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波状攻撃爆散
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しおりを挟むお昼の時間はとっくの昔に過ぎていたのだけど、食べて歯磨いてメイクして、戻ってみれば、清牙がセット外に追いやられてモグモグしていた。
上半身裸で。
「マユラ、脱がして襲った?」
「しないよ! カエちゃんならまだしも」
私なら脱がして襲う、その理由を聞きたくも無いし、知りたくもない。
「カエ。話聞きながら、清牙にさっさと食わせろ」
そしてここでもなぜか、介助飯。
まあ、そうだろうなと思ったよ。
衣装汚さない為だよね。
近付けば、丼と蓮華を無言のまま渡される。
まあ、いつもの事だよね。
なぜか。
「それで、今度は玲央子ちゃんを襲う清牙とか?」
「それ、いつもの事なので、面白くないと思うの」
「玲央、その姿で言うと、誤解が誤解を生んで面白い」
舞人君、それ、褒めてどうすんの?
「これからはCM作成。SPHYコメントと叢生コメント。本来は、玲央と女達のコメントだったんだが…」
それ、玲央子ちゃんで行くつもりだったの?
いや、本人が良いなら良いけど、慧士君の眉間にまた皺が寄って、璃空君が爆笑しそうな…。
「マー君、なんか嫌そうだね」
「そんな単純なの作っても面白くない。折角このメンバーなのに」
そうだね。
どうせ、喧嘩売るなら…。
「楓さん。希更ちゃん、大丈夫でした? 昨日も、遅くまで動いてたんじゃないんですか? ちゃんと休めてます? 淋しがってません?」
そして空気を読まない男がまた1人。
これ、どうすっかねぇ。
爆発してるとか言えば、仕事放り出しそうだしな。
「怒って、機嫌最悪。駆郎君の馬鹿って言ってた」
「え?」
「カエちゃん。そこまでは言ってないでしょ」
「そこ、まで?」
美凉華は私の横に立ち、素知らぬ顔で清牙への介助飯参加。
珍しい。
空気読みの気にしいの美凉華が、率先して駆郎君に攻撃するとか。
だが言われた当人は項垂れて、今にも地面にのめり込みそう。
「はははっ、駆郎、ちびちゃんに嫌われたんだ」
そこでなぜ、永井君が参戦するのか?
「お前ほどじゃないよ!」
「え? なんで、俺が嫌われるの? 鈴鹿にこんなに親切なのに」
「「「「絶対違う」」」」
なんか、男達、楽しそうだね。
「嫌われる」
「未成年」
「ネット被害」
そして、マー君が何やらぶつぶつ。
「取り合えず、SPHYと叢生のコメントCM撮ってからで良くない?」
そっちは決まっているってんなら、出来る事から片付けるべきでしょ。
「ああ、そうだな。叢生、コメントは?」
「普通に、『想像し、助け合おう』で」
永井君の言葉に、マー君は頷く。
「その前に、さっき没にした、玲央の痴漢された奴組み合わせるか。カエ、お前、声かけろ。そこから撮る」
はあ、それぐらいはしますが。
「SPHYは?」
「『逃げられると思ってんのか? くたばれ』」
おい!
それのどこが未成年の性犯罪撲滅PRのコメントなんだよ。
「それに、さっきのミーの飛び蹴り付けようぜ」
「え?」
言われた美凉華が蓮華を置き、清牙を見据える。
「さっき、あのイカレ女へ、俺ら振り払って突っ込んでいくの、全部撮ってた。こっちのカメラのオッサンが」
そう言って、指さされるオジ様。
にこやかに頬を指で掻く…照れてどうすんの?
え?
あの、大騒ぎの中、本気で?
