓さえも鷲掴みにされた様に二人は息苦しくなって呼吸を乱す。
「くっ…、神気に体の自由が奪われて…力が入らない」
「なんて、強大で…邪悪な力。…うっ、これが邪神の神気…っ」
抗いようの無い強大な力に抑え付けられたまま、纏わり付く神気が大きな舌となって体を舐め回し、その怪しげな気配で精神を蝕む様な嫌な感覚に、二人が恐怖を覚える。
「……………」
黒い神気が徐々に俺を包み込む。
あの不気味な声を聞いた後、揺らいだ意識が遠のいて、俺はただ立ち尽くして茫然と周囲の出来事を見ていた。
「う…っ」
俺に抱きかかえられて気を失っているホノカの仲間の巫女にも神気が纏わり付き、邪神の神気は俺共々巫女までも包み込もうとする。
目の前が真っ暗になり、周囲の音も聞こえなくなり、意識が徐々に薄れて落ちていく。
(…このまま俺は…、邪神の神気に呑み込まれ…)
「…っ!トっ─」
絞り出す様なホノカの声が聞こえたかと思った次の瞬間…
―― パンッッ
柏手を打つ音が本殿に響き渡る。
刹那の静寂の後、本殿内を充満していた邪神の神気が霧散して消えた。
俺の体を包み込んでいた神気も消え、脱力感から俺はその場で膝を付き、神気の締め付けから解放されたホノカとシスターは、息をする事を思い出したかのように激しく呼吸をする。
「はあ…っ、はあ…っ。今の、柏手は…」
「あ…あれだけの邪神の神気が消えた…いったい、なにが」
(…はっ! 俺は…なにを)
落ちかけていた意識が戻る。
暗闇で覆われていた視界も戻り、抱えていたホノカの仲間の巫女の顔に目をやって無事を確認する。
ホっとした後、本殿内に新たに現れた人物に気づく。
(あの人は…)
「教会のシスター、これ以上この神聖な本殿で暴れることは許さんぞ。」
そう言い、何人かの神ノ社の団員を引き連れた白髪で無精髭の初老の男性がこちらへと近づく。
初老の男性は俺の肩に手を置くと、ニコっと笑みを向けた。
「君が神様の生まれ変わりだね?もう大丈夫だ。あとは、私に任せなさい。」
「あなたは…」
「うちの団員を守ってくれてたみたいだね。ありがとう。」
初老の男性が、俺の抱えている人を目で指す。
「う…ん」
小さく吐息を吐き、ホノカの仲間の巫女が目を覚ます。
「おや、目を覚ましたのかい?」
「ほえ…?……え、だ、大宮司様!?」
「え、大宮司様!?」
「うん、初めまして。私が神ノ社の大宮司、『シロウ・アズマヤ』だ。よろしく。」
「あ、はい…」
(この人が、神ノ社の大宮司様…。)
大宮司だという男性…シロウさんは、穏やかで他者に安心感を与えるような雰囲気を醸し出しており、しかし、その眼は大きく見開かれた芯の通った強い目をしていた。
俺の肩に置かれた手から、大宮司の力強さと頼もしさの様なものが不思議と伝わってくる。
ポンッと軽く俺の肩を叩いた後、大宮司はホノカの方へと向かう。
「大宮司様…」
「よく頑張ったね、ホノカ。お疲れ様。」
俺の時と同様にホノカの肩に手を置いてニコッと笑いかけた後、シスターに顔を向ける。
「さて、教会のシスター。他人の家で随分と暴れたものだねえ。」
「…神ノ社代表、大宮司 アズマヤ様。」
斧槍を立てて脇に付け、シスターが姿勢を正す。
「突然の不躾けな訪問、失礼致しました。」
「うん、本当に失礼だね。」
「…うっ」
大宮司は笑顔のままだが、その顔とは裏腹に圧力の様なものを感じて、シスターが少したじろぐ。
