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── フィオナの正体と闇の儀式 ──
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夜陰の帳が重く垂れこめるとき、シュヴァルツ公国の王宮は静寂に包まれる。暖色の燭台が廊下をかすかに照らし、時折すれ違う衛兵たちが低い声で挨拶を交わす程度。にもかかわらず、その夜ばかりはいつもと空気が違った。まるで、どこからともなく忍び寄る不穏な気配が、陰鬱な闇の底からあふれ出しているかのようだった。
1. フィオナの魔道の全容が明らかに
・密室での怪しい儀式
王宮の離れにある、普段は使われていない古びた小礼拝堂。長らく人目に触れないまま、埃をかぶった聖像が静かに鎮座している。その夜、そこには不釣り合いなほどの明かりが揺らめいていた。
天井の高い空間に、ぼんやりと血のように赤い光が広がっている。正面の祭壇に据えられた燭台に、奇妙な紋章が刻まれ、蠢くように光を反射していた。
その中心に立っていたのは、白金の髪を三つ編みにまとめた“聖女”フィオナ――ただし、いつもの優雅なドレスは脱ぎ捨て、代わりに深い紫と漆黒を織り交ぜた不気味な儀式服に身を包んでいる。顔は美しいままだが、その瞳には凄まじい狂気が宿っていた。
あたりの空気はずっしりと重い。“何か”が満ちているのが分かる。フィオナは口元に妖しい微笑を浮かべ、低く囁くように呪文を唱えていた。
「……すべての生気を供物とし、我が力を更なる頂へ導く……。禁忌を破りし報いなど、恐れるに足らず……」
その足元には、ぐったりとした人影が横たわっている。みすぼらしい服装を見ると、辺境から連れてこられた平民か、あるいはどこかで誘拐された者かもしれない。息も絶え絶えで、うめき声さえ出せずにいる。
フィオナは儀式服の袖口を広げると、細く鋭いナイフを取り出した。鍔には黒い石がはめ込まれており、それが異様な魔力を帯びて脈動しているようだ。
「“神の奇跡”という表舞台は、わたしにとって仮初めの姿……。真に得たいのは、さらに深い闇の力。さあ、もう少しだわ……」
そう呟くと、フィオナは冷淡にナイフを振りかざす。すると不意に、足元の犠牲者の体から淡い光が立ち上り、黒紫の靄に絡み取られていく。
――それはまるで、人間の“生気”そのものを抜き取っているかのよう。
犠牲者の体はみるみる痩せ衰え、苦悶の呻き声が礼拝堂に木霊する。表向きは“聖女”として多くの負傷者を癒やしてきたフィオナ。しかし、その裏で彼女は“禁術”を行使し、生気を吸い取り、己の魔道を増幅させていたのだ。
「ふふ……これでまた、ラウル様をつなぎ止める力が高まる。誰にも邪魔させないわ」
フィオナの唇が邪悪に歪む。目の前の犠牲者が息絶えていく様を眺めながら、彼女は一片の慈悲もない笑みを浮かべる。赤黒い光が灯る礼拝堂は、血の臭いと共に、恐怖の闇をよりいっそう濃くしていた。
フィオナがナイフをかざすたび、まるで収穫物を刈り取るかのように犠牲者の体から光が吸い出される。その光は儀式服の胸元に装着された、黒い宝石に集まるかのように吸い込まれ、そこから魔道の力が脈打つように放たれていた。
生気を抜かれた者は骨と皮だけの姿となり、もはや救済の余地すらない。地面に転がるそれを横目に、フィオナは何事もなかったかのように衣の皺を正す。
「この程度の生気では満足できないけれど、今はこれでよしとしましょう。……いつか、わたしがこの国のすべてを支配するためには、もっと大きな力が必要になるわ」
“聖女”という仮面を被り、人々の崇敬を集める一方で、裏では“魔道”を用いて犠牲者を生贄とする――それがフィオナの真の姿だった。彼女は神や民を救うどころか、自身の闇の力を増すために、多くの命を喰らってきたのである。
こうして彼女が得た力は、世間から見れば“奇跡”と呼ばれるかもしれない。だが、その正体は邪悪な禁術であり、聖なる光とは対極に位置するものだった。
2. セレスティアの捜査と危機
その夜、セレスティアは胸騒ぎを覚えていた。ラウルとの仲は前より良くなったものの、公国全体がどこか息苦しい雰囲気に包まれているのを感じる。