「なんで、そんなの撮ってるんですか!?」
「いや、良い走りだなぁと」
テレテレ言うオッサンに、清牙の胸ぐら掴んで揺らす美凉華。
美凉華も、最近は清牙には結構、やりたか放題だよねぇ。
「なんで、そんなの使おうとするんです? 私、アレ、勢いで」
美凉華の戸惑いは何のその。
マー君も、ある意味、使えるものは何でも使う合理主義。
「画を見せてくれ」
「見ないで良いですって」
「えぇ? 僕も見る。女優の素の飛び蹴り。貴重映像」
玲央君、君まだ玲央子のままだから、なんか、こう…。
そして、揺する美凉華と揺すられる清牙はほったらかしで、皆で鑑賞する、美凉華の『衝撃、走りだしてイカレ女に飛び蹴りかます』迄。
さすがプロ。
後ろからなのに、よく撮ってる。
って云うか、コレ、追っかけてるよね。
「自分、久々に走りました」
ああ、台に乗せたのね。
レールないから、車輪だから、がたつきある筈なのに、ブレが小さく、臨場感は間違いない。
さすがプロ、である。
「おおっ、カッコいい。綺麗な飛び蹴り」
「いや、膝だろ。膝、肩甲骨の間入れて落としたな。容赦ねぇ」
「ううっ、勢いだったんです! だって、皆、動かないんだもん!」
いや、アンタが動く気配がしたから、皆、面白そうだって動かなかったのでは?
特に、背後にカメラ動いてるの見れば、何かの撮影なのかなって、護衛班はギリギリまで待機しただろうし。
「角度が、正面欲しいな」
そのマー君の言葉に、私の袖を引く浩紀。
「どったの?」
「ある」
「何が?」
「正面映像」
え?
「なんで!?」
そら、美凉華じゃなくても叫びたくなるだろう、浩紀の言葉。
浩紀は嫌そうに周りを見て、私に、自分の胸ポケに差していた太めのボールペンを差し出す。
太めと言っても、マーカーペンぐらいでしかないんだけど…。
なんか、見覚えのある穴が開いてますね。
そしてそこが、角度を変えると光るナニカ。
「これ、盗撮カメラ付き?」
「撮影。盗撮はもっと分かり難い」
え?
「見て分からない」
なんの、話ですか?
「いる?」
いるかどうか…。
思わずマー君を見れば、手を差し出された。
ですよねぇ。
「協力してくれる?」
こくんと頷いた浩紀は、なんかボールペンを動かし、蓋を取ったらなぜか平べったくなって、見覚えのあるコネクトが…。
「USBになってんの?」
「PCあれば見れる」
思わずマー君を見れば、差し出されるモバイル。
PCではないが、差し込んで、画面に出てくる「8/28DATE」のファイル。
「この中に入ってるの?」
「動画だから少し重いかも」
まあ、動画だろうが何でも良いんだけど…。
開いてみれば、イカレ女がスタジオ入り口で騒いでるところから始まり、当然、駆郎君と希更のイチャイチャも結構確りくっきり映っている。
「「「「「ギルティ」」」」」
叢生の皆さん、まだいなかったですもんねぇ。
まあ、そう見える事は分かってますけど、今は、それの審議は良いので。
「先に飛ばすぞ」
途中飛ばし飛ばししていた映像が、素晴らしく高めから膝叩き込んでいる美凉華の姿に。
「これ、角度調整したよね?」
「ダメ?」
「いや、お利巧」
頭良し良ししていたら、後ろからやってきた清牙と浩紀の睨み合い。
なんか、面倒。
そのまま安全圏のマー君の傍に寄る。
「この映像だったら使えるな」
「マサさん、そして、最後にミーが言ってた言葉付けろよ」
「ああ?」
『こんだけ護衛がいるのに何やってるんですか!? 私の妹とカエちゃん、ちゃんと守って下さい!!』
きっちり綺麗に聞こえる音声。
それを今更見せられている本人は、半泣きだが。
「もう、ヤダ。なんで撮られてるの?」
「役者なんてそんなもんだって言っただろ。収録中なんて、休憩時間まで勝手に回ってるって」
「これ、ドラマでもドッキリでもないんですよ!」
「似た様なもんだって」
永井君に慰められてるのか遊ばれてるのか分からない美凉華。