「…数々の無礼をお許し下さい。し、しかし…、我々教会は邪神の復活を知り、そのまま野放しにするわけにはいきません!ましてや、邪神の力が目覚めたとなれば、世界が混乱に陥られる前に、邪神の生まれ変わりを早急に抹殺しなくてはならないのです!」
「ふむ…」
大宮司が自身の無精髭な顎を撫でる。
「どうして、邪神がこのナカツクニ神の宮にいるのがわかったんだい?『ファルマーの預言書』にでも記されていたのかな?」
「…預言書には、王国の東側の地方で邪神の力が目覚める事しか記されていません。調査のため東側の地方に来る途中で邪教徒…『暁の福音』の団員に遭遇し、その時に邪神は『神ノ社』に付いて行ったと聞きました。」
ヨミノ町を襲撃した、暁の福音の団員か。
神ノ社の追手から逃げてる途中に、シスターに出会したのだろう。
「邪神の生まれ変わりの…その者の名前と正体については?」
大宮司が真剣な顔で問う。それを聞いて、ハッとするホノカ。
「残念ながら、そこまでは聞き出しませんでした。尋問の途中で襲いかかって来たので、その場で…。なので、直接このナカツクニ神の宮を訪れ、邪神の僅かな神気を辿って本殿まで来ました。」
「…そうか。」
大宮司とホノカが、ホッと胸を撫で下ろす。
尋問された暁の福音の団員には悪いけど、あの怪物シスターに襲いかかって返り討ちにされたおかげで俺の正体はバレずに済んだようだ。
(狐のお面を付けていて、よかった…)
とはいえ、神気を感知できるのは厄介だな。
「どうだろうか、シスターよ。邪神の事は我々に任せるというのは?我々が監視していれば、野放しになった事にはならないだろう?」
「…申し訳ありませんが、承知致しかねます。先ほどから、神ノ社の団員は皆、そこの邪神を守る様な行動を取っていました。一刻も早く抹殺しなければならない邪神を何故守るのですか?神ノ社はいったい何を考えて…」
「う~ん…実は訳があってね。詳しくは言えないんだが…、とりあえず今日のところはお引き取り願えないだろうか?」
「そうはいきません。邪神を断罪するのが私の役目なので。」
提案をきっぱりと断られ、大宮司が困り顔で白髪の頭のかく。
「うちとしては、どうしても邪神を殺させるわけにはいかないし、これ以上本殿で暴られても困るんだよね~…。マジで帰ってくれない?」
「帰りません。邪神を断罪します。」
「う~む…」
「教会のシスター、私達はお互い王国と世界の平和と人々の安寧を願う宗教団体。どうか、私達神ノ社の意を組んでこの場は武器を納めてはくれないか?」
「納めません。邪神を断罪します。」
「う、う~む…」
ホノカも説得しようとするが、拒絶。
妥協しない頑固者のシスターと話が通じ合わない状況で、ホノカの仲間の巫女が不安そうに俺を見上げる。
(もともとは俺が原因で起きた争いだ。ここは当事者たる俺が、誠心誠意込めてシスターを説得をしよう。慈愛の心を大切にする『教会』の人なら、話せばわかるはず!)
これ以上の争いはごめんだ。俺のせいで、ホノカや神ノ社の人達を傷つけさせるわけにはいかない。
「あ、あの…シスターさん―」
「邪神が私に気安く話しかけるな!!殺すぞ!!」
「ええー!?」
…俺に対しての当たりがきつすぎない?
「断罪します。」じゃなくて、ストレートに殺すぞって言ってるんですけど!?
