二度捨てられた白魔女王女は、もうのんびりワンコと暮らすことにしました ~え? ワンコが王子とか聞いてません~

吉高 花

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お気に入りの場所2

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 東屋に座ってクロが遊ぶのを眺めながら、マルガレーテはそう思った。

 最近、体のだるさが取れないようになった。
 魔力は指輪をして制限しているし、王妃様もすっかりお元気になった。
 他の使用人や公爵様たちも呪いで体調を崩しているようには見えなかったから、知らずに呪いを消しているとも思えない。
 
 だけれど、なんだか少しずつ体調が悪くなってきている気がするのだ。
 
 思い当たる原因がない。
 だから昔からよく言われるように、もしかしたら単にこの国の気候が合わないのかも知れない?
 
 レイテとルトリアは、それほど気候に違いがあるようには思えないのだけれど。
 でももしかしたら、マルガレーテにはわからない何か違いがあるのかも知れない。
 
 毎日美味しいご馳走をお腹いっぱい食べて、よく眠って穏やかに暮らしているというのに。

 なのに最近は少しずつ、体力が薄く皮を剥ぐように削れていっている気がしてならなかった。
 でもそれを王妃様に言ったら心配させてしまうだろうと思うと、マルガレーテには言い出せなかった。
 すでにもう、一回倒れているのだ。あの時のことを王妃様は、今でも負い目に感じているようだった。

 だからおそらくこれが、白い魔力を持つ人間の運命ということなのだろう。
 マルガレーテはそう思うことにした。
 
 生まれつきそういう体質だったのだとしたら、レイテに生まれてここまで無事に生きてこられたことにこそ感謝するべきだろう。
  
 でももし今、たとえレイテに帰ったら長生き出来ると言われても、もうマルガレーテはこの離宮を離れてまたあの自分には居場所のないレイテに行くことは考えられなかった。

 後ろ指を指され、ただ闇雲に恐れられて陰口をたたかれながら、そうまでして長生きしたいとは思えない。
 今やこの離宮こそがマルガレーテの居場所であり、ここにいる人たちがマルガレーテの家族なのだから。
 
 だからそのことも、体調の変化を言い出せない理由の一つになっていた。
 もしかしたら体調を心配するここの人たちに、帰国を勧められてしまうかもしれない。
 でも、私はここにいたいの……。

 考え込むマルガレーテの膝に、クロがぽすんと頭を乗せた。

「あらクロ。どうしたの? もう遊ぶのに飽きたの?」

 マルガレーテは気持ちよさそうに目を閉じるクロの頭を撫でてやった。
 最近クロは、よくマルガレーテの膝に頭を乗せてくる。
 それは、撫でほしい時にする仕草のようだった。
 だからそのたびに、マルガレーテはそのつややかな黒毛を優しく撫でてやるのだ。

 クロは尻尾をぶんぶんと振りつつ目を閉じてじっとしていた。

 その全身でマルガレーテを信頼しているという姿勢を感じるたびに、マルガレーテはクロが愛おしいくてたまらない。

「クロ……お前はもし私がいなくなったら悲しんでくれるかしらね」

 マルガレーテが思わずそう言うと、クロがびくっとしてから目を開けて、

「くうーん?」

 何を言ったの? とでも言いたそうな顔をしてクロが鳴いた。

 クロはいつか私が死んだらこの東屋を見て、こうして一緒に過ごした私を思い出してくれるだろうか。
 でもこの東屋は、使う人がいなくなったらまた荒廃してしまうのだろうか。

 マルガレーテはこの場所が好きだった。
 優しい風がいつも吹いていて、周りを開けさせたから今では日もよく当たる明るい場所になった。
 そしてなんだか、ここにいると元気が出るような気がするのだ。
 ずっとここにいたら、私の体力は元通りになるかしら……?

 そうしたら、もう少し長くこの離宮でみんなと暮らせるのかしら……?


 それでもマルガレーテの体調はいつまでも隠し続けられるものではなかったようだ。
 次第に元気がなくなっていくマルガレーテに、王妃様だけでなく、使用人の人たちも気がついたようで、しきりに体調を気遣われるようになった。

 大丈夫かと聞かれても、いつも笑顔で大丈夫と答えるマルガレーテをみんなが心配した目で見ていた。

 だんだんいつもの食事に、最初マルガレーテが来た時に王妃様のために作られていたいわゆる療養食が一緒に出されるようになった。
 消化がよく、魔力の補充にもよく、元気の出る食べ物。 
 今ではマルガレーテの体もそんな食事を喜んでいるのだろう、とても美味しいと思うようになった。
 
 前からよく顔を出していたラングリー公爵が、最近はもっと足繁く顔を見せるようになって、そしてプレゼントしてくれるものがアクセサリーやお菓子から、元気の出る食べ物や健康に良いというお酒や薬草になっていった。
 一体どこで手に入れられるのだろうという珍品も少なくなくて。

 みんなが優しく、けっしてマルガレーテを責めるようなことは言わなかったけれど。

 でも、みんながマルガレーテをとても心配していることをマルガレーテはひしひしと感じていた。
 だから出来るだけ元気にしていようと張り切ったりもしたけれど、そういう時にはさりげなく休むようにと周りにお願いされてしまうのだった。

 クロが、ますます心配そうにしてマルガレーテから離れなくなった。
 常にマルガレーテに寄り添うように近くにいる。そして落ち着かない様子でマルガレーテの周りをぐるぐる回ることが多くなった。
 
 そんなクロを、そっと抱きしめるのがマルガレーテは好きだった。
 クロは温かくて、いつもマルガレーテがずっと欲しかったぬくもりをくれる。
 
 太い首に腕を回して、顔を黒い豊かな毛に埋もれさせるのが好きだった。
 獣の、でもなんだか幸せになる匂いが、たまらなく好きだった。

 マルガレーテは、とても幸せだったのだ。
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