泡沫の欠片

ちーすけ

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波状攻撃爆散

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そのまま、浅見さんと健吾君は何かの確認でお出掛け。
駆郎君は夏芽君と一緒に病院へ。
残された私達は、すやすや眠る希更を再確認してから、出入り口直ぐの事務室に。
おざなりに歯磨いて顔を洗って拭いて水を飲んでいたら、嫌そうな顔の清牙になんか渡される。
あ、洗い流さないタイプのヘアリンスね。
「顔は?」
言いつつ、なんかまたもや瓶渡されて自分でぬりぬり。
「だからコットンを「終わりました」もうイイ」
呆れているらしい清牙も、パジャマ下姿で椅子にもたれた。
「面倒臭ぇな。来るならこっち来い」
いや、アンタ暴れたいだけなの?
実際は、自分の周りで、自分のいない場所で、自分の仲間に傷つくのが、まあ…ね。
自分の仲間。
自分の守るべき仲間。
そこに危険が伴うくらいならば、自分が襲われた方が手っ取り早い。
速攻返り討ち、叩き潰してくれるって意気込みなのは、まあ分かる。
「清牙、自分から危ないことはしない様に」
明日は清牙の移動もあるんだし。
確実に、人手が足りない現状。
好き勝手には出来ない。
どう考えても、私達のお出掛けにも人手がいる訳で。
「明日、やっぱり」
「健吾になんかあるんだろ。行ってこい」
嫌そうな顔は、言ってる内容と釣り合ってないんだけど?
「今の希更に、必要なんだろ?」
嫌だけど、自分が提供出来る分野ではない。
それだけではなく、結果成果が、確実に有効。
だから、嫌だけど、仕方ない。
「希更だけじゃなく美凉華にも、結構重要」
「なら、仕方ねぇだろ」
そうなんだよねぇ。
「清牙も、イヤイヤ言うのは良いけど、周りを困らせない様に」
「うるせぇ」
本当に、素直じゃないなぁ。
そう云う私だって素直じゃないんだけど、ね。
怖いムカつく、頭おかしくなりそう。
なんだって私がっ!?
そう、喚いて泣き叫べていた、私はもう、いないのかもしれない。
もう、ただただ、無暗に泣いて喚いて文句垂れていられただけの、あの時には、戻れない。
何をどうしても無駄な事、沢山知ってしまったから。
強がって平気な顔することでしか、自分を保てないから。
そんな私に、また嫌そうに溜息一つ吐いた清牙。
「そんな顔しなくても、意識戻って駆郎呼び出す頭もあるぐらいだ。親父さんも心配いらねぇよ。浅見も警察に脅し掛けに行ったからな」
浅見さんのお出掛けって、そういう事なのね。
一家がお偉い警察関係者でもある浅見さんが、直接警察署に状況確認に行けば、捜査している所には相当なプレッシャーだろう。
警察にも仕事の序列とかあって、マスコミの感心とか何とかで仕事の優劣、決まってきちゃうからね。
実際に、後回しにされた挙句御座なりで終わらせられる案件なんて、腐る程ある。
日本では時効なんて言う腐った制度がまだまだ残っているのにも拘わらず、御座なりの書類処置だけで放置のまま終了させる案件が、山詰みしている。
被害者関係者からすれば堪らない。
腹立たしい事だろう。
でも、限られた人間が、膨大な案件の中で、動いて結果を出すのだ。
やれることにはどうしても、限界がある。
今回の場合はまあ、警察が仕事しなくても、健吾君が動くから、徹底的に暴くんだろうけど。
警察処理より早く、自己完結させちゃう可能性も高い。
その場合、警察の立場面目丸潰れなので、圧力掛けに行くのもまた、多分、浅見さんの優しさも含まれているんだと思う。
「にしても、手口、変えたのか? 別口なのか…」
清牙の呟きに?
「どう云う事?」
「楓がすっぱ抜かれて、それに腹立てて、楓の部屋壊して精液ぶちまけて、所有支配欲爆発させてんのに対して、今回の親父さん襲うのは、完全にオカシイ」
まあ、駆郎君のお父様には何度も会ってはいるんだけど、言い換えれば、何度かしか会っていない。
ある程度親しいと言えるのは確か。
希更をお家に預けるのに何の心配もないぐらいなんだから、それは間違いない。
だけど、親しさで言えば奥様の美咲さんが上だし、当然SPHYの方が断然親しい訳で。
それ以前に、私が親しいと言えば、やっぱ、鈴鹿として露出している美凉華や、実の姉ちゃんが出てくる筈で。
そこには今のところ問題はないらしく…。
それら素通りで、駆郎君のお父様をピンポイントで襲う理由?
最近の警備が厳重で、オジサマしか襲えなかった?