まあ、俺の命を狙いに来た人だから、当たりきついのは当たり前なんだけどさ。
なんか、斧槍の刃で攻撃されるよりも、言葉の刃の方が深く傷つくな…。
「「……………」」
大宮司とホノカが俺の肩にぽんっと手を置く。
あ…やめて。その、ドンマイみたいな感じで肩に優しく手を置かないで…。
雷とともに斧槍が振るい落とされた衝撃で、本殿内には塵埃が舞い上がる。
炎の結界を破り、そのまま俺の命へと振り落とされるはずの落雷の如き断罪の刃であったが…、
その刃が俺に届く事はなかった。
「なっ…!?」
渾身の一撃を阻むものを見て、シスターの仮面の奥の目が見開かれる。
「ゴルオォォ…」
シスターの斧槍を阻む者…壁の如く大きな盾を構え、鎧を身に着けた一体の魔物が、俺とホノカを守る様に立ち塞がり、その大きな盾で振るい落とされた斧槍を防いでいた。
「魔物!?いつの間に?」
(あ、危ないところだった…)
掌を前に向けたまま、一息つく。
直感的に嫌な予感がして、念のために魔物を作り出したのが幸を成したようだ。
「ゴルオオォ…」
濃い煙の様な吐息を吐き、鎧を身に着けたキュクロプスが盾の向こう側から鋭い一つ目でギロリとシスターを睨む。
「…っ」
斧槍を引き、シスターが俺達から距離を取る。
「あの一撃を防ぐとは…さっき私が斬り倒した二体のキュクロプスとは明らかに異質。それに、大きな盾を持ったキュクロプスなんて聞いた事がありません。いったい、この魔物は…」
「…創造したんだ。あんたの攻撃を防ぐ事が出来る魔物を 。」
…あの不気味な声が言っていた。
【強く願えば、願いに応える強い魔物が生まれる。 】…と。
あの声の通り、強く願った事で、先に作り出したただのキュクロプスよりも遥かに防御力が高い、魔物が生まれた。
直撃すれば間違い無く命を奪われたであろうシスターの強力な一撃。
迫り来る攻撃により窮地に陥いる中、『自分達を守る』ことを強く願って魔物を作り出し、さらに防御のために必要な装備をイメージすることで、魔物が持つ防具が具現化した。
そうして俺達を守るために創り上げて生まれた魔物が、『大楯を持った鎧のキュクロプス』である。
邪神の『魔物を創造する力』は、ただ魔物を作る事だけでなく、必要に応じた能力を持った魔物を新しく創り出す事が出来るようだ。
「魔物を創造する邪神の力…厄介ですね」
宙を舞う埃を払う様に斧槍を振った後、矛先をこちらに向けて構えるシスター。
構えたその斧槍から、バチッバチッと白雷が発生する。
「しかし、問題ありません。次こそはその魔物共々、斬り倒すまでです。」
「くそ、まだやる気か。やはり、あのシスターを倒す魔物を創り出すしか…」
「よせ!あまり邪神の力を使うな。神の力を迂闊に使えば、君自身にも何が起こるかわからないぞ!」
手を握りしめて再び魔物を創り出そうとする俺を、ホノカが止める。
「しかし、あのシスターはどうするんだ!?」
「あの人は、私が倒す!不承不承だが、あれほどの強者が相手では私も命を奪うつもりで行くしかない。」
「来なさい、神ノ社の巫女!そんなに邪神と死にたいのでしたら、望み通り一緒に断罪して差し上げます!」
ホノカの持つ刀が燃え上がり、シスターの斧槍から雷が閃く。
(やはり、ホノカ一人を戦わせるわけにはいかない!創造するんだ、シスターを倒す魔物を…ッ!)
【強く願うのです…ベルゼファール様…】
再び頭の中で流れる不気味な声。
(強く願う…、あのシスターを…)
グッと手を握り締める。
【そうです。我が神…。…あのシスターを…】
(あのシスターを、倒─)
【人間を…殺せッ!!】
(…ッッ!?)