(こんな遅い時間に、何か嫌な気配がする……)
寝台の上で目を開けたまま、セレスティアは思い切って部屋を出る決意をした。もし、先日まで調べていた“フィオナの奇妙な行動”に繋がる手がかりを掴めるなら、この暗がりの中でこそ発見できるかもしれない。
廊下に出て、控えの侍女に「少し庭を散歩して気を紛らわしてくる」と伝える。だが、実際は庭ではなく王宮の奥へ向かう予定だ。最近、フィオナの侍女や取り巻きが夜な夜な離れの小礼拝堂へ出入りしているという噂を耳にしていたからだ。
(何か……裏があるに違いない)
自らの直感に従うように、セレスティアは慎重に足音を立てないよう薄暗い回廊を進む。ときどき巡回の衛兵とすれ違いそうになっても、柱の陰に隠れてやり過ごす。心臓が早鐘を打つたび、背中に嫌な汗が滲む。
やがて、古い石壁に囲まれた回廊の末端にたどり着くと、そこに扉が一つ。かすかに何かの光が漏れ出している。扉には錆びついた装飾が施されており、この奥に小礼拝堂があるのだと思い出した。
鼻先をくすぐる異様な匂い――鉄錆のような臭いが混じり、胸がむかつく。それをこらえ、セレスティアは息をひそめながら重たい扉の隙間を覗き込んだ。
次の瞬間、セレスティアは見てはならない光景を目撃してしまう。
錬金のような道具が並び、中央に倒れている人影。その近くではフィオナが紫黒い衣装に身を包み、血のように赤い光を操って何かを行っていた。まるで、自らの手で人の命を摘み取っているかのような禍々しい儀式――。
「……そんな……」
思わず小さく声が漏れる。セレスティアは両手で口元を塞ぎ、自分の恐怖を必死に抑え込んだ。フィオナは人を助ける“聖女”などではなく、人の生気を奪い取り“魔道”を操る存在――本当に最悪の悪夢を見ているかのような現実だった。
だが、半狂乱のように儀式を進めるフィオナは、その瞬間、鋭くセレスティアの気配を察したのか、振り返る。真っ赤に染まった瞳が、まるで獣のように扉の隙間を睨む。
「……誰よ、そこにいるのは……!」
声の調子が普段の優美なものとまるで違う。その瞬間、セレスティアの心臓はぎゅっと締めつけられたように強く鼓動した。逃げなければ――だが、足が竦んで動けない。
フィオナは迷わず闇の光を指先に集め、扉の隙間に向けて放つ。激しい衝撃が扉に命中し、木片が粉々に砕け散った。セレスティアはあと一瞬避けるのが遅れれば、命に関わるほどの一撃を受けていたかもしれない。
「きゃあっ……!」
悲鳴と共に転がるように後退するセレスティア。肘を強打し、鋭い痛みが走るが、そんなことにかまっている余裕はない。
扉が大きく開き、フィオナが儀式服のまま外へ姿を現す。その瞳は憎悪と焦燥に燃え、口からは荒い息が漏れていた。
「あなた……セレスティア。まさか、こんなときに嗅ぎ回っていたなんてね。運が悪いわ」
嘲るような口調だが、その裏には尋常ならぬ殺意が宿っている。セレスティアは必死に後ずさるが、背中はすぐに壁に当たり、逃げ場を失う。
フィオナの指先には先ほどの赤黒い力がまとうように集まり始める。まるで、次の瞬間には容赦なく放たれることが確実だ。セレスティアの脳裏に、先ほど見た犠牲者の姿が蘇り、恐怖で叫びそうになる。
「せっかくラウル様がわたしのものになるはずだったのに……。あなたが余計なことをするから、ラウル様の心が揺らぎ始めている。許せない……。どうせなら、ここであなたの生気をもらってしまうのもいいかもしれないわね」
フィオナの微笑は、まるで壊れた人形のように不気味さを放つ。彼女はナイフを掲げ、暗い詠唱を紡ぎ始めた。
「いや……やめて……」
セレスティアは逃げ道を探すが、狭い回廊の先には扉が崩れ落ちて塞がっている。さきほどの魔法で瓦礫が散乱し、足を取られて転倒する。その様子を見て、フィオナは勝ち誇ったように笑う。
「ふふ……永遠に眠りなさい。ラウル様に近づいた報いよ」
3. ラウルとセレスティアの共闘のきっかけ
絶体絶命――そう思った刹那、廊下の向こうから激しい足音が響いてきた。空気を震わせるような声がこだまする。
「セレスティア! 大丈夫か――!」
その声を聞いて、セレスティアは思わず目を見開く。ラウルだった。彼は剣を片手に、衛兵らしき者を伴って駆け寄ってくる。フィオナが見せる闇の力を目にし、驚愕の表情を隠せない。