口をタオルでこすりながら歩いてきた清牙に、マー君は小さく笑う。
「すげぇ当てこすりだな」
「この後に『皆見てるし、知ってるって』で、どう?」
「お前にしては考えたな。酷い」
酷いって云うか、最早、未成年云々建前の元の、奴らとの全面戦争じゃん。
でも、そこまでするには、弱いかな。
「どうせなら、お外の皆さんにもお手伝いして貰ったら?」
マー君を見れば、マー君も遅れて気が付いたのか、笑って頷く。
「玲央子ちゃん。玲央君に戻って、可愛目にして貰って」
「僕、基本可愛いと思うんですけど? 童顔ですし」
「メグさーん」
「はいはい。お任せ哉。可愛い男の子、ね」
「後は、鈴鹿がどこまで出来るか、だね」
「カエ。自分でやらないのか?」
「私だと、説得力低いって」
「まあ、期待の新人女優の腕の見せ所。追い詰めろ」
「あいあいさー」
ふふ。
他の人間ならいざ知らず。
美凉華相手なら、任せとけ。
泣かせるのも怒らせるのも、お手のもんじゃ。
「なあ、俺、意味、全然、分かんねぇんだけど」
後ろからべったりのしかかってくる熱の塊。
清牙、面倒だな。
「アンタの撮り分終えて、黙って見てろ。最高に煽ってやる」
「仲間入れろよ」
「ヤダよ。健吾君、悪巧み手伝って」
「自分で、悪巧み言わないで下さい」
「撮るもん撮ってしまうぞ。動け」
そう言って、張り付く清牙を引きずって行ってくれる、マー君に感謝。
「課長さん。お願いがあるんですよ」
「え? あの、私も、出来る事と出来ない事がありまして」
「大丈夫です。ちょっと、警備人員貸して欲しいなって。映しませんし、事前事後処理の安全確保の為なので」
「はあ、警備の問題であれば、ご協力いたします」
半信半疑らしい課長さんの困った顔を見ながら、悪巧みが最も得意な健吾君の知恵を借りる為に動く。
それを見ながら、マユラはふふふと楽しげに笑う。
「カエちゃん、悪い事してる時、とっても楽しそうなんだよね」
「それは、誰にとって悪い事なんだ?」
舞人の言葉に一瞬考えるが、まあ、どうでも良いかなぁと思う。
自分には、今回一切害は無さそう、なので。
「さぁ」
「「「「「おいっ」」」」」
「カエちゃん、基本、意地悪で、いたずらっ子だもん」
皆が断言して言う通り、カエちゃんの性格はあまり宜しくない。
だけど、強くて優しい。
それは分かり易過ぎるから、付けこまれるのだ。
昔から、そうだった。
引っ掻き回して大笑いして、そして泣いて頼まれると、文句言いつつ断われない。
昔はもっと、色んな事して周り巻き込んで、大人達に白い目で見られていた。
それが、周りの煩い大人達、黙らせるのばっかうまくなっちゃって。
今は少しだけ、そう云うの、マシになった気がするけど。
「その年でそれ、かなり痛い人ですよ?」
嫌そうな駆郎の言葉に、考える。
そう云う痛いじゃないと思うんだよね、カエちゃんの場合。
「害はない…サプライズ?」
「言い方変えても、意味は同じだね」
永井君も、結構意地悪だよね。
ミーちゃんが怒って膨れっ面になると楽しそうだし。
バンドメンバーが涙目になるのも楽しそう。
そう云う、性格なんだと思う。
カエちゃん以上に。
「うん。でも、清牙の、駆郎の、手助けしたかったんじゃないかな? カエちゃん、優しいから」
そこに悪巧み相談が終わったのか、カエちゃんの声が響く。
「鈴鹿。おいで」
「うううっ、絶対、なんかされる。されるの分かってるけど、行かなきゃいけないんだよね?」
「お仕事、でしょ?」
カエちゃん、やっぱ楽しそう。
「あ、今度はターゲットが、ミーちゃんだね」
あれは、結構な意地悪な事、考えてる時だ。
本気で泣きが入ってるんだけど、大笑いするカエちゃん見ていたら、どうでも良くなるパターンの時の。
「叢生、お前らからやるぞ」
平田兄の言葉に、CM撮影と悪巧みの同時進行。
ストレス解消は健全に。
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