平凡OL、突然 “魔王の花嫁” に選ばれる~悪役エリートを更生させて成り上がる方法~

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第四章 城下町に渦巻く不穏

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 翌朝。私は魔王陛下に連れられて、城下町へ足を運んだ。城下町と言っても、日本のように人がわいわい行き交うわけではなく、灰色がかった空の下、石畳の通りに魔族たちがちらほら歩いている程度だ。
 それでも市場のような区画では活気があり、野菜や肉、薬草などが売られていた。一見すると人間の市場とよく似ているが、やはり売られている品には見慣れないものが多い。灰色の魚の干物や、紫色の穀物、怪しい薬品の瓶……。
「……ここに強硬派がいるんでしょうか?」
「民衆に向けて、“人間を花嫁にする魔王など信用ならん”と訴えかけている連中がいるらしい。まだ動向を探っている最中だが」
 魔王と側近、そして護衛の兵士数名とともに歩いていると、私たちの姿を見た商人や町人たちはさっと道を開け、頭を下げた。その目には畏れと敬意が混在しているが、チラッと私を見てひそひそ話をする者も多い。
 “人間”が魔王の隣を歩いている光景が、彼らには奇妙に映っているのだろう。私は少し萎縮しながら、周囲の反応を伺う。
「この国の人々も、みんなが魔王を敬っているわけじゃないんでしょうか?」
「そう簡単ではない。俺が先代魔王の路線を継承しなかったせいで、“弱腰”と考える者も少なくない。強硬派の声に共鳴する住民もいる」
「先代魔王の時代は、もっと戦争や侵略が盛んだったんですよね……」
 私がそう言うと、魔王は目を伏せたまま無言になる。そこには重い葛藤があるようだった。今の彼は、先代のように力で押し通す路線ではなく、“無用な争いを避ける”という方向へ政策を変えようとしている。でも、それに反対する者たちがいる……。
 すると、前方の広場付近が少し騒がしい様子だ。何やら人だかりならぬ、魔族だかりができている。
「陛下、あれをご覧ください」
 側近が指し示した先に目を凝らすと、くすんだ金属の鎧をまとった男が高台のような場所で演説していた。彼もまた魔族で、頭からは小さな角が二本突き出ている。
 彼の周囲には野次馬が集まり、口々に言葉をかわしている。私の耳にまで届く声は、まるで人間で言うところの“デモ”のようだ。
「人間など、侵略されるべき弱者! それを花嫁に迎えるなど、魔王の名が泣くというものだ!」
「人間界に深入りすれば、我らの誇りが失われる。魔王には、先代のように剛毅な姿を取り戻してもらわねば……!」
 まるで先代の復活を願うかのように大声で煽っている。周囲の魔族も「そうだ、そうだ」と賛同する者がちらほら見受けられる。
 腹立たしいけれど、こういう民衆の支持を取り込んだ動きこそ、強硬派が真に恐ろしいところかもしれない。単なる軍部のクーデターではなく、一般の住民を巻き込む形で混乱を起こそうとしているのだ。
 護衛兵が魔王を警護しようと前に出るが、魔王は手で制し、「少し様子を見ろ」と低く命じる。誰にも気づかれないよう、建物の陰から広場を観察する。
 その時、男の視線が私たちのほうを見つめたような気がした。まるでこちらの存在に気づいたかのように、ニヤリと口角を上げる。
「あれは……? もしや、魔王本人が視察にでも来たのか? 皆の者、見ろ! 隣には人間の女が……! ああ、なんということだ……」
 突然、男が大げさな身振りでこちらを指差した。周りの人だかりがいっせいにざわつき、私たちに視線を向ける。
 こうなると、もはや隠れている意味はない。魔王は意を決したように広場のほうへ踏み出した。私も続く。