「フィオナ……おまえ、いったい何をしている……!」
ラウルはフィオナに剣先を向け、怒りと困惑が入り混じった声をあげる。さすがにこれほど露骨な“魔道”の光景を見せられれば、頭が混乱するのも無理はない。
フィオナは憎悪を押し殺すように笑みを作り、ナイフを下ろした。
「ラウル様……これは違うの。セレスティアが勝手にここへ侵入して、儀式を乱そうとしたの。すべては彼女のせい……!」
しかし、その言い訳はもはや通用しないほど、礼拝堂の状況は異常だった。辺りには呪文を刻んだ道具や倒れた人影があり、フィオナが持つナイフからは黒い気が滲んでいる。誰がどう見ても、“聖女”の所業ではない。
ラウルはセレスティアに目配せし、そっと手を貸すように合図。衛兵たちも構えをとり、フィオナを取り囲もうとする。
「フィオナ……教えてくれ。これはどういうことなんだ?」
問いかけるラウルの声はどこか裏切られたような苦しみに満ちている。フィオナは唇を噛み、険しい眼差しで彼を睨んだ。
「どういうこと、ですって? あなたには分からないのよ。私がどれだけ“奇跡”を演じるために代償を払ってきたか……。私はあなたのために力を使ってきたのに、あなたはセレスティアなんかに心を移し始めた。すべてが私の思い通りにいかないなら、破壊してやるしかないじゃない!」
フィオナの独白には、これまでの偽りの仮面が一切ない。“聖女”として崇められていた面影は消え、魔道を操る邪悪な存在としての本性をさらけ出している。
ラウルは、その姿を見て、全身を震わせた。過去の母の死を悔やみ、奇跡を求めていた自分が、どれほど脆く危ういものにすがっていたか――いまここで突きつけられた形だ。
「おまえは……そんな理由で人を殺め、力を増していたというのか……」
「ええ、そうよ。私には“聖女”としての立場が必要だった。でなきゃ、誰も私を信じてくれない。ラウル様すらも救えやしない……。だけど、セレスティアが出現してから、すべてが狂い始めたの」
すでに取り繕う様子もなく、フィオナは憎悪をむき出しにする。彼女は再びナイフを構え、闇の力を凝集させた。衛兵たちが一斉に警戒の声をあげるが、その魔力の勢いは尋常ではない。
ラウルはセレスティアを後ろへ下げ、剣を握り直す。
「フィオナ……もはや、これ以上話すことはなさそうだ。おまえが行ってきた蛮行を見過ごすわけにはいかない。俺は公子として、この国の秩序を守る義務がある」
「ラウル様……私を裏切るのね? いいわ。ならば、その背後にいるセレスティアごと、あなたをも闇の中へ葬り去ってやる!」
フィオナの裂帛の叫びと同時に、赤黒い光があふれ出し、凄まじい衝撃波が廊下を席巻する。衛兵たちは弾き飛ばされ、壁へと叩きつけられる。ラウルも衝撃を受けながら、必死に踏みとどまった。
しかし、セレスティアは悲鳴を上げる暇もなく、その衝撃で床に崩れ落ちてしまう。腕を痛め、逃げるどころか立ち上がるのもままならない。
――もし、ラウルがここに来なかったら、フィオナに生気を奪われていたかもしれない。そう思うと、体が震えるが、セレスティアは何とかラウルの背中を見つめて声を絞り出した。
「ラ……ウル、様……ごめんなさい、私……」
ラウルは彼女を振り返り、微かに笑みを見せる。
「謝るな。おまえは何も悪くない。……俺が、もっと早く気づけばよかった」
・共闘の意識
フィオナの暴走を止めるため、ラウルは剣を構え直した。セレスティアも必死に体を起こし、フィオナの動きを目で追う。今、この場ではふたりとも狙われる立場だ。
ラウルはチラリとセレスティアに視線を向け、言葉少なに告げる。
「セレスティア……少しだけ、力を貸してくれ。おまえなら何か方法を見つけられるかもしれない」
「……え?」
彼女が戸惑うのも束の間、フィオナが再び魔道の光を凝縮し、闇の衝撃を放とうとする気配を見せる。もはや一瞬の油断が命取りになる。
セレスティアは苦しい息の中、脳裏を巡らせる。――フィオナの闇の魔道を弱めるにはどうすればいいのか。
(そうだ……フィオナの力の源は“吸い取った生気”と、“この礼拝堂の呪印”かもしれない。もしここで、それを壊せば……!)
