泡沫の欠片

ちーすけ

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業界的展開の迷走

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本日はなぜか、塩野君により、メグさんと私が撮影現場に送られることに。
冒頭で殺されるホステスの役で、セリフもなければ出るのは一瞬。
SPHY専属女優って事で、ゲスト扱いしてくるところはあるけれど、その程度の役に私を呼ぶ意味が解らん。
私、その手の役するには高過ぎないか?
そう、私の場合、ほとんど無名にも拘らず、SPHY専属女優の貸し出し名目があるので、いっぱしの女優さんの出演料を、普通に請求されるのである。
冒頭殺される台詞が無い役なんて、それこそ、大手事務所の新人とか、劇団の人が、上にくっついて顔売りの為に無料で引き受ける程度の仕事である。
そこに金をかける理由はない。
まあ、そんなん無視して使うのは、先生ぐらい採算度外視しようとする、拘りの変人だと思う。
そんな感じなので、楽屋も大勢のその他と一緒に放り込まれ、男性である塩野君は扉待機。
当然、その他多勢にわざわざメイクなんてつかないから、自分でお化粧する人達が鏡の前を陣取って動かない。
まあ、セリフがある、アップがある役者が優先ですよね?
さっさと聞いていた衣装に着替え…これも事前確認の元メグさんが用意。
さっき衣装担当と監督に挨拶がてら確認しました。
その後にカメラさんと他出演者様にも。
普通な感じだったんだけど、健吾君は何を心配しているのか?
なので隅っこの折りたたみ椅子に座って、メグさんからメイクを受ける。
そこに刺さる視線の痛いこと痛い事。
お前、外に男連れてるだけでなく、わざわざ、メイクまで連れて来たのかよ?
何様?
当然の視線をものともせず、口紅だけ残してメイク終了。
スポドリ軽く飲んで、お外に出る。
なんか視線痛いし、空気悪いし。
塩野君と合流して、その辺の椅子に座る。
まあ、座ってるのはメグさんと私だけだけど。
やっぱ、塩野君、護衛、だよね。
誰がどう見ても、今現在も。
「メグさん、健吾君から何か聞きました?」
「そうね。無茶振りされたら、途中でも帰ってこいとは言われたわね」
メグさんもか。
「私も、この仕事受ける時、なんか、止めろ圧掛けられたんですよね」
「それで、なんで受けるの? 仕事困ってないよね? っていうか、長谷監督が手ぐすね引いて待ってるんじゃなかった?」
そうなんですよねぇ。
「ただ、健吾君があんまりにも乗り気じゃない癖に、仕事として紹介するから、何かあるのかなって」
「受けちゃうんだ」
「私には受けてみないと、何が何だか分からないので」
一応はこれ、動物園の飼育員さんの心温まる話。
私は、そこで立派な飼育員さんになると空回りしている新人さんのお姉さん。
その子の学費の為にホステスをしていて、殺され、結局はその死亡保険金で大学卒業まで乗り切った娘さんが、意地でも夢を叶えると頑なに意固地になっているのを、先輩と動物達とのあれこれで、解きほぐしていく…みたいな心温まるお話の筈。
そんな回想つらつら考えていたら、キラキラしい女の子が歩いてくる。
多分何かの衣装なのか、丈のやたら短いスカートに可愛い高下駄の革靴合わせた、胸元ガっパリ開いて肩まで切れ込み入っている様な、ぴっちりした服着た、紅茶みたいな髪色の女の子。
二十歳くらいなのかねぇ。
後ろに紺スーツのお兄さん引きつれていたので、多分出演者の主要キャスト?
一応立ち上がって頭を下げたら、なぜか、私の前で立ち止まってニコニコ。
眼が完全に笑っていなかったけど。
「おはようございます。宜しくお願いしますね」
「こちらこそ宜しくお願いします」
そう言ってもう一度頭を下げれば終わりだろう。
出演者同士とはいえ、端役のこちらに、挨拶してくるだけでも丁寧な方だ。
目礼で通り過ぎるのだって、礼儀正しいと言われるくらいだろうし。
態々声をかけてくる理由が全く思い当たらない。
「ホント、おっぱい大きいんですね」
え?
またそこ、追究されんの?
「でもだったら、妹の為にもっと出して、体張って仕事してる感、出してほしいなぁ」
え?
監督とスタイリスト総責任者さんとも話し合った結果の衣装に、主要キャストとは言え、1出演者がダメ出しすんの?
今更?
希望あるなら、もっと余裕がある前段階で言っとけよ。
撮影当日に言うとか、只の嫌がらせじゃん。
「それにぃ、メイクももぉっと、こぉう、可愛らしくしてくれません? 私と全然似てない。お姉ちゃんだなんて、とても思えないんですよねぇ」
元の地顔が似てないんだから、メイクで顔作るのは限界ないか?
性格とか雰囲気似せろって言うなら似せるけど、この子に似せた、妹の為に体張って殺されるホステス?
えっと、まとまりどうすんの?
この子なら、姉が身体張らんでも、それこそ、パパとか見つけてきそうじゃない?
いや、それをさせない為に身体張るの?
それこそ全く似てない姉妹にしかならんような…。
「本当に、胸だけで清牙さんに気に入られたんだぁ? なんか羨ましいなぁ。私、そこまで大きくないけど、形は良いのになぁ」
