平凡OL、突然 “魔王の花嫁” に選ばれる~悪役エリートを更生させて成り上がる方法~

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第六章 強硬派の揺さぶり

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 晩餐会の混乱から数日後、王城内は表向き平静を装っていた。強硬派の民兵隊長が魔王へ暴力行為を働いたことは一部の噂になったが、魔王が即座に彼らを処刑するでもなく、むしろ罰を与えず放置しているため、内外でさまざまな臆測が飛び交っている。
 そんな状況の中、私は側近から衝撃的な報告を聞かされた。
「……あの民兵隊長たちは、一時的に姿を消しているようです。おそらく“地下組織”に潜伏し、さらに激しい活動を準備している可能性があります」
「潜伏……。じゃあ、城下町を離れたってことですか?」
「ええ。付近の山岳地帯に“隠れ里”があり、そこで魔物を訓練したり、武器を蓄えたりしているとの噂があります。万が一、彼らが大規模な反乱を起こすとしたら、かなりの被害が見込まれるでしょう」
 耳を疑う。晩餐会での騒ぎはまだ小競り合い程度で済んだが、もし組織だった反乱を起こされれば、城も民も巻き込まれる大惨事になりかねない。私は蒼白になって側近を見る。
「魔王陛下は、何て……?」
「まだ具体的な動きはされていません。あくまで強硬派を“話し合いで説得したい”と思っておられるようで。強引な軍事制圧で押さえ込むのは最終手段にしたいらしい」
「……でも、彼らは魔王に牙を剥いたし、私も狙われてる……」
 複雑な気持ちが胸に渦巻く。自分がここにいることで事態が悪化しているなら、いっそ人間界に帰ったほうがいいのではないか。だが、もし私がいなくなれば、魔王が更なる孤立に陥ってしまうかもしれない。
 迷いを抱えたまま廊下を歩いていると、目の前から魔王が現れた。彼もどこか沈んだ顔をしているが、私を見つけると少しだけ表情が和らぐ。
「優衣、少し話がしたい。執務室へ来てくれ」
 静かに頷き、私は彼について行く。執務室は重厚な扉が閉ざされ、外からの音をシャットアウトしていた。机の上には分厚い資料や地図が広げられている。
「……強硬派の連中が、山岳地帯に逃げ込んだ件は聞いているな?」
「はい。彼らはもう、“言葉で説得”できる段階を越えつつあるようにも思えます。どうするんですか?」
「実は、こちらから代表者を派遣して“直接の交渉”を試みようかと考えている」
「それって……危険じゃないですか? 交渉相手を捕らえたり、襲いかかってくる可能性が高いですよ」
 魔王は静かに首を振る。
「たしかに危険だ。だが、今の段階で彼らを軍隊で包囲すれば、多くの血が流れるだろう。民間人に被害が及ぶ可能性も高い。……俺はそれを避けたい。だから、“対話”の機会を与える。もしそれでダメなら、初めて力を行使する」
「……なるほど」
 私は胸を撫で下ろすような、けれど微妙に引っかかるような感情を抱える。魔王は本当に優しいのかもしれない。以前の威圧的な姿しか知らない魔族たちにとっては、こうした態度は“優柔不断”に見えるかもしれないが、私は彼の意志を尊重したい。
 それにしても、代表者を派遣するなら、いったい誰が行くのだろう? 危険すぎる任務だ。
「陛下、その代表って……もしかして、私ですか?」
「……おまえは危険だ。強硬派の連中が最も憎む“人間”を送ったところで、状況が悪化するだけかもしれない。むしろ、俺が行くべきだろう」
「陛下が、直接……!? それこそもっと危ないですよ!」
 思わず声を上げる。魔王のように国の頂点に立つ人物が、敵陣へのこのこ出向くなんて自殺行為に等しい。だが、彼は憂いを帯びた瞳で私を見る。
「わかっている。それでも、俺が動かねばならない。これは俺の国だ。強硬派を放置すれば、また無駄な争いが起こり、多くの命が失われる。……先代の時代の惨劇を繰り返すわけにはいかないんだ」
 その言葉に力がこもっているのを感じ、私は胸が痛くなる。結局、魔王が強硬派と向き合うしかないのだ。それは、まるで会社で言う“トップの責任”に等しい。
 私はそっと魔王の袖を掴む。
「なら、私も行きます」
「な……何を言い出す」
「私が行って、何か解決になるかはわからない。むしろ逆効果かもしれない。でも……陛下が危険な目に遭うなら、少しでも力になりたいんです。あなたを放っておけない」
 そう言うと、魔王はわずかに目を見開き、呆れたように苦笑した。
「おまえは本当に、奇妙な女だな。……わかった。危険を承知で、それでも来たいのならついて来い。今の俺には、おまえの“無茶苦茶な社畜根性”が頼もしく感じられることもあるからな」
「……ありがとうございます」
 思わず笑みがこぼれる。ほんの少しだけ言葉遣いが優しくなった気がするし、こんなふうに彼が私を認めてくれるのは初めてかもしれない。
 だが、これから先はさらに厳しい道が待っている。強硬派との直接対決が、どんな結果をもたらすのかは誰にもわからない――。
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