「ラウル様、あの祭壇の紋章を! あれを壊せば、フィオナ様の力が弱まるはずです……!」
セレスティアの言葉に、ラウルは即座に理解を示した。彼女の直感は、これまでの調査でも多くの問題を解決に導いている。今は信じるしかない。
「分かった。……衛兵たちはセレスティアを守れ! 俺は祭壇を壊してくる!」
まだ意識を保っている数名の衛兵が「はっ!」と応じ、セレスティアを守るべく配置につく。ラウルは反撃のチャンスを狙い、フィオナが生気を高めるより先に一気に礼拝堂へ突っ込む構えだ。
しかし、フィオナもただ黙って見過ごすわけがない。冷ややかな視線でラウルを捕捉し、手のひらに闇の魔法陣を浮かび上がらせる。
「させるものですか……! おとなしく地獄へ堕ちろ、ラウル様っ!」
闇の奔流が凄まじい音を立てて放たれる。ラウルはそれを剣で防ごうとするが、直撃すればひとたまりもない威力だ。――そのとき、セレスティアが限界を超えて身体を動かした。
「だめ……!」
自分でも勇気があるのかどうか分からないまま、セレスティアはラウルとフィオナの間に割って入ろうとする。闇の奔流が迫り、その衝撃で呼吸も止まりそうだ。だが、わずかにルートをずらせたおかげで、大半を外し、かすった分だけで済んだ。
セレスティアは地面へ叩きつけられ、視界がぐらりと揺れる。体の痛みは激しいが、ラウルが無事であることが確認できてほっとする。
「セレスティアっ……!!」
ラウルが声を上げたその瞬間、衛兵たちが一斉に動き、フィオナの注意を引きつける。ラウルはその隙を逃さず、礼拝堂内の祭壇へ駆け込むと、剣を思い切り振り下ろした。
重い衝撃と共に、祭壇に刻まれた呪紋が砕け散る。真紅の光が歪み、弾けたように消えていく。その瞬間、フィオナの動きが明らかに鈍り、吐き捨てるような声をあげた。
「く……呪印が……まさか……っ!」
闇の力を源とする紋章が壊れたことで、フィオナの魔道は大幅に弱体化したらしい。闇の奔流も勢いを失い、礼拝堂に漂っていた重苦しい気配がいくぶん薄れる。
ラウルは息を切らせながら、フィオナを睨みつける。
「もはや終わりだ、フィオナ……! これ以上、人々の命を踏みにじることは許さない!」
周囲の衛兵も体勢を立て直し、フィオナを取り囲む。だが、フィオナはなおも血走った目で恨みをこぼす。
「……終わり? いいえ。わたしはまだ、あなたを逃がさない。必ず取り返してみせるわ……!」
そう叫んだ次の瞬間、フィオナは闇の魔力を最後の一滴まで搾り出すように術式を展開し、護衛兵を牽制すると、不自然なほど高く跳躍して禍々しい闇の裂け目へと飛び込む。まるで空間を歪めて逃亡を図るかのようだ。
ラウルが追おうと剣を握り直すが、黒煙のような結界が一瞬広がり、足を止めざるを得ない。結界が消えたときには、フィオナの姿はすでに消えていた。
・結び
闇の礼拝堂には、呪印の砕け散った名残が漂い、犠牲者と思しき人物の亡骸が横たわる。あまりに凄惨な光景に、衛兵たちは声も出せない。一方、セレスティアは倒れ込むように床に膝をつき、荒い呼吸を繰り返していた。
ラウルは急いで彼女のもとへ駆け寄り、そっと肩を抱き起こす。その瞳には激しい動揺と、安堵、そして痛切な感情が混在している。
「セレスティア……大丈夫か? すぐに医師を呼ぶ……!」
「わ、私は……平気です……ラウル様が……無事で……よかった」
かすれそうな声で微笑むセレスティアを見て、ラウルは胸が締めつけられる。さきほど、彼女が自分を庇うために闇の奔流を身代わりのように受けた光景が脳裏に焼き付いていた。
「……本当に、馬鹿なことを……。でも、ありがとう。おまえがいなければ、俺は……」
ラウルの声は震えていた。たとえ公子であっても、あの闇の魔道をまともに受ければ無事では済まなかっただろう。セレスティアは自分を省みずに飛び込んだのだ。
衛兵たちの手で礼拝堂を封鎖し、負傷者の救護や状況の確認が始まる。逃げおおせたフィオナがどこへ向かったのかは分からないが、もはや“聖女”がただの慈悲深い存在でないことは、ラウルも衛兵たちもはっきり認識した。
そして何より、セレスティアとラウルの間には大きな変化が生まれつつある。今まで“仮面夫婦”のように距離を置いていたふたりだが、フィオナの闇を目の当たりにし、共に戦いを経て感じたもの――それは“共通の敵”と向き合う決意。
セレスティアはふらふらとしながらも、ラウルの腕を借りて立ち上がる。
