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第二章 魔王更生計画、始動
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翌朝——。いや、“朝”と言っていいのか分からない。城の窓から見える空は紫がかった灰色で、あまり太陽の光を感じない。
どこかの客間に案内された私は、意外にも普通のベッドやテーブルが置かれた部屋で一夜を過ごした。目覚めても夢であってほしかったが、現実に違いない。
まだ頭がぼんやりする中、ノックの音がした。扉を開けると、昨夜の黒髪の側近が立っている。背筋を伸ばしたまま微動だにしない姿はどこか凛々しく、同時に冷厳な印象を与える。
「おはようございます……と申し上げればいいのか、藤沢優衣殿」
「あ、はい、おはようございます……」
「朝食を用意しました。ついてきてください。それと、今日から“魔王陛下の教育係”として働いていただきます」
教育係? またわけのわからない言葉を投げかけられ、私は困惑するが、とりあえずお腹は空いていたので側近について歩くことにした。
石造りの廊下はやや暗く冷たい空気が満ちている。壁にかけられた燭台の炎がかすかに揺れ、私の不安も揺さぶるように見える。振り向けば、窓の外はモノクロの景色が広がり、空を飛ぶコウモリのような魔物の影がちらほら見えた。これが本当に私の現実なのか、と何度も目を疑う。
案内された部屋は王城の食堂らしく、大きなテーブルには銀色の食器が並べられている。魔王の姿はまだ見当たらないが、使用人らしき魔族たちが忙しそうに給仕をしている。彼らは人間の姿にかなり近いが、肌が灰色がかっていたり、角や尻尾が生えていたりと特徴的だ。
側近が私を促し、テーブルへ座らせる。
「まずは腹ごしらえを。藤沢殿には長くこちらにいてもらうことになるでしょうから、体力をつけていただかなくては」
「長く……。でも私、帰りたいんです。早く人間界に戻らなきゃ、会社が……」
そう呟くと、側近は意味ありげに目を細めた。
「会社? 気になりますが、魔王陛下の花嫁候補として来た以上、すぐにお返しするわけにも……。とはいえ、お約束しましょう。教育係の役目を果たしていただければ、“帰る術”を探して差し上げます」
「本当ですか?」
「我々にもメリットはあります。どうやら貴女は“人間社会の組織で揉まれてきた”経験がある。いわゆる統率力や調整能力を期待できるのではないか、と。魔王陛下は強大な力を持ちつつ、少々……横暴な部分がありましてね」
確かに昨日の態度は横暴というか、高圧的すぎる。人間の上司であれば完全にモラハラ案件だ。私は自分の過酷な社畜経験が、まさかこんな形で期待されるとは思いもしなかった。
側近は続ける。
「現在、魔王陛下は“不要な争いはやめるべき”という方針を打ち出しており、国の改革にも着手されています。ですが、統率の仕方を誤ると下の者が離反し、国が乱れる恐れがあるのです。そこを改善していただきたい」
「私に、魔王を“改善”しろと……?」
「そう。実際に陛下の傲慢な態度に不満を持つ者は多い。特に“強硬派”と呼ばれる連中が危険な動きをしていて……。藤沢殿には教育係の立場で魔王陛下を補佐し、周囲との衝突を和らげていただきたいのです」
なるほど。私は仕事でも、上司の無茶苦茶な指示に振り回され、部署の間を取り持ったり調整したりしてきた。今さら相手が“魔王”に変わったところで大差はない……のか?
