6 / 20
第四章 後半 交渉への糸口
しおりを挟む
城に戻った後、魔王はすぐに執務室へと姿を消した。私もさすがに疲れ果て、用意された私室へ戻る。
部屋のベッドに倒れ込みながら、天井を見つめて思う。
このままじゃ、魔王も国の人々も、いつか破綻しそうだ。
そこへコンコン、とノックの音。ドアを開けると、黒髪の側近が控えめに頭を下げる。
「藤沢殿、本日はお疲れでしょう。もしよろしければ、簡単な茶会をご用意しておりますが」
「茶会、ですか?」
「はい。こちらの世界にもお茶の文化がありましてね……少しでも気分を落ち着けられるかと思い」
私は側近に案内され、城の一角にある控え室へ移動した。テーブルには紫色を帯びた茶葉が湯気を立てており、独特の香りが漂っている。魔界のお茶……どんな味がするんだろう。
一口含むと、予想以上にまろやかで体が温まる感じがした。ほっと安らぎ、自然と微笑みがこぼれる。
「……本当に美味しいです。ありがとうございます」
「いえ、むしろこちらが感謝しております。藤沢殿には、陛下に対して物怖じせず意見していただき、助かっています」
「助かってるって……わたし、むしろ空気を悪くしてばかりな気がするんですけど」
さきほどの会議や城下町での衝突を思い出すと、胸が痛む。私はただ「魔王にもう少し優しい態度をとってほしい」「強硬派の意見も汲み取りながら、衝突を最小限にできないか」と願っただけなのに、結果として緊張が高まっただけに見える。
「陛下はもともと、自分の力を誇示することしか知らず、周囲を従える術を学んでこられませんでした。先代魔王の教育も、あまりに“力こそすべて”というものだったようで……。それを改めようとした途端に国内で反発が起き、さらに“人間を花嫁候補に”という話が広まったことで、強硬派がますます勢いを増してしまった。
とはいえ、いま藤沢殿が陛下に進言し、陛下がぎりぎりのところで暴力行為を控えているのも事実。もし藤沢殿がいなければ、今日の城下町でも流血は避けられなかったかもしれません」
思わず息をのむ。あの場で魔王が苛立ちのまま力を解放していれば、確かに大惨事になっていた可能性は高い。私が間に入り込めたのは、単に成り行きだったにせよ、多少の意味はあったのか。
「私にはただ、社畜経験で培った“コミュ力”くらいしかないんです。それで魔王を変えられるのか、不安ばかりで……」
「きっと変えられますよ。いえ、正確には“魔王陛下が自分の意志で少しずつ歩みを変えていく”のを、貴女が支える形になるでしょうね。そのためにも、まずは“対話の場”を増やしてほしいと思っています」
「対話の場……」
側近は穏やかな微笑をたたえながら、紫色の茶を啜る。
「陛下も頑固な面はありますが、完全に耳を塞いでいるわけではありません。先代魔王のやり方を継ぐことを拒み、この国を変えようとしている……そこは確かに本心なのです。どうか、焦らず彼を説得し、同時に強硬派の連中や民衆の声にも耳を傾け、意見をすり合わせる道を探ってください」
「でも、それは……私一人でできることじゃ……」
「そう、陛下の協力が不可欠です。だからこそ“花嫁候補としての立場”が必要になる。国の人々に堂々と意見するためには、それなりの権威や呼び名がないと難しいのです」
なるほど。私が正式な花嫁候補であり続けることで、ただの“人間の女”という存在以上の発言力を持つことができる。強硬派を抑え込むためには、あえてその立場を活かし、堂々と行動する必要がある……。
やや重荷に感じるが、確かに有効かもしれない。私が「ただのOLです」と言うだけでは、魔界の政治や軍事に口を出す大義名分が乏しい。
「わかりました。私も、陛下が本気で“無駄な争いをやめたい”と考えているなら協力したいです。……帰る術を探してもらうという交換条件もあるし」
「ええ、必ずお力になりましょう。私も、強硬派の動向を監視しながらサポートいたします。――ただ、無理はなさらないでくださいね。貴女が本当に命を危険に晒されるようなら、私たちも安全を最優先で動きますので」
その言葉に少し胸が軽くなる。側近がここまで協力的で本当によかった……。
私は杯を持ち上げて、紫の茶を一気に飲み干した。湯気に包まれる香りがどこか懐かしく、まるで実家の安らぎのようにも感じた。疲れがほぐれ、少しだけ勇気が湧いてくる。
「……よし。やってみます。大丈夫、私だって仕事で上司に理不尽に怒鳴られたり、連日徹夜したこともあるんですから。異世界の魔王くらい、どうにかしてみせます」
「ふふ、それは頼もしい限りですね」
こうして私は、正式な“花嫁候補”の立場を活かしながら、魔王の真意をサポートし、強硬派の動きを封じ込める道を模索し始めることを決心した――。
だがこのとき、まだ私は気づいていなかった。強硬派の目が、静かに、しかし着実に私を狙っていることを。近い将来、さらに大きな嵐が王国を襲うことになるなど、知る由もなかったのだ。