それなら、何にもない、ウチの姉ちゃんの方が襲い易いだろう。
確かに、なんか、理由付けとしては苦しいよね。
「だが、親父さんが駆郎を呼び出したって事は、楓関係なんだろうけどよ」
「SPHYって事は?」
「今更親父さん襲う理由がねぇだろ」
ですよねぇ。
駆郎君のお父様、SPHY結成当初の頃は相当念入りに肩入れしてくれており、あちらの圧力も総無視していたんだそうな。
実際、SPHY結成直後辺りの仕事は、激減したんだそう。
激減していても、腕が良いので仕事はあった。
そういうの嫌う、元からのお仕事仲間も、環境もあった。
だからこそ、SPHYは復活出来た事情もある。
今でも時々、オジサマにはSPHYから正式にお仕事も頼んでいるみたいなので、関係者と言われればその通り。
SPHYに恨みを持ち、SPHYへの何らかの報復がしたいけれどSPHY周りは警備が厳しい。
だからその関係者にって云う話で、駆郎君のお父さんを襲うのが、今?
ちょっと、タイミングとか色々、アレだよね。
あまりにも今更過ぎる。
手口も暴力的で杜撰。
外も中もカメラ一杯日本の中で、映像残ってる犯人が捕まらないのは、警察が仕事してない時。
今回はテレビ局の中で起きた事件だ。
嫌でも仕事しなければ、そのテレビ局から番組使って何言われるのか分からないのだから、警察もやるしかない。
後回しには出来ない。
犯人が捕まらないのは、あり得ない。
「それに健吾の話では、攻撃性の強い楓のストーカーは、既に抑えている。今は始末処理に入ってて、そっちで動くとしたら外部委託。最後の足掻きでわざわざ、親父さん襲う意味が分かんねぇ」
ん?
「私って今、結構安全度上がってるの?」
「お前の言動がアレだろ」
なんだよ!?
「ストーカーって、もう襲ってこれない感じなの?」
「まあ、今までのは、それどころじゃなくなってるだろ。健吾がきっちり追い落としてるみたいだし。まあ、その腹いせで自棄になって、なんかしてくるのもいるだろうから、まだ警戒解けねぇけど」
その言い方は、後は時間の問題って感じ?
「危険度低いんじゃないの?」
「完全に追い落とす前が、一番危ういんだと」
健吾君の言葉なのね。
「それ以外が騒がしいのもあるしな」
希更、だよね。
Elseedのお二人が言ったように、気が付く人は気が付いているんだろう。
そしてそれは、あのドラマの曲で決定打になった。
「あの曲って、どの程度、なの?」
綺麗な、タテの為にだけ作られた曲。
私は好きだけど、世の評価は分からない。
そして曲の完成度と芸術性と、その人気はまた、全然別物。
結構、色々ギリな作成だったので、本格的な売り出しは、完全にドラマ放映後となってくる。
順番が完全に逆転している訳で、まあ、これから、なんだよ。
ダウンロードでさえ、まだ準備が欠片も出来てないって話だし。
「売れるかどうかは、ドラマ人気もあるだろ」
当然ですね。
「それと売り出し方とか、まあ、まだ結果はこれから」
それも分かっているつもり。
「一緒に並んでるのが博人んトコと。ギナだからな」
話題性はあるよね。
それも、どの曲とも明らかに毛色が違い過ぎる訳で。
「俺なら、アレ、季節ずらすけどな」
うん?
「アレ、冬曲だろ」
そう言われたら、そんな気がしてくる様な。
「駆郎も言ってた。アレ、冬に仕様変えて、売り出したが確実だって。ドラマ版の配信はさっさとやるだろうが、CD販売はバージョン完全に変えて、冬にすんじゃね」
「それは当然、希更も関わってくるのよね?」
「希更の許可なく変更出来ねぇし、アイツが自分でやるだろ。それに、一曲って訳にもいかねぇし」
そう、ですよねぇ。
自分で出来ちゃうのよね、あの子。
曲だって、もう一曲出来ちゃうんだよ…。
やろうと思えば、もっと。
「健吾が冬向け商品で探してる」
え?
そこまで話出来てんの?
「結構なロングラン的な話ですか?」
「まあ、一気には来ねぇな。だが、それが出来る曲だ」
それはまあ、アレ…なんですね。
なんかすげぇ。
「こっちに結構な探りが来てるし、交渉も来てる」
え?
もしかしてそれは、作曲依頼的な…?
「それに関連して、楓を引っ張り出そうとしてるのがいる」
「なぜ、そこで私ですか?」
「お前さえ確保出来れば、俺らか希更、どっちかに確実に行けるって事だな」
えぇぇぇ?