不気味な声が途端に強くなり、意識が揺れて闇の底に落ちる様な感覚に陥る。
「人間を…コロ…ス…」
突如俺の体から黒い煙が現れ、それが本殿内に広がる。
「これは…この気配は!?」
「邪神の神気!?」
煙幕の様に突然現れて広がり、実体を持つ邪神の神気に二人が驚愕し、神気を感知することが出来る能力を持つ故に、その異状な事態を感じ取って体が強張る。
仄暗く怪しく揺らめき、熱を帯びた黒い炎の様な神気が本殿の天井や壁、床を覆い尽くす。
さらに神気は大楯を持った鎧のキュクロプスを飲み込んで灰に変えると、ホノカとシスターの体を這うかの様にゆっくりと纏わり付いて、万力の如き強さで二人を縛り付けた。
「かはぁっ…!」
巨大な手で全身を握り締められたかの様に指先も動かすことが出来ず、心臓さえも鷲掴みにされた様に二人は息苦しくなって呼吸を乱す。
「くっ…、神気に体の自由が奪われて…力が入らない」
「なんて、強大で…邪悪な力。…うっ、これが邪神の神気…っ」
抗いようの無い強大な力に抑え付けられたまま、纏わり付く神気が大きな舌となって体を舐め回し、その怪しげな気配で精神を蝕む様な嫌な感覚に、二人が恐怖を覚える。
「……………」
黒い神気が徐々に俺を包み込む。
あの不気味な声を聞いた後、揺らいだ意識が遠のいて、俺はただ立ち尽くして茫然と周囲の出来事を見ていた。
「う…っ」
俺に抱きかかえられて気を失っているホノカの仲間の巫女にも神気が纏わり付き、邪神の神気は俺共々巫女までも包み込もうとする。
目の前が真っ暗になり、周囲の音も聞こえなくなり、意識が徐々に薄れて落ちていく。
(…このまま俺は…、邪神の神気に呑み込まれ…)
「…っ!トっ─」
絞り出す様なホノカの声が聞こえたかと思った次の瞬間…
―― パンッッ
柏手を打つ音が本殿に響き渡る。
刹那の静寂の後、本殿内を充満していた邪神の神気が霧散して消えた。
俺の体を包み込んでいた神気も消え、脱力感から俺はその場で膝を付き、神気の締め付けから解放されたホノカとシスターは、息をする事を思い出したかのように激しく呼吸をする。
「はあ…っ、はあ…っ。今の、柏手は…」
「あ…あれだけの邪神の神気が消えた…いったい、なにが」
(…はっ! 俺は…なにを)
落ちかけていた意識が戻る。
暗闇で覆われていた視界も戻り、抱えていたホノカの仲間の巫女の顔に目をやって無事を確認する。
ホっとした後、本殿内に新たに現れた人物に気づく。
(あの人は…)
「教会のシスター、これ以上この神聖な本殿で暴れることは許さんぞ。」
そう言い、何人かの神ノ社の団員を引き連れた白髪で無精髭の初老の男性がこちらへと近づく。
初老の男性は俺の肩に手を置くと、ニコっと笑みを向けた。
「君が神様の生まれ変わりだね?もう大丈夫だ。あとは、私に任せなさい。」
「あなたは…」
「うちの団員を守ってくれてたみたいだね。ありがとう。」
初老の男性が、俺の抱えている人を目で指す。
「う…ん」
小さく吐息を吐き、ホノカの仲間の巫女が目を覚ます。
「おや、目を覚ましたのかい?」
「ほえ…?……え、だ、大宮司様!?」
「え、大宮司様!?」
「うん、初めまして。私が神ノ社の大宮司、『シロウ・アズマヤ』だ。よろしく。」
「あ、はい…」
(この人が、神ノ社の大宮司様…。)
大宮司だという男性…シロウさんは、穏やかで他者に安心感を与えるような雰囲気を醸し出しており、しかし、その眼は大きく見開かれた芯の通った強い目をしていた。
俺の肩に置かれた手から、大宮司の力強さと頼もしさの様なものが不思議と伝わってくる。
ポンッと軽く俺の肩を叩いた後、大宮司はホノカの方へと向かう。
「大宮司様…」
「よく頑張ったね、ホノカ。お疲れ様。」
俺の時と同様にホノカの肩に手を置いてニコッと笑いかけた後、シスターに顔を向ける。
「さて、教会のシスター。他人の家で随分と暴れたものだねえ。」
「…神ノ社代表、大宮司 アズマヤ様。」
斧槍を立てて脇に付け、シスターが姿勢を正す。