そんなことを考えつつ、出された食事に目を落とす。パンのようなもの、濃厚なスープ、見たことのない色の野菜——だが香りは悪くない。実際、口に運んでみると意外と美味しかった。空腹だったこともあり、私は無言で食事を進める。
すると、ドアが乱暴に開いた。現れたのは銀髪の魔王。その背後には騎士たちが控えている。
「朝から何をちんたらやっている。早く仕事を始めるぞ。おい、人間の女、貴様が俺の“教育係”だと? ふん、面白い」
「お、おはようございます、魔王陛下……」
ぎこちなく頭を下げる私を尻目に、魔王はずかずかとテーブルに近づいてくる。美しい顔に浮かぶのは明らかに不機嫌そうな表情だ。
「まだ名を聞いていなかったな。貴様の名は……なんだっけ? ユイ、とか?」
「あ、はい、藤沢優衣です。できれば“優衣”で構いません」
「いいだろう。では優衣、おまえには今日から俺の行動を逐一監督してもらう。無論、逆らえば容赦はしない。だが、おまえが有能なら多少は意見も聞いてやろう。国政において“人間の知恵”とやらを見せてみろ」
「……わかりました。私も早く帰りたいので、できる限りのことはします」
私の言葉に魔王は鼻で笑うが、その瞳にはどこか興味の色が宿っているようにも見える。どこまでも高圧的なこの魔王を、更生——できるんだろうか。
こうして私は、魔王を“まともな王”に育て上げるという奇妙なミッションを背負い、行動を共にすることになった。
どこかの客間に案内された私は、意外にも普通のベッドやテーブルが置かれた部屋で一夜を過ごした。目覚めても夢であってほしかったが、現実に違いない。
まだ頭がぼんやりする中、ノックの音がした。扉を開けると、昨夜の黒髪の側近が立っている。背筋を伸ばしたまま微動だにしない姿はどこか凛々しく、同時に冷厳な印象を与える。
「おはようございます……と申し上げればいいのか、藤沢優衣殿」
「あ、はい、おはようございます……」
「朝食を用意しました。ついてきてください。それと、今日から“魔王陛下の教育係”として働いていただきます」
教育係? またわけのわからない言葉を投げかけられ、私は困惑するが、とりあえずお腹は空いていたので側近について歩くことにした。
石造りの廊下はやや暗く冷たい空気が満ちている。壁にかけられた燭台の炎がかすかに揺れ、私の不安も揺さぶるように見える。振り向けば、窓の外はモノクロの景色が広がり、空を飛ぶコウモリのような魔物の影がちらほら見えた。これが本当に私の現実なのか、と何度も目を疑う。
案内された部屋は王城の食堂らしく、大きなテーブルには銀色の食器が並べられている。魔王の姿はまだ見当たらないが、使用人らしき魔族たちが忙しそうに給仕をしている。彼らは人間の姿にかなり近いが、肌が灰色がかっていたり、角や尻尾が生えていたりと特徴的だ。
側近が私を促し、テーブルへ座らせる。
「まずは腹ごしらえを。藤沢殿には長くこちらにいてもらうことになるでしょうから、体力をつけていただかなくては」
「長く……。でも私、帰りたいんです。早く人間界に戻らなきゃ、会社が……」
そう呟くと、側近は意味ありげに目を細めた。
「会社? 気になりますが、魔王陛下の花嫁候補として来た以上、すぐにお返しするわけにも……。とはいえ、お約束しましょう。教育係の役目を果たしていただければ、“帰る術”を探して差し上げます」
「本当ですか?」
「我々にもメリットはあります。どうやら貴女は“人間社会の組織で揉まれてきた”経験がある。いわゆる統率力や調整能力を期待できるのではないか、と。魔王陛下は強大な力を持ちつつ、少々……横暴な部分がありましてね」
確かに昨日の態度は横暴というか、高圧的すぎる。人間の上司であれば完全にモラハラ案件だ。私は自分の過酷な社畜経験が、まさかこんな形で期待されるとは思いもしなかった。
側近は続ける。
「現在、魔王陛下は“不要な争いはやめるべき”という方針を打ち出しており、国の改革にも着手されています。ですが、統率の仕方を誤ると下の者が離反し、国が乱れる恐れがあるのです。そこを改善していただきたい」
「私に、魔王を“改善”しろと……?」
「そう。実際に陛下の傲慢な態度に不満を持つ者は多い。特に“強硬派”と呼ばれる連中が危険な動きをしていて……。藤沢殿には教育係の立場で魔王陛下を補佐し、周囲との衝突を和らげていただきたいのです」
なるほど。私は仕事でも、上司の無茶苦茶な指示に振り回され、部署の間を取り持ったり調整したりしてきた。今さら相手が“魔王”に変わったところで大差はない……のか?
そんなことを考えつつ、出された食事に目を落とす。パンのようなもの、濃厚なスープ、見たことのない色の野菜——だが香りは悪くない。実際、口に運んでみると意外と美味しかった。空腹だったこともあり、私は無言で食事を進める。
すると、ドアが乱暴に開いた。現れたのは銀髪の魔王。その背後には騎士たちが控えている。
「朝から何をちんたらやっている。早く仕事を始めるぞ。おい、人間の女、貴様が俺の“教育係”だと? ふん、面白い」
「お、おはようございます、魔王陛下……」
ぎこちなく頭を下げる私を尻目に、魔王はずかずかとテーブルに近づいてくる。美しい顔に浮かぶのは明らかに不機嫌そうな表情だ。
「まだ名を聞いていなかったな。貴様の名は……なんだっけ? ユイ、とか?」
「あ、はい、藤沢優衣です。できれば“優衣”で構いません」
「いいだろう。では優衣、おまえには今日から俺の行動を逐一監督してもらう。無論、逆らえば容赦はしない。だが、おまえが有能なら多少は意見も聞いてやろう。国政において“人間の知恵”とやらを見せてみろ」
「……わかりました。私も早く帰りたいので、できる限りのことはします」
私の言葉に魔王は鼻で笑うが、その瞳にはどこか興味の色が宿っているようにも見える。どこまでも高圧的なこの魔王を、更生——できるんだろうか。
こうして私は、魔王を“まともな王”に育て上げるという奇妙なミッションを背負い、行動を共にすることになった。
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