えっと、これはもしや…とメグさんを見れば頷かれる。
清牙に絡んで行ったとか言うアイドルさん?
「本当に、どうやって気に入られたんです? そのでっかいおっぱい押し付けただけ? どんなふうにすれば清牙さん気に入ってくれます?」
「朱莉」
後ろの紺スーツのお兄さんの言葉に、アイドルらしく可愛く拗ねてみせる少女。
まあ、年齢的には成人女性なんだろうけど。
「だって、清牙さんの曲欲しいし、清牙さんと仲良くしたいんだもん」
「それこそ、この人に言うだけ無駄だろ」
ですねぇ。
「行くぞ」
「えぇえぇっ、折角無理言って、この人入れてもらったのにっ」
「お前はまた!」
そんな、軽い言い合いをしながら歩いて行くお2方。
「えっと、つまり?」
「清牙に振られた馬鹿女が、今のお気に入りの女を見てやろうって、呼んだ感じ」
メグさんのバッサリ説明に脱力。
まあ、下らねぇ。
「ちょっと前、泣かされちゃった子?」
清牙がドブスとか言ってたけど、そこそこ可愛かったけど?
「その前じゃない?」
メグさんにもよく分かっていない模様。
ただ、その前の情報すら、私には分からんのですが?
「清牙に粉かけたい女の子は、どれだけいるんでしょうかねぇ」
「まあ、見た目と稼ぎと将来性は、現状、あるだろうから」
なるほど。
沢山いると。
「ここで、私がそんな関係にありませんとか言っても」
「誰も信じないわね」
ですよねぇ。
私は今現在、清牙の唯一の女性な相手として、認識されている、らしいので。
「その上、あの紺のお兄さん」
「マネージャーよね」
「嫌われてましたよね?」
「間違いなく、楓ちゃんがおっぱい使って清牙誑し込んで、他の女遠ざけてる。仕事の機会を奪う勘違い女とでも思ってるんでしょうし」
うわぁ。
「それに、身体使って仕事とって、今も他所の仕事まで値を釣り上げてる馬鹿女とか、思われてそう」
「帰る?」
メグさんの言葉に首を振る。
「まあ、健吾君も、そう云う事なら言ってくれれば良かったのに…とは、思いますけど」
「受けなかったの?」
「断る理由もないですよね」
別に、条件は外してないのだから、普通にお仕事しますよ。
決して安くはない、既定の金額だって、貰える訳ですし。
「言ってくれれば、徹底的に役作り込んで、素人アイドルを高笑いしてやったのにとかは、思いますけど」
「そう云うとこがね、健吾も心配しているのよ。これ以上、監督とかプロデューサーとかに、ファン作らないでって」
えぇぇ?
「あなたが忙しくなっちゃうと、清牙がまた拗ねるし、駆郎がお姫様確保で行方不明になっちゃうでしょ」
どうして、仕事でイラつくと、清牙は私の胸に癒しを求めるのか?
清牙が荒れて、巻き込まれる駆郎君の心労は理解出来る。
出来るんだけど、その心労の癒しを娘さんに求めるのは止めれ。
せめて、会いに行くなら健吾君に言っていけ。
娘さんに怒られて初めて、思い出したように連絡するの止めろ。
その皺寄せは、健吾君と舞人君がひっかぶる。
特に舞人君は、双方の若者の暴走に、その時々で対処しなければならず、結構大変。
それ以上の責任が伴う健吾君は、ねぇぇ?
「健吾君、大変だよね」
「その大変に、振り回されることに喜び感じる変態だから、良いんじゃない? ねえ、塩ちゃん」
「ああ、まあ、最近皆さん、生き生きしてますから」
さすが、上位下僕。
言ってることが優等生過ぎる。
「つまり、今日の健吾君の警戒は、私が役者魂に火をつけて、荒ぶる演技で、周りをどん引かせるのを警戒していたと」
「それこそ、冒頭台詞無しの殺され役に、荒ぶらなくてもいいでしょ」
そこだけ熱かったら、確かにバランスは悪いよね。
「でも、喧嘩売られちゃったので、今出来る事、頑張っちゃおうかなぁ」
「あぁ、まぁ、そう云うとこは清牙とそっくり」
止めて。
私はそこまで、喧嘩上等じゃありません。
何より、運動神経切れてるので、手足は絶対に出ません。
余程の事が、無い限り。
「いっそのこと、ご希望通り、胸元ガっパリいっときます?」
「止めて。そこで本気で荒ぶらないで。清牙に見せられなくなるでしょ」
「見せなければいいのに」
「楓ちゃん、清牙に全く信用されてないもの」
ああ、わざわざお仕事結果、チェック迄されちゃうのね。
「出来れば、台本、読みたいなぁ」
冒頭台詞無しの殺され役なので、用紙一枚のト書き説明のみ。
「あぁあ、本気になっちゃって」
呆れ顔のメグさんを見つつ、塩野君が動く。
「ちょっと調達してきます」
「塩ちゃんも、働き過ぎ」
メグさんの呆れ声は何のその、私は出番までの時間で、荒ぶる魂を鎮めるべく役作りに没頭したのでした。
結果はまあ、妹が空回りしてても姉との約束を守ろうとした気持ちが良く分かると言われる作りでしたよ?
妹が空回りし過ぎて棒読み過ぎるのが逆に可愛いって、評判にもなってたし。
その後、健吾君に「また、依頼増えてるんですが?」とにこやかに言われたことは知らない。
だって私、後、先生の鬼仕事抱えてるんで、それの目途立たないと、他出来ないもん。
健吾君頑張れ。
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