「突然の不躾けな訪問、失礼致しました。」
「うん、本当に失礼だね。」
「…うっ」
大宮司は笑顔のままだが、その顔とは裏腹に圧力の様なものを感じて、シスターが少したじろぐ。
「…数々の無礼をお許し下さい。し、しかし…、我々教会は邪神の復活を知り、そのまま野放しにするわけにはいきません!ましてや、邪神の力が目覚めたとなれば、世界が混乱に陥られる前に、邪神の生まれ変わりを早急に抹殺しなくてはならないのです!」
「ふむ…」
大宮司が自身の無精髭な顎を撫でる。
「どうして、邪神がこのナカツクニ神の宮にいるのがわかったんだい?『ファルマーの預言書』にでも記されていたのかな?」
「…預言書には、王国の東側の地方で邪神の力が目覚める事しか記されていません。調査のため東側の地方に来る途中で邪教徒…『暁の福音』の団員に遭遇し、その時に邪神は『神ノ社』に付いて行ったと聞きました。」
ヨミノ町を襲撃した、暁の福音の団員か。
神ノ社の追手から逃げてる途中に、シスターに出会したのだろう。
「邪神の生まれ変わりの…その者の名前と正体については?」
大宮司が真剣な顔で問う。それを聞いて、ハッとするホノカ。
「残念ながら、そこまでは聞き出しませんでした。尋問の途中で襲いかかって来たので、その場で…。なので、直接このナカツクニ神の宮を訪れ、邪神の僅かな神気を辿って本殿まで来ました。」
「…そうか。」
大宮司とホノカが、ホッと胸を撫で下ろす。
尋問された暁の福音の団員には悪いけど、あの怪物シスターに襲いかかって返り討ちにされたおかげで俺の正体はバレずに済んだようだ。
(狐のお面を付けていて、よかった…)
とはいえ、神気を感知できるのは厄介だな。
「どうだろうか、シスターよ。邪神の事は我々に任せるというのは?我々が監視していれば、野放しになった事にはならないだろう?」
「…申し訳ありませんが、承知致しかねます。先ほどから、神ノ社の団員は皆、そこの邪神を守る様な行動を取っていました。一刻も早く抹殺しなければならない邪神を何故守るのですか?神ノ社はいったい何を考えて…」
「う~ん…実は訳があってね。詳しくは言えないんだが…、とりあえず今日のところはお引き取り願えないだろうか?」
「そうはいきません。邪神を断罪するのが私の役目なので。」
提案をきっぱりと断られ、大宮司が困り顔で白髪の頭のかく。
「うちとしては、どうしても邪神を殺させるわけにはいかないし、これ以上本殿で暴られても困るんだよね~…。マジで帰ってくれない?」
「帰りません。邪神を断罪します。」
「う~む…」
「教会のシスター、私達はお互い王国と世界の平和と人々の安寧を願う宗教団体。どうか、私達神ノ社の意を組んでこの場は武器を納めてはくれないか?」
「納めません。邪神を断罪します。」
「う、う~む…」
ホノカも説得しようとするが、拒絶。
妥協しない頑固者のシスターと話が通じ合わない状況で、ホノカの仲間の巫女が不安そうに俺を見上げる。
(もともとは俺が原因で起きた争いだ。ここは当事者たる俺が、誠心誠意込めてシスターを説得をしよう。慈愛の心を大切にする『教会』の人なら、話せばわかるはず!)
これ以上の争いはごめんだ。俺のせいで、ホノカや神ノ社の人達を傷つけさせるわけにはいかない。
「あ、あの…シスターさん―」
「邪神が私に気安く話しかけるな!!殺すぞ!!」
「ええー!?」
…俺に対しての当たりがきつすぎない?
「断罪します。」じゃなくて、ストレートに殺すぞって言ってるんですけど!?
まあ、俺の命を狙いに来た人だから、当たりきついのは当たり前なんだけどさ。
なんか、斧槍の刃で攻撃されるよりも、言葉の刃の方が深く傷つくな…。
「「……………」」
大宮司とホノカが俺の肩にぽんっと手を置く。
あ…やめて。その、ドンマイみたいな感じで肩に優しく手を置かないで…。
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