「私たち……これから、もっと大変なことになるかもしれませんね……」
「……ああ。だけど、おまえがいてくれるなら、乗り越えられる気がするよ」
初めてラウルの口から聞く“頼り”の言葉。セレスティアは、強い痛みと恐怖の中でも、その一言だけが胸に染み渡るように感じられた。
――ついに“偽りの聖女”フィオナの本性が明るみに出た。闇の魔道を操り、生気を奪う禁術を使い、数多の命を犠牲にしてきた彼女は、未だに逃亡中である。
これから、ラウルとセレスティアは手を携えて闇と対峙しなければならない。二人の絆が深まるほど、フィオナの悪意もまた強く彼らを狙うだろう――。
複雑な思いを抱きながらも、セレスティアはラウルの腕にすがりつく。闇がこれほどまでに深いのなら、なおさら自分がここにいる意味があると信じたい。国と人々を守るため、そしてラウルを支えるために、彼女はすべてを懸けるつもりなのだ。
夜の空を見上げれば、月は薄雲に覆われていた。だが一筋の光は確かに差している。いつの日か、この闇を断ち切り、シュヴァルツ公国に真の平穏を取り戻すために――セレスティアとラウルは、共闘への第一歩を踏み出す覚悟を固めていた。
1. フィオナの魔道の全容が明らかに
・密室での怪しい儀式
王宮の離れにある、普段は使われていない古びた小礼拝堂。長らく人目に触れないまま、埃をかぶった聖像が静かに鎮座している。その夜、そこには不釣り合いなほどの明かりが揺らめいていた。
天井の高い空間に、ぼんやりと血のように赤い光が広がっている。正面の祭壇に据えられた燭台に、奇妙な紋章が刻まれ、蠢くように光を反射していた。
その中心に立っていたのは、白金の髪を三つ編みにまとめた“聖女”フィオナ――ただし、いつもの優雅なドレスは脱ぎ捨て、代わりに深い紫と漆黒を織り交ぜた不気味な儀式服に身を包んでいる。顔は美しいままだが、その瞳には凄まじい狂気が宿っていた。
あたりの空気はずっしりと重い。“何か”が満ちているのが分かる。フィオナは口元に妖しい微笑を浮かべ、低く囁くように呪文を唱えていた。
「……すべての生気を供物とし、我が力を更なる頂へ導く……。禁忌を破りし報いなど、恐れるに足らず……」
その足元には、ぐったりとした人影が横たわっている。みすぼらしい服装を見ると、辺境から連れてこられた平民か、あるいはどこかで誘拐された者かもしれない。息も絶え絶えで、うめき声さえ出せずにいる。
フィオナは儀式服の袖口を広げると、細く鋭いナイフを取り出した。鍔には黒い石がはめ込まれており、それが異様な魔力を帯びて脈動しているようだ。
「“神の奇跡”という表舞台は、わたしにとって仮初めの姿……。真に得たいのは、さらに深い闇の力。さあ、もう少しだわ……」
そう呟くと、フィオナは冷淡にナイフを振りかざす。すると不意に、足元の犠牲者の体から淡い光が立ち上り、黒紫の靄に絡み取られていく。
――それはまるで、人間の“生気”そのものを抜き取っているかのよう。
犠牲者の体はみるみる痩せ衰え、苦悶の呻き声が礼拝堂に木霊する。表向きは“聖女”として多くの負傷者を癒やしてきたフィオナ。しかし、その裏で彼女は“禁術”を行使し、生気を吸い取り、己の魔道を増幅させていたのだ。
「ふふ……これでまた、ラウル様をつなぎ止める力が高まる。誰にも邪魔させないわ」
フィオナの唇が邪悪に歪む。目の前の犠牲者が息絶えていく様を眺めながら、彼女は一片の慈悲もない笑みを浮かべる。赤黒い光が灯る礼拝堂は、血の臭いと共に、恐怖の闇をよりいっそう濃くしていた。
フィオナがナイフをかざすたび、まるで収穫物を刈り取るかのように犠牲者の体から光が吸い出される。その光は儀式服の胸元に装着された、黒い宝石に集まるかのように吸い込まれ、そこから魔道の力が脈打つように放たれていた。
生気を抜かれた者は骨と皮だけの姿となり、もはや救済の余地すらない。地面に転がるそれを横目に、フィオナは何事もなかったかのように衣の皺を正す。
「この程度の生気では満足できないけれど、今はこれでよしとしましょう。……いつか、わたしがこの国のすべてを支配するためには、もっと大きな力が必要になるわ」
“聖女”という仮面を被り、人々の崇敬を集める一方で、裏では“魔道”を用いて犠牲者を生贄とする――それがフィオナの真の姿だった。彼女は神や民を救うどころか、自身の闇の力を増すために、多くの命を喰らってきたのである。