「逆だよね?」
「それが理解出来てねぇ奴が多くってよ」
知らんよ。
確かに、私が関わることで希更が刺激を受ける事は、あるにはある。
実際『鈴百合』は私の出ていた映像ラッシュに脚本見て、希更が作り出したもの。
見て聞いて感じて頭で閃いて、それは出来る。
だが今はまだ、希更1人では到底作詞作曲は無理。
当然、何があって何をやるにしても、SPHYの助けが絶対的に必要。
SPHYがダメだと言ってしまえば、希更には結局何も出来ないし、やらない。
希更もそこまでお馬鹿ではないので、1人で出来る範囲限界は弁えている。
何かやりたいにしても、必ずSPHYは通す。
希更単体は有り得ないし、ましてや私を通したからどうのなんて話は、有り得ないのだ。
結局はSPHYを通さなければ話にならないので。
その状況で、私だけ引っ張ってどうするのか?
SPHYなんて、清牙なんて、私がどうこう言ったって、ちっとも言うこと聞かないし。
私をドラマや映画で、出番は少ないけどそこそこ美味しい役とかにすれば、清牙が動く可能性は無きにしも非ず。
いつもの『俺の役者が出てるんだから』で。
だけど、それ、必ずじゃない。
作品内容や私の扱いに、清牙の好みと、健吾君のトップ判断…etc.で、結構な賭け率になるんですが?
経費ドブ捨て覚悟にしては、元手以前に、掛かり過ぎじゃないですか?
私、相変わらずSPHY専属女優上乗せ料金掛かってるんですが?
序に言えば、私にしろSPHYにしろ、思惑通りに動く訳もない。
清牙的に面白味がなければ、私を使ったからって曲が出来る訳もないし、そんな打算だらけの話で、私も清牙に曲依頼はしないって。
先生みたいに、大前提の信頼や今までがあれば、また話は変わってくるんだけど。
だから、順番が違うのだ。
SPHYの曲が欲しいのなら、まずSPHYに頼む。
その序に私を出してみようか、出たいなら出れば…くらいの展開が、現状の推奨な訳で。
そこに興味を持った希更も混じるかもしれないね…くらいの話でしかないんだってば。
私有りきでは、SPHYの音楽は出来ない。
SPHY頼りの希更担ぎ出すのは、到底無理。
「そもそもなぁ。逃がすくらいなら潰すってぇの」
「相変わらず、な?」
物事判断が、大変過剰結論である。
私や希更、何かの気狂いで他所に…なんて話になったら、清牙は本気で暴れる。
当然本気の潰し合いが始まる訳で、泥沼必至。
誰にも得はない。
と言うか、希更がSPHYの庇護離れて音楽、作詞作曲なんて夢のまた夢。
私に関しては、SPHYの囲ってる役者って肩書に面白おかしく飛びつかれての現状だしね。
それが無くなれば、私なんて、誰も見向きもしなくなる可能性が高い。
まあ、私としても、SPHYの保護下での方が動き易いし、丁度いいとは思っているんですけどね。
私には害が…現状あらゆる所に、問題があるにはあるけど。
まあ、かろうじて許容範囲なので、まあ、致し方なく?
間違いなく、まだまだ独り立ち出来ない希更を他所が取り上げることは出来ないし、私をどこかが引き抜いてSPHYを誘うのも現状有り得ない。
結果、私一人を引き上げてから他を釣ろうとする発想が大間違い。
どうしてそうなった?
まあ、そんなお馬鹿相手だと健吾君も仕事はしやすかろう。
私は常に、護られている。
楽させて貰っているのは分かっている。
時々、あり得ない色々がついては来るけど。
「感謝していますよ」
「おう。もっと‥‥」
言いかけて、清牙が止まる。
どこかを見つめ、そして睨み、揺れた。
「会議室入ってろ」
「何事?」
そのまま清牙は簡易スタジオの方に歩いて行ってしまう。
ニタァっと、女性ファンが見れば、一部を除いてドン引き間違いなしの笑顔で。
綺麗カッコイイ素通りして、怖い、キショイ。
ああ、これ、降りてきちゃった奴だ。
落ち着いてそこだけで出来ない清牙は、とにかく動き回る。
ぴーぷー煩くなるのは目に見えている。
「明日に備えて早寝しよ」
ここで私が浅見さんや健吾君待っている意味も理由もない。
それを2人も喜ばないだろう。
そして、清牙のぴーぷーに私が付き合う意味もない。
出来る事も無い。
清牙は駆郎君ほどのめり込まないので、水分調達は自分で出来る。
いや、動き回っているので序に無意識でやっているのかもしれないけど。
まあ、出来る事ないし、さっさと寝てしまおう。
寝るの幸せ。
そんな甘い考えの中、事は既に起きていたのだ。
私もその他多勢も、与り知らぬところで。
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