「魔王様が来られたぞ……」
「おい、あれが……本当に人間だってのか?」
 ざわざわと興奮する住民たち。その中には、ただ恐れで身を引いている者もいれば、好奇の目でこちらを見ている若者もいる。
 問題は、先ほど演説していた男が、明らかに挑発的な態度で腕を組んでいることだ。
「これはこれは魔王様、お出ましとは光栄の極み。まさか、本当に“人間の娘”を引き連れておられるとは……」
「……おまえは、確かこの町の民兵隊長だったな。いつから強硬派に肩入れするようになった」
「強硬派? 私はただ、先代の偉業を讃え、貴国の誇りを取り戻していただきたいと言っているだけです。が、そのためには人間など不要……何より、“花嫁に迎える”など言語道断」
 男は高圧的な口調で言い放つ。民衆のなかには大人しそうな顔の者も多いが、彼の言葉に焚きつけられ、少しずつ熱を帯びている気がする。
 魔王の青い瞳に再び怒りの炎が宿る。このまま強行手段に出れば、ここで乱闘になりかねない。私は躊躇いつつも、一歩前に出て声を上げた。
「ちょっと待ってください! 人間だからって、一括りにするのはおかしいと思います!」
「ふん、なんだおまえは。人間のくせに我ら魔族を論破でもする気か?」
「論破とかじゃなく、私はただ無意味な争いを減らしたいだけです。魔族の皆さんが誇りを大事に思うのはわかりますし、私がとやかく言う問題じゃないかもしれませんが……」
 そう言いながら、周囲を取り巻く視線がじわりと痛い。民衆たちの中には、興味半分で聞いている者もいるが、嫌悪を露わにする者もいる。
 私だってこんなとこで大演説をしたいわけじゃない。でも、魔王があの調子だと下手したら暴力沙汰になってしまうかもしれない。それは絶対に避けたい。
「何を偉そうに! 貴様ら人間は魔界を侵略しようとしているかもしれんし、先代の犠牲を踏みにじっているのはどちらだ!」
「……私の世界にも“侵略なんてもう時代遅れ”って考える人は大勢います。実際、そこまで大規模な戦争なんて滅多に……」
「ウソを言うな! 人間は昔から我らを迫害し……」
 男の声が激昂していき、周りからも口々に罵声が飛ぶ。私がどう説明しても、一度抱いた先入観をそう簡単に覆すのは難しい。そのとき、魔王が私の肩を軽くつかんだ。
「優衣、これ以上は危険だ。下がっていろ」
「でも……」
「いいから下がれ。俺がどうにかする」
 彼は冷ややかな視線で男を一瞥する。
「この町には、俺の政治を支持してくれる者もいる。おまえたちが“先代の侵略路線”を求めるなら、それは過去への逆戻りに過ぎない。俺はそれを望まない……邪魔をするなら、容赦なく排除するのみだ」
「っ……!」
 再び魔王の“絶対的な威圧感”が広場を支配する。強硬派の男は悔しそうに拳を握りしめるが、民衆を巻き込んで暴動を起こすほどの度胸はないのか、舌打ちをして引き下がった。
 ただし、その場を去る際に私に向けた視線には、明らかな殺意が込められていた。「いつか必ず後悔させてやる」という意思表示だろう。背筋が寒くなる。
「陛下、こんなやり方では……」
「黙れ。下手に譲歩すれば、やつらが付け上がるだけだ」
 魔王の言葉に、私は言い返せなかった。どのみち今は強硬派と衝突して大混乱になるより、火種を残しつつも表立った紛争を避けるのが最善なのかもしれない。
 しかし、このやり方が長くは続かない気がする。彼が本気で“争いを避けたい”と思うなら、いずれもっと根本的な対話や妥協が必要になるはず。
 広場には気まずい沈黙が漂い、周囲の魔族たちが距離を置いて固唾を呑んでいる。私たちはそのまま何事もなかったかのように城へ戻るが、胸の奥には重たい不安がこびりついていた。
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