こうして彼女が得た力は、世間から見れば“奇跡”と呼ばれるかもしれない。だが、その正体は邪悪な禁術であり、聖なる光とは対極に位置するものだった。
2. セレスティアの捜査と危機
その夜、セレスティアは胸騒ぎを覚えていた。ラウルとの仲は前より良くなったものの、公国全体がどこか息苦しい雰囲気に包まれているのを感じる。
(こんな遅い時間に、何か嫌な気配がする……)
寝台の上で目を開けたまま、セレスティアは思い切って部屋を出る決意をした。もし、先日まで調べていた“フィオナの奇妙な行動”に繋がる手がかりを掴めるなら、この暗がりの中でこそ発見できるかもしれない。
廊下に出て、控えの侍女に「少し庭を散歩して気を紛らわしてくる」と伝える。だが、実際は庭ではなく王宮の奥へ向かう予定だ。最近、フィオナの侍女や取り巻きが夜な夜な離れの小礼拝堂へ出入りしているという噂を耳にしていたからだ。
(何か……裏があるに違いない)
自らの直感に従うように、セレスティアは慎重に足音を立てないよう薄暗い回廊を進む。ときどき巡回の衛兵とすれ違いそうになっても、柱の陰に隠れてやり過ごす。心臓が早鐘を打つたび、背中に嫌な汗が滲む。
やがて、古い石壁に囲まれた回廊の末端にたどり着くと、そこに扉が一つ。かすかに何かの光が漏れ出している。扉には錆びついた装飾が施されており、この奥に小礼拝堂があるのだと思い出した。
鼻先をくすぐる異様な匂い――鉄錆のような臭いが混じり、胸がむかつく。それをこらえ、セレスティアは息をひそめながら重たい扉の隙間を覗き込んだ。
次の瞬間、セレスティアは見てはならない光景を目撃してしまう。
錬金のような道具が並び、中央に倒れている人影。その近くではフィオナが紫黒い衣装に身を包み、血のように赤い光を操って何かを行っていた。まるで、自らの手で人の命を摘み取っているかのような禍々しい儀式――。
「……そんな……」
思わず小さく声が漏れる。セレスティアは両手で口元を塞ぎ、自分の恐怖を必死に抑え込んだ。フィオナは人を助ける“聖女”などではなく、人の生気を奪い取り“魔道”を操る存在――本当に最悪の悪夢を見ているかのような現実だった。
だが、半狂乱のように儀式を進めるフィオナは、その瞬間、鋭くセレスティアの気配を察したのか、振り返る。真っ赤に染まった瞳が、まるで獣のように扉の隙間を睨む。
「……誰よ、そこにいるのは……!」
声の調子が普段の優美なものとまるで違う。その瞬間、セレスティアの心臓はぎゅっと締めつけられたように強く鼓動した。逃げなければ――だが、足が竦んで動けない。
フィオナは迷わず闇の光を指先に集め、扉の隙間に向けて放つ。激しい衝撃が扉に命中し、木片が粉々に砕け散った。セレスティアはあと一瞬避けるのが遅れれば、命に関わるほどの一撃を受けていたかもしれない。
「きゃあっ……!」
悲鳴と共に転がるように後退するセレスティア。肘を強打し、鋭い痛みが走るが、そんなことにかまっている余裕はない。
扉が大きく開き、フィオナが儀式服のまま外へ姿を現す。その瞳は憎悪と焦燥に燃え、口からは荒い息が漏れていた。
「あなた……セレスティア。まさか、こんなときに嗅ぎ回っていたなんてね。運が悪いわ」
嘲るような口調だが、その裏には尋常ならぬ殺意が宿っている。セレスティアは必死に後ずさるが、背中はすぐに壁に当たり、逃げ場を失う。
フィオナの指先には先ほどの赤黒い力がまとうように集まり始める。まるで、次の瞬間には容赦なく放たれることが確実だ。セレスティアの脳裏に、先ほど見た犠牲者の姿が蘇り、恐怖で叫びそうになる。
「せっかくラウル様がわたしのものになるはずだったのに……。あなたが余計なことをするから、ラウル様の心が揺らぎ始めている。許せない……。どうせなら、ここであなたの生気をもらってしまうのもいいかもしれないわね」
フィオナの微笑は、まるで壊れた人形のように不気味さを放つ。彼女はナイフを掲げ、暗い詠唱を紡ぎ始めた。
「いや……やめて……」
セレスティアは逃げ道を探すが、狭い回廊の先には扉が崩れ落ちて塞がっている。さきほどの魔法で瓦礫が散乱し、足を取られて転倒する。その様子を見て、フィオナは勝ち誇ったように笑う。
「ふふ……永遠に眠りなさい。ラウル様に近づいた報いよ」
3. ラウルとセレスティアの共闘のきっかけ
絶体絶命――そう思った刹那、廊下の向こうから激しい足音が響いてきた。空気を震わせるような声がこだまする。