部屋のベッドに倒れ込みながら、天井を見つめて思う。
このままじゃ、魔王も国の人々も、いつか破綻しそうだ。
そこへコンコン、とノックの音。ドアを開けると、黒髪の側近が控えめに頭を下げる。
「藤沢殿、本日はお疲れでしょう。もしよろしければ、簡単な茶会をご用意しておりますが」
「茶会、ですか?」
「はい。こちらの世界にもお茶の文化がありましてね……少しでも気分を落ち着けられるかと思い」
私は側近に案内され、城の一角にある控え室へ移動した。テーブルには紫色を帯びた茶葉が湯気を立てており、独特の香りが漂っている。魔界のお茶……どんな味がするんだろう。
一口含むと、予想以上にまろやかで体が温まる感じがした。ほっと安らぎ、自然と微笑みがこぼれる。
「……本当に美味しいです。ありがとうございます」
「いえ、むしろこちらが感謝しております。藤沢殿には、陛下に対して物怖じせず意見していただき、助かっています」
「助かってるって……わたし、むしろ空気を悪くしてばかりな気がするんですけど」
さきほどの会議や城下町での衝突を思い出すと、胸が痛む。私はただ「魔王にもう少し優しい態度をとってほしい」「強硬派の意見も汲み取りながら、衝突を最小限にできないか」と願っただけなのに、結果として緊張が高まっただけに見える。
「陛下はもともと、自分の力を誇示することしか知らず、周囲を従える術を学んでこられませんでした。先代魔王の教育も、あまりに“力こそすべて”というものだったようで……。それを改めようとした途端に国内で反発が起き、さらに“人間を花嫁候補に”という話が広まったことで、強硬派がますます勢いを増してしまった。
とはいえ、いま藤沢殿が陛下に進言し、陛下がぎりぎりのところで暴力行為を控えているのも事実。もし藤沢殿がいなければ、今日の城下町でも流血は避けられなかったかもしれません」
思わず息をのむ。あの場で魔王が苛立ちのまま力を解放していれば、確かに大惨事になっていた可能性は高い。私が間に入り込めたのは、単に成り行きだったにせよ、多少の意味はあったのか。
「私にはただ、社畜経験で培った“コミュ力”くらいしかないんです。それで魔王を変えられるのか、不安ばかりで……」
「きっと変えられますよ。いえ、正確には“魔王陛下が自分の意志で少しずつ歩みを変えていく”のを、貴女が支える形になるでしょうね。そのためにも、まずは“対話の場”を増やしてほしいと思っています」
「対話の場……」
側近は穏やかな微笑をたたえながら、紫色の茶を啜る。
「陛下も頑固な面はありますが、完全に耳を塞いでいるわけではありません。先代魔王のやり方を継ぐことを拒み、この国を変えようとしている……そこは確かに本心なのです。どうか、焦らず彼を説得し、同時に強硬派の連中や民衆の声にも耳を傾け、意見をすり合わせる道を探ってください」
「でも、それは……私一人でできることじゃ……」
「そう、陛下の協力が不可欠です。だからこそ“花嫁候補としての立場”が必要になる。国の人々に堂々と意見するためには、それなりの権威や呼び名がないと難しいのです」
なるほど。私が正式な花嫁候補であり続けることで、ただの“人間の女”という存在以上の発言力を持つことができる。強硬派を抑え込むためには、あえてその立場を活かし、堂々と行動する必要がある……。
やや重荷に感じるが、確かに有効かもしれない。私が「ただのOLです」と言うだけでは、魔界の政治や軍事に口を出す大義名分が乏しい。
「わかりました。私も、陛下が本気で“無駄な争いをやめたい”と考えているなら協力したいです。……帰る術を探してもらうという交換条件もあるし」
「ええ、必ずお力になりましょう。私も、強硬派の動向を監視しながらサポートいたします。――ただ、無理はなさらないでくださいね。貴女が本当に命を危険に晒されるようなら、私たちも安全を最優先で動きますので」
その言葉に少し胸が軽くなる。側近がここまで協力的で本当によかった……。
私は杯を持ち上げて、紫の茶を一気に飲み干した。湯気に包まれる香りがどこか懐かしく、まるで実家の安らぎのようにも感じた。疲れがほぐれ、少しだけ勇気が湧いてくる。
「……よし。やってみます。大丈夫、私だって仕事で上司に理不尽に怒鳴られたり、連日徹夜したこともあるんですから。異世界の魔王くらい、どうにかしてみせます」
「ふふ、それは頼もしい限りですね」
こうして私は、正式な“花嫁候補”の立場を活かしながら、魔王の真意をサポートし、強硬派の動きを封じ込める道を模索し始めることを決心した――。
だがこのとき、まだ私は気づいていなかった。強硬派の目が、静かに、しかし着実に私を狙っていることを。近い将来、さらに大きな嵐が王国を襲うことになるなど、知る由もなかったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる