平凡OL、突然 “魔王の花嫁” に選ばれる~悪役エリートを更生させて成り上がる方法~

evening

文字の大きさ
9 / 20

第五章 後半 晩餐会と不穏な足音

しおりを挟む
 晩餐会の会場となる大広間は、壮麗なシャンデリアが光を放ち、各地から集まった魔族たちが談笑していた。貴族や商人、軍の将校など、年齢も立場もさまざまだ。
 私と魔王が入室すると、場の空気がさっと変わる。もちろん、敬意を示すように頭を下げる者もいる一方で、私を睨むような視線を向けてくる者も少なくない。ここに強硬派の人間が紛れ込んでいるのかと思うと、背筋が冷たくなった。
 それでも魔王は堂々と歩を進め、壇上のような場所に立って皆へ告げる。
「今日はよく集まったな。城下の騒ぎなど、色々と面倒なことはあるが……余計な争いを避けるためにも、こうして話し合う場を持つのは悪くない。存分に意見を交わそうではないか」
 一見すると素っ気なく聞こえるが、これまでの魔王なら「黙って俺に従え」と言いかねないところを、こうして多少なりとも“話し合い”を前提に語るようになったのは進歩かもしれない。私は内心ホッとするが、周囲の魔族たちがどう受け止めるかは未知数だ。
 立食形式の宴が始まり、音楽が流れる中、それぞれが食事を口にしながら情報交換や談笑を繰り返していく。私は緊張をほぐすためにグラスを手に取り、軽く紫色の果実酒を一口含んだ。
「おや、あなたが“人間の花嫁候補”ですかな?」
 後ろから声をかけられ、振り返ると品の良さそうな初老の魔族――背は低いが洒落た服装をした男性がにこやかに私を見つめていた。
「ええ、藤沢優衣といいます。あの、よろしくお願いします」
「私はレゼル侯爵という者です。昔は先代魔王に仕えておったが、今は隠居同然の身でね。あなたが来られてから国の雰囲気が少しずつ変わってきた、と聞いておりまして、興味を持っていたのですよ」
「変わってきた……ですか?」
「うむ。現魔王様は先代のような恐怖政治を嫌っておられる。それだけでなく、あなたのような人間を側に置くなど、実に大胆な試みだ。今日の晩餐会で、陛下がどういう未来図を語られるのか楽しみにしているよ」
 侯爵はそう言うと、楽しそうに笑って去っていった。こういう穏やかな人もいるんだ……と少し安心する。実際、私に話しかけてくる者の中には「人間の文化や食べ物の話を聞いてみたい」と興味を示す人もいて、すぐに敵意を向けるわけではないという人々も一定数いるとわかった。
 だが、会場の端のほうでは、私を遠目に見てひそひそと囁く者もいる。その中には、城下町で演説していた民兵隊長らしき姿も含まれていた。
「……花嫁候補の女が何をしようと、“力”を示せぬ魔王など支持できん」
「結局、強硬派を抑えきれずに終わるんじゃないか」
 苛立ちに似た視線を感じながらも、私は極力目を合わさないように気をつける。下手に挑発してはいけない。今は無闇な対立を避け、魔王の政治方針を少しでも理解してもらうきっかけを作るのが目標なのだ。
 しばらくして、魔王が壇上に戻り、グラスを持って挨拶を始めた。
「皆、今日は集まってくれて感謝する。俺は先代の時代とは異なる形で、この国を守り、発展させたいと考えている。無意味な争いはできるだけ避け、人間界との融和を目指すのも、その一環だ。……もちろん、納得できない者も多いだろう。だが、理不尽に命を散らす時代は終わりにしたい。俺たちは誇り高く在りながら、同時に生き延びる手段を選ぶ必要がある」
 一瞬、会場が静まり返る。強硬派を刺激しないよう、しかし自分の意志は明確に述べる――不器用ながらも魔王なりに言葉を選んでいるようだ。私は思わず胸が熱くなる。少し前まで「俺の言うことに黙って従え」と高圧的だった彼が、こうして皆に意図を説明しようとするなんて。
 ところが、魔王が次の言葉を探している最中、突然――。
「……笑わせるな!」
 会場の一角から荒々しい声が響いた。見ると、先ほど城下で演説していた民兵隊長らしき男が、グラスを乱暴に置いて壇上を睨んでいる。
「どこまでも弱腰を晒して、魔族の誇りを踏みにじるおつもりか! 人間ごときに取り込まれ、花嫁だの教育だの下らん茶番をしているうちに、こちらが滅ぼされるかもしれんというのに!」
「っ……」
 会場がざわめく。護衛の兵が男に近づこうとするが、すでに会場のあちこちから賛同の怒声が飛び始める。「そうだ、魔王らしく力を示せ!」「人間など信用できない!」
 魔王が周囲を鋭く見渡す。ここで一気に威圧を放てば、強硬派を黙らせることはできるかもしれないが、晩餐会の目的が台無しだ。彼は苦い顔をして、それでも言葉を継ぐ。
「確かに、俺は先代のように侵略を続けるつもりはない。だがそれは決して“弱腰”ではない。おまえたちが奪い取りたいものは一体何だ? 血か? 領土か? それを繰り返す先に残るのは憎悪だけだ。俺は……」
「黙れ! この腰抜けが!」
 民兵隊長が魔力を込めた風の刃のような魔法を、壇上に向けて放った。鋭い音が走り、会場が悲鳴に包まれる。思わず私も息を呑んだ。
 しかし、その刃が魔王に届く直前、宙を裂くように青い炎が立ち上り、魔法をかき消す。魔王が咄嗟に発動した防御魔法だ。圧倒的な力を見せつけられた民兵隊長は動揺で目を丸くする。
「……わからない奴だな。俺が本気を出せば、おまえ一人など一瞬で灰にできる。だが、それは何の解決にもならない」
「ちっ……! おまえなんか、魔王じゃない……!」
 男は悔しげに叫び、会場にいた仲間らしき者たちとともに走り去る。周囲の賛同者も戸惑ったまま後を追い、晩餐会は大混乱に陥った。動転する参加者たちを、護衛兵や侍女が必死でなだめている。
 私は壇上へ駆け寄り、消耗した様子の魔王を支える。
「大丈夫ですか、陛下……?」
「……ああ、すまん。おまえにまでこんな目を……」
「いいえ。それより怪我は?」
「これくらい、大したことではない」
 魔王は気丈に答えたものの、その表情には失望の色が滲んでいた。やはり強硬派との溝は深く、言葉だけではすべてを変えられない。
 私は拳を握りしめる。いつか彼らと“対話”できる道はあるのだろうか。それとも、最終的には避けられない衝突へ進むしかないのか……。
 晩餐会は事実上途中でお開きになり、私は魔王とともに大広間を出る。まるでこの国を覆うかのように、暗い雲が心の奥へと立ちこめるのを感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...