「セレスティア! 大丈夫か――!」
その声を聞いて、セレスティアは思わず目を見開く。ラウルだった。彼は剣を片手に、衛兵らしき者を伴って駆け寄ってくる。フィオナが見せる闇の力を目にし、驚愕の表情を隠せない。
「フィオナ……おまえ、いったい何をしている……!」
ラウルはフィオナに剣先を向け、怒りと困惑が入り混じった声をあげる。さすがにこれほど露骨な“魔道”の光景を見せられれば、頭が混乱するのも無理はない。
フィオナは憎悪を押し殺すように笑みを作り、ナイフを下ろした。
「ラウル様……これは違うの。セレスティアが勝手にここへ侵入して、儀式を乱そうとしたの。すべては彼女のせい……!」
しかし、その言い訳はもはや通用しないほど、礼拝堂の状況は異常だった。辺りには呪文を刻んだ道具や倒れた人影があり、フィオナが持つナイフからは黒い気が滲んでいる。誰がどう見ても、“聖女”の所業ではない。
ラウルはセレスティアに目配せし、そっと手を貸すように合図。衛兵たちも構えをとり、フィオナを取り囲もうとする。
「フィオナ……教えてくれ。これはどういうことなんだ?」
問いかけるラウルの声はどこか裏切られたような苦しみに満ちている。フィオナは唇を噛み、険しい眼差しで彼を睨んだ。
「どういうこと、ですって? あなたには分からないのよ。私がどれだけ“奇跡”を演じるために代償を払ってきたか……。私はあなたのために力を使ってきたのに、あなたはセレスティアなんかに心を移し始めた。すべてが私の思い通りにいかないなら、破壊してやるしかないじゃない!」
フィオナの独白には、これまでの偽りの仮面が一切ない。“聖女”として崇められていた面影は消え、魔道を操る邪悪な存在としての本性をさらけ出している。
ラウルは、その姿を見て、全身を震わせた。過去の母の死を悔やみ、奇跡を求めていた自分が、どれほど脆く危ういものにすがっていたか――いまここで突きつけられた形だ。
「おまえは……そんな理由で人を殺め、力を増していたというのか……」
「ええ、そうよ。私には“聖女”としての立場が必要だった。でなきゃ、誰も私を信じてくれない。ラウル様すらも救えやしない……。だけど、セレスティアが出現してから、すべてが狂い始めたの」
すでに取り繕う様子もなく、フィオナは憎悪をむき出しにする。彼女は再びナイフを構え、闇の力を凝集させた。衛兵たちが一斉に警戒の声をあげるが、その魔力の勢いは尋常ではない。
ラウルはセレスティアを後ろへ下げ、剣を握り直す。
「フィオナ……もはや、これ以上話すことはなさそうだ。おまえが行ってきた蛮行を見過ごすわけにはいかない。俺は公子として、この国の秩序を守る義務がある」
「ラウル様……私を裏切るのね? いいわ。ならば、その背後にいるセレスティアごと、あなたをも闇の中へ葬り去ってやる!」
フィオナの裂帛の叫びと同時に、赤黒い光があふれ出し、凄まじい衝撃波が廊下を席巻する。衛兵たちは弾き飛ばされ、壁へと叩きつけられる。ラウルも衝撃を受けながら、必死に踏みとどまった。
しかし、セレスティアは悲鳴を上げる暇もなく、その衝撃で床に崩れ落ちてしまう。腕を痛め、逃げるどころか立ち上がるのもままならない。
――もし、ラウルがここに来なかったら、フィオナに生気を奪われていたかもしれない。そう思うと、体が震えるが、セレスティアは何とかラウルの背中を見つめて声を絞り出した。
「ラ……ウル、様……ごめんなさい、私……」
ラウルは彼女を振り返り、微かに笑みを見せる。
「謝るな。おまえは何も悪くない。……俺が、もっと早く気づけばよかった」
・共闘の意識
フィオナの暴走を止めるため、ラウルは剣を構え直した。セレスティアも必死に体を起こし、フィオナの動きを目で追う。今、この場ではふたりとも狙われる立場だ。
ラウルはチラリとセレスティアに視線を向け、言葉少なに告げる。
「セレスティア……少しだけ、力を貸してくれ。おまえなら何か方法を見つけられるかもしれない」
「……え?」
彼女が戸惑うのも束の間、フィオナが再び魔道の光を凝縮し、闇の衝撃を放とうとする気配を見せる。もはや一瞬の油断が命取りになる。
セレスティアは苦しい息の中、脳裏を巡らせる。――フィオナの闇の魔道を弱めるにはどうすればいいのか。
(そうだ……フィオナの力の源は“吸い取った生気”と、“この礼拝堂の呪印”かもしれない。もしここで、それを壊せば……!)
