二度捨てられた白魔女王女は、もうのんびりワンコと暮らすことにしました ~え? ワンコが王子とか聞いてません~

吉高 花

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お気に入りの場所3

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 ――ワンワンワンワンワン!

 遠くでクロの吠える声がする。

 ――ワンワンワンワンワンワン!

 クロがずっと吠えている。
 なんだかとっても必死みたいだけれど……一体どうしたのかしら?

 マルガレーテは頑張って目をあけてクロを探そうとした。
 でも、体が鉛のように重い。

「クロ……?」

 しゃがれた声が出た。
 びっくりして意識がちょっとだけはっきりする。

「マルガレーテ様! 目を覚まされましたか!」

 リズの声がした。なんだかとても驚いているようだ。

「リズ……?」

 目をなんとか開けてみるとマルガレーテは自分のベッドに寝ていて、そこをリズがのぞき込んでいた。

 ワンワンワン!

 クロの声がマルガレーテの寝室のドアの外から聞こえているようだ。
 ということは、この部屋から追い出されているらしい。

「マルガレーテ様は三日も意識を失っていらしたんですよ。喉が渇いたでしょう。お水を飲みますか?」

 そんなリズの言葉に今度はマルガレーテの方が驚いてしまった。
 でもたしかに声がしゃがれていた。しばらく声帯を使わなかったからなのかもしれない。

「お水、もらえる?」

 そう言うと、リズが水を飲ませてくれた。

「今、マルガレーテ様がお目覚めになったことをお知らせしてきますね。他に欲しいものはありますか? あとスープは飲めますか? お野菜とお肉のスープ、どちらがいいでしょうか。料理人が両方用意しています」

 ワンワンワンワン!

「ではお野菜のスープを。あとクロを入れてあげて?」

「ですがハンナさんに入れるなと禁止されておりまして」
「でもあんなに鳴いているじゃない。なんだか可哀想で」
「あと王妃様の許可も必要です。少々お待ちを」

 そう言ってリズは部屋を出て行った。

 すると今度は扉の外から、

 きゅうーーーん……。

 という悲しげなクロの声が聞こえてきたのだった。
 まだ部屋に入れてもらえないとわかったのだろう。
 
 それでもマルガレーテはすぐに許可が出て、クロが入ってこられると思っていた。
 だけれど、どうもそうはいかないようだった。

 すぐに王妃様と、やたらと綺麗な顔をしたすらりと長身の男の人がやってきた。

「この人はね、私の実家の公爵家が契約している魔術師のイグナーツ先生だ。今回マルガレーテが倒れたのはおそらく魔力切れだろうと思ったが、王宮には伏せといた方がいいと思ってね。実家の魔術の先生を呼んだんだよ」

 そう王妃様は説明してくれた。

 さらさらな銀髪を長く伸ばして後ろに流しているその先生は、リズやハンナの目が常にハートマークのまま釘付けになるような迫力の美男子だった。そしてまだ若そうなのに威厳のオーラがすごい。

 これはモテるだろうな、とどこか人ごとのように思ったマルガレーテ。
 この人が部屋に入ってきてからはずっと部屋の入り口の外からクロが激しく吠えたてていて、とうとう王妃様に「黙れ」と怒られていた。

 でもその魔術師はそんなすべての喧噪にはまるで気付かないようなそぶりで、マルガレーテを見ると早速「失礼」と言って手のひらをマルガレーテに向けて、直接は触れずにあれこれ何かを感じているのか難しい顔をしていた。
 ふっと、マルガレーテの体の重さが少しだけ軽くなった気がした。

「マルガレーテ様は……王妃様のおっしゃるとおり、魔力の消耗が激しいようです。今ここで少し魔力を補給しましたから、あとは魔力を補う食べ物を食べてよく休まれればじきに回復するでしょう」

 そう言って微笑んだその顔がまるで神話に出てくる天使のように美しくて、その場の侍女全員が思わずうっとりとしていた。
 だが王妃様はこの美貌に慣れているのか、一人真面目な顔をして言った。

「ありがとう先生。ではやはり魔力を吸い取られていたということだな。でもマルガレーテのまわりにはもう悪質な魔術のかかっている人間はいないと思っていんだが」

「……そうですね。ここの人たちにはそれほど悪い魔術は感じません。しかしどこからか入り込んでいたのかもしれませんね。ここにいるのはこの建物の全員ではありませんよね?」

 たしかにこの離宮の使用人は、今マルガレーテの寝室にいる人だけではない。

「しかし他の使用人たちに、特に不幸になっている者や不自然な変化のある者はいないはず」

 王妃様が難しい顔をして考え込む。

「もしくは植物、動物、そして場所など。様々なところに魔術は潜んでいます」

 きりりとそう言う魔術師の先生だったけれど、なんだか侍女たちは先生の言葉ではなく顔に全神経を集中させているような気がするマルガレーテだった。
 美しいってある意味罪ね……みんな上の空だわ……。

 でもやっぱり王妃様だけが真剣に考えこんでいた。

「植物……動物? 場所……は、あのマルガレーテが気に入っている東屋が一番怪しいか」

 その言葉にびっくりしたのはマルガレーテだった。
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