「ラウル様、あの祭壇の紋章を! あれを壊せば、フィオナ様の力が弱まるはずです……!」
セレスティアの言葉に、ラウルは即座に理解を示した。彼女の直感は、これまでの調査でも多くの問題を解決に導いている。今は信じるしかない。
「分かった。……衛兵たちはセレスティアを守れ! 俺は祭壇を壊してくる!」
まだ意識を保っている数名の衛兵が「はっ!」と応じ、セレスティアを守るべく配置につく。ラウルは反撃のチャンスを狙い、フィオナが生気を高めるより先に一気に礼拝堂へ突っ込む構えだ。
しかし、フィオナもただ黙って見過ごすわけがない。冷ややかな視線でラウルを捕捉し、手のひらに闇の魔法陣を浮かび上がらせる。
「させるものですか……! おとなしく地獄へ堕ちろ、ラウル様っ!」
闇の奔流が凄まじい音を立てて放たれる。ラウルはそれを剣で防ごうとするが、直撃すればひとたまりもない威力だ。――そのとき、セレスティアが限界を超えて身体を動かした。
「だめ……!」
自分でも勇気があるのかどうか分からないまま、セレスティアはラウルとフィオナの間に割って入ろうとする。闇の奔流が迫り、その衝撃で呼吸も止まりそうだ。だが、わずかにルートをずらせたおかげで、大半を外し、かすった分だけで済んだ。
セレスティアは地面へ叩きつけられ、視界がぐらりと揺れる。体の痛みは激しいが、ラウルが無事であることが確認できてほっとする。
「セレスティアっ……!!」
ラウルが声を上げたその瞬間、衛兵たちが一斉に動き、フィオナの注意を引きつける。ラウルはその隙を逃さず、礼拝堂内の祭壇へ駆け込むと、剣を思い切り振り下ろした。
重い衝撃と共に、祭壇に刻まれた呪紋が砕け散る。真紅の光が歪み、弾けたように消えていく。その瞬間、フィオナの動きが明らかに鈍り、吐き捨てるような声をあげた。
「く……呪印が……まさか……っ!」
闇の力を源とする紋章が壊れたことで、フィオナの魔道は大幅に弱体化したらしい。闇の奔流も勢いを失い、礼拝堂に漂っていた重苦しい気配がいくぶん薄れる。
ラウルは息を切らせながら、フィオナを睨みつける。
「もはや終わりだ、フィオナ……! これ以上、人々の命を踏みにじることは許さない!」
周囲の衛兵も体勢を立て直し、フィオナを取り囲む。だが、フィオナはなおも血走った目で恨みをこぼす。
「……終わり? いいえ。わたしはまだ、あなたを逃がさない。必ず取り返してみせるわ……!」
そう叫んだ次の瞬間、フィオナは闇の魔力を最後の一滴まで搾り出すように術式を展開し、護衛兵を牽制すると、不自然なほど高く跳躍して禍々しい闇の裂け目へと飛び込む。まるで空間を歪めて逃亡を図るかのようだ。
ラウルが追おうと剣を握り直すが、黒煙のような結界が一瞬広がり、足を止めざるを得ない。結界が消えたときには、フィオナの姿はすでに消えていた。
・結び
闇の礼拝堂には、呪印の砕け散った名残が漂い、犠牲者と思しき人物の亡骸が横たわる。あまりに凄惨な光景に、衛兵たちは声も出せない。一方、セレスティアは倒れ込むように床に膝をつき、荒い呼吸を繰り返していた。
ラウルは急いで彼女のもとへ駆け寄り、そっと肩を抱き起こす。その瞳には激しい動揺と、安堵、そして痛切な感情が混在している。
「セレスティア……大丈夫か? すぐに医師を呼ぶ……!」
「わ、私は……平気です……ラウル様が……無事で……よかった」
かすれそうな声で微笑むセレスティアを見て、ラウルは胸が締めつけられる。さきほど、彼女が自分を庇うために闇の奔流を身代わりのように受けた光景が脳裏に焼き付いていた。
「……本当に、馬鹿なことを……。でも、ありがとう。おまえがいなければ、俺は……」
ラウルの声は震えていた。たとえ公子であっても、あの闇の魔道をまともに受ければ無事では済まなかっただろう。セレスティアは自分を省みずに飛び込んだのだ。
衛兵たちの手で礼拝堂を封鎖し、負傷者の救護や状況の確認が始まる。逃げおおせたフィオナがどこへ向かったのかは分からないが、もはや“聖女”がただの慈悲深い存在でないことは、ラウルも衛兵たちもはっきり認識した。
そして何より、セレスティアとラウルの間には大きな変化が生まれつつある。今まで“仮面夫婦”のように距離を置いていたふたりだが、フィオナの闇を目の当たりにし、共に戦いを経て感じたもの――それは“共通の敵”と向き合う決意。
セレスティアはふらふらとしながらも、ラウルの腕を借りて立ち上がる。
「私たち……これから、もっと大変なことになるかもしれませんね……」
「……ああ。だけど、おまえがいてくれるなら、乗り越えられる気がするよ」
初めてラウルの口から聞く“頼り”の言葉。セレスティアは、強い痛みと恐怖の中でも、その一言だけが胸に染み渡るように感じられた。
――ついに“偽りの聖女”フィオナの本性が明るみに出た。闇の魔道を操り、生気を奪う禁術を使い、数多の命を犠牲にしてきた彼女は、未だに逃亡中である。
これから、ラウルとセレスティアは手を携えて闇と対峙しなければならない。二人の絆が深まるほど、フィオナの悪意もまた強く彼らを狙うだろう――。
複雑な思いを抱きながらも、セレスティアはラウルの腕にすがりつく。闇がこれほどまでに深いのなら、なおさら自分がここにいる意味があると信じたい。国と人々を守るため、そしてラウルを支えるために、彼女はすべてを懸けるつもりなのだ。
夜の空を見上げれば、月は薄雲に覆われていた。だが一筋の光は確かに差している。いつの日か、この闇を断ち切り、シュヴァルツ公国に真の平穏を取り戻すために――セレスティアとラウルは、共闘への第一歩を踏み出す覚悟を固めていた。
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